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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第三章 カルラルブ大陸編
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第28話 カルラルブ大陸上陸

 カルラルブ大陸は、竜郎たちのいるカサピスティ国のあるイルファン大陸。

 世界最大の面積を誇るグラニミスク大陸。妖精たちが多く暮らす、妖精郷の入り口もある妖精大陸。

 これらに囲まれた大陸でもあるため、その三大陸を行き来する際の補給拠点になることも多い。


 そのおかげか貿易産業が盛んで、質はよくないが大量に取れる安価な塩や、特産品として今や世界に知られているカルラルブガラスと呼ばれるガラス製品の輸出などで、懐はそれなりに温かい。


 また砂漠に現れるサソリ型やワーム型の魔物などは珍味として親しまれており、一部の食マニアの間で高値で取引されていたりもする。



「見えてきたな」

「おー。ほんとに砂漠だらけの大陸だねー」



 上空から見ると砂色一色に彩られているのがよくわかる。

 だがきちんと文明が築かれた大陸なので、港や町などはちゃんとある。



「ねーパパー。真ん中の王都までいくのー?」

「いや、まずは港から入ろう。ちゃんとした手順で入ったほうが、何かあっても安心だろうしな」



 主要都市でもある王都には必ず寄る予定で、それなのにどの港からも入った記録がないというのは、入町のときに問題になるかもしれない。


 ということで大陸の玄関口の一つ。カルラルブ大陸のイルファン大陸への行き来によく使われる、北東部の大きな港付近の上空でニーナには止まってもらう。

 そして竜郎は菖蒲を、愛衣は楓を抱っこした状態でニーナの背中から飛び降りた。


 重力のままに下に落下していき、ニーナは小さくなり、ヘスティアと一緒に後に続く。

 もう少しで地面に激突か──というところで、竜郎は重力魔法と風魔法で一気に減速。

 足音一つ立てることなく、無事に地面に着地し認識阻害の魔法を徐々に解いて周囲に溶け込んだ。



「「あうあー!」」

「おっ、紐なしバンジーのよさが分かるとは、なかなか見どころがあるな」



 言葉だけ聞くと自殺行為だが、ただ高い所から落ちて魔法で安全に着地する遊びのことを、竜郎が紐なしバンジーと呼称しているだけである。

 彼は暇なときに、たまにこれをやって遊んでいることがあるのだが、楓や菖蒲も今の紐なしバンジーがお気に召したようで、頬を上気させて喜んでいた。


 愛衣は仲間ができたと喜ぶ竜郎を微笑ましげに一度見つめると、周囲をキョロキョロと見渡しこの大陸を観察しはじめた。


 まず最初の印象としては、とにかく日差しが強い。

 今の愛衣なら平気だが、普通の人間種族は周囲にいる人々のように頭から布を覆っていなければ痛いくらいだろう。

 

