第01話 異世界に行ってました
とある夕日が差す公園の中央で、二人の男女が叫んだ。
「帰って来たんだ!」
「帰って来たよ!」
異世界に落ちてからずっと、元の世界に帰る事を夢見てきた波佐見竜郎と八敷愛衣は、ようやく帰って来れた喜びのままに抱きしめあって口づけを交わした。
それはもう、いつまでもいつまでも、ちゅっちゅちゅっちゅと流石にもういいだろうと周りが思う程に──。
「兄さん、姉さん。やっと帰ってこれて嬉しいのは分かりますが、そろそろ落ち着いて下さいよ」
「「お?」」
竜郎の事を兄さん、愛衣の事を姉さんと呼んだのは、小学生くらいの小さな背丈の少女。
銀髪で肌が浅黒く深紅の瞳。耳が上にとがった形をした、可愛らしい顔の純血のドワーフ──『リア・シュライエルマッハー』。
彼女は生粋の異世界人なのだが、そちらですったもんだあった結果、波佐見家の長女として受け入れ、竜郎の義妹として移住する予定になったので、こちらの世界に連れてきたのだ。
ちなみに彼女は誰でも魔法を引き起こせる道具──魔道具、竜郎や愛衣、そして仲間たちの装備品なども作ってくれる凄腕の鍛冶師でもある。
「お? じゃないわ。そろそろ私たちは、ここから移動したほうがいいと思うのだけれど」
次に口を開いたのは耳が長く尖っており、銀に近いプラチナブロンドの長髪の、妙齢で目が覚めるほど美しい女性──『レーラ・トリストラ』。
彼女も生粋の異世界人であり、さらにその世界に生まれた最初の人間種族にしてエルフの真祖種──クリアエルフという、神格を失わない限り永遠の時を生きる種族でもある。
ちなみにレーラ・トリストラという名前は後付けで、本当の名前は神の子を示すセテプエンに、個体名を示すリティシェレーラを付けた『セテプエンリティシェレーラ』が本名なのだが、長いのもあって普段竜郎たちは『レーラさん』と呼んでいる。
彼女はその好奇心の強さ故に、異世界という存在を知ると是非行ってみたいと願った。
だからこそ竜郎たちがこの世界に帰れるように、全力でここまで手助けしてくれたのだ。
今度はこちらがその恩を返す番。
彼女には存分に地球を探求し新たな未知を知るために、こちらに住めるよう全力でバックアップしていくつもりでいる。
「タツロウ達の親にもリアの事や、私たちの世界の事を説明しに行くのだろう?
私も早く行動した方がいいと思うぞ。このままでは日が暮れてしまう」
レーラに続いて口を開いたのは、スチームパンクなファッションに身を包んだ背丈160センチ程で、胸はやや控えめ。毛先がクルクルとした長いプラチナブロンドに近い銀髪をハーフアップにした、エルフの様な耳をした美少女。
その名は『イシュタル』。
パッと見では外国人の中高校生くらいに見える彼女だが、その本当の姿は竜の真祖種──真竜と呼ばれる種族。
さらに彼女は竜郎達のいた異世界において、巨大な大陸──竜大陸イルルヤンカ全土を治めるイフィゲニア帝国の現皇帝でもある。
竜郎達がこの世界に帰って来るのに彼女の協力が必要不可欠だったために、竜郎たちに提示した見返りと自身の修行もかねて、色々とここまで手伝ってくれたのだ。
彼女の場合は異世界の安定という意味においても重要な立場であり、今は先帝でもある彼女の母『エーゲリア』に国を一時的に任せている身でもある。
そのような立場があるので一度、国に戻ってしまうと後継者が生まれ育つまでは異世界に行く事は出来ない。
だからこそ、その前に少し見てみたいと物見遊山でついてきたというわけだ。
「それもそうだな。それじゃあ、行こうか。カルディナたちはどうする?
