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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十二章 世界間貿易足がかり編

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第223話 治療費

 金曜日。慌ただしいスケジュールの中、教師たちの奮闘もあって採点を終えたテスト用紙の返却が全て終わった。

 それらを全て机に並べ、愛衣はにやにやと笑っていた。



「なーに気持ち悪い顔してんの? 愛衣」

「気持ち悪いとは何だー」



 すると横合いから失礼な声をかけられ、怒ってますというポーズをしながら視線を向ければ奈々子、桃華、れい、和奏、早百合が揃って愛衣を取り囲んでいた。

 そして桃華が愛衣の答案用紙を見るや否や、ぎょっとして机に両手をついてきた。



「えーっ、愛衣、今回めっちゃ点数よくない?」

「ほんとだ。別に前までも悪かったわけじゃないけど、今回は絶好調じゃん。塾にでも通い出した?」



 眼鏡をかけているから──なんてことはないが、愛衣たちのグループの中では一番の秀才である奈々子も驚きながら桃華が持つ答案用紙の解答欄に視線を滑らしていく。



「うんにゃ、塾には通ってないよ。そん代わりたつろーといっぱい勉強しちゃった♪」

「彼氏と勉強とか、逆に集中できなくない?」

「そんなことないよ、和奏。もうたつろーが横にいるのは、私にとっての日常だからね」

「熟年夫婦か」



 愛衣の当たり前のようなのろけに、澪が分かった分かったと言わんばかりにツッコミを入れた。

 「熟年……?」とそこまでは達観していないだろうと、愛衣が言い返していると、今度は愛衣の点数を静かに見ていた早百合が口を開いた。



「けど波佐見くんと勉強なんて、前までだってやってなかった?」

「うーん、でも今回は特に一緒にがんばった……って感じ?」

「いつもより時間なかったと思うけどなぁ。けど彼氏がいれば勉強がはかどるなら私も作ろうかなぁ」

「いや、止めとけ早百合。今から作ってたら逆に足を引っ張られるぞ」

「澪の言う通りだと思うよ。彼氏ほしいなら、大学いってから作ればいいのよ」

「だよねぇ……。はぁ、地道に勉強頑張ろ」



 早百合たちも来年受験だ。1年時の成績によっては希望しても弾かれるこのクラスにいるだけあって、効率のいい勉強方法については興味があるようだ。

 けれど愛衣の反応からして本当にそれ以上なさそうで、結局は日々の積み重ねだという当たり前の結論に、全員からため息がこぼれた。


 しかしその微妙な空気が嫌だったのか、桃華が答案用紙を愛衣に返しながら話題を変えていく。



「けどこの成績を維持できるなら、愛衣はけっこういい大学狙えそうじゃない?

 どうせ波佐見くんと同じ大学に行くんだろうけど、愛衣がこの調子なら向こうもいいんでしょ?」

「うーん、いい大学かぁ」



 愛衣は答案用紙をしまいながら考える。

 異世界に行くまでは漠然と大学に行って竜郎と楽しくキャンパスライフ。それから適当に就職しつつ、落ち着いたら竜郎と結婚。必要があれば働き続け、ないなら育児と家事に専念──そんな人生になるのではないかと考えていた。

 だが今の愛衣を取り巻く環境は大きく変わった。もはや竜郎も愛衣も、大学に行く必要性すらほぼないのだ。



(これから長い人生、一度くらいは社会人ってのを経験しておきたい気はするし、それなら大学に行っといたほうがいいよねぇ)



 日本は学歴社会。なんだかんだ出ている大学で就職口も大きく変わる。特にこれといってやってみたい仕事がない愛衣にとっては、選択肢を広げておくにこしたことはない。



(それなら異世界でほぼ無限に受験勉強ができるわけだし、もう少しがんばってみるのもアリなのかもしれないなぁ)



