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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十四章 町作り始動編
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第273話 清福コーナーお披露目

 陸地で普段見ることのない水棲魔物たちの美しさに心奪われた後は、また地下鉄で入り口前の駅まで戻り、今度は可愛らしい魔物たちに癒される〝清福〟のコーナーへ行くべく、木々と妖精のゲートを皆でくぐっていく。



「薄暗いね。ここは……森の中かい?」

「正確には森っぽく作った場所だけどな」



 あえて天井のガラスに遮光を少し追加して、たとえ晴れた真昼間でも薄暗くなるように作られている。

 しかし夜でもここはほのかに光に照らされ、真っ暗になることもない。


 明かりとして用意された小さな光る水晶をあちこちにちりばめているというのもあるが、ここにいる魔物自体も小さく発光しているのだ。



「あれは小妖精の魔物か……? これまた珍しいものを用意したものだな」

「それにここの木は、ほとんど魔物ですよ陛下」

「属性も同じ火のようだし、妖精たちの家になっているようだな」



 入り口付近に根付いたのは、火属性の魔物たち。

 トンネル状の竜水晶のガラス一枚隔てた向こう側には、火の粉が舞い散る小妖精と舞い踊る真っ赤に燃える翅を持つ蝶々。

 木の葉一枚一枚に火が灯った樹木、燃えているようにしか見えないのに消し炭にならない花々、それらの火を好む小動物にしか見えない可愛らしい魔物たち。

 そんな火属性に偏った魔物たちの楽園と化している。



「なにあの子、キツネの魔物に乗って遊んでる」

「ここの子たちは、みんな仲良しだからね」



 ルイーズが見つけたのは、キツネの魔物に小妖精の魔物が三体騎乗して一緒に遊んでいる姿。

 そのキツネと小妖精たちはルイーズの視線に気が付き、好奇心旺盛にとことことガラスのほうに自ら近寄ってきた。


 ルイーズがしゃがみこんで、ガラスを隔てたすぐ向こう側まで来た魔物たちに、小さく手を振ってみれば、向こうの小妖精たちもニコッと笑ってマネをするように手を振り返してくれた。



「はわぁ~、可愛い……」

「その愛らしさゆえに、その昔乱獲されて今は絶滅したと言われている魔物なんですけどね」

「あぁ……、そうなんですね」



 冒険者ギルドのエディットも、今や図鑑の中の存在と思っていた魔物を物珍しそうに見つめた。

 すると他の小妖精たちもこちらに来ていた子たちに釣られるように、フワフワと飛んで集まってくる。

 ルイーズがまた手を振ると手を振り返したり、後ろから覗き込むように見ている人たちのポーズを真似したり、向こうもこちらに興味津々な様子だ。



「あの子たちはこないけど、警戒してるのかな? ちょこちょこ覗いてくるのも可愛いけど」

「妖精ちゃんたちと違って、ちょっと臆病な性格な子もいるからね」



 リスやイタチなどの可愛い魔物たちは、見たことのない人間に警戒して木や草花の影から顔をチラチラのぞかせているだけで近寄ってはこない。


 しかし愛衣がルイーズたちから少し離れた場所に立ち、ガラスの前でちょいちょいと手招きすると、彼女には慣れているので草むらから出てきて「なになに~?」と隠れていた場所から飛び出して来た。

 ガラスの前に群がってきた小動物型魔物たちにむかって愛衣が指を一本立て、その子たちの前で左右に揺らすとそれを目で追って一斉に首をフリフリと動かして非常に愛らしい光景が広がる。



