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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第三章 カルラルブ大陸編
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第26話 もう一人誰か誘おう

 楓と菖蒲を連れていく決心がついた竜郎と愛衣は、朝食を食べながら何をするべきかを考える。



「俺と愛衣とニーナがいれば、戦力的には十分だろうが万が一があっちゃ困るし、もう一人くらいスカウトしていきたいな」

「できるだけ楓ちゃんと菖蒲ちゃんは懐いてるほうがいいかもね。

 いざとなったら、すぐに預けることができたほうがいいかもだし」



 カルディナたちはほぼ竜郎と同じ存在と言ってもいいので、任せられるかと思えばそうではなく、逆に同じようで同じじゃないというのに違和感を感じるのか、他の眷属たちとそれほど変わらない懐き度合いなので候補としては上げにくい。



「となると父さんや母さんが候補にあがってくるが……まだ外に出すのは不安だなぁ」

「この世界に来てまだ数日で、私たちも初めてのとこに連れてくのはねぇ。

 そもそも今は仁さんガウェイン君とお酒造りに夢中だし、美波さんはお母さんと交代でルシアン君の子守りもしてるし忙しそう」

「楓と菖蒲の相手は全部俺がして、完全に補助に回るだけでもいいと考えれば選択はいくらでもあるんだが……」



 そこでとりあえず、既に昼食の支度を鼻歌混じりにはじめていたフローラに竜郎は視線を向けた。



「なあ、フローラはカルラルブ大陸に行ってみたいかー?」

「えー。カルラルブ大陸って砂漠でしょー?

