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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十五章 はらぺこドラゴン編
282/451

第281話 犯人は……

 あれからどれくらい前の話なのか、プークスと食事をしながら話を重ねていろいろ推察しようとするも彼自身、時間という概念に恐ろしいほど囚われておらず、さらに誰かと一緒にいるということも祖父以外なく、他の種族の時間の流れというものすら認識できていなかった。


 ちなみに母親も産まれてすぐのころはいたようだが、ずっとここにいるのに耐えきれず、自分を置いてどこかに行ってしまったらしい。

 竜郎たちにとってそれは非常に重い過去としか思えなかったが、そもそも単体として完成している種族なせいか、彼は一切気にしてなさそうだった。


 と、そんなこともあって彼は生まれてこの方ずっとここで過ごし、わざわざこんなとこに情報を持ってくるものもいなかったこともあり、プークスはこの世界歴二年ちょっとの竜郎たちより、一般的な常識を備えてはいないようだ。



『なんというか、ある意味プークスは無人島でずっと生きてきたようなものなのかもしれないな』

『どーりで素直なわけだよね。わかりやすく敵対してくる以外の悪意自体、向けられたことがないみたいだし』

『普通の人は竜を、それも上位竜を騙すどころか、近付こうとすら思いもしないっすからね~』



 プークスくらいの竜ともなれば、冗談抜きでそこらの小国なら簡単に消し飛ばせる。

 宝があると目がくらんで竜に挑むような度の超えた無謀な精神の持ち主ならばともかく、普通の者は触らぬ神に祟りなし。放置しておけば大人しいのだから、普通は会おうとも思わない。

 これまで他人とろくに接しないまま、擦れていない純粋な精神を持ったままいてもおかしくはないだろう。



「とりあえず、プークスのことはよく分かった。いろいろ話してくれてありがとな」

「なに気にするな。美味い飯がたらふく食えて、そのうえ久方ぶりに会話もできて俺も楽しかった」

「それは良かった。俺たちもプークスと話せて楽しかった。

 それで……だな、ものは相談なんだが少しだけプークスと麓の町との約束の件で、俺たちが調べる時間をくれないか?」

「む? というと?」

「なんというか聞いていて、いくつか気になることが出てきたんだ。

 そのことについても色々と調べてみたい。けど調べる前にプークスが動いてしまったら、隠されているかもしれない真実を見つけることもできなくなってしまうかもしれない。

 だからひとまず、俺の顔に免じて待っててくれないか?」

「うーむ……。ここまで美味いものを食わせてもらって、楽しませてもくれたタツロウを無下にすることはできない……。

 俺はどれくらい待てばいい? とりあえず太陽が十万回くらい昇るくらいか?」

「は? 十万?」



 太陽が~というからには、十万日。この世界の暦で計算すると約300年もの猶予を口にしてきた。

 ここでまた竜郎たちは嫌なというか、もしかしてという予感が湧き上がり、愛衣がその気持ちのまま彼に問いかけた。



「あのさ、プークスくん。私らが来なかったら、カンポ──麓の町にはどれくらいで攻めに行こうと思ってたの?」

「どれくらい? 気が乗った頃にでもやろうと思ってたからな、三万から五万回くらい太陽が昇る頃にはやろうと思ってたところだ」

「そ、そうなんだ……」



 このまま放っておいても最低でも九十年近くは、放置されるところだったことが発覚した。

 それだけ経ってしまうと、さすがにカンポの町も実はその気がないのでは?と思ってしまうかもしれないし、時間の流れでそんなこともあったなぁくらいに忘れ去られてしまう可能性すらある。