「え~アイちゃん、いいなぁ……」



 エディット以外のここについてきている町の運営サイドの女性陣たちも、ルイーズの言葉に同意するようにうんうんと頷きながら、小さな魔物たちに顔を緩ませていた。

 男性陣もそこまでではないが、その光景を微笑ましそうに見守っているが……その中で一人だけ、女性たちと同じようにメロメロになっている人物がいた。



「か、かわいい……」

「どうした? ファードルハよ」

「い、いえ。なんでもございません」



 ファードルハは動悸を押さえるように胸に手を当て、愛衣の前で首を振るイタチの魔物に目が釘付けになっていた。



『まさかの人にクリーンヒットしてるな』

『可愛いに性別も年齢も関係ないんだよ、たつろー』

『それもそうだな。そしてエディットさんは、そこまで響いてなさそうっていう』

『可愛いものは、そんなに好きじゃないんですかね?』

『リア。あの人は普段、魔物を狩る側の冒険者の人間ですの。

 きっと魔物には心動かないようになってしまったんですの』

『もしくは絶叫マシーンのような、スリルのある魔物の方が好き……なんてこともあり得ますかね』

『あー、それは確かにありそうですね、ウリエルさん』



 なんてことを仲間内で念話しながら愛衣がバイバイと手を振って立ち上がると、群れていた小動物型魔物たちも一斉に散っていき、また草むらや木の陰に戻っていく。

 その姿を目で追いながら、女性陣たちと一緒にファードルハは「あっ」と声をあげていた。

 そこまでくるとさすがにハウルやリオンたちも気が付き「あの堅物が、ああいうのが好きだったのか」とこっそり衝撃を受けていたのを見て、竜郎は思わず隠れて笑ってしまった。


 それから火に続いて、土、水、樹、光、風、雷、解、氷、呪、闇、生と、あちこちに同じ種から一つの属性に偏った進化をして枝分かれた12種の違いを見られる妖精たちの森を簡単に見て周っていった。



