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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第20話 新たな竜王種

「今まさにそれをするところだったのだが……母上はなぜ分かったのだ?

 まさかずっと見ていたのか?」

「それこそまさかよ、イシュタル。私は、そこまで暇じゃないんだから。

 ただ全竜神様に竜王種の創造に立ち会いたいから、それらしき兆候があったら教えてくださいって頼んでおいたの」

「そういうことか」



 全ての竜を司る第三位格の神──全竜神。かの神ならば、竜郎たちの行動もお見通しということなのだろう。

 そしてエーゲリアの母──セテプエンイフィゲニアは、全竜神が直接生み出した存在。

 なのでその娘エーゲリアや孫にあたるイシュタルとは、簡単に意思の疎通ができる。

 彼女はそれを利用して、今回このようなタイミングで来ることができたというわけだ。



「レーレイファさんは、今日はエーゲリアさんのお付で?」

「ああ。だがもう一つ、頼まれごとをしていてな」

「頼まれごとですか? それを聞いても?」

「ああ、かまわん。実はアルムフェイル様にニーリナ様の素養を受け継いだという子を、一度見てきてほしいと頼まれたのだ。

 あの方はもう、自分でそれほど動けるわけではないからな……」

「彼女は時々アルムフェイルと話をしているから、その時に頼まれたらしいわ。

 向こうから会いに来てくれると言ったのに、仲のいいレーレイファに先に見てきてほしいって」



 彼女──という言葉に、レーレイファの性別を知らなかった両親たちは少し驚いた顔をしていたが、それは無視され話は進んでいく。



「なるほど、それじゃあ、レーレイファさんはニーナを見にきたと。それで、どうですか?」

「ぎゃう~?」



 竜郎は文字通り小さくなって肩に乗っていたニーナの脇を持って、レーレイファの方へ掲げてみせた、

 レーレイファは先ほど以上に顔を近づけ、しげしげとニーナを見つめた。



「想像以上だった──としか言いようがない。

 力の一端を受け継いだくらいだと想像していたのだが、これでは、まるで………………──そう、瓜二つだ。

 何も聞かされていなかったら、あの方が生まれ変わって、この世に蘇ったのではないかと勘違いするところだ」

「そんなにですか」

「ああ、これならエーゲリア様が気に入るのも、そしてエーゲリア様のことを、お姉ちゃん呼ばわりするのも頷けるというものだ」

「私も思っていた以上にニーリナに近づいていてびっくりしたわ。

 アルムフェイルも、今のニーナちゃんの存在を感じ取ったら、きっと喜ぶと思うわ」



 ニーリナとアルムフェイルは、初代真竜セテプエンイフィゲニアの側近眷属として生み出された九星と総称される九体の竜のうちの二体。

 ニーリナや他の九星は死んでしまったが、アルムフェイルは老い先短い身なれど、まだ存命で現在世界最古の竜としてイフィゲニアの墓の近海を守護している。


 そんなアルムフェイルにとっては家族であり戦友であり、もっとも信頼できる存在の一体でもあったニーリナを継いだニーナに、彼は非常に関心を示している。

 九星の中でも一番優秀だったのに、ニーリナだけその因子を少なからず受け継ぐ子孫を残さず亡くなってしまったのを、今でも残念に思っていたからだ。



「このことをアルムフェイル様に報告してもいいか? タツロウ」

「ええ、かまいませんよ。ニーナに何かしようという話ではないんですよね?」

「ああ、もちろんだ。それに、そんなことをしようものなら……」

「私が黙ってないわ」



 最強の竜エーゲリアがここまで豪語するのなら、なにも問題はないだろう。



「それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」

「ええ、楽しみだわ──あら、そちらにいるのはタツロウくんとアイちゃんのご両親?」

「そうだよ、エーゲリアさん。

 この人がたつろーのお父さんの仁さん、お母さんの美波さん。

 んでもって、こっちが私のお父さんの正和、お母さんの美鈴だよ」

「「「「よ、よろしくおねがいしますぅ……」」」」

「あらあら、そんなに硬くならないで。タツロウ君たちにはいつも──」

「いえいえ、こちらこそ──」



 エーゲリアの存在感の強さに身を強張らせていた両親たちも、その人当たりのよさに安堵しながら、なにやらよくある挨拶の応酬をはじめたので、竜郎はそのまま放置して素材をシートの上に並べていく。