とりあえず俺の中に戻っておくか?」
カルディナたち。そう呼びかけた竜郎の視線の先には──。
全長40センチある灰銀色の鷲──『カルディナ』。
黄金の小さな角を生やした、透き通るような純白の子サイ──『ジャンヌ』。
透き通るような白い肌に黒い和服姿。長い黒銀色の髪と瞳。背中に小さな悪魔の黒翼を持つリアより少し小さな小学生くらいの少女──『奈々』。
髪の色は琥珀色に白のメッシュ、瞳の色はヘーゼル。
服装は黒の短パンに白のTシャツ。竜郎と同じくらいの身長で、やや釣り目。
虎耳の生えた癖毛のセミロングで、尻尾の無い女性虎獣人──『アテナ』。
浮遊している小型のライフルを模したような杖の、後部ソケットに嵌った宝石のような赤く美しい輝きを放っている宝石のようなコア──魔力頭脳という演算装置に宿っている明確な体の形を持たない存在──『天照』。
スライムの様な物体の内部に埋め込まれている魔力頭脳に宿った、こちらもまた天照同様、体の形を持たない存在──『月読』。
──がいた。
彼女たちは魔力体生物と言って、竜郎の魔力を元に創りだされた生命体。
竜郎から分離した魔力が意志を持った存在と思ってくれていい。
なので竜郎の魔力に混ざって、その身の内に収まる事も出来る。
また彼女たちは全てメス、または女性である。
その理由は、魔力体生物の創造の性質上、創造主とは逆の性別になるからだ。
そんな彼女たちの内、小さな少女の見た目をした魔力体生物──奈々が口を開いた。
「ひとまず、そうしておいた方がいい気がしますの」
「いきなり大勢で押しかけられても、とーさん、かーさんの両親も困りそうっすからね~」
奈々に続いて声を発したのは、女性虎獣人の姿をした魔力体生物──アテナ。
さらにアテナの言葉にカルディナは「ピュィーー」と鳴き、ジャンヌは「ヒヒン!」と鳴き、天照と月読は体が無いので自らが収まっているコアを点滅させて、同様の意見だと竜郎に伝えてくれた。
竜郎はそれに頷き返すと、自分の中に入るように意思を飛ばす。
するとカルディナ達は白と黒のまだら模様の球体となって、竜郎の胸の辺りに吸い込まれていった。
──と。そこで先ほどからずっとリアの頭の上にへばりついたまま、皆の話が終わるのを待っていた最後の一人が口を開いた。
「ねーパパ、ニーナはどうすればいいの?」
「ニーナはとりあえず、そのままリアの頭の上にいてくれ。
それでこっちが呼んだら、認識阻害の魔道具の効果を切って出てきてくれ」
「はーい!」
全長30センチ以下の竜が、リアの頭の上から少女のような声で元気よく返事を返した。
その竜は全体的に白い体鱗に覆われ、紫白の翼。翼や手足の甲には、濃紫の美しい模様が入り、手足から伸びる五本ずつの爪は紫という特徴をしている。
小さな少女の頭の上に乗れるほど小さく見た目も愛くるしい竜ではあるが、今現在はスキルで小さくなっているだけで、実際の大きさは6メートル程ともっと大きい。
そして彼女は竜郎の事をパパと呼び、愛衣の事をママと呼ぶが、もちろん二人の間に産まれた子供というわけではない。
とある事情で彼女を助けた事があり、その為に尽力してくれた竜郎をパパと慕うようになり、竜郎の恋人である愛衣を、つい最近ママと呼ぶようになっただけ。
竜郎達が助け出す前まではずっと長い間一人ぼっちで寂しい思いをし、生みの親には世界への嫌がらせの為に捨てられたという経緯をもっているので、身内という存在への憧れや身に秘めた寂しさもあってのことなのだろう。
だから竜郎や愛衣も、これから彼女を娘のように沢山愛していくつもりだ。
「そんじゃま、とりあえず行こっか。たつろーのお家じゃなくて、私んちに集合って事で良かったんだよね」
「ああ、うちはまだ父さんも母さんも帰ってきてないからな。
今から仕事が終わったら愛衣の家に来るように連絡してみる」
「おっけー」
竜郎は物質を収納できるスキル──《アイテムボックス》の最上位スキル、《無限アイテムフィールド》から自分のスマホを取り出した。
そしてトークアプリを開いて、家族のグループへメッセージを入力していく。
すると入力し終わる前に、竜郎の母──美波から電話がかかってきた。
それにビックリしながらも、竜郎は通話ボタンをタップしてスマホを耳に押し当てた。
「竜郎!? 大丈夫だった!?」
「え? 何が……って、ああ、そうか。さっきまで地震が起きてたんだっけか」
「……おきてたんだっけかって、何を悠長な事を。
結構大きかったでしょ? 電話がつながらなくて、お母さん心配したんだからね!」
竜郎たちが次元の割れ目に落ちて異世界に行く際に、世界規模で一斉に地震が起きていた。
さらに異世界に落ちてからこちらに帰って来るまでの、地球での経過時間はまったくない。
