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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第24話 また会おう

「しかし母上は、なんでまた急にもう一人欲しいと思ったのだ?」

「そのほうが我々にとっても、タツロウくんたちとっても、世界にとってもいいと思ったのよ」

「わたしたちにとっても、いいことがあるの? エーゲリアさん」

「アイちゃんたちにとって明確な利益というわけではないけれど、もし今後竜王種やニーナちゃんの存在が公になっていってしまった場合、タツロウくん側に戦力が集まりすぎて帝国内でも危険視しはじめる竜もでてくると思うの」

「私や母上、それに後ろにいるレーレイファなんかの側近たちは、タツロウたちの人となりを知っているが、そうじゃないものからしたら帝国に大きな打撃を与えうる戦力をもつ組織と認識するだろうからな」



 竜郎たちを身内目線ではなく客観的にみてみれば、突如現れた少数なれど、そこいらの上級竜なら一人で軽く屠れる一騎当千の謎集団。

 確かにこれでは知らない者たちからすれば、さぞや不気味な勢力にみえることだろう。


 さらにこれからもその勢力は拡大していくだろうし、これで危険であると思われない方がおかしい。



「そこで私の娘、イシュタルの妹という新たな真竜の誕生ということになるの」

「つまり、こちらの戦力なんかが霞むくらいに衝撃的で、圧倒的な存在を生みだすことで抑止しようということですね」

「まさにその通りよ」



 竜郎たちがいくら強くなろうとも、真竜が史上初の三体を超えて四体同時に存在する状況。

 そしてその真竜たちが生みだす特別な竜──側近眷属たちが増えることも確定するので、そこまで危険視はされないだろうということのようだ。



「さらにそれを手助けしたのがタツロウたちということは、私の子の件で既に重鎮たちには公になっているから、むしろこちら側に敵意のない、味方勢力だと思わせることもできるか」

「思わせなくたって、私たちはイシュタルちゃんの味方だよ」

「ああ、わかっているよ、アイ。だが他人からしてみたら、そうすることでハッキリと認識させることもできるというものだ」



 だがそれを聞いて竜郎が思う気がかりとしては、イフィゲニア帝国の友好的な勢力と認識されるのは大いに結構。

 しかし、ただの帝国の使いパシリ……とまではいはないが、従属関係にあると認識し、下にみて命令してくるものがでてきてしまうのではないかということ。



「そこはイシュタルが上手くやるわ。もしそれで何とかならないようなら、私も責任を持って対処するから安心して」

「エーゲリアさんが対処するなら安心ですね」

「おい……私もいるのだが……」

「イ、イシュタルもなっ! わかってるよ! はははは……」



 本当かぁ? と訝しげな視線で睨まれてしまったので、竜郎はイシュタルからふいっと目を逸らした。



「まあ、だいたいの方針は理解しました。こちらとしても、イシュタルの帝国の戦力が増すのは問題ないですし、お手伝いさせてもらいますね」

「ええ、お礼もちゃんと渡すから安心してね」



 真面目な顔でこたえながらも、竜郎の頭の中はエーゲリアの鱗素材をどう使おうかでいっぱいだった。

 そのことを見抜かれ、エーゲリアはくすくす笑っていた。




 少しばかり雑談を交えエーゲリアとレーレイファは、目的のものも確かめられたので、イシュタルより先に帰還することとなった。



「では、アルムフェイル様にニーナの件、伝えておくからな」

「はい。ああ、それとまた近いうちにニーナと一緒にお伺いしますと、お伝え願えますか?」

「もちろんだ。あの方もきっと喜ぶだろう」



 別れ際にレーレイファにもう一度確認されたので、竜郎はアルムフェイルへの伝言も頼んでおいた。

 ──と。そこで蒼太が急に竜郎へ話しかけてきた。



「アルジ。アルムフェイル ドノ ニ、アイニイクトキ、オレモ ツイテイッテハ ダメダロウカ?」

「蒼太が? いや、俺は別にかまわないが……レーレイファさん。いかがでしょうか? この子も連れていってもかまいませんか?」

「私の一存では何ともいえないが……ソータといったか。

 お前はなぜ、アルムフェイル様にお会いしたいのだ?

