表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十三章 竜の秘宝編
254/451

第253話 真竜の秘宝

 エーゲリアが奥へと行くのを見送った竜郎は、さっそくレーラに実験の結果を確認した。



「結果から言ってしまうと、全部消えてしまっていたわ」

「……そうなるか」



 レーラに託した実験とは──

 イドラの宝箱内のモノを外に持ち出せるのか。

 イドラの宝箱内のモノで生成したものは、外に持ち出せるのか。

 宝箱内のモノ、または生成したモノをコピーしたモノは持ち出せるのか。

 ──である。


 竜郎はレーラが一度外へ出される前に、それが確認できる品々を彼女の《アイテムボックス》へと送っていた。

 しかし残念ながらイドラの宝箱内のモノ、イドラの宝箱内由来のモノは、一切外に持ち出すことはできないと分かってしまった。


 イフィゲニアの映像で『ここでなら』イドラは真竜にも傷をつけられるほど強いといっていたことが引っかかっていたからこその実験だったが、やっておいてよかったと竜郎は安堵する。

 これで万全な対策をもって、外に出ることができるからだ。



「ってことはさ、食材探し的には振出しに戻っちゃったってこと?」

「いや、もうゴールは見えたと言っていい。まずこれを見てくれ」



 竜郎は《強化改造牧場・改》から、一体の魔物を召喚した。

 その魔物はキノコのようなフォルムで、傘をふよんふよん動かし空を飛ぶ。

 柄の部分はスライムのように自由に形を変えることができ、状況によって形状を選んで生きている。

 水をかくオールのような形にして空を飛ぶときの推進力にしたり、長く伸ばして木に巻き付いて休憩したり──なんてこともできるようだ。


 これがあのイドラの絵では空飛ぶブニョブニョしたキノコのような謎の魔物を素材にして作られた魔卵から孵化させた魔物である。


「これが探していた『スペルツ』で間違いないみたいだ。

 俺の《魔物大辞典》でも確認ができたから間違いない」

「そやけどそれも、ここから出たら消えてまうんやろう? 主様」



 千子の言う通り、孵化させた魔物じたいは確かめていないが、レーラに持たせていた魔卵は消えていた。

 イドラの宝箱由来の物体や生物は持ち出し不可能と思ったほうがいい。



「ああ、けど持ち出せるものだってある。例えばここから出されたスアポポさんたちの一族は、記憶はなくしてもここで培った肉体の経験やスキルまでは失われていない。

 だから帰ったときに強くなって戻ることができたんだと思う。

 それでいくと俺たちの場合は記憶まで保持してここから出ることもできる。

 ならあとは《完全探索マップ》で普通に外で生きてるスペルツを見つけてしまえばそれで済むんだよ」

「絶滅はしていないと分かっているのだから、マスターが存在をちゃんと想像できるようになればそのような手も取れるのか!