なので竜郎や愛衣は500日以上会っていなかったと感じているが、向こうは朝から夕方遅くまでしか離れていないと感じているというわけである。
竜郎の母──美波は、先ほどの地震について心配し連絡をしようとしてくれていたらしい。
ただ竜郎の《無限アイテムフィールド》内に入っていたので、圏外になっていたようだ。
そりゃあ、地震が起きて直ぐに息子と連絡が取れなくなったら心配もするだろうなと、竜郎は美波に謝っておいた。
「心配させて悪い。でも、ちょっとこっちも色々あったんだ」
その様子を見ながら愛衣も急いで自分のスマホを《アイテムボックス》から取り出せば、トークアプリの通知が沢山届きはじめた。
なので電話をかけようとするが、通信規制がかかっているのか愛衣の方は繋がらない。
仕方がないので、こちらはトークアプリの家族のグループにメッセージを入力しておいた。
「い、色々って何!? 愛衣ちゃんが怪我でもしたの?」
「いやそうじゃないよ、母さん。今、愛衣と一緒にいるんだが、俺も愛衣も無傷でピンピンしてる」
「ああ、そうなのね……良かったわ。仁君の方も無事だったから安心してね」
仁君とはフルネームで波佐見仁。竜郎の父親のことである。
「ああ、怪我がないようでなによりだ」
「でもそれじゃあ、色々あったっていうのは結局何だったの?」
「その辺の事情も話したいから、今日はひとまず父さんと一緒に愛衣の家に集合してくれないか?
直接会って、話しておきたい事があるんだ」
「…………こんな時に愛衣ちゃんとの婚約発表とかしないでよ?」
「しないってば! とにかく父さんと一緒に来てくれ!」
「はぁ……とりあえず了解。今日はもう仕事どころじゃないから、今から帰るわ。仁君の方には私から伝えておくから」
「ああ、助かる。それじゃあ、また」
竜郎が通話を終えると、愛衣の方もトークアプリの方で連絡が取れたようで、今日、波佐見一家が押しかけてもいいという許可もなんとか取ってくれたようだ。
「地震があった時は空間に罅割れとかもあったんだが、どういう風にこっちでは処理されるんだろうな」
「さあねえ。でも調べたところで分かんないんじゃない?」
今話し合う必要のある話題でもないので、さっそく竜郎と愛衣。
そしてドワーフの少女──リア。クリアエルフの女性──レーラ。真竜の少女─イシュタル。小さな竜──ニーナを連れて、愛衣の家へと歩き始めた。
「地震の影響はそこまでひどくはなさそうですね」
「まあ、この国は地震大国なんて呼ばれるくらい頻繁に地震が起きるからな。
それなりにどこの家庭も対策はしてあったってのもあるんだろうさ」
「へぇ、そうなんですね」
ブロック塀が崩れていたり、窓ガラスが割れている家もあったが、どの家も倒壊はしていない。
けれどあちこちに地震の影響を感じながら、先を急いだ。
その途中で信号機や横断歩道など、基本的な交通ルールをこちらに住む予定のリアやレーラにレクチャーしていった。
やがて三階建ての白い一軒家が見えてくる。
「なつかしー! 私んちはアレだよ!」
「あれがアイの家なのか。それじゃあ、タツロウの家はどこら辺にあるんだ?」
「俺の家は2つ前の信号を右に曲がって、しばらく行ったところだ。
そんなに離れてもないから、俺と愛衣が付き合い始めた頃から家族ぐるみで仲良くしてる──と、着いたな」
「それじゃあ、ちょっと待ってて。今鍵開けるから」
「ちょっとアイちゃん。あなたとタツロウ君の認識阻害は、切っておいた方がいいんじゃない?」
「ああ、そうだった。このままじゃ、お母さんも気付いてくれないや」
レーラに言われて自分たちも認識阻害の魔道具を起動しっぱなしだったことに気が付いた。
慌てて胸元に下げていた2つのペンダントの内、1つを手に取りスイッチを切った。
その時の二人を見ている住人がいたら、突然竜郎と愛衣が八敷さんのお宅の前に出現したように見えたことだろう。
だが誰もこちらを見ていないことは、竜郎の魔法で確認済みなので大丈夫。
愛衣はちゃんと切れた事を確認すると、《アイテムボックス》の中に入っていた通学時に使っていたショルダーバッグから家の鍵を取り出した。
それを鍵穴に挿し込みカチャリと開錠すると、当たり前だが扉が開いた。
地震のせいだろう。玄関口には下駄箱から靴が何足も落ちて散乱していた。
他にもその下駄箱の上に乗っていた小物や花瓶も落ちており、中々に悲惨な状態になっていた。
だがそんな事も気にしないで、愛衣は大声で家の中に向かって叫んだ。
これまで帰れなかった、会えなかった時間を込めて──。
「おかーーーさーーーん! ただいまーーー!」
「────愛衣? もう帰って来たの?