 理由によっては私が話を通しておいてもいい。タツロウの眷属であるお前が、妙なことをするとも思えんからな」

「コンナイイカタハ、シツレイカモシレナイガ、オレハ イチド、キュウセイト ヨバレタ ジンブツヲ、コノ メ デ、シッカリト ミテオキタイノダ」



 そういって蒼太は、エーゲリアに抱きついて別れを惜しむニーナの方をチラリと見つめた。


 彼の愛するニーナが今後どれほど強くなっていくのか、成熟した──というには老いすぎてしまっているが、今いる九星唯一の生き残りを直に感じれば、自分がどこを目指せばいいのかはっきりと分かるのではないか、そう思ったらしい。


 レーレイファはエーゲリアから、ニーナに恋する龍がいることはなんとなく聞いていたことを思い出し、ああこいつがそうなのかと、蒼太の気持ちを確かめるべく、その目をじっと見つめた。

 するとそこには純情な少年のように無垢でありながら、真っすぐに一人の女を思う燃えるような男の力強さを感じる目があった。



「ふっ、まだまだ若いが、いい男じゃないか。気に入った。

 私が直接、アルムフェイル様に頼んでみることにしよう」

「アリガトウ。レーレイファ ドノ」



 蒼太はゆっくりとその大きな頭をレーレイファに下げた。

 レーレイファは気にするなと、女性ながら男前に笑って応えた。


 そんな話をニーナを可愛がりながら聞いていたエーゲリアは、少しだけモヤモヤした気持ちになる。

 可愛い可愛い妹のようなニーナが、誰かにとられてしまったらと考えると寂しい。

 けれどニーナの特異性ではなく、純粋に個人として一途に愛する若者を邪魔するほど子供でも野暮でもない。



「ニーナちゃんはできるだけ、なが~~く、そのままでいてね」

「んん? ニーナはニーナのままだよ? おねーちゃん」

「ああああ、かわいいいいい~~~~」

「ぎゃうー、ちょっとくるしーよー」



 エーゲリアはまだまだ心配なさそうなニーナに安堵しながら、ぎゅ~っとその体を抱きしめ可愛がった。


 ──それからレーレイファと落ち着きを取り戻したエーゲリアは、別れの言葉もそこそこに転移で去っていった。


 そしてその日の夜は、イシュタルが明朝帰ってしまうということで、皆で砂浜に集まり、すっかり慣れ親しんだバーベキュースタイルで飲食を楽しんだ。


 顔合わせも含めているので幼竜たちや、生みだしたばかりの竜達も一緒にだ。

 さっそく周りに喧嘩をうって、ウリエルにお説教をくらい縮こまっている竜がいるが、それはしかたがないのでスルーした。


 主賓のイシュタルはここで生活するのが最後ということで、今日はここにいる色々な人たちと会話を楽しんでいるようだ。



「楓ちゃーん。こっち向いてー」

「あうー?」

「菖蒲ちゃんはこっちだぞー」

「うー?」



 ドルシオン姉妹のドロシー、アーシェは目一杯かまってあげたら満足したのか、今はソルエラ種姉妹のソフィア、アリソンと一緒に遊びながら肉を貪っている最中なので竜郎から離れてくれた。

