第233話 あの日の少年は
ピーターの義娘にあたるスーザンとベイカー家の令嬢とのお茶会への参加を決め、いろいろと彼女と打ち合わせをしながら日々を過ごす竜郎たち。
そしてやってきた当日、竜郎が学校から帰宅すると玄関の前に一人の少年が待っているのが視界に映る。
背は竜郎より少し低い程度で、体型はガチムチのプロレスラー体型。頭は短く狩り上げた丸坊主の少年だ。
その少年の方も竜郎を見つけると、がばっと勢いよく頭を下げた。まだ玄関までそれなりに距離があるというのに、竜郎がたどり着くまで、それどころか辿り着いてもそのままの姿勢で。
なんとなく見た覚えのあるシルエットなのだが、頭を下げたままで後頭部しかうかがえない。
意味も分からず頭を下げられた状況に居心地の悪さを感じながら、竜郎はいぶかし気にさらに距離を詰めていくとその少年が勢いよく顔を上げ──。
「この前は迷惑をかけてすいませんでした!」
──そう大きな声をあげてすぐにまた頭を下げた。
竜郎は「なにこの人?」と言わんばかりに後ろから顔を出す楓と菖蒲を制しつつ、何が何だか分からないままに声をかけてみることに。
「……えーと、どちら様で?」
もっともな意見を投げかけると、その少年の方は「あれ?」と小さく首をひねりながら今度こそちゃんと頭を上げて顔を見せる。
「覚えてないですか? 畑中です」
「はたなか……畑中……? あぁ! まさ──マキャベリくんか!」
「……は、はい。そうです。それともう、そっちで馴染んじゃってるならマサオでいいですよ……?」
そう言いながら項垂れたのは奈々とリアに冤罪を被せようと画策し、竜郎を学校に呼びつけることになった事件を起こした張本人であるところの畑中真伽辺璃少年だった。
確かにこんな顔にこんな体型だったと、竜郎は手を鳴らして当時のことを思い出しす。
「いや、ごめんごめん。ついね。それにしても前とは雰囲気というか、髪形が全然違うから気が付かなったよ。
それでマサオくんは何しに……というか、謝りに来てくれたのか」
「あぁ、ほんとにマサオって呼ぶんですね……」
真伽辺璃という名前で呼ばれるよりはいいかと、彼は竜郎に聞こえないほど小さくそう呟きながら自分で自分を納得させてから口を開く。
「はい。この前は迷惑かけしてすいませんっした!」
「うん分かった、許すよ。まぁ奈々やリアはもう気にしてないし、俺も大した手間だったわけでもないからね。
それにあんなにキメキメだった髪をそこまでバッサリしてきただけでも、君の誠意は十分伝わったよ。わざわざありがとう」
「い、いや、お礼なんて言われるようなことじゃないです。もともと俺が全部悪かったわけですし……。
それでその……理亜さんと奈々さんはまだ帰ってませんか?」
「え? どうだろ。チャイムは鳴らさなかったのかい?」
「アテナさんって人が出てくれて、まだ帰ってないっすよ~って言われたんでここで待っていたんですけど」
「なんだ。それなら中で待ってくれててもよかったのに。寒いだろ? 2人ももうすぐ帰ってくるだろうし、おいで」
子供……というほど子供には見えないが、彼もれっきとした小学生だ。いくら悪意を向けられた相手とは言え、反省もしているようだし家に上げるくらいいいだろうと竜郎がさそうも頑として首を横に振られてしまう。
「2人にちゃんと許してもらえるまでは、家に上がるなんてできません。
それにこれまで俺が酷いことをしていたやつらにも、まだちゃんと許してもらえてないんです。
だからもし今後、この家にお邪魔することがあるとしたらそれが全部すんでからです」
「はぁ、思っていた以上に真面目……というか頑固なのか。君は」
「なんですかね。でも、そうじゃないと俺は理亜さんに顔向けできないんで……そのすいません」
「理亜さんに、ね。分かったよ。俺はもう何も言わない。さっきも言ったが、もう帰ってくるだろうし好きなだけ待っていてくれ」
「はい! ありがとうございます」
変われば変わるものだなぁと感心しながら、気持ちのいい感謝の言葉を受け取り竜郎は楓と菖蒲を連れて家の中へと入っていく。
(根はいい子だったけど、親の影響でねじ曲がっただけだったのかもなぁ)
ついでに家の周りに少年を立たせておくとご近所への外聞が悪そうだったので、魔法で注目されないようにする。
それから念話で奈々とリアに連絡を入れ、彼のためにできるだけ早く帰ってくるように伝言も入れておいた。
念話によれば思ったよりも近くにいたようなので、温かい飲み物でも出そうとしていた手を止めた。
(あの様子だとそれも受け取ってくれそうにないしな)
待ち時間が長いようなら無理矢理にでも渡すつもりだったが、その必要もないようだ。
やがて家の中まで聞こえる真伽辺璃の謝罪の声がまた響き、奈々たちが帰ってきたことを知る。
好奇心のままに竜郎が解魔法と音魔法で盗み聞きをしてみれば、奈々と理亜ももう気にしてないと謝罪を受け取ったことが分かった。
「あの様子ならもうあの子は大丈夫そうだな。そのまままっすぐ育ってくれるといいな」
「「あう?」」
なんとなしに楓と菖蒲にそう声をかけるが、2人はよく分からないと首を傾げるのであった。
ネット環境にトラブルがあり対応に追われあまり書けませんでした(泣
明日できそうなら本来今日の分に収まるはずだった分を投稿します。