 ならばここで手に入れられずとも問題はないな! はっはっは!」

「そういうことだな。ゴールは決められなかったが、そこまで一、二歩ってとこまでは接近できたと思えば今回ここまで来たかいがあったってもんだよ」



 《完全探索マップ》を最大限使えば、細かい位置情報を得ることもできる。

 外に出てしまえば今の竜郎たちなら数時間もあれば見つけて帰ることも可能だろう。


 もう1つ、イドラに持ち出せるようにできないか頼むという方法もある。

 イドラが満足する成長を見せた者には粉を付けて送り返すことからも、ここの物を外に出すことができると考えられた。

 なのでその特殊な方法でもって素材を外に持ち出せれば、問題はないのだ。

 けれどそうなるとまたイドラに借りをつくることになる。

 いろいろと今後のことも見据えて交渉するためにも貸しを積み上げておきたいので、そちらは保留にした。


 こうしてなんとかスペルツ捕獲のめどがたち、あとはエーゲリアが戻るの待つばかりと大人しく待機していると、それほど時を置かずして入っていった場所から帰ってきた。

 レーラはずっと気になっていたのか、期待の眼差しを彼女に向けた。



「おかえり、お姉ちゃん」

「ただいま、ニーナちゃん」

「エーゲリア、それでどうだったの? なにか天地をひっくり返すようなビックリすることはあった?」



 ニーナを抱擁して甘えさせだしたエーゲリアに、焦れたようにレーラはぐいぐいと食いついてく。

 エーゲリアは「はぁ」とため息を一つ吐くと、ニーナを離した。



「そうね。天地がひっくり返るほどではないけれど、かなり驚きはしたわ。

 まさかこんな秘密をお母さまが抱えていたなんて──ってね」

「それはどうしても私たちには言えない何か?」

「そうねぇ……。帝国民には言い辛いけれど、イシュタルやあなたたちには別にいいのかもしれないわね。

 せっかくここまで来たのだし、私がさっきまでいた場所に入ってみる?」

「私たちも入っていいの? エーゲリアさん」

「ええ、中に入ったときにここの管理者権限も譲られたから、私が許可したらイドラもいいと言ってくれるはずよ。

 ねえ、イドラ。この子たちをあなたのマスターに会わせたいと思うのだけれど、いいかしら?」



 いつのまにかいなくなり、どこにいるとも知れないイドラに向かってエーゲリアが声をかけると「あなたがそうしたいなら、そうしてもいいよ」と声だけがその場に降ってきた。

 この場をずっと守ってきたイドラもいいというのなら、竜郎たちにも断る理由はない。気にならないと言うと、嘘になってしまうから。



「じゃあ、決まりね。さっそく行ってみましょう!」

「レーラ、私より前に出てはだめよ。下手をしたら出てこられなくなるから」

「ええ、分かっているわ」



 入り口はさっきから開きっぱなしだったので、そこへエーゲリア先導のもと後ろに続くようにして入っていった。

 しばらく黒いトンネルのような場所を真っすぐ歩き、だんだんとその道がグルグル螺旋状に地下へと向かって伸びていく。

 周囲は真っ黒で明かりは何もないのだが、不思議と互いがはっきりできるくらい明るさは保たれていた。


 しばらく黙って歩いていくと、やがて螺旋の道の壁が大きな白い棚へと変化していき、なんだかよく分からないものがそこにトロフィーでも飾るように色々と置かれていた。

 楓と菖蒲が勝手に触ろうとするので、竜郎と愛衣で抱きかかえてブロックする。



「ねぇ、お姉ちゃん。ここにあるのは何なの?」

「あぁ……それはね。お母さまのコレクションというか、幼い頃の私の軌跡というか……」

「写真じゃないけど、アルバムみたいな感じなのかな?」

「それをいうなら自分の子供が小さなころに着ていた服を記念に取っておく、みたいなものじゃないか?」

「まぁ、そうね。言ってしまえばそんな感じだから……。

 ほら、あれなんか私が幼竜のとき、初めてブレスをはいたときに壊しちゃった建物の残骸。

 あっちは私の成長記録でもある足跡ね。幼い頃は定期的に粘土に足を付けさせられていたけれど、まさかこんな風に飾るためとは今の今まで思ってもいなかったわ」



 壁に飾られているのは、エーゲリアの育成日記感覚で集められたイフィゲニア秘蔵の我が子由来のアイテムの数々だった。

 言われなければ何かも分からないようなモノも多かったが、その数はかなり多くイフィゲニアがどれだけ子煩悩だったかを表しているようであった。

 先ほどから説明の歯切れが悪いのは、それを本人も感じ取って気恥ずかしかったのかもしれない。



「エーゲリアはんは、イシュタルはんのモノを、こうやって取っといたりはしてへんの?」

「え!? えぇ……と、そうね。どうだったかしら、ちょっと忘れちゃったわね。おほほほ」



 どうやらエーゲリアも似たようなことをしているようだ。それがどこにあるかまでは分からないが、その態度が如実に語っている。



「しかしイフィゲニア殿も、このようにいろいろと収集していたのだな。

 子は親に似ると言うが、信者というものも崇拝の対象に似るのかもしれませんな! はっはっは!」

「え? エンターくんはいったい何のことを言っているの?」

「あれ? エーゲリアさんは知りませんでしたか?

 天魔の国の竜神教では特殊な塔を丸々1つ使って、イフィゲニアさんやエーゲリアさん、イシュタルに所縁のある物を世界各地から搔き集めたりして、大切にずっと保管しまつってましたよ」

