第258話 交通網
竜郎たちが考えていたのは町の移動手段。
今回確保した土地はかなり広く、ちゃんと発展させれば大都市と呼ばれてもいいほどの規模になる。
しかし広いほどいろいろな施設を建てることもできるが、その反面移動が不便になってくることもある。
そこで何かいい考えがないかと竜郎たちは思考を巡らせた。
この世界のいくつかの大都市にある移動床や、自分たちの持つ領地内に列車を引こうなんて計画もあるので、町の中に線路を引いてしまうのはどうか? なんていう意見も出た。
けれどどれも町の面積を大幅に取ることになるので、既にいろいろとリオンたちが区画の計画を立てている今、言うのは忍びない。
そこで、できるだけ最低限の場所を確保すれば移動問題を解決できる手段を考えついた。
「地下鉄を作りたいと思ってるんだけど、どうだろう」
「「「「「チカテツ?」」」」」
「地下鉄って言うのはですね──」
最低限の地上の入り口さえ確保しておけば、地下をくりぬいて各方面にアクセスできる線路を敷いて素早く大勢の人と物を運ぶことができる。
交通の利便性によって、今後の町の発展具合にも大きく影響していくのは間違いない。
そこで竜郎は〝地下鉄〟が何なのかも理解していなさそうなリオンやハウルにその他の者らに向かって、それがどういうものなのか、利便性なども含めてプレゼンしていった。
幸いヘルダムド国が列車というものを開発し、線路を引こうとしているという情報はカサピスティ側も掴んでいたため概要の説明は意外とすんなりと通った。
ようは地表に通すか、地下に通すかの違いだけなのだ。
とはいえリアの列車とヘルダムド国の列車では、技術力にかなり差があるのだが。
「地下トンネルや鉄道に関してはこちらに任せてくれれば、設置しておきます。
外壁となっているものと同じ素材で補強するので、外にいる強力な魔物が突撃して来ても問題ない位強固なので、崩落の危険もないと考えてもらって大丈夫です。
安全性については利用者側にも線路に乗らない、飛び出さないなんていう当たり前の道徳意識は持ってもらう必要がありますし、走る列車や線路のメンテナンスも定期的にする必要もありますが、エネルギーはダンジョンから得られる魔石でいくらでも賄えるでしょうし、設置する利点は大いにあるかと」
「地下を素早く走る列車ですか……。確かに地下にそれ専用の通路が確保できるなら、人の営みも気にせず走らせられますからね。
商業ギルド側としては、それが本当に実現可能なら、町の隅々まで物資を効率的に行き渡らせることもできますし是非やってもらいたいところです」
「冒険者ギルド側としても、町の方々に散った支部ともやり取りしやすくなるでしょうし、こちらが抱いていた業務上の問題点もいくつか解決できそうで助かりますね」
商業と冒険者のギルドの代表者たちは真っ先に支持を表明し、その他も実物を見たことがないからイメージしにくそうにはしていたが、その利便性については好評な様子。
そんな中で運営にかかわる貴族の1人として紹介された中年の女性が手を挙げた。
「この場で意見、よろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう」
「ありがとうございます。その列車には我々人や物が入ることになるとのことですが、それはある程度身分や職業で分けることは可能でしょうか?
