第222話 テスト当日
あらかた必要な商材を入手してきたところで、いよいよ竜郎たちは地球へと帰還することになった。
今回連れていくメンバーは波佐見家、八敷家一同、カルディナたち魔力体生物組にリアやレーラ、ニーナ、楓、菖蒲と以前のメンバーに加え、フローラ、ランスロット、ミネルヴァ、ガウェインたち。
ガウェインは地球に興味ないかと思いきや、そちらでの様々な酒類について調べたいとのこと。
メンバーも決まったところで、竜郎たちは地球へと帰界する。
そしてそれに時を同じくしてようやく、ヘルダムドの王は悲嘆にくれていた。
彼は英雄という存在にあこがれを持つ故に、何としてでも竜郎たちに会ってみたい、話してみたいという気持ちを抱えていたので、すぐに動けるようにいつも準備をしていたのだ。
なのでまず国境を渡ったという情報を得てから、おそらくホルムズにいくと予想し、通行の途中で接触しそうなルートを空路でとってさりげなく会おうとした。
けれど転移でサクッと竜郎たちは行ってしまったので、会えるわけもなく無駄に時間を消費。
その間に既にホルムズにいるという情報が飛んできて、その異常な到着の速さに目を白黒させながら急いで目的地の変更。
全力で向かったものの、到着する目前で既に出立したという情報が舞い込んでくる。
ここまで来て諦められるか! ──と出立したとされる方向から、関わりがあるオブスルへ行ったと推測し、今度はそちらへ舵を取る。
しかし今度はオブスルを出たという知らせが──。
出ていった方角は入国時の国境のある方角。今でさえ大分無茶をして城を空けているのに、国外になど出られるわけもない。
やけっぱちになりながら国境を目指すが、ちょうど王都上空を通過したあたりで出国したとの無情な知らせがやってくる。
結局、護衛たちにテイマーの家臣と空を飛ぶ魔物に無理をさせて、国内をグルグルと飛び回っただけという、無意味な成果しか得られなかったのだ。悲嘆にくれたくもなるだろう。
「決めた。私はホルムズに住むぞ!」
「おやめください! 陛下」
「止めるでない! そうだっ、ならばもう王位など息子に──」
「だからおやめくださいっ!!」
王城に戻り側近たちがどうしたものかと考えあぐねていると、今度はこんなことを言いはじめる始末。
竜郎たちが良かれと思ってわざわざ国境を通過することで、一国の王をここまで翻弄していることになっているとは、彼らは思いもしていないだろう……。
さてそんな王がいることなど露とも知らず、波佐見家の地下3階。リアの作業場に帰ってきた。
竜郎は久しぶりの我が家に懐かしさを感じながら、愛衣たち八敷家の面々を魔道具ではなく直接転移で送り届けた。
泊まっていったらどうかという案も出たのだが、愛衣の父──正和が仕事に行く前に日記を確認しておきたいとのこと。
日記というのは竜郎の父──仁や母──美波も最近つけはじめており、異世界で長く過ごしてもすぐに職場に戻れるように、同僚たちに違和感を持たれないよう読み返すために考案したもので、専業主婦の美鈴だけは付ける必要はないかと持っていない。
翌日には中間テストが控えていることもあり、愛衣も仕方がないかと大人しく帰宅した。
その翌日、月曜日。竜郎は余裕をもって起床し、両脇にまだおねむな楓と菖蒲を抱えて階下のリビングへと降りていく。
階段を下りているときから魚とお味噌汁の香りがしたからか、途中で楓と菖蒲がもぞもぞと起きはじめた。
「おっはよー、ございまっす! もうご飯できてますよー」
「おはよう。いつも悪いな、フローラ」
「ほんと、こっちに来ても手伝ってくれるなんてありがたいわ」
「どういたしましてー」
リビングに入れば、既に美波と仁、ランスロットは食事をとっており、フローラが竜郎たちの分の朝食をサクサクとテーブルの上に設置していく。
その頃になると奈々とリアもやってきて、テーブルが埋まる。
「おやよう。マスター」
「おはよう、ランスロットも早いな。学校もないのに」
「いつもは朝の鍛錬のために、もっと早く起きているから遅いくらいなのだ」
「ちなみにミネルヴァたちは?」
「ミネルヴァはレーラ殿と共に散策に向かい、ガウェインはまだ寝ているのだ」
「なるほど。いちおう分かっていると思うが、今回来たばかりのランスロットたちはまだ戸籍を作ってないから、外に行くときは気を付けてくれよ」
「うむ、ガウェインのやつにも言っておくのだ」
朝食を食べた後は、身支度を整え学校へと向かう。転移の魔道具で八敷家とは家が繋がっているようなものなので、愛衣もとっくに合流済みである。
後ろにはテスト中に楓と菖蒲の面倒を見ていてくれるというフローラが、認識阻害をした状態でついてきてくれていた。
「じゃあねー」
「ああ。また」
