第229話 手加減の練習
学校生活の傍らでピーターたちとメールでやり取りをしたり、例の宝石狂いと呼ばれる母娘について調べたりとそれなりに忙しく過ごし日曜日を迎えた朝。本日は球技大会でのいい塩梅の手加減を探るために、ピクニックもかねて公園まで行く。
集まったメンバーは竜郎と愛衣、楓と菖蒲といういつものセットに加えカルディナ、奈々、リア、ニーナ、フローラ、ランスロット、ミネルヴァでのお出かけである。
ジャンヌと月読は最近はまっている海外ドラマを、ぶっ通しで見続けている。
アテナや天照はPCゲームのMMOに手を出し、新しくできたゲーム友達たちと何やら忙しそうにしている。
レーラは単身プチ旅行、ガウェインはバーを巡る旅の途中。
両親たちは子供たちだけで行っておいでと自由に余暇を楽しんでいる──と、それぞれの理由で今回の動向に加わらなかった。
そして今は、公園に向かってみんなで仲良く散歩中である。
「ジャンヌちゃんと月読ちゃんは寝る必要がないことをいいことに、何十時間もぶっ通しで見てるよねぇ。そんなに面白いのかな、あのドラマ」
「さぁなぁ。けどあれシーズン10とか越えてるみたいだし、まだまだ見続けるだろうな」
「寝ないでいいというのなら、アテナさんや天照さんも相当ですよ」
「リアの言う通りですの。24時間ほぼいるものだから、ゲームのお友達とやらに『何人でそのアカウント使いまわしてるの? とか聞かれたっす~』とか、平気な顔で言ってましたの」
「食事すら必要ないからね。あの子たち……」
寝食も排泄の必要すらないアテナたちにかかれば、何年だろうとPCの前で戦い続けることができるだろう。
「このPCじゃスペックが足りないっす! とか言って自分たちでPCパーツから買いに行って、自分たちで組み立てはじめたときからヤバそうだなぁとは思っていたんだけどな」
「ネット環境もヌルヌール光で、有線接続じゃないとダメと言っていましたね。
LANケーブルをご自身たちの部屋がある地下へと通すために、穴をあけると騒いでいたのには私も驚かされました」
ミネルヴァも来てそうそう何を言っているんだろうと面喰ったときのことを思い出し、しみじみとそう語る。
「アテナ姉さまはそういうことにこだわらない性格だと思ってたから、フローラちゃん意外だったな♪」
「豪放磊落に見えてアテナ姉上もあれで戦闘では、自分なりのこだわりを持っていたのだ。
ゲームとやらでも、凝り出せばどこまでもこだわるに決まっている」
「そういうランちゃんはゲームとかやらないの? フローラちゃんも可愛い動物さんと暮らすゲームをちょこちょこやってるんだよ♪ 一緒にやる?」
「フローラ姉上、だからランちゃんと呼ぶなと……。それに我は精神集中のために、プラモデルを作るのに忙しいのだ。
それにネットで見たジオラマとやらにも挑戦してみたいし、アクアリウムとやらも興味が引かれるのだ」
「そっかぁ。じゃあ、ミネルヴァちゃんはどお?」
「私はむしろゲームやアプリを作ってみたいですね。やるのではなく。
経験のためにやるのも、やぶさかではありませんが」
フローラは料理の研究などもしているが、そこいらを日光浴もかねてお散歩し近所のご婦人方と仲良くなっていたり、お昼寝に漫画やゲーム、裁縫や観葉植物や花々を育てたり香水を自分で作ったりと細々とした趣味にも手を広げはじめた。
ランスロットは手持無沙汰だった彼にネットを教えて趣味を探してみればと竜郎がアドバイスをしてみれば、数日後にはプラモデルを買い込み、組み立てから塗装まで凝りに凝った作品を作りはじめた。お気に入りはロボットではなく戦車系らしい。
またミネルヴァはプログラミングに元から興味を持っていたようで、こちらに来るなり専門書やネットで情報を集めながらもくもくと勉強中。
皆いろいろとやりたいことができて良かったと竜郎も嬉しく思っていると、頭の上でくつろいでいたニーナが何かを見つけもぞもぞと動きはじめた。
「あれ? ママ、あっちにいるのってママのお友達じゃない?」
「ん? どこどこニーナちゃん」
「あっちだよー」
「あ、ほんとだ。おーい、桃華~」
遠目に見えたのは愛衣のクラスメイトであり、友人の杉下桃華。
ブラック系の花柄スカートに白のニットを着用し、その上からカーディガンを羽織ったラフな格好でプラプラと大きなシベリアン・ハスキーを散歩していた。