 フローラちゃん、カラカラでピカピカのとことか苦手なんですけどー」

「フローラは植物系の人間だからな。気候的に向いているとはいえないだろう」



 やり取りを聞いていたイシュタルが、フローラの言いたいことをより分かりやすく補足してくれた。

 確かにフローラの上半身は可愛らしい少女のそれだが、足は植物。

 乾燥したうえで太陽がさんさんと照った場所に行っても死ぬことはないが、不快に感じるのは間違いない。



「逆にジメジメしたとこだったら、フローラちゃん全然平気なんだけどねー♪」

「亜熱帯的なところか」



 だが今回はそのような好ましい場所ではないので、フローラへの勧誘はすぐに打ち切った。




 朝食を食べ終えイシュタルとミーティアが自国に帰るのを見送ると、さっそく竜郎と愛衣は動きはじめる。


 考えながら歩き回り最初にやってきたのは、酒竜こと吟一郎たちがいるところ。

 カルディナ城を囲む竜水晶の城壁を外に拡張して作った一角である。


 そこには仁とガウェイン、そしてルシアンを抱っこした美波がいた。



「おっ、どうした竜郎」

「いや、考えごとをしながらフラフラしてただけだ。そっちは順調か? 父さん」

「いちおう吟一郎たちにはそれぞれ違った食材を食べてもらっているが、まだどうなるか分からんな」



 吟一郎には、どうなるか想像もできない肉酒を。

 吟次郎には、まず成功間違いなしと思われる極上蜜酒を。

 吟三郎には、美波が好きなミカンに似た味の果物だけを与えた果実酒を。

 吟四朗には、さまざまなフルーツを組み合わせた果実酒を。もちろん、こちらは日にどれをどれだけ食べてもらったか詳細に記録している。

 そして吟五郎には、日本酒っぽいものが出来ないか期待して日本から持ってきたお米を与えている。


 これでもう少ししたら、吟ブラザーズのお腹の中のタンクで発酵した酒ができあがる。

 熟成させればもっと美味しくなるらしいが、とりあえず飲めるようになるだけなら、ものによって変わるが、おおよそ十日から二十日くらいでいけるらしい。



「こうしてみると五体は少なかったかもしれないな」

「熟成させた酒ってのも気になるし、もう十体くらい生みださねーか? マスター」



 仁と話していると、お米を食べさせ終わり、その量と品種を記録したガウェインがやってきた。



「どんな酒ができるか実験するのなら数はいてくれた方がいいんだろうが、手間はその分増えるぞ。いいのか?」

「うっ、それは確かにそーだな。どんな酒ができるか楽しみも増えるが、そればっかりやってたら体が鈍っちまう」



 酒の味を覚えたガウェインだが、それでも一番楽しく興奮できるのは戦っている時だ。

 常日頃から竜郎たちの眷属の誰かと訓練と称して模擬戦闘にあけくれているので、その時間を削るのは嫌なのだろう。


 ──と。竜郎と仁たちの話がつまらなかったのか、いつのまにか少し竜郎から離れて美波に抱っこされているルシアンを見上げる楓と菖蒲。



「「あうあー?」」



 それに乗じてニーナはパパを独り占めーとばかりに、ミニサイズの状態で頭にのっかられ頭頂部に抱きつかれた。

 愛衣がその様子をおかしそうに見つめながら、スマホでニーナを動画撮影しはじめた。

 なので竜郎は楓と菖蒲、ルシアンの触れ合いをスマホで動画撮影しはじめた。



「あらあら、楓ちゃんと菖蒲ちゃんは、ルシアン君とお友達になりたいの?」

「うー?」



 美波は微笑みながらしゃがんで、楓と菖蒲にルシアンが見やすいようにしてあげた。

 するとまだ名前を憶えていないからか、ルシアンは誰だろう?と言った様子で楓と菖蒲を交互に見つめながら首を傾げていた。



「こっちの子が楓ちゃん」

「かー」

「あう?」

「こっちが菖蒲ちゃんよ?」

「あー」

「う?」



 ルシアンは一度紹介されただけで、どちらが「かー(楓)」でどちらが「あー(菖蒲)」なのか認識したようだ。

 ルシアンも楓と菖蒲も人見知りはしないのか、積極的に赤ちゃん言語でコミュニケーションを図りはじめた。


 なにを話しているのかはさっぱり分からないが、三人の中では通じるものがあったのだろう。

 最終的にはきゃいきゃい言いあいながら、互いの顔をぺたぺたと触りあってじゃれつきはじめた。



「もう仲良しさんみたいねぇ」



 その様子を見ていた美波は微笑ましそうにしゃがんだまま、そんな三人のやり取りを見つめていた。

 竜郎も思わず口元をゆるませながら、可愛らしいやり取りを一通りスマホで動画ファイルに収めた。

 いつか三人が大きくなったら、これを見せてあげようと頭のメモ帳に書き込みながら。


 それから少し竜郎たちは話し合い、吟一郎たちの兄弟をもう少し増やす方向で話をまとめ、その場を後にした。

 ルシアンと楓、菖蒲たちが、互いに手を振りあっていたのがガウェインとニーナ以外のメンバーを悶絶させた。


 そうして次にやってきたのは、これまた城壁の一角を外に拡張して作った大きな畑。

 ここは正和が品種改良したものを実験的に育てる場所となっており、ある意味では彼の実験場ともいえる。


 今は植えた次の日には稲穂を付ける日本米や、実を付ける果物の木、蜜用のあらゆる花々など、酒造りの材料をスキル《種子編集》による品種改良で作ったものが大部分を占めている。


 そしてそこには正和、美鈴がいたのだが、それはいつものこと。

 けれど今日は果物の入った箱を左腕で抱えながら、あまった右手でもしゃもしゃとワイルドにそれを食べるヘスティアが一緒にいた。



「ヘスティア?」

「……むぐむぐ。ん? 主も食べる?」



 ヘスティアは手に持っていた分を食べ終わると、箱の中に大量に敷き詰められた果物のうち一つを竜郎に差し出してきた。


 