「まずはどのボス竜の素材からやるつもりなんだ? タツロウ」

「魔卵作りの時はヒュー子、チー太、ガメ太、ファン太、モー子の順でやっていたから、今回は逆からやってみることにする」



 イシュタルにそう答えながら、竜郎は牛竜の素材を並べ終えた。



「心臓もすでに用意してあったのだな」

「ああ、イシュタルがゲームに夢中になっている間に、カルディナたちとやっておいた」

「うぐ……」

「今なんだか面白そうな話をしていたけれど、とりあえずそれは後で聞くとして……」



 親たちとの挨拶はそこそこに切り上げてきたエーゲリアが、竜郎とイシュタルの会話に加わってきた。



「イシュタルから聞いた話だと、竜王種の創造は高レベルダンジョンのボスとしてでてくる竜の素材と、その竜のないはずの心臓、そしてニーリナの心臓──だったわよね?」

「そうですね。ダンジョンに出てくる魔物は本来、心臓の代わりに魔石を持っているので、心臓はないですから」

「それをいろいろとこねくり回して作ってしまったと」

「はい。本来存在しない素材を使っているからこそ、本来生みだせない竜王種の創造の、きっかけくらいにはなったのではと考えています」



 そう言いながら最後のピース──ニーリナの心臓を置いて少し距離を取る。

 そしてカルディナたちと《竜族創造》スキルを共有しながら、重複発動させて新たな竜を創造していく。


 素材が溶けて混ざり合い、ぐちゃぐちゃとスライムのように激しく蠢きはじめる。

 その際には尋常じゃないエネルギーを要求されるが、今の竜郎たちにとっては問題ないレベルだ。

 いっさいエネルギー供給を途切れさせることなく注ぎこんでいく。

 もしここで途切れさせてしまうと、創造される存在が劣化していってしまうのだ。

 そして──。



「フィリリリーー」

「これはどうみても、樹属性の幼竜ちゃんだね」



 大きさは60センチほどで、全身は黄緑色。

 基本的なフォルムは恐竜で例えると竜脚類に似ており、長い首と尻尾をピンと横一文字に伸ばしてバランスをとって立っている。


 また竜脚類と違う点は、頭から二本生えたプラチナ色のトナカイのような角が生え、背中には樹の太い枝を翼骨にし、葉っぱのような質感の皮膜の翼。


 長い尻尾は細い木の幹のような質感で、先端にはフサフサと枝と葉っぱが伸びた一本の小さな木になっていた。


 そして鈴虫のような綺麗な鈴の音で鳴くと、まずは竜郎を見て、次に近くで物珍しそうに見ていた幼竜のうち竜王種の一体、ティラノサウルスに似た外見をもつ沃地のソルエラ種──ソフィアに視線を送る。


 視線を向けられたソフィアは「何?」といった様子で首を傾げていると、ぽてりぽてりと四本の足をマイペースに動かして近づいていったかと思えば、そのまま長い首をソフィアの背中に乗せて眠りはじめた。


 それに対し「私は枕じゃないぞ!」とでも言うように、振り落とそうとするソフィアだったが、なぜか彼女までウトウトしはじめ、大人しくなってしまった。


「えーと、二体とも眠かったのか?」

「いや、この竜が本当にあの竜王種だとするのなら──」



 イシュタルが眠っている幼竜に近づき、頭をくいっと持ち上げて顎の下を確認してみる。

 するとそこには、そこだけ深緑色の鱗でタイルアートのように十字模様が描かれていた。



「間違いない。この子は竜王種の一体、森厳のフォルス種だ。

 そしてこの種は、沃地のソルエラ種の側にいると落ち着くんだそうだ」

「またその逆も然りね。そもそもソルエラ種とフォルス種の関係は──」



 エーゲリアの説明によると、ソルエラ種はそこにいるだけで土地が肥え太り、フォルス種はその肥えた土壌に草木を実らせるという。

 そして草木に満ちた土壌は力に満ち溢れ、ソルエラ種はより強い力を得ることができる。

 その強い力でさらに土壌を豊かにし、草木に力が宿りフォルス種は強い力を得る──そんな相互的に、お互いを強化し合う性質を持っていた。


 この二体が同じ土地にいれば、一部の特殊な地域をのぞき、どんなに痩せた土地も実りに満ちた豊かな大地に生まれ変わるとさえ言われている。



「まさかソフィアちゃんが天然肥料さんだったなんて、びっくりだね」

「肥料さんて……。だが、とくにそんな感じはしてなかったけどな」

「まだ幼いからな。その力も、ほとんどないと言っていい。

 けれどフォルス種の幼竜なら、それでも敏感に感じ取れるのだろうな」

「ソルエラ種の亜種──アリソンには、そういう能力はないんですの?