向こうはどこからか聞こえた声にキョロキョロと見渡して、かなり遠くから手を振り近づいてくる愛衣をようやく発見した。
「おー愛衣じゃん、奇遇だね。そっちは波佐見くんとデー…………なんの集まり?」
「えーっとねー」
桃華の目に見えるのは、知り合いでもある愛衣と竜郎。その2人と手を繋いで歩く幼くも可愛らしい女の子2人(楓と菖蒲)。
同学年くらいの、とてつもなく顔のいい少女が2人(フローラとミネルヴァ)。しかも片方は明らかに外国人な見た目。
小学生くらいの可愛らしい女の子2人(奈々とリア)
同じく小学生くらいの、将来有望そうな整った顔をした外国人の少年(ランスロット)。
スズメくらいの小さな鳥(カルディナ)が竜郎の肩にいて、頭には大きなトカゲ(ニーナ)が乗っかっている。そんな光景だ。
初めて見る顔ぶればかりな上に、統一性もない集団。いったいなんなのだろうと、本人たちを前にして口から零れ落ちてしまった。
「この子たちはたつろーの親戚? みたいなもんだよ。気にしないで。
そんで今から私たちはピクニックがてら球技大会の練習しに行くの」
「親戚……。明らかに海外チックな子もいるけど……」
「たつろーのお父さんの兄弟が、そっち系の人と結婚した……んだったよね?」
「ああ。そういうことだな」
「へぇ~。ちなみにそこの小さな男の子は?」
「ん? ランスロットくんのこと?」
「ほうほう。ランスロットくんか」
「うぬ? なんなのだ?」
「五年後が楽しみだね! お姉さんと連絡先交換しない?」
「う、うぬぅ?」
「もー、ランスロットくんが困ってるでしょ」
「あははっ、ごめんごめん。逆光源氏計画を画策したくなるくらい可愛い子だったからつい」
「か、かわいい……そんな馬鹿な……」
「えー、ランちゃんは可愛いよー」
「ぐぅ……」
桃華の可愛い発言にショック受けていたところへ、姉からの追撃が入りランスロットは思わず膝をついた。
ミネルヴァが気づかわし気に彼に手を貸す中、桃華の関心は別のところへと移っていく。
「「うー」」
「ん? どったの、おちびちゃんたち。うちの黒鉄が気になるの?」
楓と菖蒲が桃華が連れているハスキー犬を、触りたそうに身を乗り出していた。
そして当の黒鉄は、2人に本能的な恐怖を抱いているのか硬直して微動だにできない状態に陥っている。
しかしそうとは知らずに、飼い主は気軽に楓と菖蒲に笑いかけた。
「乱暴にしないで、よしよしするくらいなら触ってもいいよ。ああ、でもこの子おっきいから恐いかな?」
「「うー?」」「キャウーン……」
むしろ恐がっているのはあなたのわんちゃんです──とは言い辛い雰囲気なので、竜郎は声を出さず眷属パスを通してうちの豆太とは比べ物にならないくらい弱い生き物なんだと懇切丁寧にイメージで伝えてから、触ってもいいという許可を出した。
「「あーうー♪」」
「ゥ……ゥ…………」
黒鉄からしたら家よりも大きな猛獣に、ペロペロ舐められているように感じていたのかもしれない。それくらい撫でられているときの硬直っぷりはひどかった。
あまりにも可哀そうだったので、最終的に竜郎が呪と闇魔法で楓と菖蒲に恐怖を抱かないように暗示をかけて事なきを得た。
「「うっうー!」」
「よかったねー。2人とも。お姉ちゃんとわんちゃんにありがとは?」
「「あうあとー!」」
「いやーん、この子たちめっさかわいい!!」
犬の苦労などしらず、飼い主は恐怖の対象であった二人をギュッと抱きしめるのだった。
そんな一幕があったこともあり、公園にも桃華が付いてくることになった。
最近は竜郎と愛衣も一般的な目線を忘れかけてしまっているので、彼女の反応もいい参考になるだろう。
「久しぶりに来たけど、けっこう閑散としてるな。人気ないのか?」
「バスケのコートとか誰もいないねぇ」
散歩に来ている老人はちらほらいるが、子供たちはほぼいない。それなりに広いほうの公園に来たので、日曜はもっと賑わっていると思っていたがそうでもないようだ。
「しかし我らにとっては動きやすいのだ」
「それもそうですね。それで、何からやるんですか? 兄さん」
「バレーは最悪場所さえあればなんとなくできそうだけど、バスケはゴールとかコートがないと微妙だから先にバスケのほうをやってみよう」
誰も異存はないようなので、さっそく公園のバスケコートへわらわらと入っていく。
