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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第22話 魔滅のカレヤル種

 エーゲリアの反応をうかがっていると、ふいに幼児を抱っこしている竜郎の背中に何かがくっついてきた。



「パパを独り占めにしちゃだめー!」

「あうあうっ!」



 どうやらニーナは、パパを取られたように感じたらしい。

 背中からよじ登って首に抱きつくと、竜郎の顔の横から頭を出して幼児に抗議する。

 けれどその幼児は負けじと竜郎にガシッとしがみ付く。


 そのときに初めて気が付いたが、この幼児、見た目以上に力が強いようだ。

 試しに解魔法で握力を計ってみたが、とても幼児が出せるものではなかった。


 そんなことに気を取られていると、今度はライオン型の聖竜──ドルシオン種姉妹がいつの間にかやってきて、竜郎の足元からよじ登り腰にへばりつかれた。

 「「ガウガウッ」」と、私も構ってよ!とでもいうように、竜郎にくっついて離れそうにない。


 それを見ていた麒麟型の邪竜──フォンフラー種兄弟以外の幼竜たちが、竜郎に群がってくる。

 そういう遊びだとでも思ったのだろう。


 特にやんちゃ盛りのヴィント種兄弟の兄ヴィータは、竜郎のほっぺをひっぱったり、髪の毛をグチャグチャにしたりとやりたい放題だ。



「ピュィー!」「ヒヒーーン!」「わたくしもですのー」「それじゃあ──ガウー」「「────」」



 そこへカルディナたちも参戦し、カルディナは小さな小鳥の姿で、ジャンヌは子サイ、奈々はいつもの幼女の姿で、アテナは子トラ、天照と月読は杖とスライムに入った状態で竜郎へと突撃し、くっ付いてきた。



「あははっ、もってもてだねぇ、たつろー。

 ここの領地の名前を改名して、たつろー幼稚園にでもしとく?」

「いや、遠慮しとくよ……」



 竜郎がもみくちゃにされている間に、なんとなくエーゲリアの思考もまとまってきたのか、ようやく口を開きはじめる。



「うーん。その子、変なのよねぇ。竜王種ではないのに、私の感覚は竜王種だとうったえかけてくるの。不思議な子ねぇ」

「昔はもっと竜王種がいた──とか、そういう記録は残ってはいないの? エーゲリア」

「いいえ、ないわレーラ。それなら私がすぐに気が付くはずよ──あら?」

「どうかしたのか? 母上」

「ちょっとまって、全竜神様から連絡がきたから──……………………」



 突如出てきた全竜神の名前に、ここにいる全員が間違いなくあの子のことだろうと、黙って話が終わるのを見守った。


 その数分後──すっきりした表情になったエーゲリアが顔をあげると、目の前にレーラがキラキラした目をして待っていた。

 レーラは相変わらずねぇ──と苦笑しながら、エーゲリアは今聞いた、竜郎が生み出した幼児の真相を語ってくれた。



「どうやらその子は、生まれていたかもしれない七種目の竜王──魔滅のカレヤル種という存在らしいわ」

「生まれていたかもしれない七種目? どういうことだ、母上」

「実はね──」



 現在この世界に存在する竜王種は──。

 聖雷のドルシオン種。邪炎のフォンフラー種。狂嵐のヴィント種。

 蒼海のラマーレ種。森厳のフォルス種。沃地のソルエラ種。

 ──の計六種である。


 しかしそれ以外にも、竜王種を生みだす際の候補としてあがっていた種が何種かいたらしい。

 それらの種は生み出した六竜王種でも足りないと、当時のイフィゲニアが判断したら、順次生みだす予定だったのだ。


 けれど結果的に六種の竜王で十分期待通りの役割を果たしてくれ、その分イフィゲニアやその側近眷属たちは世界の安定に回ることができたので、生まれることはなかった。


 なので一度も生み出されてはいないが、情報だけはこの世界に存在していた幻の種と言ってもいい存在らしい。



「どんな竜王種にするかという話し合いに、ニーリナも加わっていたという話はしたでしょ?