ある程度分けておかなければ、無用な諍いが起こることもありそうですし」
「そうだな。一般人と冒険者であっても、同じ部屋にいたら問題が起きるかもしれない。
例えばダンジョン帰りで汚れた冒険者と、ただ買い物をするために乗っている一般人が居合わせれば、後者が白い目を向けてしまうこともあるだろうしな」
ハウルが女性貴族の1人の意見に頷き、自分の意見も付け足した。
ダンジョンに籠ってしまえば、何日も風呂にも入らず水も浴びずに行動することになる冒険者も珍しくない。
冒険者同士ならそのことに理解を示すこともできるだろうが、普通の暮らしをしている人からすれば不衛生極まりない人が同じ空間にいるという事実だけが印象につく。
そこから嫌な視線を向けられてしまえば、短気な冒険者なら怒るだろうし、そうでなくてもいい気はしないだろう。
それが積み重なって冒険者とその他の住民同士で軋轢が生じてしまったら、為政者としてはあまり嬉しくないことで頭を悩ませるはめになりかねない。
つまり貴族だけ隔離して優遇しろというわけではなく、ある程度もめないような人同士が同じ車両に入れるように区分わけは欲しいということだ。
これには竜郎も理解を示す。
「車両はいくつか用意できるので、車両ごとに色を変えて分かりやすくして、ここにはこういう人が乗るという風にするのもいいかもしれませんね。
他にも詳しい決まりはリオンたちが決めてくれればいいですが、上乗せ料金を払うことでいい席につけるようにしたり、安くてもいいというのなら椅子すらない箱に乗ってもらうなんて風に、同じ職業でも支払える金額で質を選ばせ自主的に自分に合った所を──なんてこともできそうです」
「それはいいかもしれないね。ルイーズ、その辺りも加味して草案をまとめておいてくれ」
「分かりました、お兄様」
竜郎はふと新幹線でいうグリーン車を思い浮かべて適当に言っただけだったのだが、思いのほかリオンたちの関心を引いたようで、ルイーズが色々と頭の中で難しいことを考えながら草案を書きだしていた。
無事、地下鉄を作るという案は全員納得したところで、今度は駅について話題は移っていく。
その最たる話題は交通結節点、動線が交わる中心地をどこにするのかだった。
一番重要な駅を町の運営の中枢となる庁舎側にするのか、町の真ん中にあるギルド本部がある側にするのか、はたまた入り口側にするのか。
様々な意見が飛び交ったが、結局町のど真ん中にあるギルド本部側が一番合理的だろうという判断で決着がついた。
「もうこんな時間か。今日はこれくらいにしておいた方がいいかもしれんな」
「ですね、父様」
その頃になると日もだいぶ傾きはじめ、大人しくしてくれていた楓と菖蒲も落ち着きがなくなってきた。
重要なことは竜郎たちに話せたうえに、顔合わせも済ませられた。今日はこれくらいだろうと、ハウル王やリオンたちとの今日の会合はお開きとなった。
翌日。竜郎はさっそく昨日言っていた地下鉄のレールを敷くためのトンネル掘りに取り掛かる。
昨日のうちにリオンにも許可を取り、さっそく手を付けていくことを言っておいたので問題ない。
今回、竜郎についてきているメンバーは愛衣、楓、菖蒲。それに加えてリアと奈々、杖の天照と竜郎のコートに融合した月読が一緒だ。
竜郎たち専用通路の裏門から堂々と入り、町の中心部である巨大樹に擬態したクモの魔物『ギャー子』がいる地点まで一気にやってきた。
「兄さんに見せてもらった資料によると、あの辺りに冒険者と商会のギルド本部が設立されるようですね。
なので駅のハブ地点となる中心部は、この下辺りが妥当だと思います」
「ならここに穴をあけていくか。天照、月読、一緒に頼む」
「「──!」」
竜郎は天照と月読を取り込み《分霊神器:アマテラス》と《分霊神器:ツクヨミ》を発動させると、竜角が2本頭から生え、竜水晶の鎧が手足と頭以外に装着された。
それから竜郎は土魔法で大地を操作し、地面に大き目の穴をあけていく。
「入り口とかはリオンたちに任せればいいから、ここはただの階段でいいか」
「ここが一番、人の通りが激しくなるでしょうし、幅はもっと広く作っておいた方がいい気がしますの」
「じゃあ、もっと穴を広げて──っと」
「あと物を運ぶんならそれ用の通路とかあってもいいかもね」
