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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十二章 世界間貿易足がかり編
239/451

第238話 新たな構成員

 良くも悪くも興味のあること、必要なこと以外には無関心な彼が、その無関心の対象たる家族に見せたことのない上機嫌な姿をさらしているところに、そろそろいいだろうと竜郎は他の関係者たちの姿を見えるようにしていった。



「ん? なんだ?」



 突然認識できるようになったせいで、ディック・ベイカーには虚空から湧き出たようにしか見えなかったというのに、大して驚くこともなく視線を向けていく。


 いるのは彼がそれなりに知っている妻と娘、何度か顔を見たことがあるかな程度の認識のピーターとヘンリー、そして記憶にないスーザンと彼にとっては意味不明な組み合わせ。



「ふむ。ここにいるのは全てエーイリとアンとの友誼を結ぶために集められた同士と思えばいいのかな?」

「うーん。奥さんと娘がいるのに平然としてるのが凄いなぁ」

「ん? なにかおかしいか?」



 普通なら家族まで連れてこられていたらもっとリアクションがあってもいいはずなのに、妻娘とピーターたちを見たときの反応がまるで同じなのだからおかしいのだろうが、ここまで当たり前のことのように言われてしまうとつい口を挟んだ愛衣でさえこっちがおかしいのかと思いたくなってきてしまうから不思議なものである。


 そんな微妙な空気が流れる中、竜郎や愛衣ではなくピーターが進行役を買って出てくれた。



「実は君を呼び出したのは、私たちライト家の者が彼らに頼んだからなのだよ。ベイカー君」

「ほう? ということは既にあなたたちは親交があったというわけか。

 だがそうなると私を選んだ理由がよく分からなくなってくる。貴方から指名されるほどの仲ではなかったと思うのだが」

「それはだな。順を追って説明していこう。実は──」



 ここでまたエーイリたちの説明と、美味しい食材を取り扱う組織についての説明がされていく。

 もはや何度も聞いてきたことなので、竜郎と愛衣は聞き流す程度でディックの反応を見ているが、やはり彼はもう宇宙人という存在を完全に受け入れ、なおかつ常人なら疑問を何度も挟みたくなるような説明に対してもすぐに理解の色を示してみせる。



『やっぱりちょっと変わってる人だねぇ』

『だからこそ他人とは違う着眼点をもっていられて成功した、とも考えられるけどな』



 そんなことを念話で会話している間に全ての説明は終了した。



「あの素晴らしい食材を取り扱う側にと、私を選んだわけか」

「端的に言ってしまえばそうなる。急なことだし、今すぐ返事をしろとは言わない。だが悪い話では──」

「いや、返事はイエスだ」



 あまりにも即断即決。妻と娘ももちろん受けてほしいとは思っていたが、なんの迷いもなく決められる彼に対し、はじめて尊敬の気持ちを抱いたと言ってもいいほど清々しく。



「返事は今すぐでなくてもいいのだよ? ベイカー君」

「いくら考えても無駄なこと。あの味を知ってしまったからには、そしてまだ他にもチキーモに匹敵する素晴らしい食材がこの世に存在するというのなら、それを手に入れられる場所にいたいと思うのは当然のことだろう。

 むしろ私を選んでくれたことに感謝したいくらいだ。これからは組織の幹部として私の力を貸すことを約束しよう」

「そうか。君が加わってくれるというのなら、この話はさらに早く進められそうだな」

「もちろんだとも。この私がやるからには、必ず成功させて見せるよ。ライトさん」

「ふっ、私のことはピーターでかまわんよ」

「なら、私のこともディックと呼んでほしい。ピーター」



 そうしてピーターとディックは力強い握手を交わし、世界でも指折りの大富豪と企業のトップが手を組んだことにより、宇宙食材を扱うという謎の組織計画が本格的に始動することになったのだった。



『もうこれは止まらなさそうだね。たつろー』

『そうだなぁ。もうこうなったら、なるようになれって気持ちで受け入れることにしたよ。俺は』

『だよねぇ』



 割と気軽な気持ちで始めたことであったのに、いざやって見れば世界の名だたる人物たちを巻き込んだ大ごとになるとは思っていなかったのだが、いざここまできたら竜郎も愛衣も腹はくくれた。

 あとはもう後は野となれ山となれ、必要そうなことはサポートもしっかりしていこうと心に決めた瞬間でもあった。




 それから友との約束などすっかり忘れてしまっているディックが、自分が取り扱うことになる商品を知らなければならないという詭弁により、今持っている全ての食材を使った料理を提供することになった。