「まさか全属性取り揃えているとは……。見た目が可愛いというのもあるが、ほぼ同一種なのに属性によって若干性格が違いそうだったのは興味深かった」

「闇属性の子たちなんか、他の子よりもツンツンしてたくせに最後離れるとき手を振ってくれたりして可愛すぎだよ~」

「ルイーズちゃんは闇属性派かな?」

「うーん、でも生属性のおっとりさんな性格の子たちも可愛いんだよね~」



 ファードルハは生属性派だったのか、ルイーズの言葉に小さく頷きつつも「しかし解属性の知的な雰囲気も捨てがたい……」などと一人でぶつぶつ呟いていた。


 可愛らしい妖精たちや小動物型魔物たちの生活が垣間見れた森を抜けると、雰囲気がガラッと変わる。



「こちらは細かく種族ごとに区切っているのですのね」

「ええ。ここはとくにこの子が見たい! という目的があって来る人も多そうですから、こうしたほうが探しやすいかなと」

「ああ、それはありそうですね」



 ここだけは野放図に広い空間に放っているわけではなかったので、エディットは疑問に思ったようだ。

 竜郎の答えに納得して、女性陣が今群がっている子パンダたちのケージの方へと離れていった。



「やっぱり絵姿で見るより、かわいいー!」

「ルイーズさまは、この子たちの絵をお持ちなのですか?」

「ええ。小さいのですけど、とても詳細に描かれたものをアイちゃんに貰ったんです」

「それは羨ましいですね」

「ほんとです」



 可愛いものを通して仲良くなったルイーズと、その他の女性たちがキャイキャイとその前ではしゃいでいる。

 やはり異世界でもパンダの魅力は健在で、ただダラダラと寝転がったりおもちゃで遊んでいるだけなのに、彼女たちの心を鷲掴みにしていた。



「なら帰りに、みんなの分も用意しとこうか?」

「「「「「よろしいのですか!?」」」」」



 本当に欲しがっていそうだったので、愛衣がそう言うと大層喜んでいた。



『これはグッズ展開もこの世界でもいけそうだな』

『ポストカードのようなものは、こちらの世界でも受け入れやすそうですしね、兄さん』

『それがいけるなら魔物たちの写真集なんかも行けるかもしれなませんね、主様』

『ニーナはぬいぐるみが欲しいかもー!』

『グッズだけで大儲けできそうですの』



 食品関係だけでもかなり潤ってきているので、別にこれ以上手を広げる必要はないのだが、ニーズがあるのなら展開してみるのも悪くはない。

 ぬいぐるみなどは、こちらの人でも生産できそうなグッズなので、仕事が欲しい人への雇用にも繋がるだろう。



「ねぇ、アイちゃん。やっぱりその……この子も魔物だし…………触ったりとかはできないんだよね?」

「この辺にいる子は、みんな大人しめな子たちばっかりだから、別に触っちゃダメってことはないんだけどね。

 やっぱりなにか問題あったり、起こしたりする人も中に入るだろうからってやらないことにしてるんだ」

「そうなんだ……」

「でもここにいる人たちは皆信用できるってことで来てるわけだし、特別に触ってみちゃう?」

「いいの!?」「「「「「いいんですか!?」」」」」

「うん。ねーたつろー、別にいいよねー?」

「ああ、いいぞー。でも中に入るにはすぐ下の職員専用通路からしか入れないから、この辺をもう少しだけ見てからにしておこう」

「そっかー。じゃあ後でね」



 見えるところに通用口を用意しておくと、スタッフが開けたときにお客が自分も触ってみたいと無理やり入ろうとして、どちらかが怪我をしてしまうケースも考えられると、魔物たちへの場所への出入口や餌やり場所は、魔物園全体で地下一階からに統一していた。


 地下一階への入り口はそれぞれの地下鉄の駅口から、職員用のドアを通って登ることができる。

 ちなみに竜郎たちは地下一階には各所に繋がる通路の他にも、スタッフ専用の休憩所や食堂、簡単な娯楽施設なんかも用意するつもりなので、ここで働く職員たちの福利厚生も町外の職場と比べてもかなり待遇がよくなる予定だ。


 子パンダ以外にも愛衣がお勧めの動物型魔物たちのケージにいくつか案内していき、男性陣はファードルハ以外は少し刺激が足りなさそうではあったが、女性たちはそちらもやはり大興奮ではしゃいでいた。