「たつろーにも今度相談してみよっと。やっぱり2人の人生なわけだし?」

「「「「「はいはい、ごちそうさま」」」」」



 「またのろけかよ」と友人たちから一斉に向けられた呆れた視線に、「なんだろう? この疎外感」と首を傾げる愛衣だった。






 翌日の深夜。愛衣は両親に断りを入れて竜郎の家に魔道具で転移してやってきた。

 愛衣が来ることは全員知っていたので、我が物顔で波佐見家をうろついても「いらっしゃーい」と仁や美波も気にした様子もない。

 そうして波佐見家のリビングで竜郎と合流を果たした。愛衣へ軽く手を振って、竜郎も立ち上がる。



「よし、愛衣も来たことだしそろそろ行くか」

「「おー」」「「…………」」



 返事をしたのは愛衣とニーナ。そして寝息を返すのはお休み中の楓と菖蒲。

 寝ているうえに、少しずつ竜郎離れができるようになったので大丈夫かもしれないが、途中で起きて側にいないと分かるとぐずってしまうこともあるので連れていく。

 ニーナはピーターたちに対応している間、2人を見ていてもらうかかりとして、楓と菖蒲が入った駕篭を背負ってもらっている。


 さて本日は地球時間において、ピーター・ライトたちと約束をした日。

 時差によって向こうが暮らすアメリカ──カリフォルニア州はまだ金曜日の朝。この前と大体同じ時刻になっているはずである。


 今日までの間に大よその準備は終えてあるので、竜郎と愛衣はまずは認識阻害の魔道具をオンにしてからカリフォルニアまで飛んだ。


 今回やってきたのはピーターが普段暮らす、超が付くほど立派な豪邸。

 軽く竜郎が探った感じでは、向こうも準備万端なのか全員が同じ場所に揃って優雅にお茶を嗜んでいた。

 その場の雰囲気は前回の時のような悲壮感は一切なく、重く心にのしかかっていた悩み事が消えたことで全員顔色も非常に良かった。



『そんなミスはしていないとは思っていたが、あの様子だとミカエルくんの方は問題なさそうだな』

『だねぇ、皆なんだか幸せそう』



 貰うものは貰うとはいえ、いいことをしたと満足感に浸りつつ、エイリアンの姿に見えるよう認識を変換すると同時に4人をさくっと転移誘拐していく。


 場所はもちろん、《強化改造牧場・改》内にある偽宇宙空間。

 一瞬で切り替わった視界にピーターたちは驚きはしたものの、すぐに落ち着きを取り戻して竜郎エーイリ愛衣アンの方へと向き直った。



「ああ、まって──」

「エーイリさん! アンさん! 本当にありがとう!!」

「……いたよ」



 ピーターが朗らかに笑みを浮かべながら挨拶をしようとしたのだが、その息子の妻──スーザン・ライトがそれをぶった切って竜郎たちに駆け寄り、勢いよく2人の手を取って涙を浮かべながら感謝の言葉を告げてきた。

 ピーターはなんとも言えない顔をしながら、軽くあげていた手をゆっくりと下げた。


 最初は竜郎も愛衣も面喰ったものの、100%の好意と感謝の気持ちなので嫌な気分にはならない。

 それに誰が一番ミカエルを愛していたか──なんて優劣はないだろうが、それでもお腹を痛めて産んだ我が子の死にゆくさまを想像する毎日から解放された母の気持ちは察して余りあるもの。