 反応はやはりチキーモの時と同様に静かに味わっていたのだが、ちゃんとした料理として使われた食材を目にした時はかなり感動して食べてくれた。

 そのときは家族仲良く……とまではいかずとも、はじめて素の状態で食卓を囲うことができたのだが、そのことにディックもヘザーもロレナも気が付くことなく、食べることに夢中になっていた。

 だが今後、美味しい食材によって繋がりが増えたことにより、そういった機会も増えていき、結果的に今よりはマシな関係になっていくとは誰も予想していなかっただろう。


 そうして全ての食材と料理を味わい満足げな表情をしていたディックが、ふと竜郎エーイリ愛衣アンの姿を見て、自分がここに来る前にしようとしていたことを思い出した。



「ああ、そうだ。友人と約束があったんだ……が、まぁいいか。彼らと私の仲だ、許してくれるだろう」

「そのことなら、ちゃんとほぼ同じ時間に同じ場所に戻すから安心してくれていいよ」

「なに? そうなのか。ならもっとゆっくりしていられるな」

「相変わらず許容範囲が大きい人だなぁ」



 愛衣ももはや苦笑する程度で、彼の反応を受け入れられるようになってきたようだ──と、そんなことを竜郎が考えていると、改めて観察するような視線が自分たちに向けられていることに気が付いた。



「えっと、何かな? ディック」

「おっと、ぶしつけな視線を向けてしまってすまない。しかしそうか……、宇宙人か……」

「宇宙人だと何かあるの?」

「いやな。実はこの後会う予定だった友人の中に、宇宙人に会いたいがために宇宙飛行士を目指していた男がいたことを思い出してね」

「目指していたってことは、今はそうじゃないってことでいいのかな?」

「そうだね。大人になるにつれて、それがどれだけ狭き門か知って諦めてしまったらしい。

 宇宙開発事業に携わることも考えたようだが、結果的に今はホテル経営で成功しているのだからその選択も間違ってはなかったんだろう。

 ただ……、今まさに彼が幼少期から熱望していた存在と話していると思うと少し会わせてやりたいとも思ってしまったんだ」



 少しばかりその友人とやらの話を聞いていくと、どうやらかなりの宇宙人マニアのようで、宇宙とは全く関係の無い仕事をしていながらも、それに関わりがありそうな情報は片っ端から集めては酔ったときに熱く友人たちの前で語りはじめるのだという。


 ディックからすれば他愛もない雑談くらいの気持ちで語っていたのだが、ピーターやヘンリたちライト家はそれを真面目な表情で聞いていた。



「つまりその彼は、エーイリさんたちに最初から好意的な感情を持っているということか……。

 なら君の裁量で君が組織の利となる人物だと思うなら、君の管轄に加えてしまうのもいいかもしれないよ」

「うん? うーん……。それはどうなんだろうか」

「何か問題のある人なのか?」

「いや、気のいい奴だし仕事も卒なくこなせる優秀な人間だと思う」



 ヘンリーの疑問に歯切れが悪そうにディックは話を進めていく。



「ただ宇宙人のこととなると、それも本物となればどのような反応を示すかあまりにも未知数で予想できない。

 暴走しすぎてエーイリたちが不快に思うようなことをしでかす恐れもある」

「それほどの人物なのか……。それは確かに考えどころだな」

「やはりヘンリーもそう思うか。できれば友として彼の願いをかなえてやりたいという気持ちもあるが、それで新たな友に迷惑をかけるわけにもいかない。

 この件に関しては私情を抜きにして熟考した上で、改めて彼を組織の構成員として推薦するのか、ただの客として招くか。はたまた一切合切を黙秘し続けるかを決めていきたいと思う」

「それが賢明だな」



 竜郎からすればそこまで自分たちに気を使う必要もないと思っているのだが、彼らの気持ちを無下にすることもない上に、わざわざ面倒事を迎え入れる必要もないので、黙ってその話が終わるまで聞いていた。


 そして話が終わったところで、竜郎はこの話が進みそうならと用意していたものをとりだした。



「実は見てほしいものがあるんだけど、ちょっといいかな?」

「ん? なんだろうか」



 代表としてなのかピーターがまっさきに反応を示してくれる。



「前に言っていたお店をつくる道具を作ったから、こんな感じでどうかなって持ってきたんだ」

「お店をつくる道具? なんのことだ?」

「店を開くにも場所が必要だろう? だが普通に場所を用意しようとすれば、必ずなにかしらの痕跡や匂いが残ってしまうものだ。

 だからそのあたりのことを相談してみたら、何もない空間に新たな空間をつくることができるとエーイリさんたちが言ってきてな」

「ああ、そんな便利な場所の確保の仕方ができるのか」



 ヘンリーが新参のディックに説明している間に、《無限アイテムフィールド》から黒く四方が20センチほどの箱型の物体と、小さな宝石のようなものがついた指輪を取り出した。


