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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十二章 世界間貿易足がかり編
229/451

第228話 順応していく異世界人

 豪邸探索を終えた月曜日。学校でのホームルームのためにやってきた竜郎の担任の板垣が、今週の大まかなスケジュールについて話していた。



「あー……というわけで来週の月曜日に球技大会が決まったから、体育がないからといって体操服を忘れないように~。はぁ……」

「けっきょくやるのか」



 中間テストも終えられようやく一息つけると思っていた教師たちだが、いつもならこのくらいの時期に球技大会があったことを思い出す。

 しかし授業時間も遅れてしまっているし……と理由を付けて、今年は中止にしようと話がまとまりかけていたところへ生徒会が割り込み、結局例年通り球技大会を行うことになったらしい。


 普通に授業をやりたかったという雰囲気を隠さない板垣に、竜郎を含めた生徒たちは苦笑するしかない。



「それじゃあ、今日の帰りのホームルームまでに何がやりたいか各自決めておくように。あとは学級委員、頼んだぞ~」

「分かりました」



 前の席に座っていた学級委員の少年に丸投げすると、板垣はさっさと教室から出ていった。



「なぁ、竜郎は何に出る?」



 前の席の洋平がくせっけ頭を揺らしながら振り返り、話しかけてきた。



「俺か? 別になんでもいいんだが」



 種目は男女ともにバレーボール、バスケットボール、ドッジボールの3種目。

 バレーとバスケにあぶれたメンバーがドッジに回ると考えていい。


 もとからスポーツが苦手ではない竜郎だが、それに加えて超人並みのステータスを手に入れた今、学生のお遊びスポーツならば何を選んだところで特筆して結果が変わるということもないだろう。


 周囲に軽く視線を巡らせてみれば、このクラスでのやる気は並み……より少し低め。

 優勝すると校内の購買でのみ使える1人300円分の金券がもらえるが、内申など他に何かプラスになるようなことがあるわけでもないのだから、こういうクラスも当然あるだろう。