 あとは清福コーナー最後の〝あの場所〟に向かう前に、パンダに会うための最寄りの地下鉄駅に降りたついでにスタッフ専用通用口のカギを竜郎が開けて上がっていく。



「職員用の通路と聞いていたので、もっと狭苦しい場所を想像していましたが、これはかなり快適ですね」



 マックスがそう言うように、温度や湿度も人にとって快適に保たれ、通路も広く明かりもしっかりと各所に取り付けられていた。

 職員用に遊園地で作ったような運搬や移動用のカートが通れる専用の通路まで設けてあった。



「ここで働いてくれる職員の方々には、元気な状態で働いてほしいですからね。それじゃあ、パンダはこっちです」



 竜郎たちにとってはそれほどだが、地下一階は割と地球側の施設の内装に近く、リオンたちはこの場所自体も物珍しそうに周囲を見ていた。

 少し歩いてちょうど子パンダたちのケージの真下に位置する部屋の扉の前までやってくる。

 扉には単純明快に『パンダ』と誰が見ても分かるように、こちらの文字で大きく書かれていた。


 扉を開けるとパンダたちようの餌や水入れ、ケージの掃除道具など、必要そうなものが各種取り揃えられていた。

 そして部屋の隅にある階段を上り、上に開くタイプの丸いドアをパカっと開けば子パンダたちがくつろぐ場所に入れるようになっている。


 竜郎と愛衣の先導の元、ぞろぞろと後ろに引き連れてケージの中へと入っていく。

 ケージは子パンダたちがストレスをためないよう、広めに作っているので全員はいることもできた。



「じゃあ、えーと、この子がいいかな。

 人見知りしないし、抱っこされるのが一番好きな甘えん坊さんなんだよ」

「わぁ~~!!」



 まずは希望者の中でも身分の高いルイーズから。

 愛衣が一番甘えん坊な個体を選んで持ち上げ、優しく彼女に渡していく。

 見た目のわりにズッシリとした体重なのだが、ルイーズもそれなりにレベルも鍛えているおかげで、軽々と抱っこする。

 ルイーズがぎゅっと抱きしめると、子パンダもはしっと彼女の服に掴まり抱きしめ返す。

 その光景に女性陣はまた大盛り上がりで、愛衣から子パンダを渡されるのを今か今かと待つ。

 しかし楓と菖蒲はそんな待ち時間など知ったことではないと言わんばかりに、竜郎の足元から駆け出して、他のパンダたちに抱き着きに行っていた。

 楓と菖蒲からしたら、このパンダたちは自分のパパのペットだから勝手に触ってもOK! という認識なのだろう。



「ファードルハさんはどうします?」

「ん? どういうことですかな? タツロウ殿」

「いや、なんか触りたそうに──」

「いやぁ~、そうまでおっしゃるのであれば、私も抱っこせねばなりませんな! ですよね? 陛下?」

「……そうだな。行ってこい」

「いやはや、しかたがないですなぁ~。では、行ってまいります! よろしいですね? タツロウ殿」

「…………ああ、はい。どうぞどうぞ」



 さすがに女性達の輪の中に入ることができずに、ソワソワしていたファードルハに水を向けると、竜郎が触ってほしいというからという体を無理やり作り出して、そちらの列に並んでいった。



『めんどくさい大人だ……。ある意味、この人もハウル王の血族だってのを実感したよ』

『まあまあ、ファードルハさんにもプライドってやつがあるんでしょ』

『バレバレすぎて、プライドもへったくれもない気がしますけど……。奈々はどう思います?』

『逆に痛々しいし、男性でも可愛い物が好きな人なんて沢山いるのだから、恥ずかしがらずにオープンに振舞ってほしいところですの。

 今のあの状態は、むっつりな感じがして、ちょっとキモいですの』

『奈々さま。そのドストレートパンチを本人にぶつけるのだけは、おやめくださいね』

『……できるだけ気を付けますの』



 子パンダにはじまり、その周辺にいた直ぐに行ける小さな猫の魔物、犬の魔物、モコモコの鳥なんてものとも触れ合い(もちろんファードルハも)、最後の一番狭めに場所を取った『湿地』区画へと足を向けていく。


 ここはケージごとに区切ってはおらず、サファリ方式でガラスの通路から見るタイプ。

 両生類系や爬虫類系の、面白かったり可愛い見た目をした個体が放たれている場所だ。


 今度はどんなモフモフがと期待に胸を膨らませていたルイーズをはじめとした女性陣は、一気にテンションが下降していくのが目に見えて分かるほどだった。

 ファードルハも、遠目からチラリと見てもしょんぼりしている。


 だがしかし、この魔物園に来てここ一番の反応を見せた者がいた。



「こ、この真ん丸とした体! 大きくつぶらな瞳! なんて愛らしい……」



 女性陣の中で唯一、子パンダたちにもそこまで惹かれた様子のなかったエディットが、奈々が一番お勧めしてきたことで入れたという経緯のある、大福のような真ん丸ボディをしたカエルを見てガラスに張り付いた。



「それが分かるとは、なかなかやりますの。

 エディットさんとは、いいお酒が飲めそうですの」

「奈々はお酒飲んだことなんてないでしょう?」

「それはそれ、これはこれですの」



 奈々は楓や菖蒲、さらには他の幼竜たちにもカエルの可愛さを語って聞かせたが、大して興味を示してくれなかったことを思い出しながら、同好の士を見つけたと喜んだ。



「マニア向けってことで一応用意してみただけなんだが……、案外需要はあるのかもしれないな」

「トカゲとかもよく見ると案外、可愛い顔してたりするしねぇ。

 ねぇ、ルイーズちゃん。あの子たちは触ってみたりとか──」

「いっ──いい、もういいよ! もうパンダちゃんたちで胸が一杯で!」

「そっかぁ。この様子を見ると、一番スペースを小さくしたのは正解だったみたいだね」



 こちらの方が少しばかり刺激的なせいか、男性陣の方がこちらは興味を示していた。

 逆に女性陣はエディット以外は全滅な様子だが、その一人に熱烈な支持を得ていた。

 今やエディットは奈々と並んで仲良く「あっちのカエルを見に行きますの!」「ええ喜んで」なんて、やり取りをして歩き回り他の人たちは置いてけぼりだ。


 しかしこれを見るに、嵌まる人はどっぷりと嵌まる分野。という可能性が高まった。

 全員にあまりにも不評なら別の区画に変えようとすら思っていた竜郎だったが、それを見て続投を決定したのであった。

次も木曜更新予定です!

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