表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十五章 はらぺこドラゴン編
283/451

第282話 思わぬ助け舟?

 竜郎たちの気配は既に覚えていたので、プークスは昨日の今日で戻ってきた彼らを自然体で受け入れた。



「おおどうした。遊びに来てくれたのか?」

「いや遊びではないよ──って、あれだけ置いてあったのに、もう全部食べちゃったのか」

「あの程度、俺にかかれば朝飯前よ」

「いや、別に褒めたわけじゃないんだが……」



 得意げに胸を反らすプークスに竜郎は呆れた顔を見せながら、とりあえずまた料理を出してゆく。

 するとまたヨダレをジュルリと口の中に溜めながら、目を輝かせた。



「ほんとに食いしん坊だね、プークスって」

「そうだねぇ。普通に自分の体の大きさくらいは、もう食べてる気がするのに」

「ん。甘い物なら私もいける」

「体の体積と同じ量の甘い物とか胸焼けしそうだな……」

「ん。主、変わってる」

「変わってんのはヘスティアだ!」

「んん? そんなことないはず」



 プークスより体が大きな蒼太ですら満足しているだろう量はとっくに食べているのに、それでも尽きぬ食欲。

 ここまでくると感心すらしそうになってきてしまう。



「これも好きに食べてくれ」

「おおっ、そうか! すまないな! ありがたく頂戴しよう!」

「その代わりと言っちゃなんだけど、また話を聞いてくれ」

「お安い御用だ。なんでも聞いてくれ」



 ならば遠慮なくと竜郎はカンポの町で受け取った資料の絵を広げ、プークスから確認を取っていくことに。



「この中でプークスが約束したっていう人間たちの中で、見たことのある格好だったり装飾はあったりするか?」

「はぁ……、またあいつらの話か……。

 だが……タツロウたちが見てほしいというのなら、断るわけにもいくまい。どれどれ」



 彼にとっては人生の中で一、二を争うほど業腹なことということもあり、辟易したようにため息を吐く。

 けれどそれでも律儀な性格だということもあってか、ちゃんと真剣に一枚一枚丁寧に確認していってくれる。



『そもそもけっこう昔の話だし、覚えててくれるかな?』

『覚えてるんじゃないっすか? 種として最上急に優れてるだけあって、竜ってのはなかなかに知能も高いっすからね』

『当時のことを話すときも、うろ覚えの記憶を掘り返しているって感じでもなかったしな』



 念話でそんなことを身内間で話し合っていると、資料とにらめっこしていたプークスが顔をあげた。



「どうだ? なにか見覚えのあるものはあったか?」

「うーむ……。この服とこの装飾は見覚えがあるな。あとこれも……そう、確か一番偉そうなやつが着けていたはずだ」

「そうか……」



 プークスが指し示したのはストルム王国軍が用いていた、当時では最上級の防寒効果が込められた魔法の防寒着。ストルム王国独自の宗教観による腕輪。

 そして一番偉そうな──といって示したのは、ストルム王国軍の上官を示すバッジ。


 この資料が本物かどうかは、竜郎たちが本気を出せばいくらでも裏付けがとれる情報。

 こちらを子供と侮った対応ではなく、最上位の冒険者に対する態度を一貫していた共和国側の彼女たちが、今更こんなところで嘘の資料を掴ませてくる可能性は限りなく低い。

 そのことからも実際にプークスが見たのは、ストルム王国の物を身に着けていたというのは間違いないだろう。



『ピィューーィ……? ピィィーーピィューーュューー。(ストルムは優秀な国だったという話だったわよね……? ならそういう身バレするようなものは普通は外すのではないかしら?)』

『それ私も思った。けどそうなると、じゃあどこなのってなっちゃうけど』

『この山はよほど耐性のある種でもなければ、生半可な装備で登ってくるのは難しい。

 だが当時のストルム王国は大規模な戦時中だった。当然、いろんな物資もあちこちで必要になっていただろう。

 そんな中でこの山の登山装備を新しく用意するのは、難しかったというのはあるかもしれない』



 実際に当時の一般的な国の技術にしては出来はいいが、それでも今ほど融通は利かず、簡単に見た目を改造できないほどには繊細な作りをしていた。

 だが作戦を成功させたいなら、できるだけ良い装備を持たせるのに限る。

 だからこそ彼らは開き直って、そのまま軍の装備を使ったとも考えられると竜郎は考えた。



『それにバレたところで約束した人たちさえ見つからなきゃ、あいつらが自分たちをハメようとした。そんなすぐにバレることをするはずないじゃないか──っていう言い訳もできそうっすからねぇ』

