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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第19話 竜王種創造実験開始?

「えーと……なんだか妙なことになったが、とりあえず最後。牛竜の確認だ」

「うん。そーしよ!」



 アーサーと交友を深めた象竜巨人は、最初みた時とは別竜なんじゃないかというほど従順になって帰ってきた。

 眷属化も即決で了承し、むしろ「俺ごときがいいんすか!?」くらいの勢いだった。


 それを見届けアーサーは、満足げな笑顔でランスロットと共に去っていった。

 いったい向こうでなにが行われたのだろうか想像するのも恐かったので、話題を変えるためにも牛竜を出現させた。



「「「「「「モ~~~~」」」」」」

「なにこれ、一体しかいないのにハモりで鳴いてる。どーやってんだろ」



 重低音から高音までの数種の鳴き声が同時に発せられ、綺麗にハモりながら鳴く牛竜。



「背中に生えているアレが楽器のような役割になって、音を変えて鳴らしているみたいですね」



 体長は約10メートル。

 竜色の強い牛顔といった頭部に、家畜牛の祖先ともいわれるオーロックスのように前に突き出た二本のプラチナ色の角。

 体は牛と似たフォルムだが、全身は砂色の鱗に覆われ、竜の長い尻尾が生えている。

 足は砂地を主な生息域としているからか、平べったく砂を踏みしめやすいようになっていた。


 そして最も奇異な部分は、リアがいった背中から生えているもの。

 まず中央には大きく太い、円錐系のプラチナ色の角のようなものが生えている。

 それを覆うかのごとく、肋骨のように何本も背中脇から突き出る穴の開いたプラチナ色のなにか。

 それは一本ごとに開閉できるようで、左右のそれを開いた状態で遠目に見れば、翼の骨格のように見えなくもないだろう。


 だがそれは翼ではなく、楽器。

 そこで自由自在に音を鳴らし、真ん中の円錐形の物体で音波を増幅、減衰させることが可能。

 また円錐形の器官から音を体内に伝え、頭から突き出ている二本の角から、そこで増減させた音波を放つこともできるようになっている。



「えーと……つまり、それは戦闘にどー役に立つの?」

「そうですね。まず分かりやすい使いかたを示すなら、音響兵器とも呼べる方法ですかね。

 背中の楽器で音を生み出し、円錐形の器官で最大限まで増幅。

 それを体の中の完全防音された伝音器官に通して、頭についた角から狙撃するように一点に向けて音波を射出。

 それを受けたモノは聴覚器官を破壊され、最悪の場合、脳にも大きな損傷を負うことになるでしょう。

 また軽度な攻撃でも、吐き気や眩暈などを誘発させることもできるはずです」

「なるほど、それで音響兵器か。それじゃあ、それ以外の使いかたとしてはどんなものがあるんだ?」

「他には音波探査。周囲の音と逆位相の音波を発して消音。逆に小さな音を増幅させたり、何もいない場所で好きな音を立てて気をひいたり──などなど、いろいろできると思います」

「神力を使って孵化させる前は、地面や空間を揺さぶって翻弄するのが得意だったらしいが、それに加えて音の波も操れるようになったってことか」

「音波を使った探査ができるのは、なかなかポイント高いですの~」

「遮蔽物があると音が反射しちゃったりしますけどね」



 リアの説明を皆が聞いている間、その牛竜はわれ関せずと、もっしゃもっしゃ砂浜の砂を食べていた。



「それ、おいしいんすか?」

「モ~~~?」



 アテナに話しかけられた内容をなんとなく理解し、普通?といった感情で鳴き返してきた。

 それを見ていたレーラが、《万象解識眼》で解析中のリアに質問をする。



「別に砂以外、食べられないというわけではないのよね?」

「そうですね。砂を食べるのは砂をお腹に溜めて、必要な時に竜力に変換できるようにしているだけでしょう」



 そこで竜郎は牛竜にあーんと口を開けてもらって歯の形を確認してみれば、前歯は平たいナイフのように鋭いが、奥歯に向かうにつれて平らになっていた。

 このことから肉も草もいける、雑食性であることが推測された。



「これなら、海からきた魔物を狩って食べることもできそうだな」

「お野菜とか果物も、あげて大丈夫そうだね」



 それから牛竜も眷属化したところで蛇竜、狩猟豹竜、亀竜、象竜をいっぺんに呼び出し、蒼太を紹介することに。



「この龍──蒼太は、基本的にお前たちの隊長であると認識してくれ。

 だから判断に困った時に俺が近くにいなかったりした場合は、彼を頼ってくれると嬉しい」



 その言葉を眷属のパスにも通して伝えれば、四体はすぐに「はーい」と返事を返すが、約一体──象竜だけは「え~こいつより、自分のほうが隊長ぽくないっすか?」といった感じの感情を竜郎に伝えてきた。

