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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十三章 竜の秘宝編
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第248話 謎が謎を呼ぶ

 上級竜でなければ辛いだろうな──というくらいの竜力が、触れた場所から柱に吸い込まれていくのを竜郎は感じ取る。

 とはいえここにいるのは並みの上級竜など片手で捻り殺せる猛者ばかり。まだ幼い楓と菖蒲でさえ、つらそうな顔一つすることなく竜力を流しているものだから、スアポポたちも目を丸くしている。

 この2人はただくっついているだけで、カギを締めるのに参加するとは思っていなかったのだ。


 ほとんど抵抗なく回っていく柱に身をゆだねていると──。



『たつろー。なんか見られてる? トトポポさんたちの視線じゃないよね、これ』

『ああ、俺も誰かに見られてる気がする。これがもしかしたら、ご意思さんとやらなのかもしれない』

『イフィゲニア様のご意思──という割には、随分と無遠慮に視線をぶつけられてはいるけれど。

 ほら、カエデちゃんとアヤメちゃんなんて、気になってしょうがないって感じだわ』



 竜郎と愛衣にくっついている幼い2人も視線にはちゃんと気が付き、「なになに?」とばかりに視線をキョロキョロ動かしていた。



『けどけどたまーに他所よそで感じる、いや~~な感じはまったくないよ!』



 小さい状態で町などに入ったりすると、お金になるとでも思っているのかニーナを攫おうと考える輩がちょこちょこいる。

 竜郎からしたら、どうぞできるものならしてみてね。という話なのだが。



『そこなんだよな。魔物で言うなら獲物を見るような理性のない視線だが、ここには興味というか好奇心という〝感情〟がちゃんと感じ取れる。

 ってことは少なくとも、何らかの〝意思〟はある存在がここにいるってのは確定だと思っていいだろうな──ん?』



 なんと表現すればいいのか。柱の内側に向かって磁石に引っ張られるような感覚がしたかと思えば、それが段々と強くなってくる。

 だがそれは感覚だけで実際に引っ張られているわけではないので、そちらに体が動くことはない。

 いまいち要領を得ないものの、悪意は微塵も感じられないためそのままカギを締め続け、ガチャンと本当に施錠されたときのような音が周囲に響いた──と思った瞬間、突如世界がひっくり返るようなグルンと縦に回る感覚と共に視界が暗転した。




 暗転した視界が開けると、そこはなんとも言えない奇妙な光景が広がっていた。



「……うちらは夢でも見てるんか?」

「なんと奇怪な場所なのだ……面白いな!」

「いや、面白くないっての……」



 竜郎たちが今立っているのは大きな湖──っぽいナニかのほとり

 周囲は雄大な森っぽいナニかに囲まれ、爽やかに吹き抜ける風が木々や葉を揺らし、鳥っぽいナニかたちは調子の外れた音痴な歌を奏でてなんとも長閑のどか?なものである。

 空にはドラゴンっぽいナニかが、おもちゃのような鳴き声を上げて数十匹飛んでいる。



「なんだろうね、たつろー。私たちは幼稚園児が描いた絵の中にでも、入りこんじゃったのかな?」



 その○○っぽいナニたちは、全てが愛衣が言ったように園児がクレヨンで描いたような絵が立体になって広がった世界。

 足元は草っぽいナニが敷き詰められているが、踏みつける感触は草ではなく中途半端に柔らかいマットの上にでもいるようだ。


 好奇心に駆られてレーラがクレヨン色の湖を手で掬ってみれば、なんだか一瞬ゼリーのような抵抗を感じる硬さがあった。



「臭いは……特にないわね。タツロウくん、これに毒とかはあるかしら?」

「解析した限りではないけど──って」

「──ッゴク。味は普通に水っぽいわね」

「……あんなんよう飲めるなぁ」



 けれど水魔法が使えなくても、このクレヨンで描かれたような湖から水分を摂取することはできると分かった。

 とはいえ、竜郎の《強化改造牧場・改》内には水の魔物メディクもいれば、普通に水魔法で出すこともできるので、わざわざこんな怪しげな水を飲む必要はないのだが。


 けれどレーラは次にまぬけな顔をしたクレヨンで描かれたようなドラゴンを、氷魔法で叩き落とした。

 また毒があるかどうか聞いてきたので竜郎が「ない」と答えれば、氷の剣で肉を切って躊躇なくそれを口にした。



「血の味に肉の味。美味しくはないけれど、食べられないことはないわね」

「分かっとったけど、この人怖いわぁ……」



 食材だって竜郎が大量に持ち込んでいるのに、わざわざ妙な生物を前に食べられるか、味はどうなのか確認するレーラに、それほど他より親交があったわけではない千子が一番ドン引きしていた。