ちなみにボールは通販サイトでどちらも3個ずつ予備として買ってあるので、最悪木端微塵に消滅させても代えはあるので安心だ。
竜郎、菖蒲、カルディナ、奈々、ランスロット、ニーナ。
愛衣、楓、リア、フローラ、ミネルヴァ、桃華。
の二チームに分かれる。人数はおかしいが、お遊びの延長なので関係ない。桃華などスカートなので、一般人代表としてもそれほど動けはしないだろう。
ちなみにカルディナとニーナは少女に見えるように途中で認識を変換しているので、その2人が参加することにも桃華は違和感を感じていない。
「じゃあ、最初は桃華がボールを持ってていいよ。多分最初に持ってないと、触れなくなると思うから」
「小さい子だっているんだから、いくらスカートでもなんとかなるっしょ」
気軽にテンテンとドリブルをしながら、待ち構える6人へとゆっくり進んでいく桃華。彼女がコートの半分を越えたらスタートという暗黙の了解がある中で、一歩センターラインを越えたところで奈々が動き出す。
「もらいっ──ですの」
「え?」
桃華が理解する前に接近した奈々があっさりとボールを奪い去り、そのままゴールへとドリブルしながら突進していく。
小学校で磨かれた手加減を駆使しているので、あくまで地球人の範囲内の動きではあるが、小学生の動きではない。
「させません!」
「リアなんかには取れませんの!」
「なら私がとちゃうよーっと」
「あっ!」
リアが牽制し奈々が華麗なドリブルで通り抜けようとした先で、待ち構えていた愛衣によってボールが奪い取られ再びボールはセンターラインを越えていく。
「えーと……え?」
「我に任せるのだ!」
「よっ」
「俺が取る」
「ほいっ──あっ! とられた!」
「うっうー!」
ランスロット、竜郎は何とか躱した愛衣だったが、その後ろに隠れていた小さな伏兵──菖蒲に注意を割けていなかった。
取られたボールはまたセンターラインを越えて逆サイドへ。
「あっれー? おかしいな……。今どきの小さい子って、あんなに動けるんだぁー?」
「ミネルヴァちゃん! 止めて!」
「お任せを」
「フローラちゃんもサポートするねー♪」
「う、うーん?」
お遊びとは? と問いたくなるほどハイレベルな攻防が繰り広げられ、桃華は自分よりも運動ができなかったはずの愛衣へと視線を向けながら、コートで棒立ちになってしまった。
けれどだんだんとそんな彼女に気が付きはじめ、接待プレイがはじまってからは程々の展開にはなったが、それでも桃華は尋常ではないほどに動けるスポーツ集団に唖然としたまま時間が過ぎていった。
そしてバレーでは、桃華は休憩と称して外から見る側に。
菖蒲はハスキー犬の黒鉄が気になるのか桃華と一緒にお休みしながら、竜郎に出してもらったお絵かきセットで犬の絵を描きはじめる。
ラロ・ジャマスのニーナの絵に触発されてから、彼女はお絵かきに興味を持ちはじめたらしい。
まだまだ拙いながらも、ちゃんと立体的に足の奥行きもだせ、黒鉄の毛のフワフワ感も出そうとしているのが感じ取れる絵だと桃華は感じた。
「うまいねー。菖蒲ちゃん」
「ぅーー」
「うん……、ほんとにうまいね……」
可愛らしい菖蒲と愛犬に癒されながらも、そのすぐそばでは即席で立てたネットをはさみ、高校生というスペックを超えていそうな漫画のようなバレーボールが繰り広げられていた。
時には熱が入りすぎて力加減を見誤りボールが割れてしまうこともあったが、そちらはさすがに竜郎が誤魔化したが、それでも周りにいたお年寄りも足を止めてしまうコート上の争いが繰り広げられている。
どちらもボールを割らないことを前提にした力加減なので、ボールが下に落ちることすらなく延々とラリーが続いているのだ。これを見たら思わず見入ってしまうのも分かるというもの。
「そうなんだけど……、なんであそこに愛衣がいるのぉ?
うちらの中じゃ一番運動苦手だったのに。不思議だなぁ。ねぇ、そっちもそう思わない?」
「うー?」「クゥーン?」
問いかけられた菖蒲と黒鉄が答えられるはずもなく、どんな不思議現象があればあれほどの急成長を遂げられるのか、お昼のお弁当タイムがくるまで首をひねり続ける桃華なのであった。
前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。