愛衣とは教室の前で別れて、竜郎も久しぶりの自分のクラスへと足を踏み入れると、やはりテスト直前ということもあって教科書やノートを広げて最後の確認や悪あがきをする生徒が大勢見て取れた。
「おう竜郎、きたな。調子はどうよ」
「まあまあかな」
自分の席までやってくると前の席の竜郎の友人──浜口洋平が、天パ頭を揺らしながら振り返ってきた。
「なんだか、いつもより余裕ありげだな」
「そうか?」
竜郎としてはいつも通りに会話をしたつもりだったのだが、長い付き合いからか、異世界で勉強してきた分時間をたっぷりと用意できたことで、余裕があったことを見透かされてしまったようだ。
見ていないようで、案外よく見ているんだなと少し感心してしまう。
「そういう洋平は、相変わらず余裕そうだな」
「ん? ああ、まあ、学校で習う範囲はもう塾でやっちゃってるしなぁ。おさらいする程度ですんだぜ」
洋平は机の上に参考書を広げていたが、それはテスト用のものではなく受験勉強用のもの。
見た目はチャラそうに見えるが、彼は竜郎が普段仲良くしている友人の中では一番成績がいいのだ。
女にもてたいからという理由だけでガチで国立大を狙っているだけはある。
「洋平! ここ教えてくれ!」
「俺はここだ!」
「ああん? どれどれ」
話しているといつの間にか教室にやってきていた御手洗善樹に、権田ダニエル宗助といういつもの面子が集いだす。
その当たり前の風景を見て、改めて地球に帰ってきたなぁと前と同じようなことを考えるのだった。
「それじゃあ、はじめ──」
テスト用紙が全員にいきわたったことを確認してから、教師の合図とともにカリカリと一斉にペンを動かす音が聞こえてくる。
竜郎は解魔法を使えばカンニングし放題ではあるが、そのような不正をするつもりもなく自力で解答していく。
しかしいつも以上に勉強してきたことと、《多重思考》のスキルまで駆使したことであっという間に空欄を埋めつくし暇を持て余すことに。
そこで見直しをしながらも、今回の地球での行動について何をしようか考えることにした。
(ピーターさんとの約束は金曜日か。それまでになんとなく方針を固めておきたいな)
ピーターたちライト家の人脈を使って、まずは商売をしていこうという計画を立てている。
やはり一番メインとなるのは、竜郎たちが集めている美味しい魔物たちという食材だろう。
あれを前に、購買意欲が働かない生物はいないと言ってもいい最上級の商品だ。
けれど芸術家を異世界で囲みだしたのだから、そちらでも何かしらの結果は得たいところ。
どの作品が地球の富豪たちには受けがよく、どのくらいの値段で売れそうなのかも聞いておく必要があるだろう。
(あっ、カルラルブガラスとか、いかにも異世界の商品ぽくてよかったかもしれないな。カルラルブの王都にもよって、買っておくべきだったか)
竜郎自身が持っている売るつもりのない作品があるので、今回はそれを見せて反応を伺い、良さそうなら向こうの王族──アクハチャックたちに相談して販路を設けてもらうのも手かもしれない。
(それに向こうの有望な職人を、ホルムズみたいにパトロンになって囲っておくのも手かもしれないな)
以前カルラルブの百貨店で、カルラルブガラスの店舗で接客してくれた男性が悔しがる顔が浮かんできたが、竜郎はそっとその思考を隅に避けた。
(しかしそう考えると、他の国の特産にも珍しい工芸品とかもありそうだし、ホルムズ以外にも目を向けていくのもありかもしれない。
とはいっても、まずは美味しい食材集めを優先したいところだが──と)
いろいろと考え事をしている間に時間がきた。チャイムと共にテスト用紙の回収がされ、1限目のテストは余裕のまま終わりを告げる。
それは2限目、3限目も変わることなく、1日目のテストは拍子抜けするほど簡単にやり切った竜郎は、これなら明日も楽勝だなと足早に愛衣と合流しフローラやランスロットたちの戸籍をつくることにした。
もはや慣れたもので、迷うことなく全員分の住民登録を済ませると、今度はスマホを適当に購入していく。
念話はあるがアーサーたちの分も買っていたので、フローラたちの分も必要だろと考えたからだ。
そうして今回来た異世界組の環境を整えながら、2日目のテストも無事にのりきり、ピーター・ライトたちとの商談に向けて本格的に準備をしていくことにするのであった。
今回は短くて申し訳ないです(汗
Windows10を更新したら、なぜかいつも使っているテキストエディタが不具合を出すようになり、そちらの対応で時間が取れませんでした。
次までに相性がよさそうな別のソフトをいろいろと検討してみることにします……。
次話は、前後する可能性はありますが木曜更新予定です。