 だから彼女はその存在しない竜王種の情報についても、事細かく知っていたの」

「それならば、生まれることのなかった竜王種を引き寄せることもできるというわけか……」



 帝国にとって重大事件をこうも短い期間にポンポン起され、イシュタルは頭が痛いとばかりにため息を吐いた。



「ねーねー。エーゲリアさん。さっきその子のことを『まめつの~』とか言ってたけど、どういう竜王種なの?

 属性とか全然わかんないし、どう見たって竜には見えないんだけど」

「魔を滅すると書いて魔滅ね。一言でいうのなら、その子は対魔法特化の竜と言ったところかしら」

「え? それって、俺みたいな魔法職にとっての天敵みたいな子ってことですか?」



 なんとか群がる子供たちから距離を取り、幼児とニーナとドルシオン種姉妹だけを体に付けたまま質問をする。

 そのしまりのない姿に、エーゲリアは思わず笑ってしまいながら答えてくれた。



「魔法系に優れた魔物やら魔竜も、当時はたくさん出没していたから、そういう子がいたら国防の役に立つのではないか。というところから考え出されたようね。

 だからタツロウくんが言ったように、その子は魔法使いに対しては無類の力を持つようになるでしょうね」



 基本的に物理系によったステータスになるらしいが、耐久力が低くなるかわりに、魔法抵抗力が異常に高くなる。

 それでいて物理魔法どちらも使いこなせるようになりやすい竜種には珍しく、魔法系のスキルは一切使えなくなる。


 けれど三種類の武術系の才能を選ぶことで、選択した武術職計十三種のうちの三種を極めることができるようだ。


 またこの子は人竜の最初期案として考えられていた竜でもある。

 人の形にすることで、普通の竜よりも道具を使うことを得意とする種をという理由から、いつか生み出してみようという計画があったらしい。


 しかし結局、竜王種はこれ以上必要とされず、この種は生み出されることはなかった。

 なので世界最初に生まれた人竜種、ではなくなってしまったというわけである。



「それとね、その竜には見えない容姿は、武神様をモデルに作られたからだそうよ。

 クリアエルフを作るときは魔神を見本にしたのなら、人竜種は武神を見本にしたらどうかということになってね。

 そのほうが武神様の配下の神々にもウケがいいでしょうし」



 竜郎は以前、人間の次元に合わせたらこういう姿になるという武神の姿を見たことがあった。

 確かに彼女は黒髪に黒目で、言われてみればやや鋭い目つきもこの子と似ているように感じた。

 さらに能力的にも、その配下──例えば体術の神や剣の神などのウケがいい方が、この子の力になってくれやすいだろう。


 ちなみに、竜王種にだけあるマークは『神印』と呼ばれ、すでにどの神が恩恵を授けるか決まっている子ですよと示している証拠らしい。

 だからこそ成長するだけで竜王種は神格者になることができるし、分かるものが見れば、そこを確認するだけで明確に竜王種なのだと判別することができるというわけだ。


 そしてこの子の場合は少々特殊で、まだどの神から恩恵を授かるか未定状態なので神印はないそう。

 のちにこの子がどの武術系スキルを選択するかで、神印の形も変わってくるらしい。


 ──と、竜郎がエーゲリアからレクチャーを受けていると、いつの間にかレーラがノートと筆記具片手に間近に立っていることに気が付いた。


 その目はまるで獲物を狙う狩人のようである。



