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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十四章 町作り始動編

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第271話 夢うつつな場所

 闘技場を後にして城の内部に戻っていき、純粋に城の各所を見学していく。

 調度品はまだスカスカな部分もあるが、造形だけでも十分に楽しめるくらいにこの城の完成度は高い。

 そして城内部の中ではメインどころにもなっている謁見の間までやってきた。



「はっはっは、これはまた私の玉座より豪華なのではないか?」

「しかし陛下……豪華というか、これだと少しわざとらしいというかなんというか、いかにもすぎませんか?」



 内装自体が全体的に煌びやかな謁見の間の中でも、一際目を引くのが中央奥の高い場所に設置された玉座。

 基礎は深い青色の水晶で、ケバケバしくなる半歩手前まであちこちに宝石や金、銀が散りばめられ、座面もビロードのような滑らかで艶やかな紅い布地が張られた、まさにゴージャスという言葉が似合いすぎるほどの玉座。

 座り心地もフカフカでお尻にフィットし、長時間座っても疲れない非常に良いものとなっている。


 だが金や銀も宝石も布地も布地の中のスポンジも含めて、全て竜水晶の質感を闇魔法で変質させて作ったイミテーション。

 後から嵌めこんだパーツは一切なく全て最初から繋がった状態なので、不心得者が一部を剥がして持って帰ろうとしても、竜水晶を破壊できる力の持ち主でなければ絶対に不可能。

 玉座自体もそうは見えないが床と繋がっているので、動かすことすらできないようになっている。


 とそんな気合を入れて作った玉座なわけだが、確かにハウルにレスが返した「いかにもすぎませんか」という言葉。

 これは竜郎たち側が意図してやったこと。


 ここで下手に本物の玉座のような威圧感や上品さまで出して、この国の本物の玉座より入園者ならば誰でも座れる椅子の方がいいのではと思われてしまうと、さすがに難色を示す者も出てきてしまう。

 ハウルやいずれ座ることになるリオンはまったく気にしないだろうが、体裁というのはついてまわる。


 そこであえて、わざとらしいまでのザ・玉座を作った。

 豪華は豪華だし立派なんだけど実際に本物として使うとなると……と、本物を知っているような者たちにはそう思ってもらえるよう。

 本物を知らない者たちには「これぞ王様の椅子だよね!」と、頭の中で漠然と思い浮かべていた豪華な玉座像に当て嵌めてもらえるような、そんな微妙なラインを目指したというわけである。


 まさにレスの反応は、竜郎たちからすれば百点満点の解答と言えよう。



「あえて狙ってやってるんだよね? これって」

「うん、そうだよ。私たちもちゃんと気を使うんだから」



 ハウルやリオンはもちろんの事、文官畑のルイーズもすぐにその意図を察してくれた。



「誰か座って見ますか? 誰でもいいですよ?」

「「「「「………………」」」」」



 竜郎が気を聞かせてそう言うが、誰もがどうしようと沈黙する。

 本物の王様がいる前で、自分が玉座に座るのはちょっと……という気持ちでいっぱいなのだ。

 ハウルはハウルで「気にする必要などないというのに」と、苦笑していた。



「ではファードルハ。国王命令だ。お前が座って試してみよ」

「は、私がですか?」

「うむ、お前とて曲がりなりにも王家の血族。

 私がいいというのだから遠慮なく座って確かめて見せよ」

「……では僭越ながら」



 今までずっと後方で黙って見守っていたファードルハが、ここで前に立たされる。

 彼は園の視察というよりは、次代の王であるリオンと自分の後継となりうる宰相候補のルイーズたちの現在の力量を見極めるためにいたので、ずっと目立たぬよう影を潜めていたのだ。