 そして一番目につくのは内陸方面にある、砂色の頑丈そうな巨壁。

 海側には沢山の大小さまざまな船が繋がれている。

 そして壁の方に向かって並ぶ荷物や荷車を持った人々の姿。そこに並んでいるのは入国審査待ちの人々だ。


 日差しが平気な種族は帽子もかぶらずにいるが、そうでない種族の人々は日傘や頭まで覆う服を着たりして対策をしている人が多かった。



「あそこから入国すればいいっぽいね。早くいこ!」

「ん。早く行く。この国にも、なにか見たこともない甘味があるかも」

「ヘスティアは相変わらずだなぁ」



 ニーナがちゃっかりと竜郎の頭に張り付いてきたところで、皆で揃ってカルラルブ国への入国審査が行われている列へと並んだ。


 ガヤガヤと人がごった返す中、やはり竜郎たちは目立っていた。


 外見は小さくなっているとはいえ竜を頭に乗せ、幼児を一人抱っこする少年。

 愛衣は楓を抱っこしているだけなので一番目立ってないが、ヘスティア。彼女は竜翼とカラスのような黒翼が計六枚も生えていて、明らかに特別な種族なのが一目で分かる。

 それでいて美人なのだから、目立たない方がおかしいというものだ。


 別に認識阻害で特徴を隠してもよかったのだが、地球と違って色々な種族がいる世界なのだ。

 自分たちの姿を偽らなくても、目立つだけで問題になるわけではない。だからもう開き直っていくことにした──というわけである。


 話しかけてくることはないのに、ちらちらと頻繁に見てくる人々の視線を堂々と受け流し、ようやく竜郎たちの順番が回ってきた。


 相手をしてくれるのは爬虫人の壮年の男性。

 爬虫人は基本的に竜郎たちのような人間種族と同じ容姿をしているものがほとんどだが、耳の位置に耳はなく、小さな穴が開いているだけというのが一番の特徴だろう。


 なので鱗が体の一部に残っていたり尻尾があったりなかったりと種族差はあるが、耳を見れば爬虫人かどうかは一目で分かる。



「え……っと、身分証を見せていただけますか?」

「はい」



 イルファン大陸からの客がほとんどだからか、カルラルブ大陸語ではなく、イルファン大陸語で話しかけてくれた男に、竜郎はシステムを操作して冒険者の登録証を虚空に表示させた。