「ねっ、ねぇタツロウくん。ちょ~っとでいいから、私にもその幻の竜王種ちゃんを抱っこさせてもらえないかしら?」

「え~と……」

「あうーー!」



 少しでも竜郎から離そうとすると、余計に服にしがみ付いてくる。

 その力は凄まじく、むりやり引っ張れば竜郎の服が破れるだろう。



「そんなぁ……。じゃ、じゃあ、においは? 感触は? 舐めたらどんな味がするの?」

「レーラさん……。なんかヘンタイさんっぽいよ……?」

「特に最後のは、女性だからといってもヤバい気がします……」



 皆から変な視線をむけられるが、レーラは気にしない。

 そんなことを気にするようなら、もっと普通のクリアエルフとして生活してきただろう。


 しかし不穏な空気を察したからか、竜郎から全く離れない幼児は触らせることすら拒んでしまうようになる。

 抱っこされた状態なら、愛衣や他の皆には触らせてくれるというのにだ。


 それにはさすがにこたえるか──と思いきや、「面白いじゃない」と言ってレーラはいつかリベンジしてやると誓い、一時距離を取ることにしたようだ。


 こういうことをすると、この種は他の人と違う対応になるというデータが取れたということだけでも、十分にやったかいがあると思ったらしい。


 そしてとうの幼児は、竜郎と非常に近しいなにかを感じる仁や美波にも興味を示しはじめた。

 また竜郎が強い愛情を抱いているおかげなのか、愛衣にもそれなりに興味を持ちはじめてくれているようだ。


 この分なら、もう少しなれたら自分以外にも懐いてくれるだろうと少しほっとしながら、竜郎は先ほど抱いた疑問をエーゲリアに問いかけた。



「そういえばさっきエーゲリアさんは、『他にも数種』生まれていたかもしれない竜王種がいると言っていましたが、それらも今後生み出すことはできるんでしょうか?」

「その子が生みだせた時点で不可能ではないと思うわよ。もし機会があったら、試してみるといいわ。

 私もレーラではないけれど、この歳になっても新しいことばかりでとても楽しいの。だからタツロウくん。がんばってね」

「これからもエーゲリアさんに楽しんでもらえるかどうかは分かりませんが、僕らはこれから目一杯この世界を楽しもうと思います」

「ええ、それでいいのよ。この世界の住人として、応援しているわ」



 後方でじっと静観していたレーレイファも、最近特に楽しそうに笑うエーゲリアが見られることで、竜郎たちには感謝していた。

 なので彼女もまた、心の中で竜郎たちへとエールを送った。



「それじゃあ、最後。この子の亜種が生みだせるかどうかも確認して創造実験を終わりにしましょうかね」

「より多くの情報を集積していくのは、実験をしていくうえでは大切なことですからね」



 リアもいろいろな物づくりをするうえで実験を何度もしてきた覚えがあるからこそ、でてきた言葉なのであろう。

 竜郎はそれに頷き返しながら、今もなお竜郎からくっ付いて離れない幼児が生まれた時と同様の素材を使って《竜族創造》をこころみた。



「あうっあー」

「まあ、そうなるわな」

「でもちょっと違うね。良く見ると、ちっちゃな角生えてるし」



 長い黒髪に黒目、服装も同じ。けれど1センチほどの小さくプラチナ色の角らしきものが、その子の額から二本つきでていた。

 また容姿も、やや釣り目なのが最初の生まれた子の特徴だとすると、この子はややたれ目で、角がなかったとしても二人並べてよく見れば見分けがつく双子──といった印象を受けた。


