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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第23話 爆弾発言

 新たな竜王種の可能性を残しつつ、今回の竜王種創造実験は最良の成果を得られたと言ってもいいだろう。

 ということでこれで今回はお開きか──と誰もが思ったところで、イシュタルが不意に口を開いた。



「ん? なにかおかしいような?」

「おかしいって、なにがだ? イシュタル」

「いや、そういえばカエデやアヤメを創造するときに使われた蛇竜の素材なのだが、蛇竜に爪などあったのか?

 それに実際に戦ったというウリエルやミネルヴァの話では、目もなかったといっていた気がするが……」



 竜郎のもつ《竜族創造》スキルにおける、候補となる素材は──。

 竜心臓、竜脳、竜魔石、竜骨、竜鱗、竜牙、竜爪、竜眼、竜肉の計九種。

 この中から十個の素材を集めれば、スキルを発動させることができる。


 また中位以上の竜を作るためには、必ず一つは竜心臓、竜脳、竜魔石が必要になる。

 もしそれらをレシピに入れないで創造すると、下位竜以下の存在ができあがるという制約がある。


 そして一番大事なルールとしては、竜族創造に関してはいい素材だからといって、バランス悪く竜心臓だけを十個だとか、竜脳を十個などという極端な事をしてしまうと、素材に見合わない存在が生まれる可能性が高くなる。


 なのでできるかぎり上記の九種を全て揃えたうえで、もっとも重要視される核となる竜心臓、竜脳、竜魔石を付け足すのが、強い竜を生み出すうえで最もベターな構成と言っていいだろう。


 そして今回おこなった竜王種創造実験においても、その法則は守られていた。

 必要な九種の素材はダンジョンでボスとして君臨していた竜から全て揃え、そこへ伝説的な英雄竜ニーリナの心臓を加えることで成功したのだ。


 だがそうなると、蛇竜のときにおかれていた目と爪は何だったのか──という話になる。

 本来、爪が生えるのは手足だ。だが蛇には手も足もなく、爪などない。

 またヒュー子はちゃんと目があったが、その元となった蛇竜と戦った者達の話では、目のない蛇竜だったとも聞いていた。



「ああ、それか。それもイシュタルがゲームに夢中になっている間に解決策を編みだして、事前に作っておいたんだよ」

「な、なん──だと……」

「ねえ、イシュタル。国に戻ったら、お母様とい~~っぱい、お話ししましょうね?」

「うぐぅ…………」



 イシュタルとて怠け者というわけではなく、むしろ勤勉な皇帝と言ってもいい。

 けれど地球においては何の身分も責任もない「ただのイシュタル」になれたことで、気が緩んでしまっただけなのだろう。


 あとでそれについてフォローしておこうと考えながら、竜郎は今回の方法を語るにあたって分かりやすいようにとサンプルを取り出した。



「……ん? なんだこの妙なものは」



 それは巨大な肉の塊なのだが、その一部が抉れていた。

 そして、その抉れた部分から、立派な爪が生えていた。



「んでもって、こっちも見てくれ」



 次に竜郎が出したのは、蛇竜の頭部のみ──なのだが、こちらも少々変わっている。

 それは左側──片方にだけ眼球があるのだが、その眼球はちょっと触れば飛び出してしまいそうなほど、ただ穴に収まっているだけという感じを受けるありさまだった。

 自然的にそんな目のつけ方はありえないだろうと、素人が見ても明らかだ。



「これらはいったい、なんなのだ? タツロウ」

「今ここにある爪と眼球を、楓と菖蒲の創造の時に使ったんだ。

 これは実験サンプルとして、成功した物を複製してとっておいたものだな」

「「あう~?」」



 未だに竜郎にくっついている楓と菖蒲は、既に自分の名前を理解しているようで、なにかよう? とでも言うように竜郎を見上げ首を傾げた。

 その様子が可愛かったのか、隣にいた愛衣がその幼児二人の頭をよしよしと撫でた。

 すると楓も菖蒲も「むふー」と、ちょっと嬉しそうに笑った。

 ニーナやドルシオン姉妹──ドロシー、アーシェが、私には? と見つめてきたので、愛衣は優しく微笑みながら平等に撫でておいた。


 そんなことをしている間にも、話は進んでいく。



「ということは、この目も爪も、別の魔物の物を取って付けたわけではないということか。だがどうやって?」

「本来心臓ではなく、魔石があるダンジョン産の竜の心臓を作る方法があっただろ?

