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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十一章 竜の王国・後編
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第198話 リゲンハイトという王子

 リゲンハイトの行動に面喰らいながらも、「誰がお義父さまじゃい」と心の中で突っ込む竜郎。

 だがそのままいうのもどうかと思い、オブラートに包んで否定しようとすれば、別のところからしっかりと否定が入ってくれた。



「これ、リゲンハイト。此度は我々とタツロウくんたち、そしてそこにいるお嬢さん方との挨拶だけだ。

 其方との婚約決めのために来てもらったわけではない」

『おおー、王様の方はちゃんと分かってくれてるみたいだね』



 愛衣が念話で飛ばした言葉に、竜郎たちも心の中でうなずいた。こちらとしては別に婚約するかどうかは、まったく決める気はないのだから。


 しかしその息子リゲンハイトは、逆に何を言っているのだと目を丸くした。



「確かにそのことは伺っておりますよ。今回は挨拶だけなのは分かっています」

「であるのなら、いきなりお義父さまは失礼だろう」

「いや、しかしですよ父上。この私ですよ?」

「あぁ……、そういうことか……」



 リゲンハイトが何を言いたいのかそこで理解したドルシオン王──マルティントとその妻──クローフェは、頭が痛そうに目を細めながら一瞬頭を抱えてしまう。

 しかし竜郎たちは何のことか分からず、その意図を探るような視線をマルティントに向けた。



「いや、すまない。タツロウくん。コレが何を言いたいのかと言うと……あーー──」



 どう説明したものかと言葉を考えている間に、当の本人がその後を勝手に引き継ぎ話し出す。



「──私ほど魅力的な竜など他におりません。今はまだ幼い故に分からぬでしょうが、もう少し成長しシステムが得られるようになる頃には、きっとお嬢さん方から是非にと申し出てくれることでしょう。

 ああ、お義父さま。私は姉妹ともども受け入れる覚悟もありますので、どちらも悲しませることはありません。ご安心を」



 そして「キラーン☆」という効果音が聞こえてきそうなキザったらしい笑みにウインクを添えて、大真面目にそう竜郎に言い切った。



『おいおい、マジかよ……』

『とんだナルシストですの……』



 自信が服を着て歩いているような若き神格竜に、親2人が頭を抱えたくなる気持ちが少しだけ理解できた。



『なんというか、前の王様と真逆って感じの竜っすねぇ』

『あはは……、そのレノフムスさんと足して二で割ればちょうど良さそうな気がするね』



 向こうも竜郎たちに息子の性格が伝わったことを察して、マルティントは頭が痛そうな声音で口を開いた。



「お察しの通り、我が息子はその……こうでな…………」

「は、はぁ」

「しかし、そうなってもしょうがないほどに、リゲンハイトは優秀なのは間違いないのだが……」

「そうなのですか?」



 失礼ながらも意外に思いながらそう竜郎が口にすると、マルティントはリゲンハイトのことについて教えてくれた。


 それによれば、この王子は親のひいき目を抜きにしても優秀で、幼いころは神童と呼ばれ、その評価は成竜となり神格を得た今も変わらないほどとのこと。


 勉学は教えた端から吸収していき、戦闘においても恵まれた初期スキルに加えて本人のセンスも抜群。

 与えられた仕事は子供の頃から期待以上にこなし、今では王の座をすぐに譲っても問題ないほどに政務をこなせる。


 また人気。彼は神格を得る前から東へ西へ、北へ南へ、国内のあちこちに変装の魔道具を用いてお忍びで出歩いては、その先で起こった問題や悪事を暴き、必要とあれば竜王種の証でもある神印を見せて地位のある者が相手でも弱きを助けて回った。