 決してハウルのテンションが面倒だから、レスに押し付けていたわけではない。決して。



「おぉ……この見た目だとあれですが、座り心地だけ見れば私の普段使いの椅子に欲しいくらい良い物ですな」

「外観よりも、その座り心地を再現するのに苦労しましたよ。

 あ、それと実はこんなギミックも用意してみたんですけど、ちょっと体験してみてください」



 そう言いながら竜郎はやろうかどうか迷い中のギミックがあったので、ここで皆の反応を見てみようと目的の物体を取り出していく。



「これは……なんだい? タツロウ」

「これは家臣人形だよ、リオン」



 造形は人に似せすぎると気持ち悪かったので、キャラクターのようなポップな見た目の貴族にみえる服を着せた人形たちを、ずらりと玉座の前に並べて起動していく。

 すると一斉に家臣人形たちが片膝をついて跪く。



「じゃあファードルハさん。おもてを上げよ──って言ってみてください」

「…………お、おもてをあげよ」



 本物の前でやるのは、ごっこ遊びのようでかなり恥ずかしそうだったが、ハウルに無言でやれと視線を送られてしまっていたので、若干小さめの声で竜郎の指示に従った。

 すると人形たちが片膝着いたまま、バッと機敏に頭を上げる。



「あー……、これは……?」

「玉座に座ってる人の簡単な命令を聞いてくれるんですよ。

 その場でジャンプだとか足踏みだとか、手を挙げてとか無害そうな命令だけですが。王様や女王様気分が味わえるかなと思って用意してみたんですよ」



 ただ王様ごっこがしたいのではなく、お城の内装を見て楽しもうと来た人にとっては人形がぞろぞろいたり、がしゃがしゃ動いていると邪魔かもしれない。

 そこでこの場にいる、この世界の常識を持った有識者たちの意見を聞いてみることにした。



「確かに、この見事な城は見るだけでも価値はありますからな。

 それなのに騒がしくされてしまうと……ですよねぇ?」

「ええ、そうですなぁ」



 やはりこの場には竜郎側の人間以外子供もいないので、王様ごっこに憧れる者もいない。

 リオンたちと一緒に来たお年寄り貴族たちからも、そんな意見がでてきてしまう。



「ですがこの仕掛けは面白くはありますからね。これがやりたいという層もいるでしょうし、やはりここは時間帯で区切るのがいいのではないでしょうか?」



 商会ギルドのマックスの意見としては、幅広い層に来てほしい。城に興味のない大人でも、子供が行きたいと言えば来るかもしれないし、大人だって人形相手とはいえ玉座に座って命令してみたいなんていう者も少なからずいるはずだ。

 そう考えて朝から昼にかけては人形たちを用意して、夕方から夜は静かに見学したい人向けに人形たちをしまうという案を出してきた。



「やっぱりそれが無難ですかね」

「はい。遅い時間ならお子様方も疲れているでしょうしね」



 竜郎たちも両方の層を取り入れるなら時間帯や曜日で分けるという意見は出ていたので、改めて現地人の意見も聞いてその方向性で進めていくことに決めた。



「まだどこにもない施設なのだし、実際にやってみて現場の意見を聞きながら調整していくのがいいだろうね」



 リオンの締めの言葉にそれはそうだと頷きながら、皆でこの場を後にして最後の裏庭へと向かっていった。


 裏庭は当然ながら最初に入った正面広場の正反対側に位置した場所にある。

 謁見の間から階段を下りて裏手側に歩いていき、花の模様が描かれた両開きの大きな扉の前に立ってもらう。

 そして竜郎と愛衣が扉の両サイドに立ち、同時に開いてその先の裏庭の景色を解放した。



「「「おぉ……」」」「「「わぁっ」」」



 どよめきと歓声がそれぞれから上がる。



「綺麗なお庭……」

「どお? ルイーズちゃんは気に入ってくれた?」

「うん、凄くいいよ。ここでお茶をしたいくらい」



 裏庭は色とりどりの花々や木々などの植物による美しさと、煌びやかな噴水や鮮やかなレンガ調の歩道、お洒落なベンチに机などの人工物が絶妙に交じり合った、幻想的なフラワーガーデンが一面に広がっていた。


