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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第21話 竜王種創造の真相

 その後、小さなライオンのようなフォルムをした幼竜と、ほぼ同じ姿をした亜種を生み出すと、近しい同種が生まれたことが嬉しいのか、竜郎への不満はたちどころに消えてそちらをかまいはじめた。


 それにほっとしながら、今度は亀竜の素材を使って創造をおこなった。



「クォーン」

「この子は水属性っぽいね」



 その姿を短く言い表すのなら、全身を瑠璃色の鱗に包まれた半狐半水龍だろうか。


 全長は2メートルほどで上半身は狐にちかく、顔のフォルムはそのままで狐耳に酷似した形のプラチナ色の角が二本生えている。

 しかし前足はアシカやアザラシのようにヒレの形をしていた。


 また下半身は東洋龍や蛇のような形をしており、その先端には尾ひれがついていた。

 主にこちらが長いのが全長の大きさに貢献していて、上半身だけを他の幼竜たちと比較したら同程度しかないだろう。


 竜王種かどうか目で確認するためにイシュタルがそっと近づいていくと、その幼竜はニコリと口角を上げて微笑んだ。

 イシュタルも笑いかけると、さらに嬉しそうに笑みを深くした。どうやら人懐っこい性格の様だ。


 そのままイシュタルが顎の下を覗き込むように幼竜の前でしゃがむと、今度はその前足を彼女の頭にのばしてよしよしと撫ではじめる。



「こら、私はお前よりもずっと年上なのだぞ」

「クォー?」



 よくわからない、といった表情で首を傾げるも、イシュタルの頭を撫で続ける。

 そこで試しに愛衣が近づいていき、イシュタルの横でしゃがみこむと、「あなたも撫でて欲しいの?」とでもいうように、今度は愛衣の頭をよしよしと撫ではじめた。



「あははっ、頭を撫でてくれてるよ。たつろー」

「人懐っこいというよりも、面倒見のいいお兄さんタイプなのかもしれないな」

「タツロウくん、今のうちに言っておくけれど……この子は女の子よ?」



 エーゲリアが、すぐさま間違いを指摘してくれた。

 それに竜郎は一瞬、またやってしまったと少し黙り込み──考えた末になかったことにしようとする。



「……………………お姉さんタイプなのかもしれないな!」

「クォ~~ン」



 性別を間違えられたことになんとなく気がつくものの、その幼竜は「あらあら」といったふうに寛容に笑っていた。

 そんなことをしている間にイシュタルが顎の下を確認すると、そこにはロシア文字のЖ(ジェー)に似た模様が、そこだけ薄い水色の鱗で描かれていた。



「この子も竜王種が一体、蒼海のラマーレ種で間違いないな。これで六種中五種が揃ったことになる」

「そして五種とも婚姻できる可能性のある、帝国の竜王種たちの異性ね」



 ここまできたらもはや偶然ではなく、なんらかの力が働いているとみて間違いないだろう。



「ヴィータやソフィアの結果も含めると男、女、男、女ときてたから、交互に生まれる法則があるんじゃないかと思っていたんが、それも違うみたいだな……」



 竜郎がラマーレ種の亜種を生みだすと、その子もまた誰かの頭を撫でるのが好きなのか、姉妹で互いの頭を撫ではじめた。

 お互いにご機嫌で、どこかほっこりした雰囲気がその二体の間には流れていた。


 ソルエラ種系統のソフィアとアリソン姉妹は、二人いると取っ組み合いのようなじゃれ合いをするので、種によってこうまで違ってくるのかと竜郎は少し驚いた。



「よし、次にいってみようか」

「まだ竜王種はもう一種いるからね!」



 愛衣の言葉に頷きながら、竜郎は狩猟豹竜の素材をおいていく。

