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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十二章 世界間貿易足がかり編
227/451

第226話 今後の指針

 食後のお酒によって心を落ち着かせ、夢心地なまま時間は過ぎ去っていく。

 しばらく竜郎エーイリ愛衣アンが見守っていると、ようやく夢から覚めたかのようにライト一家を代表しピーターが最初に口火を切った。



「こ度は、これほど素晴らしい食材や料理の数々を本当にありがとう。

 老いるくらいには生き、それなりに贅沢をして生きてきた身なれど、これほどのものを味わったことは生涯はじめてのこと。まさしく天上の食材であった……」

「ですね、あなた。ここまで生きてこれたことを、心から感謝したほどです」

「ありがとう。息子のことばかりか、これほどのものまで……」

「ええ、ほんとうに……。食事で涙を流すことがあるとは思っていなかったわ」



 まず帰ってきたのは、もう何度目か分からないほど受け取ったお礼の言葉。けれどその感動は竜郎たちも理解できたので、素直にその礼を受け取った。



「これで、こちらが今のところ用意しようと思っている商品サンプルの紹介は終わりかな」

「我々よりもずっと進んだ技術を持った宇宙人の商品ということで、少しばかり緊張していたのだが、意外と受け入れやすいものが多くて、他のものにも勧めやすそうな品が多かったか。食材以外は……だが」

「あんまり突飛な商品は、実際に見せないと説明もし辛いからねー。あとは少し調整中の化粧水なんかもあるけど、使ってみる?」

「宇宙人が販売する化粧水……興味があるわ、アンさん」

「じゃあ、私が持っているやつをあとで何本か渡すね。別にいいよね? エーイリ」

「ああ、いいと思うよ。人体に害がないことは確認済みだしね。あとは……まあ、健康維持するためのアイテムなんかもありかなぁとは思ってる」



 健康維持のアイテム。これが宇宙人の発言でなければ、若干のうさん臭さが漂うところだが、もはやピーターたちは信奉者に近い域で信頼しきってくれている。

 それはいったいどんなものかと、興味を示した。



「あんまりやりすぎるのもどうかと思うから、持っているだけで健康的な体になったり、疲労回復したりとか、怪我の再生が速まったり、あとはウイルスなんかに対して体の免疫を強くしたりとかかな。

 もっと軽くするなら肩こりをなくす、みたいな物でもいいけど」

「それは持っているだけで、確実にその効果が得られるってことなのかい?」

「そうだね。そういう機能を、日常生活で持っていてもおかしくないものに付ける技術もあるから。

 使い切りの一瞬で大けがや病気を治すアイテムなんてものもできるけど……、こっちはさすがに君たちからしたら魔法みたいに見えてしまうだろうから売るのならそのときは厳選された人になるだろうね」

「私たちが任意で使える治療アイテム……。それさえあれば、もう怪我や病気で心配することはなくなるわ。今後のためにも私たちには売ってもらうことはできないかしら?」



 母としてミカエルの顔が思い浮かんだのか、スーザンが切実そうな声音でそう問いかけてきた。



「せっかくの協力者たちが、すぐに死んでしまうのも困るからね。そのくらいならお安い御用さ。どんなものでもいいから、希望の形状があるなら後でメールをしておいてくれれば、ある程度融通もきかせるよ」

「ありがとう! あの……ミカエルの分も頼むことは……?」

「ああ、いいよ。もしかしたら将来はミカエル君と、こういったやり取りをすることになるかもしれないしね」

「ああ、エーイリさんたちは寿命すらないんだったか。将来を決めるのはあくまでミカエル自身だとは考えているが、我が家といつまでもいい関係が築けるのなら、それにこしたことはないだろう。

 分別が付く年齢になったら、それとなくあなた方のことについて話してみるのもいいかもしれないな」



 エーイリたちとの取引を主導で行える立場など、偶然や幸運が重ならなければ得られるようなものではない。

 もしそれが円満に維持できるのであれば、ライト一族の未来は明るいものになるだろうと、ピーターは自分の死後の展望に思考を巡らせた。



「っと、だいたいこれで、こっちからの話し合いは終わりかな?