あんたが言い出したんだから、片付け手伝ってよー。
あら、竜郎君もいらっしゃーい」
現れたのは身長165センチほどで、愛衣に似てやや童顔。とても40代のマダムには見えない外見。
髪は愛衣よりも少し短いショート。胸は愛衣と同じくそれなりにあるが、体型は細身。
八敷美鈴。正真正銘、愛衣のお母さんである。
「おかーさーーんっ!!」
500日以上親元を離れた事などなかった愛衣は、その姿を見た瞬間、目に涙を浮かべて美鈴に抱きついた。
もちろん、今の愛衣が本気で抱きついたら一瞬で殺してしまうので、手加減だけは忘れずに。
「──うわっ、なに!? なんなの!? どーしたの、愛衣──って泣いてる!?」
「お邪魔してます、美鈴さん。こんな時に突然押しかけてすいません」
「いや、それは良いんだけど……。この子、一体どうしたの?」
「その事も含めて説明するために、うちの両親もここに呼んでいるんです。なので説明は後にさせてください。
それと、しばらく愛衣の好きなようにさせてあげてください。片付けなら俺も手伝いますから」
「……はあ。何だか分からないけど、とりあえずそうさせて貰うわね」
抱きついて離れない愛衣に美鈴は少し困ったような顔をしながらも、自分からも抱きしめ返して愛衣の頭を撫で始めた。
愛衣はそれで涙腺が完全に決壊し、わんわんと泣きはじめてしまう。
だがそれも無理もない。一歩間違えれば、二度と会えない可能性だってあったのだから。
「とりあえず、美鈴さん達はどこかで寛いでいてください。俺はひとまず、ここを何とかしますから」
「えーと……お願いできる?」
「ええ。もちろんです。目一杯、愛衣を甘やかしてあげてください」
「了解。ほら、愛衣。行くよー」
そうして美鈴はコアラのようにへばりつく愛衣を引きずりながら、リビングの方に行ってしまった。
「それじゃあ、ちょちょいと何とかしておくか」
「兄さん。一人で大丈夫ですか?」
「ああ、もちろんだ。これくらい今の俺なら直ぐに終わる──ふっ」
玄関をしめ、美鈴も奥に行ったのを確認すると、竜郎は《重力魔法》で玄関に落ちている物を浮かべて、《風魔法》で靴を一つ一つちゃんと揃えて下駄箱に収納。
花瓶の水で濡れたものは水魔法で水分を操り、物体から吸い取って乾燥。
残った水分は高火力の《火魔法》で一瞬にしてジュッ──と蒸発させる。
壊れた物は《解魔法》で調べながら小さな破片も逃さず回収し、それぞれ分けて置いていく。
そうして一分もしない間に、見違えるように片付いてしまった。
「ついでに壊れたのも直しておくか」
壊れた物の破片などが置かれた一角に向けて《復元魔法》を発動。
割れた花瓶、小物類が一瞬にして修復されていく。
修復が終わった物から《重力魔法》で浮かべて《風魔法》で移動させて、竜郎の記憶の中にあった場所へと置いていった。
あとは花瓶の中に《水魔法》で生成した新しい水を入れ、そこに入っていたであろう花を挿せば完成だ。
「これでよしっ──と」
竜郎は玄関で靴を脱ぎ、きちんと並べて向きを揃えおく。
リアやレーラ、イシュタルにも脱いでもらって、《アイテムボックス》に収納しておいてもらう。
ニーナはそもそも裸足状態なので、特に何も言わずにリアの頭の上に乗っていて貰う。
そして竜郎は後ろに認識阻害がかかったままの異世界人を連れて、愛衣と美鈴がいるところへとやって来た。