 竜郎は頭が痛くなり、顔を右手の平で覆った。

 下に見られた蒼太自身も、それには思わず苦笑いするしかなかった。



「こいつは……まったく……。なんでこう、おバカなんだ……。

 蒼太──お前の強さを分からせてやれ。こいつにだけは舐められちゃだめだ」

「ワカッタ。マカセテクレ」



 蒼太は空を泳ぐようにして漂っていた体を下に向け、大きな頭を象竜に近づけていく。

 象竜は「なんだ、やんのか?」というように、しゅっしゅと小粋にシャドーボクシングをして挑発する。



「クィュィィィィイイイロロロロォォォォゥゥウウウーーーー!!!」

「────────ッパ」



 蒼太の全力の威圧をあびて、象竜は白目をむいて倒れた。意識はかろうじてあるが、体中が震えてうまく立てない。

 他の四体も自分に向けられていないというのに、ブルリと体を震わせていた。


 生まれた時の等級は蒼太の方が下だが、神格者の称号を得るまでに至った今の蒼太は、そんなものでは推し量れないほど強くなっている。

 等級が高かろうが、生まれたばかりのヒヨッコ竜が舐めていい相手ではない。


 そしてそんな光景を見てなにを思ったか、無邪気な脅威が牙を剥く。



「なにそれー! おもしろーい! パパ、パパッ、ニーナもやっていい?」

「え? ニーナもか? ………………心臓に毛が生えてそうだし大丈夫か。よし、やったれ」

「ぎゃうー♪」



 象竜がようやく立ち上がると、蒼太の強さが身に染みて理解できたのか、彼に向かって「一生ついていきますよ! 隊長~!」といった感情で鳴いてごますりはじめた。


 そこへニーナが本来の大きさに戻った状態で近づいていくと、「なんだぁ、このメスは?」とガンを飛ばしはじめる。

 他四体は蒼太以上になんだかヤバそうな雰囲気を感じて、急いで竜郎の後ろにまわった。



「ギャオオオオオォォォォォオオオオオオオオッ!!」

「──────」



 今や竜の中でも最上級の力を得るに至った蒼太だが、ニーナはそれと比べても別格だ。

 なにせ真竜を除けば世界最強とうたわれた、今は亡き竜の素質を完全に受け継いでいるのだから。


 そんな彼女の咆哮と威圧を真正面からあびて、象竜は泡を吹いて気絶した。

 他四体は、絶対に先輩たちに喧嘩を売るのは止めておこうと心に誓いあった。



「こいつは片っ端から喧嘩を売っていくつもりなんだろうか……」

「なんかレベルが高くなると調子に乗りそうだし、この子だけレベリングするにしてもちょっと低めにしといたらどーかな?」

「あんまり眷属間での差別はしたくないが、この性格が治るまでは中途半端に強くするのはよくないかもな」



 普通ならアーサーの時点で懲りていそうなものなのに、見た目的にも弱そうにも見えない蒼太にまであの態度が取れる神経だ。

 おそらくニーナの恐さが分かっても、他の子たちにはまた同じようなことをしでかすことだろう。


 それから新たに仲間に加わった五体に、それぞれ名前を付けていくことに。


 十二の頭を持つ蛇竜の性別はメスだったので、命名『ヒュー子』(ギリシャ神話のヒュドラーっていう怪物から名前をもらったよ! by愛衣)。


 狩猟豹竜はオスだったので、命名『チー太』(チーターみたいだし、分かりやすいでしょ? by愛衣)。


 亀竜はオスだったので、命名『ガメ太』(でっかい亀といったらアレだよね! by愛衣)。


 象竜はオスだったので、命名『ファン太』(象は英語でエレファント。某飲み物は関係ないよ! by愛衣)。


 牛竜はメスだったので、命名『モー子』(だって、モーって鳴くし……。 by愛衣)。


 愛衣が率先して全員に名付けてくれたのはいいのだが、親達は自分たちの孫の名前が少し心配になった一幕なのだった。



「いずれ地面を自由に泳げるヒュー子には地中の警備を、チー太には領地内の地上の警備を、ガメ太には海の警備を、ファン太には空の警備を、モー子にはカルディナ城正面──海岸の警備を任せたいと思っている。