「なら俺たちとバレーに出ようぜ!」

「なんで? お前らバスケ部だろ?」



 竜郎自身、大して興味惹かれずドッジボールでいいかなと考えていたところへ、バスケ部の2人──御手洗善樹と権田ダニエル宗助がやってきて誘いをかけてきた。



「朝も夜も毎日バスケしてんだから、こういうときくらい別のことしたいだろ」

「俺と善樹は身長あるから、バレーでも活躍できるだろうしな!」

「そもそもバレーって何人でやる競技だっけ?」

「そこからかよ、洋平……。そんなんじゃ俺たちのバックライトは任せられないぞ」

「もう俺のポジションまで決められてんのかよ……。しかもなんか地味そうなポジションだなぁ、おい」

「洋平ならきっと大丈夫だ! あ、竜郎はセッターを頼むな! なんか器用だし」

「はぁ、まぁ、別にいいが。ちなみにバレーは6人だったはず」

「そう6人であってるぞ」

「そういうお前らはどこのポジションなんだよ」

「俺はレフトアタッカーで、善樹がライトアタッカーだ」

「なんかそっちのほうがカッコ良さそうじゃん、俺がそれやりたい」

「お前じゃ大したスパイクを決められんだろ。俺たちより高いジャンプができるのか?」

「ぐっ」



 バスケで毎日鍛えられている上に身長もある2人よりも──と言われると、このクラスには一人もいないだろう。

 まして洋平は運動音痴とまで言わないが、最近は体育の時間くらいしか運動をしていないので体も大分なまってきている。



「ちなみにセンターとバックレフトは文系クラスのバレー部のやつがやってくれるらしいから、それで6人で決まりだ」

「割とガチで組んできてるな。前々から準備してたのか?」

「おうよ! ここで目立って彼女をゲットだぜ!」

「そういう目的か……」



 ならお前たちのホームグラウンドであるバスケのほうがいいのでは? と竜郎は思ったものの、あえて口に出すことはなかった。


 ちなみに竜郎たちのクラスは愛衣のいる文系クラスと合同で出ることになっている。

 もともとどちらも他のクラスより人数も少なく、男女比も偏りがあるのでそれで他と大体同じになる。


 事前に根回しもしていたようで、あっさりと竜郎たちの出る競技は決まった。




 隣のクラスでも、当然球技大会のことについて話題が上がっていた。



「愛衣は去年と同じくドッジボールでにぎやかし?」

「にぎやかしとはなんだね! 奈々くん!」

「だってあんたスポーツ苦手でしょ? 中学の時も小学校の時もいっつもこういう大会のときは団体の中に紛れ込んでたじゃん」

「ふっ、君はいつの頃の私の話をしているのかな?」

「いや、中学と小学校っていったけど」



 分かってないなぁとばかりに、愛衣は親友に向かって不敵に笑う。



「今年の私は去年までとは違うのだよ」

「なぁに、愛衣ったら、やけに自信満々だねぇ」

「あたぼーよ!」



 会話に加わってきた早百合を筆頭に、いつものメンツが集まって話の輪が広がっていく。



「けど実際、前も言ったが最近の愛衣は運動ができないやつ特有のふにゃふにゃした感じがなくなってる。

 体育でテニスをやったときも真面目にやってないだけで、動きだけは別人のようにスムーズになっていた」

「へぇー、全然気になんなかったけど、澪がいうならそうなのかも」



 柔道部に所属しバリバリのスポーツ少女でもある澪が言うならそうなのかもと、桃華を筆頭に愛衣への見方が変わってきた。



「それじゃあ、愛衣は今回、どれに出ようと思ってるの?」

「う~ん、別にどれでもいいなぁ」

「なんなのよ……」



 あれだけ得意げに語るのだから何か希望があるかと思いきやそうでもなく、友人たちはがっくりと肩を落とした。



「けどそんなに運動に自信があるなら、バスケとかはどう?