するとやっつけで適当に片付けられたリビングで、ソファーに座り愛衣を抱きつかせたまま頭を撫でる美鈴の姿が目に入った。
「終わりましたよ、美鈴さん」
「え? もう?」
「見てみますか?」
「ええ、ちょっと興味あるし。ほら、愛衣、自分で立って」
「うー」
愛衣を無理やり立たせると、美鈴はまた愛衣がくっ付いた状態で玄関が見える位置にまでやって来た。
すると地震などなかったのではないかと言う程、元通りになった玄関があった。
「うそっ、ほんとに? 花瓶、割れてたよね?」
「そうですね。ちょっとそういうのの修復が得意になったので」
「得意とかそういうレベルじゃない気もするけど……」
「それも含めて、全員揃ったら説明しますから」
「……分かったわ」
竜郎の態度から今説明する気はないのだろうと察した美鈴は、大人しく夫の正和と竜郎の両親が集まるのを待つことにした。
やっと落ち着いた愛衣と竜郎も手伝いながら、ある程度片付けも終わり、まったりと待っていると竜郎の両親が八敷家の呼び鈴を鳴らした。
美鈴に迎え入れられ、二人が入ってくる。
身長175センチほどで、程よく引き締まった体つきでそこそこ顔立ちの整った40代男性が竜郎の父──仁。
身長160センチほどで、セミロングの髪に30代前半にも見える、これまたそこそこ顔立ちの整った女性が竜郎の母──美波だ。
「「お邪魔しまーす」」
「父さん、母さん……」
竜郎は思わずそうつぶやき、立ち上がって仁と美波の方に歩み寄った。
愛衣のように抱きついたり泣いたりすることはなかったが、それでも胸の奥底からこみあげてくる感情があった。
「何て顔してんだ、竜郎。そんなに俺達の事を心配してくれてたのか?」
「電話口じゃそっけなかったのに。可愛い所あるじゃない。もー」
「ああ、いや……」
仁には頭をわっしわっしと撫でられ、美波には頬を軽く抓まれムニムニされる。
だが竜郎は胸がいっぱいで、それを振り払う事も出来ずに、自然と口元には安堵の笑みが浮かんだのだった。
そして皆でリビングに集まっていると、やがて中肉中背で、眼鏡をかけた身長185センチほどの背の高い男性──正和がリビングに入って来た。
「ああ、仁さん、美波さん。それに竜郎君も、いらっしゃい」
「「「お邪魔してます」」」
波佐見一家が同時に会釈して、それに返した。
これで波佐見家、八敷家。全員が一堂に会した形になる。
竜郎と愛衣は目線を合わせると、頷きあって皆が座るソファーの正面に並んで立った。
それと同時に、隅の方で暇そうにしていたリアやその頭の上で寝ているニーナ。そしてレーラ、イシュタルが認識阻害がかかったままの状態でその後ろに立った。
それを確認してから、竜郎は自分と愛衣の両親を見渡し口を開いた。
「えー、今日はこんな状況の中、集まって貰いありがとうございます。
ですがどうしても、直ぐに伝えておかなくてはいけないことがあったので、無理を聞いてもらいました」
「そんなかしこまった挨拶はどうでもいいから、早くその訳を話してくれ、竜郎」
「分かってるよ、父さん。それじゃあ分かりやすく、まずは結論から。
実は、俺と愛衣は────────異世界に行ってました」
「「「「……………………………………は?」」」」
正直に言ったというのに、長い沈黙の果てに返って来たのは「何言ってんの?」という視線だけだった──。
「まーそうなるよねぇ」
「だなぁ」