 その子はソフィアにしか反応していなかったようですの」

「アリソンちゃんも、ちゃんとした成竜になれば、ソフィアちゃんほどじゃないけれど、同じようなことができるようになると思っていいわよ」



 エーゲリアの補足説明に、質問した奈々を含め同様の疑問を持っていた面々も納得した。

 それから今いる他の竜王種──狂嵐のヴィント種のヴィータにはアヴィーが、ソフィアにはアリソンがいるように、この新たに加わったフォルス種の幼竜にも近しい兄弟を生み出しておくことにする。


 方法は簡単だ。今やったことを繰り返せばいいだけ。

 一人が同じ竜王種を何体も生み出すのは不可能という、この世界の法則に乗っかるだけでいいのだ。

 なので同じように生みだそうとすれば、その劣化亜種ともいえる竜王種に近しい存在を生み出せる。


 そうして生まれたのは、先に生まれた幼竜と瓜二つ、けれど顎の下にあった十字のマークだけがない個体が生まれた。


 こちらの子は、竜王種の子ほどソフィアにひかれるものはないようで、竜郎の近くまでやってくると、そこで足を折り曲げて腹ばいになり、ゆったりとくつろぎはじめた。

 この種に属する子は、みんなマイペースなのかもしれない。


 ちなみに、この子と先に生まれた子は男の子だった。



「やはりこうなったのね」

「といいますと?」

「今現在のフォルス種の現王は男だけれど、もう奥さんはいるわ。

 だからもしタツロウくんの生み出した子のパートナーとなるのなら、その子供。というふうになるのだけれど、その子は女の子なの」

「それだとダメなの? エーゲリアさん。

 異性同士なんだから次代の王様候補も産めるし、結婚することになっても問題はないよね?」

「ええ、そうね。そのほうが、我々の帝国としても好都合なのだけれど……不思議だと思わない?

 今のところ、三種が三種全員、そのパートナーなりえる竜王とは逆の性別で生まれてくるなんて。これって偶然なのかしら?」

「単純に二分の一が三回連続で当たる確立だとしても、12パーセントくらいか。

 絶対にないと言い切れる数字じゃないですが…………とりあえず、このまま続けてみましょう」

「そうだな。次で同性が生まれる可能性だってあるのだからな」



 まだ試行回数が少なすぎる。エーゲリアはなにかしらの仮説が既に頭の中にできはじめている様子がうかがえるが、今は実験をこのまま進めることにした。

 結果が気になるので、名付けは全部が終わってからでもいいだろう。



「これでよしっと」

「今度はどんな子が生まれてくるのかなぁ」



 次に用意したのは象竜の素材。先の牛竜の素材を象竜に変えただけの構成である。

 準備が終わるとさっそく竜郎はカルディナたちと共同でスキルを重複させ、強力な《竜族創造》を発動。

 素材同士が混ざり合い蠢きはじめ、形が整っていき──。



「ギャーウ!」

「おお? 勇ましい子が生まれたね」



 全長30センチほどで、そのフォルムだけをよく知っている動物で例えるのなら、ライオンだろうか。ただし頭部は完全に竜。


 真っ白な全身をつつむ鱗から、まだ幼なく生えそろっていないために、ちょこちょことしか生えていない金のタテガミらしき毛が、首の横や後ろあたりに見ることができる。

 これが成体になると、ライオンのように立派な金のタテガミが生えそろうのだと、後でイシュタルに聞かされた。


 また竜の頭部には計五本。中央が長く、その両隣がそれより少し短く、さらにその両隣はそれよりも少し短いといった、王冠のような形で弧を描くように生えているプラチナ色の角が生えていた。

 背中には鳥の羽のような、純白の翼が生えていて、尻尾も竜のそれだった。


 そんな幼竜は、生まれた瞬間に意志の強そうな瞳で竜郎を見て勇ましく吠えてみせた。

 けれどそれは反抗を示しているのではなく、竜郎に自分の強さをアピールしているようだ。



「この子はどう見ても聖竜なわけだが、竜王種であってるか?」



 吠えた瞬間に上を向いたので、そのときにちらりとギリシャ文字のΦ(ファイ)に似たマークがチラリと見えた。

 それをもう一度確認するためにイシュタルが近づくと、警戒するように後ろに少し下がった。



「大丈夫だから、そのお姉さんに、ちょっと顎の下を見せてあげてくれないか?」

「ガウッ!」



 分かった! とでも言うように、竜郎の言葉をなんとなく理解し、イシュタルに向かって頭を上げて顎のラインが見やすいようにしてくれた。

 するとやはりそこだけ白ではなく金色の鱗で、Φに似た印が描かれていた。



「間違いない。この子も竜王種──聖雷のドルシオン種だ」

「そして今回は女の子……やはり、次代の竜王の異性みたいね」



 竜郎は少し驚き、「え? 女の子? タテガミ生えるのなら男の子じゃないの?」と一瞬口から、言葉がこぼれそうになった。


 しかしそれに目ざとく気がついた生まれたばかりの幼竜が、「パパ! まさか私を男の子と勘違いしたんじゃないでしょーね!」といった感情で睨んできたので、「もちろん分かっていたよ~」という意味を込めて、うさん臭い笑顔で誤魔化したのであった。



「どったの? たつろー。変な顔して」

「生みの親の威厳を保つために頑張っていただけだよ」

「ガウガウッ!」

「あんまり成果はなかったみたいだね」

「ああ……そうみたいね……」

次回、第21話は2月3日(日)更新です。

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