 だが生みだしてからずっとへばりついて離れない幼児二人を、他の誰かに一時的にでも替わってもらうことはできないか、飲食を楽しみつつ竜郎はいろいろと試してみていた。


 そうして分かったのが、竜郎以外に一番懐いているのが、仁と美波。即ち竜郎の両親だ。

 その次に愛衣で、愛衣の両親──正和、美鈴は他の皆よりは懐いているか? といった感じだ。

 また同じ人竜種であるアーサー、ヘスティアも、愛衣の両親たちと同じくらいには懐いてくれそうだった。


 ちなみに最下位はぶっちぎりでレーラ。

 なぜかルシアンによく泣かれているミネルヴァは、楓と菖蒲は他の皆と変わらないのでちょっと嬉しそうだった。

 レーラはレーラで、ある意味、自分も特別な認識をされているので嬉しそうだったが……。


 それはさておき、今現在は竜郎の両親に抱っこ係を委任できるようあやしてみてもらっている。



「はい、あーん」

「あー──むぐむぐ……」

「ちゃんと食べれて偉いねー」

「むふー」



 仁や美波の声に反応し、指を出せば握ってくれるようになる。

 食べ物をスプーンに乗せてさしだせば、元気よく食べてくれる。

 そして褒めれば嬉しそうに鼻を膨らませて上機嫌。

 だんだんと竜郎の服を掴む力が緩み、竜郎の両親への懐き度が急上昇していく。


 こんなに甘やかして将来大丈夫なんだろうかと少し心配になりながらも、お姫様対応をする両親を見守った。

 そしてついに──竜郎の服から手がはずれ、楓は美波の方へ、菖蒲は仁の方へ移ってくれた。



「おお、かわいいなぁ。竜郎が幼稚園に通っていた頃を思い出す。

 ……ここまで美形ではなかったが」

「やかましい。神様をモデルにして創造された子と容姿を比べるなっての」



 しかし移ってくれたのはいいのだが、竜郎が二メートルも離れようものなら途端にぐずりだしてしまう。

 まだまだ親から離れて行動させるには、時間がかかるのかもしれない。



「タツロウ。カエデたちの様子はどうだ?」

「ああ、イシュタルか。今のところ、これが限界だな」

「ははっ、先は長そうだ」



 ちょっと離れようとすると「そこにいなきゃだめなのー!」とでもいうように抗議の声をあげる楓と菖蒲の姿を見せると、イシュタルは竜郎の横にいる愛衣と一緒におかしそうに笑った。

 まさにその通りなので、竜郎は肩をすくめるしかなかった。



「イシュタルちゃんはイシュタルちゃんで、これから大変そうだよね。

 子供が生まれたら、妹ちゃんまで生まれる予定になっちゃったから、頑張らないといけないんでしょ?」

「そうだな。だが、はじめから国の繁栄のために頑張るつもりだったのだ。

 これからやっていくことは変わらない」

「でもよくよく考えれば、イシュタルの子供が生まれて皇帝位につけるだけの年齢になるまでには、まだまだ時間があるだろうし大丈夫なのかもしれないな」

「時間があると言ってもたかだか数百年だぞ。

 まあ、継げる年齢になったとしても、私が満足のいく結果を出すまで何万年でも皇帝を続ければいいのだが。

 即位して千年程度で交代したところで、どうせ子供たちでは世界力の循環を任せることなどできないだろうからな」

「たしか普通に当時のイシュタルちゃんみたいに過ごしてたら、一人前になるまで一万年くらいかかるんだっけ」

「そうだ。だからこそ、次代の真竜を早めに生みだして、いつでも完全な代替わりができるよう地盤を作っておきたかったわけだしな」



 イシュタルも皇帝をやるのが嫌なわけではない。ただいつでも自由になれる状況を、先に作っておきたいだけなのだ。



「私の子や妹がしっかりしてくれれば、もっと気軽に異世界に旅行しに行けるようになるだろうし、二体も皇族が生まれるというのは、今考えれば存外悪くないのかもしれない」



 生まれる予定の下の子たちが一万歳以上に達すれば、誰か一人いれば世界力循環ができるようになる。

 そうなれば確かにイシュタルの子も、妹も、そしてイシュタル自身も、気軽に休みを取ることができるようになるだろう。


 またそこまでいけば、どんな魔物がこの世界に生まれようとも安心できそうだ。



「そういえば話は変わるけどさ、ダンジョンはどうしよっか。

 飛地を作ればイシュタルちゃんも、あちこち行きやすくなるよね?」



 竜郎たちが管理するダンジョンは、妖精樹という特殊な木とリンクしているので、他のとは少々違う特性を持っていた。

 その一つに、管理者の持つ領地内に飛地を作ることができるというものがあり、管理者であればそこを通じて簡単に他の飛地に行き来できるようになる。


 いずれイシュタルも自力で転移できるようになるだろうが、今はまだできないイシュタルの移動手段としては、かなり便利な特性だ。


 リアが魔道具による転移装置を作ってはあるが、あれは使用制限をしても、なにかしらのスキルで強制起動──なんてことができないともいいきれないので、管理者がいなければ絶対に使えない移動手段の飛地転移のほうが防犯性に優れている。


