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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十一章 竜の王国・後編
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第207話 謎肉の正体

すいません、他のことで時間を取られてしまい少し短めになってしまいました(汗

 ポルポムなる謎肉の正体はいかに──と身構えながら、片付けられた机の上にイングランス王が置いた物体に視線を向けた。



「「え?」」



 その物体に対して、思わずそうこぼれ出る竜郎と愛衣。ジャンヌや奈々たちも予想外の物が出てきたことで、同じように驚いている。

 ただ幼竜たちは、話の流れが分からず竜郎たちの反応をみて何してるんだろうと首を傾げていたが。


 さて、そんな各々の反応を引き出した代物はどんなものだったのかといえば、簡潔に言い表すとすれば──薄緑色をしたツルツル光沢のある俵型の物体、だろうか。


 竜郎はいぶかし気に眉を顰めながら、危険があるわけでもなさそうなのでその2メートルはありそうな俵型のものに触れてみる。



「どんな感じですの? おとーさま」

「うーん……どうと言われても、手触りはいい感じだが……」



 触り心地はツルツルとしていてシルクのよう。手の平で軽く叩くと、ぎっしりと身が詰まっているだろう強い弾力が返ってきた。



「これはいったい何なんですか?」

「「ポルポムだ」」

「いやそれが分かんないんですが……」



 セリュウスもイングランス王も分かって言っているのだろう。竜郎は疲れた様子で「はやく答えを」と表情だけで訴えかけた。

 「まあまあ」とイングランスが笑いながら、人化している彼がポンとそのスイカモドキに手をのせる。



「これはセリュウス様が仰っていたとおり、ポルポムというもの。

 そしてその正体は肉ですらない木の実の部類に入るものなのだ」

「……ってことは、さっき食べたのはコレってことなんすか? とても植物……というか木の実の味じゃ無かったっすよ」

「信じられないようなら、まずは切って中を見てみてほしい」



 そういうので竜郎が斬と氷の属性が乗った剣を作り出し、サクッと切って割ってみる。



(なんか切った感触がもう肉っぽいな)



