第234話 ロレナ・ベイカー
時差の影響で深夜に竜郎は愛衣とニーナ、楓と菖蒲を連れてアメリカへと転移する。
すでに場所は聞いてリサーチも済んでいるため、迷うことなく目的のお店に辿り着く。
「ちょっと話をしながら、お茶を飲むって感じのお店には見えないね」
「だよな。もうこれレストランだろ」
竜郎や愛衣はお洒落なカフェのようなところを想像していたのだが、目の前にあるのは高級なレストランにしか見えない外見の店。
この店は会員しか入ることができず全て個室で、スーザンではなくベイカー家の令嬢がここを指定してきたとのこと。
扉の近くには大柄の男性が2人、門番のようにたたずみ気軽に通りすがりの人が入れない雰囲気を醸し出している。
しかし竜郎たちは認識阻害をしたまま平然とその扉を通って中へと入っていく。
ゴテゴテした装飾はなくいたってシンプルだが、決して地味には感じさせないセンスのいい内装に感心しつつ、清掃が隅々まで行き届いている通路を進んでスーザンたちが通される予定となっている部屋の中へと我が物顔で入り隅の方に自前のソファを置いて一息ついた。
ニーナは楓と菖蒲を邪魔にならないように、しっかりと抱っこして寝かしつけてくれている。防音の魔法を彼女たちには展開しているので、こちらの話声で目覚める心配もないだろう。
「スーザンさん、あともう少しで来るって」
愛衣のほうにそう時計型念話魔道具による通話が入ったので、こちらも既に部屋の中に待機中と伝えておいた。
宣言通りほどなくしてスーザンが店の者と自分が連れてきた付き人に付き添われ、この部屋までやってきた。
相手方はまだ来ていないが、高そうな名前の紅茶を頼んでから店員と付き人を外へと出した。
この部屋には一見スーザンだけ。扉や壁は分厚く、外に声や音が漏れることはない。カメラや盗聴器の類もないことは竜郎が確認済みなのも伝えてあったので、安心してスーザンは明後日の方向を向いて竜郎たちに呼びかけてくる。
「あの、アンさん。エーイリさん。ここにいるの?」
「うん、いるよ~」
「私もここにいるよ」
エイリアンの方の姿を薄っすらと彼女に見せ、こちらの場所を明かしておく。
声をかけた方角とはまったく違う場所だったので、スーザンは少し恥ずかしそうに愛衣たちの方へと視線を向けた。
「私たちはここで大人しく見てるけど、何かしてほしいことがあったらその時計を使って教えてね」
「我々が何かアクションを起こしたくなったときも、それで通話するから、いきなり声をかけても驚かないように気を付けてくれると嬉しいかな」
「ええ、分かったわ。任せておいて」
自信に満ちた表情でそう応えてくれるスーザンに、竜郎たちは頼もしさすら感じた。
「もう一方の……えーと名前は確かロレナ・ベイカーさんの方はまだこないのかな?」
「ロレナさんから連絡はないけれど、少し早いからもう少しかかるかもしれないわね」
などと話していると、店に誰かが入ってくるのを察知した。進行方向からしてこの部屋で間違いなさそうだ。
「来たみたいだ。じゃあ、私たちはここにいるから好きなようにやってくれていいからね」
「そうそう。いざとなったら忘れてもらうこともできるから気軽にね」
「あはは……、ええ、分かったわ」
気軽に人の記憶を消さないでほしいと苦笑しながら、スーザンはスッと姿勢を正してベイカー家の令嬢ロレナが来るのを待った。
「お待たせさせてしまったかしら」
「いいえ、こちらもついさっき来たところだから気にしないで。こんにちは、ロレナさん」
「ええ、こんにちは。スーザンさん。何か面白い話があるなんて言うから、今日はとても楽しみにしていたのよ」
「それは良かったわ。きっと楽しんでもらえると思うから、期待してて」
「まぁ、スーザンさんがそういうならハズレることはないわね」