 今回のはその応用だ。そもそも──」



 爪とは何かと言われれば、表皮が硬化した物──つまり皮膚のようなものであり、鱗から派生したものとも言われている。


 目とは何かと言われれば、それは外にとび出した脳ともいわれている器官であり、主成分はコラーゲン、体の細胞に含まれる物質からなっているので、特殊な構成物質からなっているわけではない。


 であるのなら、それがない存在の体の一部を抉り取り、そこを構成している物質を変換し、目や爪に変えてしまうことはできないかと考えたわけである。


 そこで役に立ったのが復元魔法と闇魔法。

 物質を復元する魔法を、闇魔法で意図的に歪め、本来復元するはずではないものをそこに発生させるのだ。


 これは魔石があった場所を心臓に変換にする際にも使われた方法でもあるが、あちらは全く別物質に無理やり軌道修正させるような行為なので、何度も何度もやらなくてはならず面倒極まりない作業だった。


 それに対し、こちらは似たような構成物質を使っての目や爪の発現だったので、それほど苦労することなく成功した。

 ただ目の方が複雑な器官だったせいか、爪よりも数回多く試行回数を要したのだが。



「私が遊んで──げふんげふんっ。異世界を学んでいる間に、そんな方法まで編み出したのか」

「ねえ、イシュタル。今、遊んでって──」

「すごいな! タツロウ! さすがだな! タツロウ! やったな!! タツロウ!!」

「オ、オウ……。アリガトウ……イシュタル……」



 さすがにそれは無理があるぞと言いたいところをぐっとこらえ、竜郎はとりあえずのお礼を言っておいた。



「でも本当にこれは凄い方法ですよね。

 これを使えば、一部分しかない魔物の素材から別の器官を生成し、それらをパズルのピースのように集めてから普通に復元してしまえば、元となった魔物が丸ごと復元できるかもしれないんですから。