『ん。逆に開き直ったほうがそれっぽいかもしれない』

『え~~じゃあどっちなの? ニーナ頭がこんがらがってきちゃった』

『結局それを完全に証明する手立ては、今となってはないってことなんだろうなぁ……』



 だが町を──それも当時のカンポは重要拠点だったそれを丸ごと担保にしてまでした約束を、守らなかったときの状況を考えればカンポ側が本当のことを言っていると考えた方が自然だ。

 ストルムからすれば作戦を失敗して約束を守らなくても、敵国が襲われるだけで対岸の火事でしかなく、カンポ側からすれば国にとって致命傷ともなる傷を負うことになるのだから約束は何が何でも守ろうとするはずなのだから。


 そんな話を交えつつ、改めて竜郎はプークスへの説得を試みた。

 けれど──。



「だが結局は証明できないではないか」

「まあなぁ……」



 ──と、なしのつぶて。妙なところで警戒心を覚えてしまい、麓の町の連中は嘘つきだという考えを変えようとはしなかった。

 これは長い時間をかけ、さらに友好関係を築いて、あんな町などどうでもいいくらいに思えるくらい食べ物で気を引きうやむやにしたほうがいいのかもしれないと、長期戦を考えていたところに、思わぬ助け舟がやってきた。



『その者の説得。私が引き受けても構わないぞ』

(えっと……)

『ん? ああ、直接こうして話すのは初めてだったか?

 私は全竜神。セテプエンイフィゲニアを産み出した、全ての竜種の原点なり』



 これはまた急に大物がやって来たなと、竜郎は視線だけで愛衣にプークスの相手を頼み、神との会話に集中していく。



(それでえっと、全竜神様はなんだって急にそんなことを言い出してくれたんですか?)

『ちょうど頼みたいこともあってな。その報酬の一つとして説得してもいいと思ったのだ。

 自分で言うのもなんだが、私が言えばどんな竜であろうと頷かせることができる。

 ついでにその者が囚われている〝お役目〟からも、私が言って解放してやってもいい』



 全竜神──読んで字の如く、全ての竜の神である存在だ。

 そんな自分たちを形作る元素の大元のような存在から説得されれば、例えエーゲリアであろうと頷くしかない。

 説得と言うより、もはや命令に近いだろう。それも絶対に否を唱えることを許さない圧力を持った勅命だ。



(なるほど確かに、それなら今回の僕らが受けた冒険者としての依頼も、プークスがもはや誰からも求められてもいない見張りからも解放されると良いことづくめですね。

 ということはですよ? やはり僕らの考え──ストルムの作戦であったというのも、プークスのお役目が意味をなしていないというのも、正しいと思っても?)

『ああ、その認識であっている』



 まさかの神様からのお墨付きまで貰えた。神がこういうのなら、カンポの町は完全に白が確定したと言っていい。

 モヤモヤが晴れたような心地で、竜郎は全竜神の言った〝頼みたいこと〟に触れることにした。



(説得は報酬の一つということですが、いったい僕らに何をしてほしいんです?)

『うむ。実は、とある竜を助けてほしいのだ』

(はあ、助けるというと具体的には)

『少し厄介な魔王種がいてな。力量的にはその竜だけでも十分倒せる相手ではあるのだが、そやつは時空に干渉する強力なスキルを持っていてなかなか攻撃を届かせられずにいる。だがそこにタツロウが加わればどうだ?』

(時空系のスキルっていうなら、時空魔法で邪魔できますかね)

『そうだな。そしてそれさえしてもらえれば、その竜ならば魔王種くらい軽くひねってくれることだろう』

(…………魔王種を軽くひねれるくらいの竜って、かなり限られていると思うんですけど。いったいなんて竜を助けろとおっしゃるので?)