 それが終わると、すぐさま竜族創造を重複発動し新たな竜種をこの世に創造していく。



「グルルル」



 そうして生まれたのは、全長50センチほどで、そのフォルムを言い表すとしたら伝説上の生き物のほうの麒麟キリンだろうか。

 鹿や馬に似た体躯は全身、漆黒の鱗に覆われて頭部は完全に竜だった。


 その竜の額あたりからは、フランベルジュと呼ばれる剣に似た波打つ刃のようなプラチナ色の角が生えていた。

 また後頭部から背中、尻尾の先までが黒い炎がタテガミや体毛のような形で燃えていた。


 そしてどこか冷めた目で周囲を見渡し、竜郎に目を止めると小さく頭をぺこりと下げた。



「なんだか近づきがたい雰囲気の子だね……」



 孤高を愛するというのか、あまり他者とベタベタするのは得意ではないと、その目が語っていた。

 けれど竜王種かどうかは正確に調べたいので、竜郎が頼んで顎の下を見やすいように頭を上げてもらった、

 近付いてイシュタルが見つめ、ちゃんと調べていく。



「おめでとう。タツロウ。これで全種の竜王種が揃ったぞ。

 そしてこの子は男の子で、やはりこれまでと同じく異性でもある」

「やっぱりそうなったか。六種が六種ともとなると偶然ではないだろうな。

 けどそれよりも、あっさりと全種揃ったことがまず驚きだ」



 どこかで違う種族が生まれることも覚悟していたので、少し意外そうにしながらも、竜郎は竜王種が全種揃ったことを喜んだ。

 それにイシュタルは苦笑を返す。



「こんなにも簡単に竜王種をそろえられると、こちらもなんといっていいか分からなくなるな」

「これって素材は分かってるんだし、イシュタルちゃんとか、エーゲリアさんじゃ作れないの?」

「うーん。ここまで四種の竜王種が生まれるところを見てきたけれど、おそらく無理なはずよ」

「エーゲリアでも無理なことがあるのね」

「そりゃそうよ、レーラ。私だってこの地上に住む生物の一人にすぎないのだから。

 どうやらこの方法は一代限りの特権で、私やイシュタルの場合、お母様と繋がりがあるからできないようなの」

「エーゲリアさんのお母様っていうと、初代真竜のセテプエンイフィゲニアさんのことですよね?

 確かに僕は何の繋がりもないですが、それになんの関係があるんでしょうか?」

「私が実際に観た限りでは、この竜王種の創造というのは、全竜神様や命を司る神──命神様によって、他に生まれないように世界によって鍵をかけているようなものなのね。

 そしてその鍵の一つとして、一世代限りという条件が付いていたの。

 こうするだけで神々からしたら、まず二度と生みだせなくなる種と言っても過言ではなかったはず。

 なにせ竜王種を生みだせるような、竜を創造する力を持つ存在は本来、真竜以外はいないでしょうから」

「真竜は、どうしてもばあ様を起点にして生まれることになるから、その娘やその孫である母上や私には不可能になる。

 そして私の娘がこれから生まれても、その子もばあさまの系譜になるのだから不可能……ということか。

 確かにそれだと、私や母上でもできないということになるな」



 つまり本当なら、またイフィゲニアが生み出した竜王種を創造しようとしたら、今いる真竜ではなく、まったく新しく生まれた真竜くらいしかできない状況だった。


 しかしイレギュラーとして竜郎が現れ、カルディナたちという特殊な存在のアシストを得ることで、《竜族創造》スキル単体では足りなかった出力も補ってしまい、ギリギリ竜王種が生み出せるだけの下地ができてしまったようだ。


 また一世代限りという制限が付いているので、もし今後、竜郎の子供が生まれて同じように竜族を創造する力を得たとしても、竜郎と繋がりがある時点で鍵を突破できずに亜種ですらない別の何かになってしまうようだ。