 そちらからは何か要望はあるかい?」

「ふーむ。実は先ほどの食材についてなのだが……あれの魅力は万金にも勝るものがある。我々だけで利権を占有するとなると、いらぬ諍いを起こす可能性が高い」

「そうだね、父さん。私の日本人の友人が、食べ物の恨みは恐ろしい──という言葉があると言っていたのを思い出したよ。

 確かにうちの利益はしっかりと保ちつつ、他に分散できるような仕組みを考えたほうがいいかもしれない」

「うーん、我々としてはそちらの好きなようにしてくれて構わないけれど、具体的な展望はあるのかな?」



 竜郎エーイリたちが後ろにいるとはいえ、危険の芽は事前に分散しておいた方がいい。

 あれだけの美味しさともなれば、何をしてでも奪い取ろうと思う輩もいるかもしれないのだから。



「展望というほどでもないが、まずは信頼のおける者たちで組織を作り、あの食材を売るというよりも料理を売る──特別な料理屋を各所に作るというのもいいかもしれない」



 ここでは口に出してはいないが、もちろんそのトップとして君臨するのはライト一族だ。けれどその恩恵を散らすことで、その者たちはある程度好きに食材を手に入れられる環境を与えることができる。



「そしてその組織に所属している者たちが各所で運営する店は、信頼のおける限られた者だけをお客として招く。

 それでは情報も分散してしまいそうではあるが……、見境なく各所に食材をばらまいてしまうのも恐ろしくはあるのだ。

 ある程度、まとまったところで食材を管理できる環境を整えたい。それくらい、素晴らしくもあり、恐ろしくもある力を持った食材なんだと私は考えている」

「なるほど……」



 竜郎たちからすればいつでも食べられるものではあったため、そんな言い方をされるようなものだとは思ってもみなかった。

 だがもしそれほどの危険ももたらす可能性があるのなら、個人が所有するのではなく、組織が、店が所有すると限定したほうが確かに安全なのかもしれないと竜郎もピーターの意見に理解を示す。



「けれどどんなに信頼している相手でも、時にして裏切られる場合は往々にある。もしかしたら、秘密を暴露しようとする輩も現れるかもしれない。なにか良からぬことに使おうとするかもしれない。

 なのでそういった輩に対して、我々だけで対応できる力を授けてはもらえないだろうか。毎回、何か問題があるたびに呼び出すというのも迷惑だろう?」

「それは……ね。じゃあピーターさんは、どんな力が欲しいんだい?」

「身を守るすべと、相手の記憶を操作する術があれば、大概のことは誰であってもなかったことにできそうだと思っている。

 君たちならば、我々が悪用しないようにすることもできるのではないか?」

「できる、ね。記憶操作というか、宇宙人に関わる記憶だけに対してだけ使えるようにもできるし、いずれ協力者にそういう道具を渡すのもありかなとは思っていたよ」

「おぉ! あの映画みたいにサングラスをかけてピカっとするやつかな?」

「いや、ヘンリーさん……。そういう形にしたいならできなくもないけど、わざわざサングラスを毎回かける仕様にするのは面倒じゃないかい?」

「そう言われてしまえばそうなんだけどもね、つい……。あの映画好きなんだ、よかったら地球を楽しむついでに見てみるのもいいと思うよ」

「はぁ、そうなんだ。今度見てみるよ」



 なぜか映画を勧められることになったのは置いておくとして、あの食材に限らず宇宙人関係のことで騒ぎになる前に、ピーターたちがすぐさま解決してくれるのは助かると言えば助かる。

 大規模に広まってからでも音や映像などで呪魔法をかけることもできるので、対処できなくもないが、この情報社会、一度広がってしまえばどこまでやればいいのか分からなくなって、最終的に地球に住むすべての人間に対して呪魔法で記憶を捻じ曲げるという壮大な面倒事をやる羽目にならないとも言い切れない。