 この子もまた竜郎に手を伸ばし抱っこをせがむので、片方は右手に抱いて、もう片方は左手で抱っこ。

 ついでに頭の上にはニーナが居座り、お腹にはドルシオン種姉妹がくっ付いたままである。



「ふふっ、本格的に幼稚園化が進んできてるね」

「ルシアンももっと大きくなれば、この子たちの仲間入りするだろうしなぁ。

 まあ、生みだしたからにはちゃんと大きくなるまで育てないとな」

「みんな勝手に大きくなっていきそうだけどね」



 ちびっ子たちを体にくっつけた竜郎に、愛衣は優しく笑いかけながら彼に寄り添い軽く頬にキスをした。

 すると竜郎にへばりついている面々が興味深げに眺めてくるので、愛衣はちゅっちゅとニーナや幼児姉妹、ドルシオン姉妹の頬にキスをしてみた。


 反応はまちまちだったが、存外悪くなさそうな表情をしていた。


 竜郎や愛衣の両親たちも次々と出てくる面々に、まだまだついていけずに静かにしているが、それでも竜郎が抱っこしている子たちを愛らしそうに見つめていた。

 おじいちゃん、おばあちゃんと言ったら怒るだろうかと、竜郎は密かに思ったという。


 ──そして少しの間、竜王種の子たちに自由に遊ばせていると、名付け名人とどこかの誰かに呼ばれている愛衣の考えもまとまったようだ。

 もちろん、みょうちくりんな名前にならないように、竜郎が相談役としてついていたわけだが。



「名前を発表していきまーす! まずは森厳のフォルス種兄弟からね!」



 これまで二種の竜王種につけてきた名前の法則としては、ヴィント種ならヴィータ。ソルエラ種ならソフィアといった、その種を示す頭文字を頭につけていた。


 またその亜種である弟妹には、ヴィント種ならアヴィー。ソルエラ種ならアリソンといった、頭文字に亜種を示す「ア」をつけて、その種を示す文字のどれかを名前に入れるというものだった。


 それらを踏まえて──。


 竜脚類に似た外見をもつ森厳のフォルス種には、『フォルテ』。その亜種の弟には『アルス』と名付けた。


 ライオンに似た外見をもつ聖雷のドルシオン種には、『ドロシー』。その亜種の妹には『アーシェ』と名付けた。


 半狐半水龍といった外見をもつ蒼海のラマーレ種には、『ラヴェーナ』。その亜種の妹には『アマリア』と名付けた。


 麒麟に似た外見をもつ邪炎のフォンフラー種には、『フレイム』。その亜種の弟には『アンドレ』と名付けた。


 そして竜郎から離れない幼児二名──魔滅のカレヤル種は、黒髪に黒目と日本人にも見られる特徴を持っていることも考慮して、『かえで』。その亜種の妹には『菖蒲あやめ』と名付けた。



「えーと……フォルテ、アルス、ドロシー──────カエデ、アヤメだな」



 イシュタルは、竜郎たちの領地内にいる竜王種とその亜種の幼竜たちの名前を、なにかの書類に書き記していく。

 それを書き終ると、イシュタルは母親のエーゲリアに渡しなにかを書いてもらうと、また受け取って今度は竜郎に渡してきた。



「これは?」

「イフィゲニア帝国、第三代目皇帝イシュタルが、ここにいる竜王種とその亜種たちの存在を正式に認めたという証だ。

 もし事情を知らない何者かがやってきて、竜王種に気がつきなにか言及をしてきたとしても、これを見せればすぐに黙るはずだ。

 なにせ私の名前に──」

「私の名前も書いてあるのですからね。どの地位にある存在であろうと、誰も文句は言えないわ」

「それはもしもの時、穏便にことを済ませるのに一役買ってくれそうですね」

「あと、これもだ」



 もう一枚渡されたので素直に受け取ってみると、そこにはニーナの名前が記されていた。



「もしニーナがニーリナの存在を継いだことに気が付いたモノがいて、そいつが何か言ってきたらみせてやれ。

 こちらも私と母上が一筆してあるから、効果は絶大だぞ」



 イシュタルはニッと不敵な笑みを受かべた。それに対して竜郎は、感謝の気持ちを口にする。



「──ありがとう、イシュタル。そしてありがとうございます、エーゲリアさん」

「当然のことをしたまでだ」

「ええ、そうね」



 二人はそろって竜郎に笑いかけてくれた。

 これでもしものことがあっても、いたずらに第三者と揉めることは回避できるだろう。

 竜郎はその二枚の書類をありがたく受け取り、なくさないようにとすぐに自分の《無限アイテムフィールド》へと収納したのであった。

次回、第23話は2月8日(金)更新です。

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