「それもそうか」
奈々や愛衣の意見も聞き入れながら穴の広さをグイっと広げて、竜水晶で穴をコーティングして補強しながら地盤を固め、下へと続く角度がきつすぎない階段や物資運搬用の下り坂を伸ばしていく。
その階段をさっそく使って、竜郎たちは地下へと潜っていった。
「深さはこれくらいでいいか? リア」
「はい。大丈夫だと思います。ではここに広い空間を設けていきましょう」
地下数十メートルほどのところに、だだっ広い空間を作っていく。
ここはリオンたちが好きにいじれるように、床面の部分はただ土を硬くするだけにとどめておく。
逆に天井や横の部分は下手に触らせると危険なので、闇魔法も使って遮音性にも優れた強固な竜水晶で覆っておいた。
そこからさらに数メートル下げた場所に、線路を敷くためのトンネルを竜水晶でコーティングしながら通していく。
イメージとしては今いるここを中心に、細長い輪が10個あるダンジョンの入り口方面に10本。表門方面に1本、庁舎のある方角の裏門の方面が1本。計12本のトンネルを一気に貫通させた。
その輪にそれぞれ列車を乗せてクルクルと循環させ、人と物を輸送する手はずとなっている。
今は換気は竜郎が風魔法で行っているが、これはリオンたちが後で空気を循環させる魔道具を設置してもらえばいいのでタッチしない。
リオンたちでできることはしてもらったほうが、何かあった時もいちいち竜郎たちに助けを求めなくても自分たちで速やかに解決できるからだ。
「これくらいの広さで列車を通せるか?」
「はい、これだけ広ければ十分でしょう。次に私が用意したレールを兄さんの《無限アイテムフィールド》に送っておいたので、この図面通りに敷いてください」
「分かった」
今も天照や月読と融合しているので、図面を理解するのも非常に速い。
竜念動も使ってレールとなる各パーツを間違えないように組み合わせながら、トンネルの床面の竜水晶に固定しながら一気に敷いていく。
その光景を《万象解識眼》で観て確認しながら、口を開いた。
「今回ここで運用する列車はある程度技術力を抑えたものになるので、どうしてもレールも複雑な仕様になってしまうんですよね」
「でもそうしないと、リオンくんたちじゃメンテナンスすらできない仕様になっちゃうんでしょ? しょうがないよ」
「ですね、姉さん」
レールの形は日本にあるものと大差はないが、そこに使われている技術はこちら仕様。
その仕様上パーツの組み合わせを間違えてしまうと、うまく列車が動かなくなってしまうのだ。
今持つリアの技術ならもっと設置は楽な物を作れるのだが、やはり公共の機関ともなれば、ある程度の対処が町側でもできるようにしておかなければ問題だろう。
「よし、上手くできたはずだ。どうだ?」
「はい。それぞれちゃんと繋がっていますし問題ありません」
一歩も動かず竜念動でレールを敷き終わった竜郎が確認を求めると、リアからお墨付きをもらうことができた。
「あとは列車を置いて稼働できるようにするだけだね。そっちはまだ開発中なんだっけ?」
「そうですの。今のリアでは、ダウングレードしたものを作る方が手間になってしまっていますの」
「けどもう設計はできてますし、あとは組み立てるだけですから直ぐに量産体制に移れるはずです。
こういう初心に帰るような設計もまた、新鮮で楽しかったです」
「リアが無理してないなら、とりあえずここで稼働させる分はパパっと頼めるか?」
「はい。帰ったらパパっと作っておきます」
製作はリアの趣味でもあるので、忙しそうに見えても彼女の瞳はランランと輝き元気そうだった。
本人のやる気に水を差すのもよくないと、竜郎はそれからダンジョンの入り口付近、町の端、区画の切り替わり地点など、確実に駅が必要となる空間と上への階段と通路を通して、たった一日で地下鉄を通す最低限の下準備を終わらせてしまったのであった。
前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。
それと新作の方のリンクが張れるようだったので、ページ下の部分に張ってみました。
ただリンクの装飾はもっとお洒落な感じにしたかったのですが、私のセンスと能力ではクソダサ装飾しかできませんでした……(悲