 まあ、それだと竜郎たちも移動できてしまうので、そこを気にするような者からしたら防犯もくそもないのだが……。



「あれは私の領土内どこにでも開けるからな。

 移動手段の他に、特産に恵まれない土地でも簡単に魔石を手に入れ金を稼げるようにできる。それだけでもやる価値はありそうだ。

 どこに開けばいいか、ミーティアや母上なんかとも協議しておこう」



 イシュタル一人では管理者権限は『五分の二』なのでできないが、残り『五分の三』を埋められるように誰かが遠方からでも申請を許可すれば開ける。

 なので、いちいち竜郎たちを呼び出す必要もないので楽なものだ。



「ダンジョンか。時間にも余裕が出てきたし、そっちの改良もいろいろしたいな」

「変更したら私にも教えてくれよ?」

「ああ、もちろんだ」

「その前にチキーモをゲットしてくるんだけどね!

 楽しみにしてて、イシュタルちゃん」

「ああ、楽しみにしているよ。アイ」



 竜郎と愛衣とイシュタルは、それから他愛もない会話で盛り上がり、その日の食事会を終えた。


 そして翌日の朝。

 エーゲリアがイシュタルを迎えにやってきた。



「カルディナ城の地下室に転移できるように設定して、イシュタルさんだけが起動できるようにした転移装置です。いつでも来てくださいね」

「これがあれば簡単に会いにこられるな。ありがとう、リア」



 これをイシュタルの《アイテムボックス》にいれておけば、どこにいてもカルディナ城に来られるようになる。

 イシュタルは礼を言ってから、転移の魔道具を《アイテムボックス》にしまっておいた。



「なにか困ったことがあったら手伝うからな。遠慮なく相談してくれよ?」

「ああ、そうさせてもらおう。ありがとう、タツロウ」

「イシュタルちゃん。用がなくても気軽に来ていいんだからね」



 愛衣は両手でガシッとイシュタルの手を掴み、イシュタルの目を見つめた。

 潤んだ愛衣の目に、イシュタルは本気でそう思ってくれると痛いほど伝わってきて胸が熱くなる。



「ああ、そうさてもらおう。ここは私にとっても居心地のいい場所になったからな……」



 ここで寝泊まりする生活もこれで最後かと、イシュタルは少し寂しそうにカルディナ城を見上げ別れの言葉を口にした。



「ありがとう。また会おう」



 竜郎たちから返ってくる言葉を耳にしながら、海の近くで浮かび待っているエーゲリアの方へと振り向き、人化をといて元の姿へと変身する。

 そしてプラチナに若干よった銀色の体鱗に、12メートルほどの真竜の姿があらわになった。


 これまで竜郎たちに合わせて人の姿でいてくれたので、見たことのなかったイシュタルの真の姿に、竜郎と愛衣の両親たちは唖然としながらその美しい竜を見つめた。



「どお? タツロウくんたちと一緒に冒険してみた感想は?」



 横に並ぶや否や、エーゲリアにそんな質問をされた。

 思えば最初についていけと言ったのはエーゲリアだった。

 このまま正直に言えば、やっぱりそうだったでしょ──と得意げに言われてしまいそうだ。


 けれどこの言葉だけは偽るべきではないと、イシュタルは思ったままの言葉を口にした。



「──最高だった!」

「──そう、よかったわね。イシュタル」



 返ってきた言葉は予想していたものとは違い、とても優しげな母の声。

 イシュタルは思わず「えっ」と驚きの声を漏らし母に顔を向けた──ところで、にっと得意げに笑うエーゲリアの顔が映り転移が発動した。

 

 そうしてイシュタルは、竜郎たちの元から去っていったのであった。



「またな」「またね」

これにて第二章『イシュタル帰還』は終了です。ここまでお読み頂きありがとうございます。


そして第三章の始まりである第25話は、少し時間を貰いまして2月17日(日)から再開予定です。

また三章から本格的に食材集めが始まっていくはずです。

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