 魔王種などという物騒な魔物が今現在に生まれていたのなら、その前に竜郎たちに連絡が来てそうならないよう処理の依頼が来ていそうなもの。

 この時点で全竜神は現代での仕事を求めてはいないと竜郎は判断した。


 そして少なくとも魔王種を軽くひねるとなれば、神格者の称号を授かった上級竜くらいの力がなければ不可能。

 いったいどんな竜と会えというのかと、竜郎は少しだけ構えながら話の続きを促した。



『その名は『リュルレア』。青の星になぞらえて明青みょうじょうとも呼ばれた、セテプエンイフィゲニアの五番目の側近眷属。

 ニーリナの妹分であり、アルムフェイルの姉貴分でもあった竜だ』

(……つまりもしかしなくても、現役の九星のお手伝い?)

『そういうことだな。イフィゲニアが近くにいるなら時空系のスキルであろうとなかろうと、問答無用でサクッとやってしまうのだが、そのときは別件で手が離せなくてな。

 できれば彼女が応援に来る前、帝国陣営からはリュルレア一人でやってしまったほうが、世界の調整側からみても都合がいいのだ』



 どう都合がいいのかは知らないが、神々の調整は時間も時空も全てひっくるめて計算されている。

 いくらチートじみた力を持っていようとも、今の竜郎の頭でも追いつかないほどの。


 なので難しく考えてもしょうがないと、竜郎は『なるほど』と納得の言葉を無難に返した。



『ちなみにその魔王種の亡骸を回収して、今の時代に復活させて従魔なりにしてしまってもいいぞ』

(ほう……。それはなかなか魅力的な提案ですね。ちなみに時空魔法というと、長距離転移は可能ですか?)

『魔王種に至った後なら、一度連れて行った場所ならば世界の端から端まででも飛ぶことができよう』

(荷物や人も一緒に?)

『タツロウの支配下にあるのなら、もちろんそれも可能だ。巨大な倉庫として使える別次元の空間を作り出すこともできるだろう。

 そういう魔物が欲しいのではないか?』

(欲しいですね。かなり)



 これからもどんどん販路は広がっていくだろうが、一番効率のいい輸送手段である転移系は竜郎かリアの作った魔道具頼り。

 だが転移装置は今はいいが、将来的に大量の物資を送るなら出力が足りない。あまり外に漏らしたくない魔道具なので、身内以外には晒したくもない。

 竜郎が常に輸送し続けるのも、販売規模が広がるほど大変になってくるだろう。


 だが時空を操る術を持ち、単体で大量の物資を運べる魔物を複数用意できれば一気に楽になる。

 世界中にその魔物に依るネットワークを張り巡らせれば、より細かく物資を転送できる上に、本体も戦えるので貴重な食材を誰かに盗られるという可能性も低い。

 物資の輸送も防衛もできるなど、大助かりである。



(それに魔王種なら父さんにも手伝ってもらえるしな。言うことなしだ)



 竜郎はそこまで考え、今回の全竜神からの依頼を引き受けることを決めた。



(それは僕一人で行ったほうがいいですか?

 ニーナとか楓と菖蒲とか、見られると不味そうな子もいますけど)

『別に連れて行っても構わない。協力者を未来から送るが、詮索は無用と言っておく。

 リュルレアも何かしらを察するかもしれないが、察するからこそ未来は知らないほうがいいと余計なことは聞いてこないだろう。

 それに面倒な相手だからな。人数を集めて一気にやってしまったほうが、終わるのも速いだろう』

(はあ、いいなら連れてきますね)



 魔王種というのは今の竜郎たちでも、力量差を覆す侮れないスキルを持っていたりする危険な魔物だ。

 楓と菖蒲はぐずらないように連れていくにしても、その護衛も欲しいし、信頼できる仲間と徒党を組んでいったほうが安全だ。


 神がいいというのなら、遠慮なくそうさせてもらうことに決めた。



『では決まりだな。報酬としては説得に魔物の全ての素材。あとは竜種の創造を手助けするようなスキルも取れるようにしておいてやろう』

(おお! それはありがたいです!)

『では行ってもらう時代なのだが──』



 俄然やる気を出した竜郎は、どの時代のどこに行けばいいのかを全竜神から聞いていくのであった。

次も木曜更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  デウスエクスマキナもとい巻きの神…間違った救いの神として全竜神様が登場ですな  悪人どもに騙された挙句、真竜の許可の下で悪竜として討伐される哀れな結末を迎えさせるのは忍びないほど真面目で我…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