「えーと、ハサミ・タツロウさん。ああ、この若さでランク持ちの冒け………………は?」

「ランクの高さなら、きちんと冒険者ギルドから受けたものですよ?」



 このような反応をされるだろうから、特別に冒険者ギルドが用意してくれたランクを低く表示させる機能を使おうかとも思っていた。

 けれど今更目立ったところでどうなるものでもないと、そのまま世界最高ランクを表示していた。



「…………えっと………………え? 個人で12? こんなの聞いたことが……」

「ランクが高いと入っちゃダメってことはないでしょ?」

「え、ええ、もちろんです。失礼しました! 御気分を害されたようなら申し訳ありません!!」



 男性は周囲の目も気にせず、思い切り頭を下げた。

 ランク6もあれば高ランク冒険者として扱われる。

 そして高ランク冒険者が国内で活躍してくれれば、それは国益にも繋がることが多いので、基本的にどこの国も歓迎している。


 また高ランク冒険者が他の冒険者に与える影響も大きい。

 もしあの国の対応は悪かったなどと吹聴されてしまうと、冒険者たちからの印象が悪くなってしまう。


 まして竜郎たちは、この男性が最高ランクだと知識でもっていた11を超えた12。

 その影響力は冒険者ギルド全体にも及ぶだろうし、商会ギルドとて無視できない存在だ。

 そこいらの貴族なんかよりも、よっぽど丁重に扱わなければならない人物といえよう。


 だからこそ、男は年下の少年少女に頭を下げた。自分の謝罪一つで許してもらえるのなら安いもの。

 だが、この男もここまですれば絶対に許してもらえるという打算もあった。

 何故ならこの程度で腹を立てるような人物は、どんなに優秀でも高ランク冒険者にはなれないのだから。



「あの、別に気にしていませんから頭を上げてください。

 まだランクが上がってそれほど経っていませんから、情報も出回ってないでしょうし。

 思わずそういう反応をしてしまうのは、しょうがないことですよ」

「そう言っていただけると助かります!」



 ──と円満に解決しそうになったとき、別の若い門兵らしき男が話しかけてきた。



「……あの、何か問題がありましたか? ゴムダさん」

「いや、問題はないが──そうだな。少しここを代わってくれ、ターア。

 私はこちらの方々のお相手をしなければならない」

「はっ、分かりました」



 それだけで若い男も竜郎たちが軽く接していい存在でないと理解し、壮年の男と代わって入国の列をさばきはじめた。


 竜郎たちは促されるままに門をくぐっていき、国に入ったところで入国許可証を受け取ることとなった。

 本来ならいけないことだが、竜郎たちにはいいだろうと男は判断したようだ。



「我が国へようこそ。我々はあなたがたを歓迎いたします!」

「歓迎、ありがとうございます」



 竜郎や愛衣が軽く会釈すると、男は嬉しそうに表情を緩ませながら、懐からスマホサイズの銀の板を取りだした。

 そして竜郎の表示している登録証にそれをかざすと、フラッシュのようなものが焚かれる。

 その後、男は銀板を手元に戻し表面を擦るようにしてスライドする。


 すると銀色に薄く光る板が現れ、それを竜郎に差し出した。

 竜郎がその板をもらうと手に触れた瞬間、粒子に変わって竜郎の中に入っていく。

 竜郎の登録証をみれば、右下の空欄に銀色の文字で『イルミナー』と、この港の名前が記されていた。

 この印が、竜郎はこの港を通ったという証明になるというわけだ。


 そのまま愛衣、ヘスティアと問題なく審査が進んでいく。

 そして幼児二名はシステムがないので、竜郎と愛衣がそれぞれのシステム経由で身分証を提示した。


 この子たちはまだシステムがインストールされていないのかと少し驚いた様子だったが、立ち入ることではないと、なにくわない顔でイルミナーの印を渡していく。


 そして──最後にニーナの番となる。



「はい! どーぞ!」

「──うわっ、喋った!?」

「ぎゃう? ニーナ、喋っちゃダメなの?」

「いいい、いえ。すみません。喋っても問題ありませんよ」

「よかった~。お話できないと退屈だもん」



 人間ではなく竜郎の従魔かなにかだと思っていたため、男はいきなり口を開いたニーナに驚きの声をあげてしまった。

 だがすぐに竜郎や愛衣をみてはっとし、張り付いた笑顔で対応してくれた。


 そうして全員に許可を出し終ったところで、竜郎たちにこの国は初めてかと尋ねてきた。

 なので正直に竜郎が初めてだと言うと、では──と口を開いた。



「この国は初めてということなので、なにか聞きたいことがありましたら、できるかぎりお教えいたしますよ」

「はい、ありがとうございます。なら、えーと……ああ、そうだ。少し質問してもいいですか?」

「ええ、なんでも聞いてください」

「この国の人は、お肉とか好きですかね」

「え? お肉ですか? 中には嫌いな人もいますが、この国のほとんどを占める爬虫人は好む人が多いと思いますよ。私も大好きです」

「なら、ちょっとこれを食べて感想を聞かせてもらえませんか?」

「はい?」



 突如竜郎が差し出してきたのは、《無限アイテムフィールド》からだした白牛の肉。

 焼いて塩胡椒で軽く味付けし、一口サイズに切って爪楊枝に刺し、時間を止めた状態でたくさん収納していたものの一つ。

 つまり、試食用のサンプルである。


 初対面の相手にいきなり食べ物を出されると職業柄警戒してしまうところだが、相手は冒険者ギルドが信頼を寄せている人物。何か変なものが混ざっている可能性はないはず。

 そしてなにより、爬虫人は耳や目よりも嗅覚が優れている人が多い。

 この男性もまさにそれで、その肉から漂ってくる匂いに生唾を飲み我慢できずに受け取った。



「では、いただきます。はむ──んっ、んんんっ!? んまぁいっ!!