 皮一枚をプスッと切る感覚はウインナーにフォークを刺したときのようで、身の方も生肉を切れ味のいい刃物で切っているときとそん色ない感触だ。


 竜郎が愛衣たちにも見やすいように割った断面を見せるように左右を半回転させてみれば、適度にサシがのった牛肉のような見た目のものがびっちりと詰まっていた。



「生でもいけるぞ?」

「じゃあ……」



 セリュウスがそういうものだから、竜郎は好奇心のままに表面をハムのように薄く切って、軽く塩コショウを振りかけてから生で口に入れてみる。



「うわっ、めっちゃ肉だ」

「私も食べてみたーい」



 愛衣も好奇心に身を任せ、竜郎と同じように食べてみる。他の面々もそれをみて、生ハムのような薄切り木の実を食していく。



「特別美味しいってわけじゃないっすけど、確かに味は肉っすね。不思議な感じっす」

「ヒヒーーン(ほんとだー)」



 焼いてみたりもしたが、確かに先ほど食べた普通の肉と同じ味。これがさっき食べた『肉』で間違いなさそうだ。



「ちなみに木になっているときはこんな感じだ」



 イングランス王が用意していた絵を取り出すと、そこにはヤシの木のようなものに白い木の実がなっている姿が描かれていた。


 この実を取って白い外殻を割ると、竜郎たちの目の前に出された先ほどのような状態の木の実が出てくるというわけである。



「昔はこれを嫌というほど食べていたから、あのときはもう見たくないと思っていたが、こうして今見ると懐かしく思えてくるものだな」

「セリュウスさんは、そんなにこれを食べてたの? あんまり美味しいってわけでもないのに」

「ああ、そもそもこれはセテプエンイフィゲニア様が、お創りなったものなんだが──」

「──えっ? わざわざですか?」



 凄く美味しいならともかく、これをわざわざ生み出すくらいならそこいらで魔物を狩って食べたほうがいいのではないかと竜郎は思ってしまう。

 けれどそこにはちゃんと理由があるようだ。



「実はその昔、竜がこの世界に一気に増えた時代があってな。そのせいで食糧難に瀕したことがあったんだ」



 もともと存在しなかった竜をセテプエンイフィゲニアは生み出し、増やしていった。

 けれど竜はその体を維持するのにも、それなりに多くの食料が必要になってくる。

 乱世だったこともあり、魔物も今よりずっと多く発生するので大丈夫だと当時は甘く見積もっていたが、それ以上に竜は増えそれでも追いつかなくなっていった。


 だが竜王種であるソルエラ種、そしてここにいる系譜フォルス種によって地に実る食材はなんとか量産することができたので餓死者が出るまでにはいかずにすんでいた。

 竜は肉食でも、無理やり植物で食いつなぐことはできたから。


 しかし食いつなぐことはできても、肉を食べたがる竜たちは多かった。

 そこでイフィゲニアは、そんなに言うのなら、もう肉そっくりな実が成る植物を創ってしまおうという、常人ならありえない方法で本当にその架空の植物を生み出してしまう。



「そしてそれはソルエラと我らフォルス種に任され、一時は大陸全土に行きわたるほどに育てたのだ」

「なるほど、肉への欲望を満たす代替品だったというわけですか」

「ああ、当時に生きた草食性の竜以外は、誰もが世話になったといっても過言でないほどにな」



 けれどしだいにそれもすたれていく。

 計画的に魔物の畜産業にも手を出していき、最終的にはちゃんとした本物の肉の供給も行き届くようになった。

 そうなると代替品はいらなくなり、今ではほとんど作られることはなくなった──というわけである。



「けどなんでそれを僕らに?」

「珍しい食材が好きだとイシュタル様よりお聞きしていたからな。なにかいいものはないかと、苗木を取り寄せ今日までに少量作ってみたのだ。

 それにだ。実は研究者によれば、これは肉の味や食感はするが間違いなくその成分は植物であるという。

 聞くところによれば人種などは肉ばかり食べていると体を壊すと言うが、ほんとうだろうか?」

「ええ、それは確かにそうですね。今の僕や愛衣には関係なさそうですが、一般的には肉、野菜、魚などバランスよく食べることが健康につながりますので。……ということはもしかして?」

「ああ、これを食べることで肉を食べた気になりながら野菜を食べることができるということだ。

 竜大陸では大した利はないが、外の人間たちには売りようがあるのではないか? と思ったのだが、どうだろうか」

「それは……たしかに」



 健康のためにと豆腐ハンバーグなどを食べる家庭が地球でもあったが、これはもっと肉に近い味を持ちながら、野菜として摂取することができる。

 地球でのお金持ちに向けての貿易業を密かにやろうと思っている竜郎からすれば、こちらの世界どころか、向こうの世界のほうがうまく量産できれば十分に需要がありそうに思えた。


 ……が、これは商談としてイングランス王側が切ってきたカードである。ただでくれと言って通るものではない。



「これをここで出してきたということは、僕らにもこれを渡す気はあるということですよね?」

「ああ、その通りだ。タツロウくん」

「けれど畑の件で、この子たちをより多く連れてくるよう便宜を図るという札をこちらは切ってしまいました。

 それ以上に何を望まれるのですか?」

「これはもはやこの国でなければ手に入れることはできないだろうが、別段これは我々にとっては入手が困難というわけでもない。

 だからな、タツロウくん。私は難しい要求をするつもりはない」

「それはありがたいですが……?」

「いやなに、そんなに警戒しなくてもいい。ただ他の竜王種たちよりも先に、さきほどの料理にも使われていなかった美味しいものを試食させてくれるだけでいいのだが……どうだろうか?」

「試食だけ……ですか? 優先的に先に卸してくれとかでもなく?」

「ああ、さすがにそこまでやると他からの嫉妬が酷そうだからな」



 竜王といえど食い意地は皆一緒ということなのだろう。

 だが少し他よりも早く抜きんでて、新しい食材を食べてみるくらいは許される──と判断したようだ。



『これは受けてもいいのかな?』

『いい……と俺は思う。俺たちにとっても悪い話じゃないし、ちゃんと取引として出しているんだから、フォルス王国を他より贔屓しているということも言われにくいはずだ』

『────。──────、────────(ですね。それにこれは今ではかなり珍しい物みたいですし、確保しておくのはいいと思います)』



 天照を含め他の面々も同意見のようだ。念のため念話でリアたちにも意見を聞いてみたが、家庭菜園どころか今ではすっかり農家と化している愛衣の父──正和がほしいほしいとはしゃいでいたらしいので、将来の義父のためにもと竜郎は他のどの竜王たちよりも先に、イングランス王たちに新しい食材での料理を出すことを決めた。


 その際にちゃっかりとタッパーをもってご相伴に預かろうとする太古の竜(セリュウウス)がいたので、そちらにも苦笑しながら料理を分けて多少なりとも彼に恩を売っておいた。


 こうして竜郎たちは、思わぬところで新たな食材──『ポルポム』という植物性の肉モドキを入手することに成功したのであった。

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ポルポムは畑の肉というより森の肉でしょうか  環境負荷が通常の牧畜よりも小さいなら、虫食と並んで貴重な蛋白源になるかもです  セリュウスさんは蒼太に槍を扱うコツを伝授していたおかげで、御…
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