 そんなことをずっとしていたら、多少脚色はされてはいるが、事実に基づいた『若様世直し珍道中』という劇や本までできるほど国内の人気は高い。

 今や彼は老若男女に親しまれ、竜からすればかなりのイケメンでもあるため国民である女性竜が彼を見れば黄色い悲鳴をあげ、男性竜が彼を見れば盛大な歓声を上げる。

 とくに若い層からは絶大な人気を誇り、若年層であれば現王よりも支持者が多いといっても過言ではない。


 文武両道にして顔もよく、地位も名誉も富も人気もある、まさにパーフェクト王子様なのだとか。



「この国をまた訪れる際には、是非私がモデルとなった本や劇をご覧ください、お義父様。

 悪に向かって側近たちと共に正義の鉄槌を下し、最後は『この神印が目に入らないのかい?』という決め台詞で場を治める流れ……。自分で見てもほれぼれするほどですよ」

『お前はどこぞのご老公かっ! というか、自分の劇を恥ずかしがることなく楽しめるって、凄いなこいつ……』

『そもそも私たちとは生まれも育ちも違うし、考え方も違うんでない?』

『ヒヒーン、ヒーーン、ヒーン、ヒン。(それを置いたとしても、謙遜って文字を捨て去りすぎな気がするけどねー)』

『───、───────。(しかし性格は悪くないようですし、ドロシーたちの相手としては、問題なさそうではありますね)』



 さすがに声には出せなかったので、適当に竜郎が相槌をうちながら念話でツッコミを入れる中、愛衣やジャンヌ、天照も好き勝手に王子の印象を述べていく。



「ではお分かりいただけたところで、是非そちらの皆さんもご紹介願えませんか? お義父様」

「いや、だからまだお義父様ではないんだが……、まあ、それはあとでいいか。じゃあ、まずは──」



 愛衣からはじまりジャンヌ、奈々──と続いていき、ここにいる王族たちには意味をなしていない幼竜たちの認識阻害の魔道具も完全に解いて紹介していく。

 新たな竜王種ということでかなり興味をひかれていたようだが、やはりお目当てのドロシーたちに一番の関心が向いたようだ。

 目を皿のようにしながら、この場にいる王族3人の視線が集まった。



「「ガウガ~」」



 それでもどちらも臆することなく、右前足を揃ってあげて「よろしく~」とばかりに鳴き、王たちに挨拶した。

 それが微笑ましく映ったのか、マルティントやクローシェはだらしなく相好を崩して、まるで孫娘を見るような目をしだす。

 そんな中リゲンハイトも可愛らしいものを見るような視線を向けながら、そっと自分の右前足を彼女たちの前に差し出した。


 何だろうとドロシーとアーシェが見上げていると、リゲンハイトがスッと爪をこするように動かした。

 すると手の中に隠していたであろう白いバラのような切り花が2輪、爪の先に現れる。



「どうぞ、お嬢さん。出会えた記念です」

「「ガウガウガーー!?」」



 簡単なマジックだが、スキルであるアイテムボックスなどを使わずにそれをしたことで彼女たちは「なにしたのー!?」とその手の周りを駆け回る。



『はぇ~マジックまでできるんだ、リゲンハイトさん多芸だねぇ』

『──、──────(ですがあの子たちに花は早いようですけれどね)』

『月読の言う通り、うちの子たちは花より団子だからなぁ』



 現にドロシーたちどころか楓や菖蒲、イルバ、アルバまでも不思議そうに駆け寄ってはいくが、花になど一切興味を示していない。

 なまじ家で食べる料理が美味し過ぎるせいで、関係者たちは舌が肥え、食欲が旺盛になっているのではないかと竜郎はどうでもいいことを推測した。


 そんな中リゲンハイトは、子供たちが楽しんでいることに気をよくしたのか、両手を使って花を消したり出したり、楓の髪の中から花を抜き取るように見せかけるマジックなどを見せさらに彼女たちを喜ばせてくれる。