 けれど血の味という言葉がどうしても頭から離れず、結局彼女もそのお絵かきドラゴンの血の味が気になって啜るのだから、彼女も同じ穴の狢なのかもしれない。


 この場の調査をのんびりしていると、何かの足音がこちらに聞こえてくる。

 カルディナと竜郎の探査魔法では、まったく脅威になる強さではないのでそのまま、そのナニかを待つことに。



「……ねぇ、たつろー。あれってもしかして……」

「トトポポさんたちと同じ竜種……のつもりなのかもしれない」



 そのナニかの特徴は、トトポポやスアポポたち○○ポポという名前が付く竜種と同じものだった。

 ただやはりそのクオリティは小さな子がクレヨンで描いた絵を無理やり3Dに起こしたようなお粗末なものでしかないのだが。


 何しに来たのかとその竜から身を隠すことなく堂々と観察しているが、むこうはむしろこちらから近づいてもまるでいないかのように振舞って、湖に頭を突っ込んで水を飲むと「さて、修行にもどるに」とあの独特な訛りのある言葉を、けれどなんだか音程の外れた楽器のような声を発して去って行こうとする。



「あの!」

「…………」



 無視されているだけなのかとも思い、竜郎が大きな声でその竜に声をかけてみた。

 けれど声など聞こえていないかのように、なんの反応も見せずに森の奥へと去って行こうとする。



「そこのキミ! マスターが話しかけているのだから、少しくらい返事をしてくれてもいいと思うのだが!

 …………ふむ、あの者は耳が聞こえていないのだろうか?」

「なら────っふ!」



 レーラが当たっても少し痛い程度に手加減した氷のつぶてを、その竜の頭にゴツンと投げつけた。

 この人、躊躇ちゅうちょねーな……。と竜郎や愛衣がおののいていると、氷をぶつけられた竜は「いてっ。なんだに!?」と初めて反応を見せ辺りを見渡しはじめた。


 だが堂々と竜郎たちは見える位置で観察しているし、レーラも私がやりましたと言わんばかりに仁王立ちしているというのに、やはり気が付く様子はない。

 そればかりか頭に当たった氷すら認識できていないようで、「なんだっただら……?」と腑に落ちないように小首をかしげて去って行った。



「あの人は何だったんだろうーね、パパ。目も耳も見えない人だったのかなぁ?」

「あの動きは目や耳が聞こえない人のものではないように見えたけどな。皆はどう思う?」



 他の皆にも訊ねてみるが、竜郎と同様に盲目でも難聴でもなく、純粋にこちらを認識できていないようだという意見しか出てこない。

 その後も○○ポポ一族らしき竜が何体か現れたり、まったく見ず知らずの魔物や動物など、その全てがやはりおなじみの〝クレヨンで幼児が描いたような存在〟としてやってきて、その全てに似たようなアクションを取ってみたが、やはり誰にも竜郎たちは認識されることはなかった。



「うーん? ほんとに何なんだろ? 攻撃すればちゃんと効くし、殺すことだってできるけど──」

「──少ししたらその殺した個体も、復活して同じ行動をとるんだよなぁ」



 空を飛んでいる竜の数は一定で、その数よりも多くなることはない。殺せば少なくなるが、どこからともなく補充されて元の数に戻っていた。

 解魔法で調べてみればちゃんと個体ごとに違いがあって、飛び方などにも個性があった。それでいて殺して復活した個体は、必ず殺された個体と同じポテンシャルに個性を持った個体が補充される。


 トトポポたちと同種族だろうと思われる個体たちの後をついていったりもした。

 彼ら彼女らは一様に修行と称して、そこらのパチモンモンスターたちと戦っているようだった。

 もちろんそこで殺された魔物っぽいナニかたちも、ちゃんと復活しているので、この世界の住人?であろう彼らが殺しても数が減ることは永遠になさそうだ。


 また見た目はアレだが、ちゃんと草木や水も、竜もモンスターたちも、竜郎たちが普通に暮らしていた場所のものと同様だとみなされているよう。パチモンのような見た目だというのに、竜郎のユニークスキル──《レベルイーター》でさえ、ちゃんと適応されてしまったのだ。


 そのおかげで空を飛んでいるなんだかよく分からない竜、見たことのない魔物の物まで、魔卵を入手することに成功してしまった。

 その魔卵はちゃんとクレヨン的な存在として生まれてくるわけでもないと確認もしたので、間違いないだろう。

 トトポポたちと同種族の者たちは喋ることができている上に、まだそれが何なのか分からないのだからと、魔卵づくりのために殺すのはやめているので、そちらのものは入手できていない。


