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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十四章 町作り始動編
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第267話 合同会議

 竜郎たちが最低限の準備をしてから数日が経った。

 その間にリアが作ってくれた動力や駆動装置を取り付け、遊園地の方もなんとか最低限の形を取り繕うことはできた。

 ただ遊園地はデザイン面がスカスカで、いかにもな夢の世界といった雰囲気は皆無なので、その辺りが今後の課題となってくるだろう。


 そんなこんなで最低限の準備はできたので、リオンたちに相談もかねて報告しに行くことにした。

 昨日のうちに訪ねていいか問い合わせ時間も決めているので、庁舎にいくとスムーズに広い会議室に通された。


 そこにはリオンにルイーズ、その補佐としてついてきた3人の貴族たち。

 さらに今回はハウルや宰相のファードルハ、近衛のレスに加えて騎士団長である魚人のヨーギまで来ていた。

 それに加えて彼らの使用人たちまで控えているので、それだけかなりの人数だ。


 だがさらに冒険者ギルドの長になる予定の女性エルフ──エディット。商会ギルドの長となる予定の人種の男性──マックス。その二人の秘書が一人ずつ。

 と外部機関の代表者たちも席についている。


 前に少し話をしに来たときは少人数でいかにも内輪の話と言った様子だったのだが、今回は本格的な会議になっていた。


 ちなみにこちら側の人員は竜郎に愛衣、楓と菖蒲。加えて奈々とリアにウリエル、ニーナがきている。

 ニーナが来たのは今日は竜郎たちと一緒にいたい気分だったからというだけなのであまり意味はないが、ちびっ子たちの相手や知恵ある竜が仲間内にいたほうが、魔物園に竜がいても安心だと思ってくれるのではと竜郎は考えていたりもする。


 完全な大人の外見をしているのはウリエルだけなので、アーサーも連れてきたらよかったかと竜郎が考えていると、町の運営責任者であるリオンが司会進行を請け負って会議がはじまった。



「じゃあ人も揃ったところで、今日の本題に入っていこうか。

 タツロウ、今回の議題について改めて説明してもらってもいいかな?」

「ああ、分かった」



 竜郎としてはこういう色々な人がいる場ではリオン相手でも敬語くらい使うべきでは? とも思っていたのだが、事前に今後はもう公の場であってもリオンやルイーズにその必要はなく、フレンドリーに接してくれと言われているので遠慮なくそうすることにしている。


 だがこれはなにも親切心だけではなく、天魔の国でカサピスティでいえば貴族相当の地位──聖人認定されてしまったことで、こちらはもっと親密なのだぞというアピールを色々な方面に向かってしておきたいという打算もあった。



「まず初めに──」



 遊園地の概要、魔物園の概要を、昨日ウリエルとミネルヴァがまとめてくれたカンペを愛衣に渡してもらいながら説明していく。

 写真の類があったほうが視覚的にも分かりやすかっただろうし、ちゃんと資料用に各視点のものを数百枚単位でデータを持っているのだが、今回はあえて用意していない。

 なぜなら今日は見学会も予定に入っているから。ここで中途半端に見せてしまっては、せっかくのインパクトが減少してしまう。


 やはり言葉や文章の資料だけでは想像し辛いようで、事前に聞いていたリオンたち同様、皆も何となくやりたいことは分かるような気がする……といった程度の認識の中に納まっていた。

 だがこれも狙い通りである。実際に見たときにより驚いてもらったほうが、作った竜郎たちも嬉しいのだから。



「質問よろしいでしょうか?」

「はいどうぞ」

「まずこの──」



 一通り説明を終えた後は、質疑応答の時間に入っていく。

 主に安全性や騒音、魔物園の臭いなど、具体的なことが分からなくても、ここだけは押さえておかなければならないと言った要点を的確に質問してくる。

 それに対して竜郎や技術主任扱いのリアにその補佐の奈々、町の件において秘書のようなことをしてくれているウリエルが答えていった。


 ある程度資料に書かれていること、口頭で説明したことが本当ならばという意味で納得が得られたところで、現物を観にいく──その前に、せっかく大勢の人が集まっているならと竜郎は遊園地や魔物園、またそれらを繋ぐ地下鉄などのデザイン関係をどうしようと思っているかも話してみることにした。