 忘れた頃にまた飛来して、何の準備もできていないところに竜の攻撃が降り注ぐことも有りえたのだから、ある意味あと数日後に攻めるより被害が大きかったかもしれない。



『それでなくても、まだかまだかとずっと待つことになってたかと思うと、さすがにカンポの町には同情するな……』

『ん。それならサクッとやってくれたほうがまだまし』

『マシかどうかはさておいても、気が抜けた頃に来るのは勘弁っすよね』



 なんともげんなりとした気分にはなったものの、竜郎たちはひとまず三百年ほどの猶予をプークスから引き出せた。

 さすがにそれだけあれば、彼を説得できるだろうし、真相に何かしら触れられる機会もあるはずだ。

 そう考えた竜郎たちは、プークスに腐りにくい料理や食材、酒などを追加で渡してから、再びカンポの町へと戻っていった。


 町に残っている住民は竜郎たちのことを既に知っているので、町に戻るなり顔を見ただけで手早く通してくれた。

 そのままの足で竜郎たちは冒険者ギルドに行き、現状の報告に入っていく。


 ジャポネルシオン共和国の人種の女性大統領──『パンジー・ギャロウェイ』。

 ここカンポの町の羊獣人の町長──『アガピト・セルラノ』に、鬼人の冒険者ギルド長『トノト・ヤイモソソ』といった重要人物も、今か今かと帰還をずっと待っていたようで、冒険者ギルドに入ってすぐ話し合いできる状態になっていた。



「まず良いお知らせから。とりあえず300年ほど猶予を貰うことができました。その間、彼がここを滅ぼしに来ることはないでしょう」

「「おおっ!」」



 町長とギルド長そのほかの町の職員たちは喜びの声をあげるが、大統領やその秘書らしき国の人たちはまだ表情は明るくなかった。

 ギャロウェイはすぐにさらに詳しい話を聞くべく、口を開いた。



「猶予ということは、現状期限を延ばしてもらえただけで、やはりこのままですと数百年後にこの町は地図から消えるということでしょうか?」

「そうなりますね。こちらにその約束をできるだけ叶える準備があるという話はしたんですが、いまさら遅いと言われてしまったので」

「そうですか……」

「ただ僕らは彼と良好な関係を築くことはできました。それだけ猶予があれば、話を重ねて宥めることができるかもしれません」



 そこまで聞いて、ようやく国側の人間も少し安堵した表情を取った。

 ただ竜郎も暇ではない。美味しい魔物たちの復活に、その生産活動などなど他にもやることはたくさんある。

 三百年間彼の元に通い続けて説得するのも絶対にダメとは言わないが、できるだけ早いうちに安心した状態にはしておきたい。



「ですが僕らとしても、国や町としても、早急に解決できるにこしたことはありませんよね?」

「ええ、それはもちろんです……が、できるのですか?」

「まだ何とも。そこでいくつかまた質問したいのですが、よろしいですか?」

「はい。こちらも協力は惜しみません。二人もそうですよね?」

「は、はい! もちろんです!」

「ああ、俺だってそうですぜ。ギャロウェイ大統領」

「ありがとうございます。ではまず大前提として知っておいてほしいのですが、彼が約束をしたというのは相当昔の事のようです。

 どれだけ昔かは分かりませんでしたが、少なくともここ数十年の話ではないと思っていいはずです」

「そ、そんな前の話だったのですか!?」

「そのようですね、町長さん。けどこの国というかこの町も、かなり前からあったんですよね?」

「は、はい。その昔、まだ共和国になる前、千年以上前の王国時代からこの町はありました。

 当時は今と比べ物にならないほど、大きな町だったようです」



 そう。この国は王国時代から換算するとかなり歴史が長く、この大陸の中では一二を争う大国としてずっと君臨していたのだ。

 さすがに数千年も前の話ではないと、プークス本人からも供述を得られている上に、道の状態からしてもそこまで前ではなかった。

 なので少なくとも、この国もこの町も約束した当時も存在していたと思っていい。



「ですよね。それでなんですが、その王国時代の資料なんかも今回の騒動で調べたりはしましたか?」

「も、もちろんです。前に言った通り、文字通り残っている全ての資料を何度も調べました。年代ごとに綺麗に保存されていましたし、あからさまに抜けている年代もありませんでした。