やってきたのは25、6歳といった見た目をした、美人というよりは可愛らしい印象を受ける暗めの茶色でフワフワとしたウェーブのかかった長髪の女性──ロレナ・ベイカー。
けばけばしくない程度の化粧に、両耳にはダイヤらしきピアス。右手の小指にも同様の指輪。首にもダイヤとエメラルドのネックレスが下げられている。
その三品だけでも相当な値段が付くことは素人目にも分かった。
『想像してたより、宝石狂いです! って感じはしないね』
『確かに。どれも大きすぎず服装に合うようにしてるし、大きな宝石を着けてれば満足って感じの人ではなさそうだな』
竜郎たちの想像の中の彼女はデカデカとした宝石をこれ見よがしに身に着けているものだと思っていたのだが、時と場所に合わせたコーディネートがちゃんとできる大人の女性だったようだ。
そんな印象を竜郎たちが抱く中、当の本人たちは軽い挨拶をしながら店員に紅茶を頼み、ロレナはスーザンの対面側の席にゆっくりと腰を落ち着かせる。
それから本題に入らずにまずは簡単な世間話をしはじめ、頼んだ紅茶がくればそれに優雅に口をつけお互いにのんびりとした空気を味わったところで、ようやくスーザンは目的に向かって舵を漕ぎ出した。
「あのね。実はあなたとお話がしたいと言ったのは、とあるモノをたまたま手に入れられるようになったからなの」
「……とあるモノ、ね。何かしら、興味があるわ」
とはいうものの、ロレナは自分を呼びつけるのだからと半ばその『モノ』についてはあたりを付けていた。
どうせダイヤか何かの宝飾品、または大振りの原石か何かだろうと。
しかしそれでもスーザンは──というよりライト家は、ベイカー家よりも多くの総資産を有する大資産家。
そんな家の女性がわざわざ面白いと言って持ち掛けてくる宝石関係の代物とはいったい何だろうと強い興味も持っていた。
けれど露骨にそれを出しては下品極まりないと、ロレナは微笑を浮かべるだけに留めて見せる。
だがスーザンの方が一枚上手で、その裏に隠された強い興味の色もしっかりと感じ取っていた。
まずは白いシルクのような綺麗な布を持ってきていたカバンの中から出し、机の上に広げていく。
まさか現物をそのまま今日見られるとは思っていなかったのか、ロレナはその行動に少し目を丸くする。
そんな彼女の驚きに微笑みながら、スーザンはさらにカバンから最初の逸品を取り出して布の上に静かに置いた。
「…………んん? これは…………ガーネット? いや、ダイヤ……? でもなさそうだけど……いったい」
最初に置いたのは黄金水晶を、リアが綺麗にファセットカットした見本品。
すぐに黄色系の色がある宝石類がロレナの脳内にいくつもよぎるが、彼女の目から見てもそのどれにも該当せず目の色がギラリと切り変わったように竜郎や愛衣の目には映った。
それもそのはず、異世界では水晶と言っているが、明らかにただの水晶ではない黄金の輝きを宿した特別な宝石なのだから。
「ね、ねぇ。スーザンさん? 私はこれでも宝石を見る目ならそれなりに自信があったのだけど、お恥ずかしながらコレがいったい何なのかすぐには分からないの。
だから何という宝石なのか、私に教えてくれないかしら」
「ふふっ、興味を持ってくれたみたいね」
「ええ、そうね。興味を持ったわ。それで? これは何なのかしら?」
余裕がなくなってきたのか、迂遠に話を伸ばすスーザンに対してロレナが少しだけ不機嫌な顔になる。
だがスーザンの方は落ち着いたまま、相変わらずのスマイルを保ちつつ、ロレナが聞きたかった答えとは違う言葉を放つのであった。
「ねぇ、ロレナさん。あなた、宇宙人って信じる?」
「……………………………………はぁ?」
前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。