 なんですかっ、この肉は!? こんなに上品で美味い肉は、初めて食べましたよ!!」

「実は僕たちは魔物の畜産業などに手を出しはじめまして、それはその中の一つで、今のところ白牛と呼んでいます」

「白牛……初めて聞きました。でもこれは、本当に美味しい……ああ、涎がっ。……失礼しました」



 想像するだけで涎が出てきてしまい、男は慌ててハンカチで口を拭った。



「お口に合ったようでなによりです。もしこれをこの国で販売するようになった場合、売れると思いますか?」

「そ──れは、値段にもよると思いますが、これなら多少高くても無理してでも買いたいと思うでしょう。

 毎日はさすがに無理でしょうから、家族との記念日などにどんと」

「なるほど、ご意見ありがとうございます」

「もしかして、この国には市場調査に参られたのですか?」

「え? いや、それはついでですね。

 本来の目的はチキーモという魔物がこの大陸のどこかにいると聞いたので、ちょっと探してみようかと」



 別に禁止されている行為でもないので普通に答えると、男はなにか心当たりがあったのか、ぽんと手を叩いた。



「チキーモということは、幸せのチキーモを探しに来たんですね」

「幸せのチキーモ? なにそれ? 普通のチキーモとは違うの?」



 ここで愛衣も気になったのか、話に加わってきた。



「おや、そちらはご存じなかったようですね。

 実はですね、この大陸の砂漠のどこかにいるチキーモの中に、嘴に宝石のようなものが埋め込まれたチキーモがいるという目撃情報が千年くらい前からありまして」

「それはチキーモの亜種かなにかなのでしょうか?」

「それはなんとも……。チキーモ自体の目撃情報だけでも少ないですから、確かな情報はなにもないんですよ。

 ですが確かに見たという人がここ千年くらいの間に何人かいるものですから、いることにはいるのだろうと、そのくらいしか分かっていません」

「それじゃあ、その幸せのチキーモっていうのは、珍しいから見た人は幸せになれる的なおまじない、みたいな?」

「いえ、ただ王都にいる資産家の魔物コレクターが、莫大な賞金をかけてその魔物の死体を欲しがっているんですよ。

 だから見つけて殺せたやつは幸運だっていう意味で、幸せのチキーモと呼ぶようになったんです」

「あ、そっちなんだ……。なーんだ、ちょっと残念」



 愛衣も女の子。日本でもあるジンクスのようなものがあるのなら、ちょっとやってみたいなと思っていたのだが、予想以上に即物的だったので興味が少し薄れたようだ。


 だが竜郎は逆に興味がわいてきた。幸せのチキーモも気になるが、魔物コレクターという存在に。

 もしかしたら金銭で珍しい魔物の素材を譲ってもらえるかもしれないし、コレクターなら竜郎たちが倒した魔物の素材の一部と何かを交換してもらえるかもしれないからだ。



「そのコレクターさんは、王都に行けば会うことはできますか?

 チキーモのこともそうですが、他の魔物のお話をうかがってみたいです」

「会えるかどうかは分かりませんが、コレクションを展示した魔物博物館を趣味でやっておられるので、そちらの職員に聞いてもらえれば、本人に話が伝わるのではないでしょうか?」

「魔物博物館! 面白そうですね。是非行ってみたいです」

「博物館は目立つので、王都に行けばすぐに分かるかと」



 愛衣は竜郎と行けるならどこでも楽しむ自信があるのでいい。

 ニーナもパパと一緒にいるだけでいいし、楓や菖蒲も竜郎に引っ付いているだけで満足だ。


 だが魔物に一切興味のないヘスティアだけは、翼が少しだけ萎れて若干テンションが下降していた。

 王都に着いたら甘いもの探訪に、すぐに出かけたかったのだろう。


 だが別に急いでいるわけではないので、そちらを最初にやろうと提案すると、翼がシャキンッと元に戻った。



「それで、そのコレクターさんのお名前は?」

「確か…………そう、ゼッルマト・マピヤさん、だったはずです」

「ゼッルマト・マピヤさんですね。情報ありがとうございます。おかげで、この国をより楽しめそうです」

「それはなによりです。では、よい旅を──」



 そうして竜郎たちは男と別れ、カルラルブの王都を目指して進みはじめたのであった。






「あっ、そういえばタツロウさんたち、甘味がどうのと最後のほうに言ってたな。

 だがよくよく考えれば、うちの国は味が濃かったり辛い物を好む人が多いから、あんまりそういう店はないはず…………。

 まあ、俺が気にすることじゃないか。さて、仕事仕事っ!」

次回、第29話は2月27日(水)更新です。

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