 女バスの子はうちにいないけど、女バレの子は何人かいるし」

「そうだなぁ……」



 ドッジボールやバレーボールは、ボールが体に当たるスポーツだ。今の愛衣の力では手加減しても、少し力を入れただけで女子にはきつい。

 けれどバスケはパスや体にぶつかることはあっても、直接人に向かってボールをぶつけに行くことも、ぶつかりに行くこともない。

 3種目の中で、一番愛衣が安心してできるものといっていいスポーツだ。



「うん。バスケやってみよっかな。皆はどうするの?」

「私は正直やりたくないけど、全員参加だしなぁ。適当にドッジでうろうろしてることにする~」

「私もそうするつもり」

「右に同じく」



 和奏、早百合、奈々子はもともとそれほど運動自体に乗り気ではないので、無難なものを選んでいく。



「愛衣がやるなら私もバスケをやってみるかな」

「2人がやるなら私もやる~!」



 愛衣とちゃんとスポーツなどしたことがなく珍しさもあって澪が、そして部活はしていないが運動は嫌いではない桃華が手を上げた。

 さっそく学級委員長にその旨を伝えに行くと、バスケはまだ誰もやろうとしていなかったと殊の外喜ばれ、すぐに出場が決まった。




 その日の帰り道。竜郎と愛衣はそれぞれ楓と菖蒲と手を繋ぎながら歩き、さっそく今日の話題に挙がっていた球技大会の話をしていた。



「愛衣がバスケかぁ。スポーツしてる姿なんて体育のときに少し見るくらいだし、是非応援したいな。なんなら録画して永久保存しておきたい」

「私はともかく他の女の子もいるから、男子が撮影するのは嫌がると思うよ」

「だよなぁ。じゃあ、フローラに頼んでこっそり撮ってもらおうか」

「そんなに私がスポーツしてる姿なんて撮りたいかねぇ」

「めったに見れないレアな映像だからな。ちょこちょこコートを走り回る愛衣とか絶対かわいいだろ」

「えー、そうかなぁ」



 臆面もなく可愛いと言われ、まんざらでもなさそうに愛衣は笑う。



「でもたつろーも、バレーに出るんだよね? 時間がかぶんなきゃ見に行くね」

「出ることになった原因は善樹と宗助が強引にって感じだったが、それならやる気が出てきたな」

「うーん、でもちゃんと出るなら、私らここいらでちょっと手加減の練習をしておいた方がいいかもね。

 土日のどっかで練習とかしてみない? 公園とかにピクニックもかねてさ」

「いいな。たしか近くの公園にバスケのゴールがあるとこもあったし、そのあたりまでのんびりするのもいいかもな」

「でしょー。楓ちゃんも菖蒲ちゃんも、一緒に行こうねー」

「「うー」」



 何かはよく分からないが遊びに行くことだけは理解できたのか、幼い2人も嬉しそうにほにゃっと笑ってくれた。



「フローラちゃんたちもくるかな? あの子たちなら練習相手になっても大丈夫だし」



 多少強いボールが来たところで、仲間たちなら痛くもかゆくもない。どのくらいの力加減でやればいいのか細かく調べるのならうってつけの相手だろう。



「フローラ、ランスロット、ミネルヴァあたりは来てくれるかもしれないが、ガウェインはたぶん無理だろうな」

「およ? そうなの?」

「ああ、最近はすっかり昼夜逆転な生活しているうえに、昨日家に帰ってすぐに日本のバー探訪の旅に出ていった」

「ばーさん帽? なにそれ? おばあちゃんの帽子の旅?」

「いや、それだと意味わからんだろ……。

 豪邸で父さんたちと飲んだときに色々入れ知恵されたらしくてな、地球の酒の飲み方ももっと詳しく研究したくなったらしい。

 異世界で稼いだお金と日本円を俺が両替してまとまったお金を渡したら、さっさと家を出ていろんなところのバーを巡りに行ったんだ。

 普通の飲み屋も軽く覗くみたいだが」

「へぇ、旅ってことは泊りがけ?」

「ああ、ガウェイン用のスマホも渡してあるし、お金もある。それに見た目は恐いし戦闘狂だが、頭はいい。

 日本の一般常識くらいならすぐに身に付けたし、ホテルの予約や泊まり方も自分のスマホで調べたらしいから問題ないだろう。困ったら念話をしてくるだろうし」

「いざとなったら文字通り飛んで帰ってこれるしね」



 ガウェインを害せるものなど竜郎たち以外存在しないので、安心して送り出せるというものだ。

 本人もいつ帰るのか予定していないらしく、最悪自分を置いて異世界に帰ってもいいとまで言われた。

 とはいえ、向こうで何日過ごそうともこちらの時間ではすぐに帰ってくるので、おいていかれたところで竜郎たちと接触できなくなるということもないのだが。



「旅と言えばレーラさんも京都に旅行に行く予定とか言ってたよね?」

「らしいな。自分の足で神社仏閣を巡りながら、異世界の歴史をどっぷりと堪能したいってさ。

 そのまま奈良とかもめぐりつつ島根の方に向かって、最終的に出雲大社なんかも見に行きたいんだとか」

「おお、結構な大旅行だね」

「レーラさんももう、普通にちょっと遠出してホテルとかで泊まったりとかするからな。下手したら俺たちより旅慣れしてるかもしれない」

「下手も何も、異世界じゃあ冒険者してたこともあるんだから、私たちよりもずっと旅行は得意だと思うよ」

「ああ、それもそうか。こっちでも文明の利器と最低限の常識さえあれば、あとはあんまり変わらないのかもしれないし」

「そうそう。あ、でもレーラさんは異世界行くときはちゃんと呼んでねって言ってたよ」

「俺たちがいると見慣れた世界でもみょうちくりんになるから、目が離せないとか言われたなぁ……」

「あははっ、そうなのかもね」



 ランスロットもフローラもミネルヴァも、ガウェインやレーラほど大胆に動いてはいないが、この世界での趣味のようなものをそれぞれ見つけはじめている。

 みんな少しずつこちらの世界にも順応していっているのだと感じながら、竜郎と愛衣はのんびりとちびたちを連れて家に帰っていくのであった。

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 公園にあるバスケのゴールというとストリートバスケ仕様ですか あれ確か高さが公式戦のより10cm低いんですよね。ミニバス用はもっと低いですが
[一言] ドッチボールじゃなくて、ドッジボールじゃ...?
[一言] ガウェインのぶらり旅めちゃくちゃ見たいな…
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