 な、なので雪山の大竜たいりゅうとずっと恐れられている竜と、何らかの約定をしていたというのなら、確実にどこかにそれらしい記述は残されていたと思われます」

「ハサミさん。先ほどからの質問から察するに、やはり個人ではなく町や国単位での約束であったと思ってもいいのでしょうか?」

「おそらくそうではないかと僕らは考えています、ギャロウェイ大統領。

 約束を交わした相手というのは、皆同じ服を着て組織だって行動していたそうなんです」

「…………数百年前であの山に組織立った行動ですか。ちなみに、その約束自体もそろそろ教えていただいても?

 もう今更約束を守ろうとしても遅いようですが、知っておきたいのです」

「そうでした。そちらも気になりますよね。なんでも──」



 竜郎はそこで毎日美味しい食べ物を献上する代わりに、雪山に道を作る許可と手伝いをする。

 それが果たされなければ、我が故郷──カンポの町を焼いてくれてもいいとまで啖呵を切った。

 そんな内容を彼女たちに語って聞かせた。



「道だと? あの山に? そんなことを言い出すやつなんざ、この町にはいねーだろ……。どういうことだ」

「ああ、あ、あの……ギャロウェイ大統領……。もしかして……」

「え、ええ……、おそらく私もセルラノ町長と同じことを考えています」

「というと、なにか心当たりでも?」

「はい。今でこそあの山の周辺は全て我が国の領土ということになっていますが、数百年前の山の向こう側には別の国──『ストルム王国』が存在していました」

「そのストルム王国というのは今は?」

「ありません。ジャポネルシオン王国と、今現在は隣国、当時はストルムの向こう側にあった『コラドス王国』と手を結び、二国で挟撃して滅ぼしたと歴史には記されています」

「滅ぼした……。ということは今は亡きストルムは、数百年前この国の敵だったと」

「はい。そして我が国には、あの山に道を通すなどという計画はなかったはずですし、当時もあの山には近づくなというのが一般的な認識でした。

 なのでもし、あの山に道を作ろうとする者がいるとすれば──」

「この国が関与していないというのなら、ストルム王国の手の者と考えるのが自然ですね」



 ジャポネルシオン王国とコラドス王国は当時、決して仲のいい国というわけではなく、むしろ戦争が起きていてもおかしくないほど険悪な関係だった。

 けれどストルム王国の当時の王は野心が強く、自分の代でより国を大きくしたいという思想の持ち主だった。

 ストルムの王はそれだけの野心を抱けるほど優秀で、当時の両国は彼の大胆にして独創的な戦略にいいように荒らされ、領土を削られていった。


 もちろんストルム王はジャポネルシオンとコラドスの同盟も考えなかったわけではないが、当時の両国の関係的にその可能性が低いこと、そうならないよう使者を通さないよう監視も徹底していたりもした。

 なので戦時中にその両国が組むとは考えてもいなかった。


 そして両国が手を組めたのは本当に偶然と偶然が重なった、まさに時の運が味方したとしか言いようのない電撃的な同盟だった。

 いくら優秀なストルムの王でも、さすがにそんなことまでは予想できず、二国は互いの国同士で警戒していた戦力まで用いて、一気に侵攻。

 あれよあれよという間に、大陸の覇を唱えるかとまで噂されたストルムは崩壊。それまでの盛況さが夢であったかのように、ストルム王国はこの世から姿を消した。



「もしも当時あの山を用いた侵攻作戦がストルムにより立てられていたのなら、手出し無用の最強のドラゴンの領域ということで、山からの侵攻はありえないと考えていたであろう我が国とこの町は、あっという間に侵略されていたかもしれません」