「その前提条件を覆して、さらに存在しないはずの特殊な心臓を用意することで、世界の法則をすり抜けた。

 そしてさらに、その後押しをしたのが──」

「ニーリナさんの心臓ですね」



 リアの言葉に、エーゲリアがニコリと笑って肯定した。



「ニーリナはお母様がこの世に最初に生みだした竜であり、最も同じ時間を過ごしてきた竜でもあるわ。

 そんな浅からぬ縁をもつ存在の、それも生命の根幹をなしていた心臓をいれることで、より竜王種を引き寄せる要因になった──というのが大まかな真相のようね」

「大まかな、というと他にも細かな要因があるのか?」

「ええ。というよりも、むしろそちらの要因がなければ、竜王種は生まれてこなかったと言ってもいいわ」

「それはいったいなんなの? エーゲリア」



 早く教えてっというような、キラキラとした目でレーラはエーゲリアを見つめた。



「その心臓に宿っている、ニーリナの残滓が自動的に竜王種を引き寄せるよう作用しているの。

 もちろん、その心臓だけの状態ではなんの意識もないのだけれど、もしニーリナの意識があったら、こうしているだろうという行動をとるようになっているのよ」

「その言葉どおりなら、意識があったらニーリナさんは兄さんの竜王種作りを推奨していたということですか?」

「ええ、だってあの人の一番はいつもお母様で、その次がお母様が興した帝国の繁栄だったから。

 もしここでタツロウくんのもとに竜王種が生まれ、いつか私たちの帝国の竜王種と婚姻を結べば、さらなる国力の上昇に繋がる可能性が高いわ。

 なにせお母様とは全く繋がりのない竜王種と、お母様の竜王種との子供なんて、どうなるか私にも想像ができないもの。

 もしかしたら、さらに上位の竜王種が生まれる可能性だってあるわ」

「確かに……。例え今代で結ばれずとも、タツロウのところで繁栄していった竜王種の子らがいつか結びつくかもしれないしな」



 格の釣り合いを考えれば、ここにいる竜王種たちも相性のいい伴侶をえるのは難しく、選択肢は限られてくる。

 そうなれば今代ではなくても、いずれその子孫たちの中に王様や女王と気持ちが通じ合うものが現れる可能性は十分ある。


 そういった意味でも、ニーリナの意志は竜郎の元に竜王種を生みだすということを手助けしたのだろう。

 また性別問題も、ニーリナは生前、今いる竜王種の性別は全て把握していたので、あわせるのは難しくない。



「それにね。ニーリナは竜王種を生み出すときに、お母様と一緒にどういう特性があって、どういう竜にするかという話し合いをしていたそうだから、竜王種については生みの親でもあるお母様と同じくらい詳しいの。

 だから余計に、無意識であれば、我が帝国にも利になる種──となった場合に、すぐに選択肢に出てくる存在なのだと思うわ」

「なるほど」



 などと竜郎が答えの分からなかった問題の解答が聞けてすっきりしていると、不意に愛衣が口を開いた。



「聞いてもいーい? エーゲリアさん」

「なあに? アイちゃん」

「じゃあさ、もう一種分、蛇竜の素材が残ってるんだけど、それで同じようにたつろーが創造したら、今度はどんな子が生まれるのかな?」

「そういえばそうだったな。そこのところ、予測はつくか? 母上」

「う~ん……正直、まったくね。他にもニーリナがお母様から相談を受けて一緒に考えた種はいるけれど、竜王種ほど際立った種なんていなかったでしょうし」

「なら、さっそく実験ね! さあ、タツロウくん、やってみて!

 どんな種が生まれてくるのか、今からわくわくが止まらないわ!」

「レーラさんは、少し落ち着くですの」



 奈々にさとされながら生魔法で強制的に興奮を抑え込まれ、レーラは少しだけ落ち着きを取り戻す。

 ──が、その目に宿った好奇心の光はいっこうに収まる気配はなかった。



「俺も気になるし、ご意見番のエーゲリアさんもいるんだから、今のうちにやっておいた方がいいな。

 それじゃあ、フォンフラー種の子の亜種を生みだしたら、さっそく試してみようか」



 弟ができたところで喜んではくれなさそうだが、他の子と差別はしたくなかったので、さっそく麒麟型のフォンフラー種の亜種を生みだしてみた。


 その子は前の子ほど他者への拒絶感はないが、同じように竜郎へぺこりと頭を下げると、他の幼竜たちには目もくれず砂浜を掘って一人遊びをはじめてしまった。

 この子も一人を好むタイプのようだ。


 それからいよいよ、レーラの熱いまなざしを受けながら蛇竜の素材をおいていき、カルディナたちと一緒に《竜族創造》を重複発動。

 これまでなら竜王種が生まれてくるのかなという予想を立てられたが、そちらは全種揃ってしまった。

 一代限りという制約があるというのなら、同じ種がまた生まれるということもない。


 そして──。



「あうあうっ」



 生まれたのは3歳くらいの、長い黒髪と黒眼の可愛らしい女の子。

 翼もなければ角もなく、園児が着ているようなスモックにスカートをはいて、シートの上でちょこんと座っていた。

 そして竜郎をみて、だっこだっこと泣きそうな顔で必死に両手を伸ばしてきた。


 竜郎は泣かれてはかなわないと求められるままに近付いていき、ひょいと持ち上げ抱っこすると、小さな手で竜郎の服をはしっと掴み、もう離れないぞとへばりついた。


 その姿はどうみても人間の園児で、竜族創造で生まれた竜種にはまったく見えない。

 もし日本の幼稚園にこの子が混じっていても、可愛い子ですねーくらいの感想しかでてこないだろう。



「えーと……どゆこと?」

「俺に聞かれてもなぁ……」



 そこでこの場で一番の物知りであり、賢竜とまで呼ばれる生き字引──エーゲリアの方へ皆が視線を送る。

 するととうの彼女は驚いた──というよりも、むしろ不思議なものを見るような目で、その女の子を凝視し続けていたのであった。

次回、第22話は2月6日(水)更新です。

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