 その時、蒼太は総部隊長に任命する予定だ。よろしくたのむ」



 地中にはワーム隊が、海岸には人型ワニのワニワニ隊がいるが、ワーム隊はヒュー子の部下として動いてもらうつもりだ。

 けれどワニワニ隊は蒼太へのリスペクトが半端ないので、変わらず蒼太の部下として動いてもらうつもりでいる。

 なので竜郎は、いずれヒュー子以外の竜たちの部下も作ろうと思っていたりする。


 これから竜郎たちは外に向けて、いろいろな食材などを卸していくことになるので、そのぶん目立ってもくるはずだ。

 そうなると何かよからぬ思惑で領地内に侵入してくるものがいないとも限らないので、念のため防衛戦力は高めに設定しておいた方がいいだろう。

 世の中にはさまざまなスキルで溢れているので、何がどう作用するかもわからないのだから。



「ってことで、まあそれはおいおいでいいとして、いよいよイシュタル御所望の竜王種創造実験に移っていきたいと思う」

「それを見ないかぎり、私も帰りにくいからな」

「イシュタルさんの帝国の中にある国を治める、竜の王様たちと同じ種類の竜を生み出すってやつだったっけか」

「ああ。ちなみに現竜王たちの婿、または嫁候補としてあがっていたりもする」

「「「「──えっ?」」」」



 竜王種となるとその格に見合う存在というのはなかなか見つからない。

 なので皆、自分のパートナーを見つけるのに苦労しているのだ。

 けれどまったく同種となれば相性は抜群。それでいて近親でもない。

 これ以上のお相手は他にいないだろう。


 もしも竜郎が生み出した竜王種の子供たちが、竜王の婿や嫁に行きたいと望むのなら、彼も送りだすのに否はない。



「えっと、創造主が竜郎くんだろ? ということは、父親みたいなみたいなもんだとして、その子が竜の帝国の一国を治める王様の配偶者となるということは……」

「竜郎くんは王様の義理の父親になるってこと?」

「ははっ、子供が生まれたら僕は次世代の竜王のお祖父ちゃんですかね」

「500日やそこらで、どんだけぶっとんだ生活をしてたんだよ、お前たちは……というか、イシュタルさんはそれでいいんですか?」

「ん? 別にいいんじゃないか? 我が帝国としては、高確率で優秀な王子、または王女が生まれる可能性のある縁組には賛成だ。私の母──先帝エーゲリアも同様にな。

 それにタツロウたちなら、それを笠に着て内政干渉してくるようなこともしないだろう」

「そんな面倒なことしたくないよねぇ? たつろー」

「だなぁ。簡単なお願いくらいならするかもしれないが、政治には興味ないし、無知な俺が関わったらダメにするだけだ。

 それになによりイシュタルには恩もあるし、親友をなくしたくはない。

 俺達は美味しいものを作って、皆で楽しめればそれで十分だ」

「そういってくれると信じていたぞ、タツロウ」



 十年来の友──というほどの時間を過ごしたわけではないが、共に過ごした密度は濃かった。

 そこで育まれた友情は、永遠にヒビ割れないと共に信じている。



「んじゃあ、そろそろ実験に──ぃ?」



 海の方から凄まじいエネルギーを持つ存在の気配が現れたかと思えば、そこに空間の揺らぎが発生する。

 どうやら誰かが転移でやってくるようだ。


 といっても自力で自由な転移が出来るのは、今のところ竜郎ともう一人しかこの世には存在しない。



「──母上か」

「あら、ばれちゃった? こんにちは。急に来ちゃってごめんなさいね」



 本気で気配を隠そうと思えば隠せたのだから、これだけ分かりやすい登場はワザとに決まっている。

 そこにはプラチナに輝く鱗を持つ、二十メートルはあろう真竜にしてイシュタルの母──エーゲリアの姿があった。

 さらにその横には、もう一体。全長50メートルは下らない海竜──レーレイファがいた。


 エーゲリアが本来、住まう島──エーゲリア島近海の防衛に努めている彼女がなぜ? とも思ったが、それより先に竜郎はエーゲリアたちに挨拶を返した。



「こんにちは、エーゲリアさん。レーレイファさん。

 いつでも来ていいと言った覚えもありますし、来るのはいいんですけど、今日はどうされたんですか?」

「私と遊んでくれるの? おねーちゃん」

「あらあら」「──これはっ」



 以前あった時よりも姿が少し変わり、二人が知るとある竜を彷彿させる存在感を放つニーナに、エーゲリアは目を細め、レーレイファは目を剥いていた。

 しかしニーナはそんなことは関係なしに、エーゲリアの胸に飛び込んでいった。


 下級竜ならそのまま当たっただけで死にそうな勢いだったが、世界最強の存在であるエーゲリアはやんわりとニーナを受け止め抱きしめた。



「ふふっ、元気いっぱいね。でも、今回は遊びに来たわけじゃないの」

「えー、そーなのー? ざんねーん」

「また今度、遊びましょうね」

「うん!」



 そこでニーナは手招きする竜郎の方に飛んで行き、ミニサイズになるとその肩に乗った。



「それで今日来た要件なんだけれどね。私も一度、見てみたいと思ったのよ」

「見てみたい? どうぞお好きに──と言いたいところですが、いったい何を?」

「それはもちろん、私のお母様とは全く別系譜の、竜王種が誕生する瞬間を──よ」

次回、第20話は2月1日(金)更新です。

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