 ここはベンチに座って休憩しながらお茶もでき、のんびりと草花に癒されてもらおうというコンセプトだ。



「おや、あの花はこの辺りでは咲かないはずでは?」

「目ざといですね、マックスさん」

「ええ、私が若い頃あの花を自分の庭に咲かせたいと、この地方のお客様に無茶を言われたことがありまして……。

 あのときはあちこちの専門家の意見を募ったりと、非常に苦労した覚えがあります。まあその分、儲かりもしましたがね」



 この地方はどちらかと言えば寒い場所なので、種をまいたところで咲かない植物も多かったりする。

 一番最初に回った水上コーナーは水の温度も上げてあり、空気の温度も魔道具で温めているので水着でうろついても平気なようになってはいるが、この場はそうではない。

 であるのに特別な魔法や魔道具などに頼っている様子もなく、ここにある全ての植物は自然に生き生きとした存在感を放っていた。


 これはなんでだろうなぁ、教えてくれないかなぁというようなマックスの視線が竜郎に突き刺さる。



「今回ここに用意したのは、特別に品種改良してこの辺りの地域でも大丈夫なようにしたからですよ。

 需要があるなら、これらの花々の種なんかも売ってもいいかもしれませんね」

「おお! それは売れますよ!」



 女性陣からはこんな綺麗な場所でお金の話? というような雰囲気が漂うが、マックスは気づいたうえで無視して頭の中の算盤をはじいた。


 植物の生態系やらなんやら難しい問題もあるだろうが、その辺りはマックスに責任を持ってもらえばいい。

 最近竜郎たちが使いまくっている、秘儀『丸投げ!』である。

 とはいえ本当にまずいことがあれば、手伝うこともやぶさかではないのだが。


 そんな一幕がありながら、ちょうどいい時間でもあったので一度ここで軽食とお茶をしてもらい、一休みしながらこの風景をしばし楽しんでもらった。



「それじゃあ、これでお城めぐりは終了です。

 最後に遊園地で見せたい乗り物があるので、そちらに行きましょう。ついてきてください」



 裏庭のフラワーガーデンを通り抜け、裏門から城を出て最寄りの地下鉄に乗って巨大観覧車のある場所へと辿り着いた。



「この形状からして……もしや、あの箱に入ったら高速で回転する……なんてことは……?」

「それは面白そうだな!」「それは興味深いですね」

「いやいや、ハウル王もエディットさんも落ち着いてくださいよ。

 事前に言ってあったように、ここいらは小さな子も楽しめる乗り物しかありませんから安心してくださいレスさん」

「そ、そうですか! 高いところ自体は平気ですし、これは安心して乗れそうです」



 レスは喜び、絶叫大好きコンビは残念そうにしていた。

 そんな連中は置いておき、一つのゴンドラに四、五人ずつ乗っていってもらう。

 今回はゴンドラに乗ってグルグルとゆったり回る、本当にただ大きいだけな観覧車だ。

 説明する必要もないと竜郎たちもハウルたちと分かれて乗り込んで、ウリエルが外でスイッチを押してくれたことでグググッと音を鳴らし動き出した。


 ゆっくりと皆を乗せたゴンドラが上昇していき、園内の景色が徐々に一望できるようになっていく。

 この観覧車は当初から予定されていた乗り物なので、園自体も上から見たときの景色が綺麗になるようにレイアウトされている。


 右手には広い海のような爽やかな光景が広がり、左手にはマグマ流れる雄々しい火山。

 そして中央には遠目から見下ろしても絵になる城に、フラワーガーデン。

 それら全てを、この観覧車から一望することができた。



「絶景ですね。陛下」

「うむ」



 ハウル、レス、ヨーギ、ファードルハの乗るゴンドラが、ほぼ天辺まで登りつめる。

 ハウルはレスの純粋な感想に軽く頷き返し、これまでの園内の視察を思い出しながら一つ一つの施設に視線を巡らせた。



「……………………しかし、本当に凄いものよな。

 信じられるか? ここに見える全てが遊びのために用意されたのだぞ。まさに夢うつつとはここの事よ。

 タツロウたちの事を知らずに、話だけでこんなところがあるなどと言われた日には、そいつは頭がおかしくなったのかと思ってしまっていただろう」

「それは私も同感ですね。宰相としても、そんなものを作る余裕があるのなら、他のことに労力を費やしたほうがよっぽど生産的だろうと思っていたでしょう。

 ですが彼らは一般的な常識の上で生きていない。

 彼らからしたらこれだけのものも、我々がやろうとすれば躓き断念する事象の全てを容易く乗り越えて成し遂げてしまう。

 それは分かっていたつもりでいましたが、こうしてここを見るとまだ分かっていなかったのだなと思い知らされました」

「遊園地だけでもこれなのですから、次の魔物園でもまだまだ驚くことになりそうですね」



 ヨーギが遠い目をしながら、遊園地の向こう側にあるであろう魔物たちをわざわざ住まわせているという魔物園の方角へ顔を向けた。

 竜郎たちのことだから安全性については間違いないだろうが、それでも魔物の巣窟だ。

 ここはまだ未知の物だらけではあったが遊ぶ場所。だが次は魔物が身近にいるという安全であろうと、王や国のために警戒を怠るわけにはいかない。

 騎士団長である自分やレスは、常に気を張らなければない場所になるだろうと。


 だがそんなヨーギの思いを透かしたうえで、ハウルは破顔する。



「それは僥倖。私はこの無駄に長い人生の中で、久しく忘れていた初めてへの緊張や胸の高鳴りを覚えて最高に楽しいし、楽しみだ」



 ハウル以外の三人も、見たことがないほど無邪気な王の様子に笑みが生まれた。

 まだまだずっと先の未来の事だが、ハウルは狂う前にいつか自分でその生を絶つ決断を迫られる。

 そしてそのとき自分たちはとうに生きていない。今の身内でその場にいられるのは、リオンくらいだろう。

 それを思えば今苦労するのは自分たちだけでいい、陛下は今この時をそのまま楽しんでくれればいいのだと──。

次も木曜更新予定です。良いお年を!

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