 その指輪に収まった宝石は綺麗な青色をしており、自然とヘザーとロレナの興味を引くがそちらに構わず竜郎は話を続ける。



「例えばここに壁があったとすると──」



 竜郎が指さした場所に突如、何の変哲もない壁が出現する。しかしもはや反応は薄く、誰もそれに疑問は持っていないようでもあった。

 竜郎はそのまま手に持っていた黒い箱を、その壁へと押し当てていく。



「入り口を作りたいと思った場所に、こんな風にこの箱を押し当ててから指輪の宝石をさらにその箱に押し当てる」



 言った通りに指輪の宝石を押し当てると、黒い箱に光の線が走る。かと思えば箱は泥に埋まるように壁に吸い込まれていき、表面だけを残して完全に収まった。

 そして壁にも次第に光の線が広がっていき、3分ほどでそれも消えて今は黒い20センチほどの四角形の模様が壁に刻まれた状態になった。



「こうなったら指輪を離して出来上がり。あとはこの指をもう一度押し当てれば──」

「「「「「おおっ」」」」」



 黒い四角形の模様に指輪を押し当てると、その模様が広がるようにして人1人が通れるほどの入り口が現れる。

 中はそれなりに広い空間が広がっており、天井の一部が発光し明るく部屋内を照らしていた。

 壁の後ろ側にヘンリーやスーザンたちが回ってみるが、それほどの空間がそこに現れたわけではないことは明白で、ただ後ろ側の壁が見えるだけ。



「入ってみても?」

「うん、害はないから大丈夫だよ。それに入り口を閉じても、ちゃんと空気も循環するように設計してあるから安心してよ」



 竜郎エーイリがそういうならとピーターを最前に、その壁の中に生まれた謎の空間に入っていく。

 中は外から見た通り、明かりの発生源は謎であるし、どうやって空気を循環しているかも不明だが、確かに空気は澱みもなく温度や湿度も快適。むしろ爽やかで心地の良い空間だった。



「その指輪が鍵になっているのね。何個も作ることは可能なのかしら?」

「ああ、できるよ。あと別に指輪である必要もないから、そっちでこれがいいって形があるならできる限り鍵の形も検討することもできるよ」



 これは竜郎がカルラルブで発見したダンジョンの残骸であった宝物庫の仕組みを魔法で再現し、それをリアが解析して魔道具に落とし込んでできた空間だ。


 あの宝物庫ほどの大きさを再現するのはかなり難しかったが、今ここに作った空間程度なら安定して作り出せる程度には完成度は高い。

 エネルギー源は箱の中に世界力の塊を仕込んでおり、交換は数年に一度でいいように設計されている。



『その交換もぱちろーでできることが分かったから、こっちの手間もないしね』

『思っていた以上に、ぱちろーは便利なんだよなぁ』



 またそんなことはないはずだが、万が一閉じ込められたときのために、緊急通報ボタンも備え付けられている。

 そのボタンを押せば、その国にいるぱちろーに救難信号が届き、そちらも全自動で助けに行ってもらうことすらできるので、竜郎は仕込みだけしておけば後はほとんど放置でピーターたちに運営を任せることはできるようにもなっていた。



「このボタンが、その緊急通報ボタンかな?」

「うん。それだね。いないと思うけど、いたずらで押すのはやめてほしい。事故で押してしまったのなら別にいいけどね」

「そのようなくだらない悪戯をするようなものは入れないから安心してほしい」

「けど万が一のことも考えて、子供は入れないようにしておいたほうがいいかもしれないね。父さん」

「そうだな」



 どこまで裾野を広げるかは要検討だが、もし選出した客の家族まで客として受け入れるとなれば子供が来てしまうこともある。

 そのあたりもしっかりと取り決めをしておいたほうが良いと、ピーターやヘンリーたちは考えたようだ。


 ただ彼らの場合は自前で食材を手に入れられるので、かわいい孫や息子に食べさせることも可能なのはご愛嬌と言ったところだろう。



「それで、こんな感じでいいかな?」

「コンセントはないんだろうか。調理の際に電化製品が使えないのは困ると思うのだが」

「あー、それね。どこにつければいいかはよく分からなかったから今はつけていないだけで、後で好きなところにつけることができるから安心してよ」



 その電気も世界力産のエネルギーで賄うので、不自然に電力消費がされている場所がある──なんて言われる心配もない。


 その後もこの空間についての説明や改善点などを話し合い、それぞれの場所へと解散していくのであった。

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙人マニアですか、たつろーらは似非なので積極的に会う気にはなれないでしょうね むしろ異世界ファンタジーが希望なら話が早かったまでありますがw
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