「ヘルダムド国のホルムズの芸術家たちは確かに粒ぞろいではあるからね。

 タツロウたちが支援している優秀な芸術家の卵たちや、実際に活躍中の本物の芸術家たちに、デザイン案を出してもらうというのは私も悪くないと思う。けど──」

「けどなんだ? リオン」

「どうせなら、我が国の芸術家たちにもやらせてほしいところではあるね。

 かの職人の町、芸術の町とまで呼ばれるホルムズの芸術家たちにも負けない感性や才能を持った者たちは我が国にも大勢いるんだから」



 リオンのその言葉に王であるハウルを含め、カサピスティ側の全員が大きく頷いていた。

 もちろんそこには、うちの国だって負けてはないぞという自負もある。

 けれどその言葉の大部分が意味するところは、他国の芸術家だけではなく自国の芸術家たちにも、世界的に有名になるかもしれない施設のデザインを担当したという箔を付けたい──という思惑が強いだろう。


 なにせ竜郎たちが関わっている肝いりの案件だ。下手をすればその芸術家は、その件で歴史に名を刻むことだってないと言い切れない。

 そしてその芸術家が暮らす場所、生まれた育った場所が自分たちの治めるカサピスティ王国となれば、それは王族や貴族たちとしても誇らしいことなのだから。

 ましてやそれが自分のお抱えだった日には……、鼻が天狗になるほど伸びてもおかしくない。



「もちろん、この土地の領主はタツロウたちなんだ。

 どうしても自分たちが選んだ、支援している者を──というのなら反対しないよ。

 けどより良い物をと思うのなら、より広い視野を持ってみるのもいいんじゃないかな」

「なるほどな……。今回の魔物園や遊園地については、俺たちも妥協はしたくない。

 リオンたちがこれぞと思う人たちがいるのなら、是非歓迎したいところだ」



 竜郎もリオンたちの思惑に気が付いてはいるが、別にカサピスティ側の芸術家たちが、より素晴らしい案を出してくれるというのなら問題はない。

 たとえそれで支援している卵たちが弾かれたとしても、冷たいかもしれないがそれは実力の世界だからと諦めてもらうしかない。



「ねぇ、たつろー。それならやっぱりコンペを開いて、色んな案をかき集めていきたくない?

 誰のデザインかも伏せちゃえば不公平でもないし、先入観もなくなるよね。

 それなら本当の実力だけで、芸術家の卵さんたちもプロたちに挑めるわけだし」

「えっと、アイちゃん。そのこんぺ?っていうのはなに?」

「コンペっていうのはね──」



 愛衣とも親しいルイーズがコンペについて聞いてきたので、もともとそうするのもありと思っていた競争をさせてよりいいものを──という案を出してみた。

 そうしたところ反応は上々。竜郎たち側もカサピスティ側もズルは一切なしで、本当に選ぶ側は誰の案かは何も知らない状態というルールは順守するのならどちらにとっても真っ向勝負、どんな結果でもそのときは受け入れられる。


 ──と、そこでコンペの話が出てから秘書と何やら相談していた商会ギルドサイドの代表──マックスが手をあげた。



「そういうことなら、我々商会ギルド側からも参加者を出させてもらうことはできないでしょうか?」

「商会ギルドもですか?」

「ええ、商会ギルドも世界各国の優秀な芸術家や職人たちを抱えておりますよ」



 まさに商人といった見事なまでの営業スマイルで、マックスは自分たち側の人間を売り込んできた。

 彼らからしても、自分たちのお抱えが名声をえれば、そこに付随する利益を得ることだってできるのだから当然と言えば当然だろう。

 リオンたち側からしたら自分たちの得られるパイが減るかもしれないと、少しばかり面白くはなかったようだが、そこはちゃんと難癖をつけられないよう釘を刺されることになる。