『ここはお試しもかねて、ピーターさんたちにその手段を渡してみるのもいいかもしれないな』

『私たちもいろいろ手探りでやっていって、ダメだったらそのとき対処できるようにしておけばいいしね』



 悪い言い方になるかもしれないが、今の竜郎たちなら何とでもできてしまう。より良い方法を探すためにも色々やってみるという手段も簡単に取れてしまうのだ。

 であればと、竜郎はこの話の中で一つ思いついたものがあった。



「ねぇ、ピーターさん。もしそのお店を開くと決まった場合、どうせなら絶対に知らない人は見つけられないし入れない空間を用意してしまうのはどうかな?」

「……と言うと?」

「例えば壁と壁の間に異空間を作って、資格を持ったものだけ壁をすり抜け異空間の料理屋へ。ないものはただ壁にぶつかる。みたいなね。

 地球の技術的に、壁と壁の間にその厚みをはるかに超える空間があるなんて誰も思わないでしょ? いかにも知る人ぞ知る特別なお店って感じがしないかい?」

「ヘンリーではないが、まるで映画の話を聞いているようだな……。いや既にこの状況からして映画の話と相違ないのだが」



 名前を呼ばれたヘンリー自身は、魔法の学校に行けそうなやり方だと目をキラキラとさせていた。

 子供っぽい反応を見せる息子と夫に、女性陣は心なしか冷たい目を彼に向けていた。



『ねぇ、たつろー。その異空間を~ってやつ、もしかしてあのときのアレの応用だったり?』

『ああ、解析情報は月読が覚えていてくれているし、十分俺でも再現できると思う』



 愛衣の言うアレとは、チキーモを捕まえにカルラルブに向かったときに遭遇した事件で入ることになった、魔竜を閉じ込めていた宝物庫のこと。

 その場にあってその場にない。そんな空間だったこともあり、物を隠すには最適なのではないかと考えたのだ。



『やるとしても、いろいろとリアと相談しながら事故防止の対策も必要だろうけどな』

『何かの拍子に空間が消えたら、中の人も消えちゃった──みたいなことにならないようにはしとかないとだしね』



 手抜き工事ならぬ手抜き魔法でもしない限りまず大丈夫だろうが、さすがに人を消滅させてしまったら大変だ。

 放置するのも問題だと過去に戻って救出する──なんてことをする羽目になるのは竜郎もごめんである。それこそ映画の話である。



「ちなみに入る資格というのは、どういうもので示すのだろうか」

「既定の物体、カギのようなものと紐づけたうえで、その店や中の物や人に対し良からぬことを考えていない者──なんて設定することもできるね」

「例えカギを持っていても入ることはできないようにもできるわけか……。どうやって判断しているのか想像もできないな」

「いずれ地球でもできるようになるといいね」

「え、えぇ……そうね、アンさん。その頃にはもう私たちは生きていないでしょうけど……」



 それからその店について少し話をし、本当にするのならいろいろと考えなければならないこともあるということで、経過報告しながらおいおい詰めていくことに決まった。



「宇宙人の商品を取り扱う組織をつくるのなら、我々が選抜した者たち、幹部候補……ということになるのかもしれませんが、そういう人たちだけを集めたパーティを開いて、エーイリさんたちをお招きし紹介する、というのはダメでしょうか」

「パーティ? 大勢の人の前に我々が出るのかい?」

「ええ、宇宙人がいて、その宇宙が販売している商品ですと説明しても、有能な人物であればあるほど疑心を抱くでしょう。

 実際にこういう分かりやすい形で示していただけた方が、私たちも説明しやすいと思ったのです」

「私も実際に逆の立場だったら、気心の知れた友人でも何を言っているんだと思ってしまうだろうし、我々側の協力者を募るならそれはありかもしれないね。

 実際に来てもらえれば、何か問題があってもすぐに解決できてしまいそうだし」



 母の発言にヘンリーも賛成の意見を述べた。そしてそれくらいはできてしまうだろうという確信を持った視線を向けてくる。


 竜郎たちがやるのは物と場を用意するだけ。これから実際に切り盛りし、面倒事をやってくれるのはライト家の人間たちだ。

 竜郎はそのライト家の面々がそうしたほうがことを進めやすいというのなら、協力したほうがいいと思い愛衣を見た。

 すると愛衣もいいんじゃない? とばかりに数度頷き返してくれた。



「分かった。それが必要だと君たちが判断するのなら、そのときは協力するよ」

「そのときは前もって教えてね。あと何か準備してほしい物とかもあったら、用意できるかもだし」

「ええ、もちろんです。そのときはできるだけ早く連絡をいたしますよ」



 ならばもう竜郎たちに言うことはない。向こうも異星間交流をするなどはじめてだ。いろいろと手探りで、できそうなことからはじめていくようだ。

 相談があればメールでもしてくれと言づけて、竜郎はライト家の面々を元の場所に転移させ、今回の会合を終えたのであった。



「しかし宇宙人の品を扱う組織とか、怪しいにもほどがあるな……。マジでできるのか?」

「できちゃうかもねぇ。まさかそんな秘密結社みたいなのの創設の原因になるなんて、思いもしなかったよ」

「ほんとになぁ。人生何が分からないものだ」

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美食と健康は業深き魔産業ですからねぇ これで美容面でも顕著な効果があれば更なる利潤が期待できそうです ……そらレベルイーター後日談で急成長した謎企業を有してる訳ですわなw
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