 いろんな素材を使ってみたい私としては、万々歳です。魔道具で似たようなことができないか、研究もはじめたいところですね」

「リアはあっちこっちに手を出し過ぎですの。

 付き合うこっちの身になってほしいですの……」



 奈々は親友を、ともすれば姉妹を見るような瞳で、らんらんと語るリアにため息を吐いた。



「えへへ」

「えへへ──じゃないですの。まったくもう」



 ぷくーと可愛らしく頬を膨らませて抗議する奈々だが、そういいながらも、なんだかんだとリアの世話を焼くのだから、この二人もいい関係である。



「ってことで、納得したか? イシュタル」

「ああ、わざわざ説明させてしまって悪かったな」



 疑問もとけたようなので、竜郎は今だした、いわば爪や目玉の培養素材をしまった。

 これで本当に今回の実験はお開きである。

 そしてそれは、イシュタルがここにいる理由がなくなったということでもあった。



「すぐに帰っちゃうの……? イシュタルちゃん」

「今日、一日くらいはいいだろうとは思うが……どうだ? 母上」

「そうね。明日の朝に帰ってきてくれるなら、私も構わないわ。

 今生の別れというわけではないけれど、それでもこれまでのように四六時中一緒──というわけにもいかないでしょうしね。

 しっかり気持ちに区切りをつけておくといいわ。それまでは私と、私の眷属たちがなんとかしておくから」

「ありがとう。母上。そうさせてもらおう。

 まあしかし、ここには私も一緒に管理しているダンジョンがある上に、我が子を生みだすのにも協力してもらうために来る必要があるのだ。

 だからそんなに悲しそうな顔はしないでくれ、アイ」

「うん。そうだね」



 ──と。愛衣とイシュタルが互いにしんみりしながらも笑いあっていると、ふとエーゲリアが今の言葉の中で思うことがあったようだ。



「そういえば、イシュタルの子を生みだすのに協力してもらうというのが、手伝う条件だったのよね」

「なんだ? 忘れていたのか、母上は」

「いいえ、忘れてなんていないわ。けれどこの辺りをざっと観るに──お母様の系譜とは関係のない、神力と竜力持ちがたくさんいるわよね、ここって。それも大量の」

「最後にキモいのを倒したら、けっこう、うちの子たちも神格者になれたみたいだからねー」

「そうなのよね。ニーナちゃんはニーリナとほぼ同じ存在になったみたいだから、手伝うことはできないようだけれど、それ以外にも候補は沢山いるのよね。

 これならイシュタルの子もあっさり、この世界に生まれちゃいそう」



 真竜を新たにこの世界に生みだすには、特殊な物質を真竜の体内から取り出して、その中に自分の神力と竜力を半分、他者の神力と竜力を半分で満たす事で真竜の卵が生まれる。

 それからその卵に真竜の竜力と神力を注ぎ込みながら一週間の時が巡ると、無事に孵化し新たな真竜の誕生となる。


 しかしこの世界に神力と竜力の両方を持っている最も多い種族は竜種であるにもかかわらず、他者にあたる供給元は、今いるほぼ全ての竜種たちの祖の生みの親──セテプエンイフィゲニアと無関係でないといけない。


 なので候補は自ずと限られ、エーゲリアが生まれる時も、イシュタルが生まれる時も、ちゃんとした卵になるまでエネルギーを集めるのにかなりの苦労を強いられていた。


 しかし、今の竜郎たちの陣営には神力持ちの神格者が大量にいる。

 竜郎、愛衣、カルディナたちとリアだけで既に九人。

 竜郎の眷属たちでニーナを除いても十人。

 奈々の眷属の中にいるインテリジェンス魔剣──ダーインスレイヴも神格者なので、さらにプラス一。


 そしてこの二十人のレベルは非常に高く、保有している神力の量も非常に多い。

 また竜力の量も、竜郎が裏技を使ったので全員十分な量を保有している。


 確かにこれだけの優秀な人材が総力を挙げて手伝えば、いくら真竜の卵作りといえど、それほど時間はかからないだろう。

 むしろイシュタルが、もう半分を満たす方が時間がかかりそうだ。



「そうなのだろうが……母上。いったい何が言いたいのだ?」

「う~ん……………………ねえ、イシュタル」

「なんだ?」

「妹、欲しくない?」

「はあっ!?」



 イシュタルの妹ということは、いわずもがな、エーゲリアの娘ということになる。

 そしてエーゲリアの娘であり、イシュタルの妹ということは、その子は真竜ということになる。



「私の未来の娘の帝位をおびやかす気かっ!?」

「ばかねぇ。そんなことするわけないでしょ」

「だが……。本人がその気になれば、神輿にあげたがるやつはいくらでもいるぞ。

 不甲斐ないことにな」



 今まで三体以上の真竜が同時に存在したことはないので前例はないが、通常でいったら現役皇帝のイシュタルの娘と、先帝のエーゲリアの娘では、イシュタルの娘の方が継承権は優先される。