「さっき朝食を食べたばかりだから遠慮しとくよ。それにしても、何をしてるんだ?」

「ん。試食」

「試食? その果物の?」

「ん」



 ヘスティアはコクリと頷きながら、また一口果物をかじった。翼がばたばたと動いているところを見るに、ヘスティアの口に合う果物なのだろう。


 するとニーナや楓、菖蒲が、竜郎と同じく先ほど食べたばかりだというのに欲しそうな目で彼女を見つめる。



「ん? ニーナちゃんやチビたちも欲しいの?」

「ちょーだい!」「「あうあう!」」

「ん。どうぞ」



 ヘスティアがニーナたちに果物を渡していく。

 ニーナはそれに礼を言い、楓と菖蒲もニーナの真似をしてそれらしき言葉を発すると、がぶりとかじりついた。



「あまっ!?」「「あうっ!?」」

「ん。最高に甘くて美味しい」



 口に含めば強烈な甘さが口に広がり、後から柑橘系の酸っぱさが追いかけてくる。

 ニーナと楓、菖蒲は最初の甘さに驚きながらも、二口三口と食べていき、あっという間に平らげてしまった。


 そしてヘスティアにもっとちょうだいとせがみ、もう一つもらってまた食べはじめる。

 愛衣もお腹は空いていないのだが、美味しそうに食べるのでその輪に加わり果物を受け取ると、頬を緩ませその果物を食した。



「それは酸っぱい果物をどこまで甘くできるか実験してみるために作ったんだよ」

「それで試食のためにヘスティアを呼んだと」

「甘いものが大好きなヘスティアちゃんでも気に入ってくれるなら合格かなって、私が呼んだの」

「結果は大成功みたいですね」



 ヘスティアはその果物が気に入ったのか、箱でもらったようだ。



「これ最初は甘すぎるかと思うけど、あとから酸味がきていい感じになるんだよー。たつろーも食べてみてよ」

「そんなに言うのなら一つもらおうかな」



 竜郎も一つヘスティアから果物を受け取ると、それにがぶりと食らいつく。

 最初の甘さに竜郎もびっくりするが、愛衣の言った通りその後味が混ざるといい塩梅の味になってくれる。



「ん。ずっと甘くてもいいのに……」

「はは……。それだと普通の人にはくどすぎるかな」



 普通の人間なら糖分過多で死んでいる量を平気で平らげるヘスティアからすると、最初の甘さをそのまま保ってほしいようだ。

 正和は苦笑いするしかない。

 むしろこれから更に改良して、最初から甘さと酸味を混ぜた果物を作ろうとしていたのだ。

 ヘスティアの望む果物も作れないことはないだろうが、今は一般的に美味しいもの優先なので、マイナーな意見はひとまず後回しである。


 ヘスティアは少し残念そうにしながらも、いずれは作ってくれるというので我慢することにした。

 そして無聊を慰めるかの如く、美味しそうに食べる楓や菖蒲の頭を撫でた。


 純粋な眷属としては末っ子だった彼女にとっては、この子たちは妹分。

 少なからず可愛いと思っているようだ。

 そして楓と菖蒲も、頬を果物で膨らませながらも、撫でられて嬉しそうに笑っていた。



「そうか。ヘスティアは楓と菖蒲と同じく人竜種だからか、他のメンバーよりも懐いていたんだっけか」

「今回のスタメンになれそうな人材発見だね!」

「ん?」



 いつも一緒にいたカルディナたち魔力体生物組。

 カルディナは天照と月読と共に領地内の海域調査。

 ジャンヌは象竜──ファン太のお目付け役として領地内の航空パトロール。

 奈々はリアと一緒に物作り。

 アテナはファン太以外の新米竜たちの訓練を蒼太と一緒にやっている。


 このように彼女たちも、今はそれぞれやることがあるので今回は別行動の予定。

 これまでと違い強敵と戦いに行くわけでもない、まったり旅行のつもりなので、それでも大丈夫だろうとの判断だ。


 となると他に手の空いている者はとなった時、特にこれといったことを任されておらず、楓と菖蒲の懐き度も高めのヘスティアは優良物件といえよう。



「一緒にチキーモを確保しにいこ! ヘスティアちゃん!」

「ん? 別にいいよ、アイちゃん」

「助かるよ、ヘスティア。今度また甘いものをあげるからな」

「ん! がんばる!」



 まあ行ってもいいかなぁ程度のやる気から、甘いものを竜郎に提示されてやる気マックスに早変わり。

 現金なやつめと竜郎を含め愛衣やその両親たちからも、思わず笑みがこぼれたのであった。

次回、第27話は2月22日(金)更新です。

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