 こちらも友好的な笑みを浮かべて、スーザンから握られた手を握り返した。



「喜んでもらえて何よりだよ、スーザンさん」

「助かってよかったね。これからもっと元気になるからね!」

「はいっ。本当に、本当に……ありがとう。もう二度と、あの子の元気な姿も、優しい笑顔も見られないと思っていた──から──」



 そこからはもう声にならないのか、涙ぐみながら足が崩れそうになったところで、夫のヘンリーがそっとスーザンを支えた。



「私からも、感謝を。本当にありがとう。この恩は一生忘れない」

「こちらも色々メリットがあってやったことなんだ。あまり気にしなくていいからね」

「それでも、私たちは感謝したいのだよ、エーイリさん。アンさん。ありがとう」

「ええ、その通りです。ありがとうございました」



 そこにピーターとその妻キャサリンも加わって、4人に一斉に頭を下げられ竜郎たちの方が恐縮してしまう。

 このままでは埒が明かないと、竜郎たちは改めて感謝の気持ちを受け取ってから、床から出現させたソファーに座るよう持ちかけた。


 構図的には4人掛けのソファーにライト一家が、2人掛けのソファーに竜郎と愛衣。その後ろに見えないフカフカの大きな座布団の上にニーナと楓、菖蒲たち。

 椅子だけでは今回は不便なので、ライト一家と竜郎たちの間に横長の机も出しておいた。


 全員が腰を掛け、落ち着いたところで最初に口を開いたのはピーターだった。



「改めて、今回の一件。ほんとうにありがとう。つきましては、その報酬となっていたものをまず渡したいと思うがどうだろうか?」

「そうだね。そうしてもらえると助かるよ。あっ、けど着の身着のまま連れてきてしまったから、現金は──」

「現金がいいというのなら、そちらでもいいのだが、これはどうだろう」



 竜郎エーイリの言葉をさえぎりながら、懐から何かを複数取り出し机にすっと置いた。



「これはATMカードと小切手帳? それにクレジットカード?」

「ああ、現金よりもそちらのほうが便利なのではないかと思ってね。

 もちろん現金のほうがいいと言ったときのために、家のほうにそちらも用意してあるが、どちらがいいかな?」

「そうだなぁ……」



 名義はピーターになっており、ATMカードとクレジットカードの暗証番号が書かれた紙も添えられていた。

 クレジットカードは、今回の謝礼金が入金されているATMカードの口座から引き落とされるようになっているようで、好きに使ってくれとのこと。

 ちなみに謝礼金は、それだけで一般人が一生遊んで暮らせるだけの額だった。


 また竜郎たち個人名義の口座やクレジットカードが欲しいというのなら、そちらも用意できないこともないと事も無げに説明された。



『アメリカの戸籍もない、しかも架空の人物の口座とクレカを作るってどうやるんだろうね。

 たつろーみたいに魔法が使えるわけでもないのに』

『さあなぁ。俺たち一般人には及びもつかない方法があるのかもしれない』



 はったりで言っているわけでもなさそうなので、実際に彼がやろうと思えばできてしまうのだろう。



「ああ、それと、もしかしたら必要なのではないかと思ってね。これも用意してみた」

「鍵ですか? これはどこの?」

「一軒、いい家を見つけてね。もし地球にも拠点がいるのならどうだろうと抑えておいたんだ。これがその地図だよ」



 鍵の横に置かれた地図を軽く見た限り、竜郎たちが想像する家の敷地面積を遥かに凌駕しており、描かれた大きさからしてピーターたちが住んでいる家ほどではないにしろ、かなりの豪邸だろうことがうかがえる。

 さらに維持費やら水道代、電気代など家に必要な経費は全てピーターたちが払ってくれるとも言われた。



「使用人が必要ならば、そちらも信用のおける人物たちを手配しよう」

「はぁ、なんというか、そこまでしてもらってもいいのかな。お金だけでも良かったんだよ?」

「何を言う。ミカエルの命を救ってもらったことを思えば、まだまだ援助したりないくらいだ」



 それはライト一家の総意らしく、キャサリンやヘンリー、スーザンも力強く頷いていた。

 正直現金をもってうろつくよりも、世界中で使えるクレジットカードが使えるほうが利便性は高い。

 ATMも使えるので、現金が必要になったら自分たちで引き出しに行けばいい。


 またアメリカでの拠点を簡単に手に入れられたのも、竜郎たちからすればプラスだろう。

 こちらのアメリカでの行動がピーターたちに筒抜けになりそうな気がしなくもないが、そんなものは嫌なら魔法で何とでもなるし、ピーターたちがこちらの嫌がることをするとも思えない。

 そのような脅しをするつもりはないが、ミカエルを以前と同じ病床の縁に落とすことだってできるのは、向うも承知の上なのだろうから。



「うん。分かった。これらをミカエルくんの治療費として受け取らせてもらうよ。

 色々気を使ってくれたみたいで、ありがとう。こちらこそ、感謝するよ」

「いやいや、何か不便があったり、困ったことがあればいつでも相談してほしい。

 私がこれまでの人生で築いてきた全てを用いてでも、それらを解消してみせよう」

『いやぁ、まじでこの人たちと縁が持ててよかったな』

『ほんとにね。めっちゃ頼もしいよ、この人たち』



 やはりあのときピーターたちに接触することを選んだのは正解だったと、竜郎と愛衣は確信する。

 彼らの人脈はアメリカだけにとどまらない。魔法を使う以外での、最高のサポートが得られる環境が出来上がろうとしているといっても過言ではないだろう。


 そして今回は思っていた以上に貰いすぎな気がしなくもないので、この後にある商品説明──とくに食材を出すときには、サンプルを椀飯おうばん振舞ぶるまいすることを決めるのであった。

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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