 ──と、ここまでが軽く竜郎たちが調べた成果である。

 そして調べたところで、ここが訳の分からない謎の空間だというのだけがよく分かっただけだった。



「これからどうする? マスターよ」

「今は湖周辺しか調査してないから、今度はもっと広範囲を調べてみるのもいいかもしれない」

「まぁ、そうするしかないわよね。ワクワクしてきたわ」



 未知であればあるほど燃えるレーラは、目をキラキラとして次はどこに向かうか話し合おうとした──その時である。



「「あう?」」

「どーしたの? カエデ、アヤメ」

「「にーねーた、うっうー」」



 竜郎たちの代わりに楓と菖蒲のお守をしていたニーナが、突然自分を呼びながら宙を指さしはじめるので、何だろうと斜め上の方角へ視線を送った。



「うわっ!?」

「なんだ!?」「どうしたの!?」



 ニーナの驚いた声に皆が反応し、同じように彼女が視線を向ける方角を見てみれば、そこには二つの黒い目があった。

 それもそれはクレヨンで描かれたようなものではなく、実写的な平面な目がじっとニーナを見つめているのだ。彼女が驚くのも無理はないだろう。



『ピュィッ!? ピィューィイューイユーイ!!(なんで!? ずっと探査はしてたのに!!)』

『俺も気が付けなかった。なんだ、あの目は!』



 今も竜郎の中にいるカルディナと常に危険がないか、怪しいものはないか探っていたというのに、その目のことは一切気が付けなかった。

 そして今も探査を巡らせているというのに、結果は〝そこには何もない〟というものだけ。



「タツロウくん、時空がずれているのかもしれないわ! 解魔法に時空魔法を混ぜてみて!」

「分かった!」



 なるほど──とレーラの言う通りに時空魔法を混ぜて、解魔法による探査魔法を巡らせてみれば、ようやく〝ナニかがそこにいる〟ということだけは理解できるようになった。

 そして向こうも探知されたことに気が付いたのか、ニーナだけを見つめていたその目が動き、タツロウの方へと視線が送られる。


 ここに送られる前にあった視線は誰もが気づけたというのに、それでもこの視線には何も感じることはない。

 皆が身構え、いつでも戦闘できるように、逃げることができるように間合いを取る。


 だがその目は竜郎たちのことなどお構いなしに、またニーナにだけ視線を戻して見つめ続ける。

 何かされるわけでもなく、ただただジッと。はっきり言って、不気味以外の何物でもなかった。



「なら引きずり出してやる──」

「──っ!? ──っ!?」



 時空魔法で存在が感知できるなら、時空魔法で干渉できるはずだ。その考えの元、竜郎は自分のできる最大の出力で、イメージ的には〝時空の手〟を生み出しそのナニを掴もうとする。

 そこまでようやく「なにごとだ!?」とばかりに、その目を丸くして抵抗を試みる。



「逃がさん──」



 何重にも時空の手を展開して相手に干渉し、こちら側の空間に引っ張っていく。抵抗されている感じはするが、それでも力は竜郎とカルディナのタッグの方が強く、ズズッ──ズズズッ──とそのナニの鼻先が、頭が、体が、尻尾が飛び出した……のだが。



「……いや、なにこれ?」

「…………分からん」



 おそらく感覚的に全部をこちら側の空間に引きずり出せたはずだ。

 けれど引きずり出されたのは、これまた奇妙なナニか。


 大きさはおおよそ、4メートルくらい。目は相変わらず実写的で分かりやすい。けれど他は異常だった。

 それは輪郭と目しかなく、あとは全部透明なのだ。しかもその輪郭ですら、ところどころガタついている。

 輪郭のフォルムからしてニーナと同じような形態の、よく見るドラゴンの姿なのだろうが、それ以外の情報は見た目からは得られない。


 竜郎が解魔法で解析してみても、バグったように意味の分からない情報が脳内に湧き出して要領を得ない。

 時空魔法なども駆使してくまなく調べても、その輪郭の中身はスカスカで、何もない。別次元に目と輪郭だけが潜んでいる──なんてこともないようだ。


 だが一つだけ分かることがある。それは──。



「なんか怒ってる……? のかな?」

「えらい可愛らしい怒り方やけど」



 顔にあたる輪郭の頬の部分をプクーと膨らませ、子供のように『怒っています!』と分かりやすく表現していたのだ。

 謎な世界に、謎の竜らしきナニか。なんて奇妙な場所に来てしまったんだと竜郎は疲れたように、ため息を一つ吐いたのであった。

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] イフィゲニア様の絵心が微妙なのか、それともエーゲリア様の手になる絵か…… 絵の中の亜空間に築かれた疑似ダンジョン、ですかねぇ?
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