 しかし、その母体。エーゲリアとイシュタルでは、帝国で築いてきた実績と信頼が違いすぎる。


 今でも帝国内でエーゲリアが黒と言えば、イシュタルが絶対に白だと言おうが、黒だと言い張る割合の方が多いだろう。


 エーゲリアが帝国民に見せてきた奇跡の数々。絶対的なカリスマ性。そしてその側近たちの優秀さと、気の遠くなる年月をかけて帝国民の心をがっしり掴んできたのだ。

 安定した時代で大きな問題もない状態の帝国を継ぎ、たかだか数百年統治しただけのヒヨッコ皇帝とでは比べるべくもない。

 偉大な母をもつと、こうまで苦労するのかと、イシュタル自身何度も思ったものだ。


 そんな実績や信頼性抜群のエーゲリアの娘と、時代というものもあるのだが、帝国民に我はここにありと見せつけてこれなかったヒヨッコ皇帝イシュタルの娘。


 どちらもそれほど年齢が変わらないとなると、帝国民や重鎮の支持はエーゲリアの娘に向く可能性が高い。

 たとえ能力的に劣っていなくても。



「イシュタルの娘が絶対に皇帝なりたくないと言って、私の二番目の娘が絶対になりたいというのなら、私はそのようになるよう働きかけることもするでしょう」

「ああ……確かにそうなったのなら私も文句はないさ」

「でもね。そうではないのなら、私はイシュタルの娘を推すわ」

「確かに母上が言えば、そうなるのだろうが……」



 何か少しでも問題を起こそうものなら、やはりエーゲリアの娘の方がよかったんだと思われやしないだろうか。

 ずっと同世代の叔母と比べられて、辛い思いをするのではないだろうか。

 そんな不安が今からイシュタルの胸によぎってしまう。


 そしてエーゲリアは、そんな不安な感情が手に取るように分かり、小さな娘をあやすように優しく微笑みかけた。



「大丈夫よ、イシュタル。これから大きな実績を作っていけばいいのだから」

「今は母上の時代とは違う。私が表立って活躍できる戦いなど起きるわけが──」

「はぁ……。確かに私は帝国を脅かし、世界の人々を脅かす存在を幾度となく叩き潰して信頼を得てきたわ。

 けれどこの安定した時代で、私と同じことをしてどうするの。

 今のイシュタルなら、もっと違う実績がたくさん作れるでしょう?」



 そうしてエーゲリアが手で指し示したのは、竜郎たち。



「あなたは、あなたの行動であれほど稀有な存在たちと深い友情を築き上げた。

 そして彼らの協力が得られれば、これからイフィゲニア帝国をさらに豊かにすることだって難しくないはずよ。

 それともあなたは、ここまでお膳立てされておきながら、そんなこともできない無能なのかしら?」



 まずは食。これはイシュタルが一言頼めば、間違いなく竜郎たちは輸出してくれるだろう。

 そして技術。その全てを一気に明かすのは危険もあるだろうが、リアという今や世界一と言ってもいい技術者のもつ知識を、少しずつなら貸してもらえるだけの信頼は得ている。


 また竜王種やニーナ。

 帝国と竜郎の竜王種が婚姻し、その子供が生まれれば、前代未聞の存在が生まれる可能性が高い。


 さらにニーナがというのは難しいだろうが、いつかその子が、またはその子孫の誰かが九星の子孫たちの家系──星九家と呼ばれる中で唯一空いているニーリナの家系を埋めてくれれば、その功績は計り知れない。


 なんといっても大英雄の中の大英雄とされていた存在だけが、子孫を残していなかったことに、今でも全帝国民が、なぜだと悔やんでいるほどなのだから。


 他にも竜郎たちと共同で管理しているダンジョン。これを上手く活用することで見えてくる可能性もある。


 ──と、考えれば考えるほど、できることはたくさんある。

 時間がかかったり、確定事項ではないものもあるが、それでも竜郎たちの助力を受け、イシュタルがそれを上手に国内に浸透させることができれば、その評価は一気に高まるだろう。



「そして今のあなたは本当に強くなった。その強さだけでももう、舐められることはないでしょうしね。

 もちろん他力本願だけではなく、あなた自身が頑張っていくことが大前提ですけれど」



 竜郎たちは用意するだけ。それをどう生かすかはイシュタル次第。



「そう──だな。タツロウ、そしてアイたちも、私に力を貸してくれると嬉しい」



 イシュタルが竜郎たちにむかって頭を下げた。

 だが竜郎も愛衣も、すぐに頭を上げさせた。



「今更そんなことをしなくても、私たちのために命がけで手伝ってくれたイシュタルちゃんのためなら、協力は惜しまないよ!」

「幼竜達やニーナの件は本人の気持ち次第だが、食の方は任してくれ。

 じゃんじゃん、これから美味しいものを見つけてみせるからさ」

「ああ、ありがとう」



 そこで三人仲良く握手をかわす。なんとも麗しい友情の光景だ。

 しかし、竜郎はここで確認しておかなくてはいけないことがあった。



「えーと、エーゲリアさん。ほんとうに、もう一人お子さんをもうけるんですか?」

「あら、ダメかしら? 協力してくれるのなら、私の鱗を何枚かあげても──」

「「はい、よろこんでーーー!」」

「たつろー……。リアちゃん……」



 即決即答。エーゲリアの鱗、それは今手にできる世界最強の鱗。ほかのどんな素材もかなわない至上の真竜素材。

 そんなものが、時間をおけばいくらでも回復する神力と竜力の提供で手に入るのなら安いものだ。

 竜郎やリアが、その機会を見逃すはずもない。


 二人同時に、まさに兄妹にしかみえない息の合いっぷりで、協力の約束を交わしたのであった。

次回、第24話は2月10日(日)更新です。

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