「タツロウさんの『妥協したくない』という言葉。これには私も感銘を受けました。ですので我々も協力したいのです。

 これもリオン殿下が仰っていた、『良い物をと思うのなら、より広い視野を──』ということになりましょう。ですよね? 殿下」

「あ、ああ……、そう、だね…………」



 もっと言い回しを考えておけばよかったと苦い顔をするリオンを見て、ハウルは「迂闊な言質をとられおって」と我が子を苦笑しながら見守った。


 一方竜郎はと言えばなんだか変なところで煙が上がってるなぁくらいの気持ちで、両者のやり取りには関わらないようあえてスルーした。



「そうなってくるとかなり大がかりなことになるし、人数はある程度制限しておいた方が良さそうだな」

「無制限にデザイン案を提出されたところで、見る側も困りますからね」



 ウリエルが竜郎の意見に賛同し、皆もそれはそうだと頷いた。

 このあたりの細かい規定については、改めて今できている見本を実際に見てから決めようということで落ち着いた。



「とはいえ、こっちはまだホルムズの組合に話を通してないから、最悪リオンたち側と商会ギルド側から出たデザインだけになる可能性もあるけどな」

「はは、それは残念だね」「それは残念ですな」



 リオンもマックスも、そうはならないと思いつつも、そうなればいいなという気持ちを胸の奥にしまい込んだ。




 さて話しておきたかったことも無事に終わったところで、いよいよ今回のメインイベント、園内の見学イベントの始まりだ。

 参加者はこの場にいる全員。王様も自ら視察をする気満々で、その目を子供のように輝かせていた。

 長い年月を生きてきた自分でも初めて見るであろう光景に、期待せずにはいられないのだろう。



「じゃあ仮置きだけど地下鉄を設置してあるから、それに乗っていこう。

 ちゃんと安全確認もして、試運転もしたからそこは保証するよ」

「なら安心だ」



 部屋にいた皆を引き連れ、庁舎を出て地下へと続く階段を下りて地下鉄の駅までゆったりと歩いていく。



『なんだかこれだけ引き連れてると、ツアーコンダクターさんになった気分』

『俺はなんだか遠足の引率をしてる気分だけどな』

『ふふっ、それは言えてるかも』



 少しの不安を抱えながらも大きな期待。これからどんなところへ行くのかという未知への冒険心。

 そんな大人になって久しく味わう感情に、後ろの大人たちはすっかり浮足立っていた。



「これがその地下鉄か。どんな感じに動くのか楽しみだよ」

「町の建設の資材や物資の運搬用にも、そろそろ使えるようにって話は出てるから、もう少ししたら何台か実際に稼働させられると思う」

「それは凄く助かるよ。これだけ大きいのだし、一度に大勢の人や物を運べそうだ」



 既に線路への落下防止の柵も設置済みで、地下鉄が停車中でなければどこも開かず、関係者以外は線路に降りられないような作りにしてあった。

 柵も見た目は普通の鉄製に見えるが、しっかりと竜水晶でできているので今後腐食も破壊も心配ない。職員ならちゃんと緊急時に手動でも開けられるような仕組みにもしておいたので、壊せないと困るという状況もなかなか起きないだろう。


 さっそく皆が地下鉄列車に乗り込み座席に着いたのを確認すると、リアが運転席に行って発進レバーをガチャンと降ろす。

 車体を揺らすことなく緩やかに動きはじめ、あとはレールに乗って次の駅──町の中央に着けば自動で止まる。


 揺れも少なくかなりの速度で流れていくトンネルの壁を窓越しに眺めていると、あっという間に中央駅に辿り着く。

 放っておけばグルグルと中央と庁舎への駅を回り続けるので、ここでこの列車は止めて乗り換えだ。


 町のど真ん中の地下にある最大の中央地下駅から、さらに下に降りたところに遊園地と魔物園行きの二つの地下鉄列車がすでに用意されていた。



「この列車の形もどうせなら遊園地をイメージしたデザイン、魔物園をイメージしたデザインって感じで、例えば魔物園ならドラゴンの形をした車両~とかそんな感じでできたらなと思ってる」

「そのデザインもコンペとやらで決めるのかい?」

「そうできたらいいかもしれないな」



 竜郎とリオンのこの会話もしっかりと、マックスは記憶して頼めそうな芸術家の候補を既に頭の中で何人か思い浮かべた。



「それでどちらに先に行くんだい?」

「まずは遊園地だな」



 魔物園と遊園地。今どちらがインパクトがあるかと言われれば、やはり魔物園だろう。

 魔物園でヴィーヴルやバハムートを見た後に、雰囲気作りの装飾もスカスカな遊園地に行っても気持ちが冷めてしまうかもしれない。

 そんな思惑もあって、竜郎たちはリオンたちをまず遊園地行きの列車に乗せる。


 まだ装飾もされていない真新しいシンプルな列車に一同を乗せ、竜郎たちは異世界人にまずは遊園地を紹介すべく、リアが発進レバーを降ろすのであった。

次も木曜更新予定です。

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