「と、当時のこの町は国としては重要拠点の一つとされてしました。

 もしもそのとき、ここを取られていたら、今この国はストルムと名乗っていたかもしれません……」

「ストルムを潰した後、それらしい作戦の資料などは見つからなかったんですか?」

「それが……相手はこちらに情報を与えまいと、負けが決まるや否や、ありとあらゆる資料を焼き尽くして撤退、もしくは自決して自国の情報を徹底的に守ったという話が残っていまして。

 実際に当時のストルム内の資料は、ほとんど残っていないのです」

「もしかするとこの国への特大の置き土産として、徹底的に竜の雪山を行く作戦と約束を隠したってのもありえるかもしれねぇな……。

 それがホントなら、とんでもねぇ国だぜ」

「なるほど……。失われた国による侵略作戦の一環だった。そう考えると道を通そうとするのも、この国に身に覚えがないことも辻褄があいますね。

 勝ち方も運頼りの大逆転という、ストルムからしたら理不尽極まりない最後だったようですし、侵攻を開始する前に戦争が終わってしまったのなら、この国がこの町がそういう作戦があったということを察することも難しそうです」

「で、ですね。わ、私を含め、この町の住人で、あの山に近づこうなんて者はいません。

 なので山を通る道が作られていたとしても、気が付かなかったのだと思います」



 最悪侵攻作戦に失敗しても、プークスとの約束を無視することで敵国の重要拠点のうちの一つを確実に潰せる。

 成功して自国の領土となれば、美味しい物を毎日持っていけばプークスとの繋がりができる。

 そうなるとあの竜と仲を深め道を通したという実績も作れるので、虎の威を借る狐のようにプークスという存在を利用して周辺諸国を脅すこともでき、大陸制覇も夢ではなかったかもしれない。

 まさにストルムにとってはいいことづくめ、これ以上ない最高の作戦だ。


 この国や町が罪を今は亡き国に擦り付けようとしているという可能性もゼロではないが、美味しいものを持っていくだけで回避できたのに、一切その資料も残さず、約束を守らない意味がわからない。

 輸送費をケチるにしても、さすがに上位竜を敵に回してまでやるようなことではないだろう。



「お話は理解しました。ストルムという国とその人間が、この町に一方的に約束を擦り付けたという説が一番高いようですね。

 ですがそう言ってもの竜は納得してくれるかどうかは分かりません。

 彼からすればそういう約束だったのですから、それが誰であろうと関係ないと言いそうですし」



 今のプークスはこの麓の人間に対して、いい感情を全く持っていない。

 今更こうだったと言葉を重ねても、嘘つきのたわごと程度にしか聞いてくれないだろう。

 大統領も町長も冒険者ギルド長も、絶望した表情をする。



「そこで相談なんですが、まずは僕らを完全に信じさせてもらえませんか?

 そうすればこちらとしても、全力で彼の説得を試みることができるのですが」

「信じさせてと言われましても……。もうかなり前の事ですし」

「何かストルムの国章だとか軍服だとか、何でもいいので当時の彼らが身に着けていそうな、使っていそうなものに心当たりはないですか?

 戦っていたのなら、それくらいは分かるのではないでしょうか?

 それさえわかれば、また彼のもとに行って見たことがないか聞けますし、今の話の信憑性も増すと思うのですが」

「直ぐに調べさせます!」

「お願いします」



 大統領権限ですぐさま国家機関をフル稼働させ、翌日には竜郎たちの前に当時のストルム国人についての資料が並べられた。

 その中には軍人が身に着けていた国章や勲章の形、恰好、武器や防具。ストルム人が持っていたアクセサリーなどまで絵付きでだ。

 これだけの資料を一夜で用意したことの誠意と本気を感じ取り、竜郎たちは改めてその資料を持ってプークスへと会いに行くのであった。


次も木曜更新予定です!

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[一言] ここまで状況証拠が揃っても実は犯人がストルムじゃないとかなったら大混乱ですな(ぁ はてさて真相や如何に…
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