「あそこはそんなこともしていたの? 熱心な人たちねぇ、全く知らなかったわ。

 基本的には私たちや帝国側から、あそこに関わることはなかったし」



 寝耳に水と言わんばかりに、先を歩くエーゲリアが竜郎の方へと思わず振り向いてそう言った。

 そして顎に手を当て、何かを考えるようなそぶりをしてからすぐに口を開いた。



「けどなんだか面白そうだし、今度行って私も見せてもらおうかしら」

「え!?」



 愛衣が一番大きな声を出したが、ニーナと楓と菖蒲以外の面々は思わず驚いて目を丸くした。



「え? なにか不味いこと言ったかしら?」

「いやぁ、不味くはない……のかな? ねぇ、たつろー」

「あ、ああ、まぁ、むしろ喜んでくれるだろうし、それはそれでいいのかも?」

「そう。喜ぶのなら別にいいわよね。久しぶりにお母さまの顔を見てしまったから、なんだか懐かしくなっちゃったのよ。

 お母さまに所縁のあるモノがあるなら是非見たいわ」



 イシュタルの直筆サイン1つであれだけ騒いでいた人たちの前に、彼らにとっては神の子とも言えるエーゲリアが現れたらどうなるのか。

 竜郎は少しだけ好奇心が湧く一方、恐くも思えたが、きっと彼らにとっても良いことには違いないだろうからと、こちらからこれ以上エーゲリアを止めようとする者は誰もいなかった。

 むしろレーラなどは、それはぜひ見に行かなくてはとすら思っていたくらいだ。


 そんな一幕がありながらも歩みを止めずに下へと螺旋状に降りていくと、何か薄い膜のようなものを通り抜けたような感覚がするのと同時に、強い存在の気配が竜郎たちのもとへと伝わってきた。



「こ、これはっ。これだぞ、マスター。間違いない」

「急にどうしたんだ、エンター」

「私が大いなる御意思とやらの視線かもしれないと言っていたときがあったではないか、マスター。

 この気配は間違いなく、そのときのものだと思う」

「……エーゲリアさん。いったいこの先に何が?」

「もう着くから、すぐに分かるわ」



 竜郎たちの疑問に答えることなく、エーゲリアは先へと進んでいくので大人しくその後に続いていく。

 そしてそれはエーゲリアが言っていた通り、すぐに見つけることができた。



「これはいったい……」



 道を行った最奥の部屋らしきその場所は大きく開けており、上から見れば鍵穴のような形をしていた。

 そしてその最奥の弧を描く壁際には、道中で見てきた棚よりもずっと丁寧に、豪華に作られた祭壇のようなものが設置されていた。

 その祭壇には扉がなく、ソレはここに来たものがすぐに視界に収められるようになっている。



「なにかの金属? ……にしては強い生き物のような気配がするわ」



 祭壇の上にあるソレは、エーゲリアの頭ほどもある巨大な金属の塊のようなもの。

 形は言葉に言い表しにくく、丸めた粘土を園児が適当にこねた後──と言った感じか。

 色合いや質感はプラチナのようであり、一見ただの物質に見えるのだが、そこからは異様な気配。そうまるで、エーゲリアやイシュタルたちから感じるような、真竜の強い気配が漂っていた。


 それを見つめるエーゲリアは少しだけ悲しそうな顔をしている。



「あそこにあるものはね。私だったかもしれないものなの」

「お姉ちゃんだったかもしれないもの? ……ニーナ分かんないよ、それじゃあ」

「うーん、ごめんなさいね、ニーナちゃん。私としてもどう言えば的確なのか判断が付きかねるものだから。

 そうね、私だったかもしれないもの。

 あるいは私という存在がここに存在し、あそこにある存在もちゃんとした形でこの世に存在していたら、私はあの人のことを〝お姉さま〟──と呼んでいたんでしょうね……」



 竜郎たちはその時点で、なんとなくあの正体が見えてきて、先ほどのエーゲリアの悲し気な表情の意味も理解した。



「そう。簡単に言ってしまえば、お母さまが私の前に生み出そうとして失敗した、真竜の子の遺骸。

 ううん、あそこにあるのはむくろというにも不完全な代物……なのかしらね」



 それは人種で言うのならお腹の中に宿った赤ちゃんが、まだ人としての形をちゃんと作り出す前に流れてしまった細胞の塊。



「だからここは、私の姉にあたる人のお墓……ともいえるのかもしれないわ。

 これが、お母さまが残した真竜の秘宝の正体よ」



 竜郎たちは何といえばいいのか声も出ず、しばらくの間じっと黙ってその塊を見つめ続けたのであった。

木曜更新予定です。


おそらく大丈夫だとは思いますが、二度目のワクチン接種がその付近にあるので、体調次第で少し伸びる可能性もあるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさか真竜の水子だったとは…… 確かに良からぬ連中の手に渡ったり、暴走して世界に仇なしたりしたら拙いモノですな これほどの守りを敷いてるのも、申し送りが無かったのも納得の正体です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