『普通にいいお兄さんって感じだね』

『少なくともあたしは前の王様よりは、こっちの王子のほうが好感持てるっすね』

『あんまりそれを本人たちの前で言うなよ……?』

『分かってるっすよ~。だから念話で言ってるんすから』



 だがイシュタルに少し前に聞いたところによれば、リゲンハイトとレノフムスでは前者の方が年上ではあるが、竜からすれば人間で換算すると4、5歳程度の差しかないらしい。

 そんな年の近い王子と王は大っぴらにではないが、間接的だったりやんわりと昔から比較されることも多く、微妙にレノフムスはリゲンハイトに苦手意識を抱いているのではないかと言っていた。



『ヒヒーーン、ヒン(竜社会も大変だねー)』

『ですのですの』



 竜郎たちは念話を交わしながらそのまま子供たちを見守っていると、不意にアーシェが大きく口を開けてリゲンハイトが爪で摘まんでいた花を一輪食べてしまった。



『あれでは花より団子どころか、花すら団子ですの』

『うまいこと言ってる場合かっ』

「ガウ~?」

「ガウガウ?」

「ガウ」

「ガ~~ガ~ガウ」



 なんて念話で竜郎がツッコミを入れていると、花を食べたアーシェとドロシーは「う~ん?」「美味しいの?」「普通」「私も食べてみる」といった感情のやり取りをすると、何のためらいもなく姉の方もリゲンハイトの花をバクンッと勢いよく食べてしまった。



「いや、だから食べちゃダメだろっ、アーシェ、ドロシー! それに楓たちも食べようとしないっ」

「「うーー」」「「クォ~~」」

「えーじゃありません」



 竜郎が「ちゃんとお家で食べさせてるだろう」と──お小言を述べるが、楓たちは不満そうだ。



「お義父さま、ご安心を。これは食用としてもつかわれる花ですから」

「は、はあ」



 ならいいというわけではない気もするが、一応ちびっ子たちに気を使ってくれていたようだ。またキザな笑みを浮かべウインクをした。


 もうなんだか疲れてきてしまった竜郎は、子供たちの相手はリゲンハイトに任せ、そのまま話を続けることにする。


 こちらが望むものは最高純度のドルシオン鉱石。それを手に入れるための食材で作ったサンドイッチを、これまでの王たちと同様にだして食べてもらう。


 もちろんここまで案内?してくれたロルグルムにも、提供した。

 雷精竜なので食べられるのかと思ってみていると、口をパカっと開けてそこに放り込む。

 するとバチバチッと音を立ててサンドイッチは一瞬で消し炭になり、焦げた香りが彼の周囲に漂いはじめる。



「おっ!? こいつはすげーっ!」

「えっと、それで味が分かるの? ロルグルムさん」

「あったりめーよ!」



 どういう仕組みなのかは知らないが、悪戯に消し炭にしているようにしか見えずとも、その方法で味わうことはできるようだ。

 彼は竜郎たちの後ろでうまいうまいと夢中になっている王族たちをしり目に、きっちりと半分残して後は持参した入れ物にしまい《アイテムボックス》に収納した。


 エーゲリアさんは毎回お土産を持っていかせるなと、竜郎たちは苦笑した。




 それから話し合いも進んでいき、これまで通りドルシオン鉱石を手に入れられるようにしてもらい、こちらの食材を流す約束もした。

 王城の近くに竜郎たちの土地も用意してもらえるようになり、こちらにやってきたメインの話は片付いた。

 あとは竜郎が分霊神器でジャンヌたちともつながった状態での、向こうの言う『本当の姿』を見せれば、「この方が私のお義父さまになるのかっ!」とご満悦なリゲンハイトにやたら懐かれたりもした。



「んじゃあ、これで話は終わりだな!」



 そんなやり取りを見届たロルグルムは、来たとき同様帰ろうとする。



「いや、帰ってもいいと言えばいいですけど、まだ用事があるんですが見届けなくてもいいんですか?」

「おう? なんかあったか?」

「ファン太のことで相談があるんで、まだ話は全部終わってないんですよ」



 婚約関係の話で面倒な展開にならないようにエーゲリアの側近眷属が来ているわけで、帰りは別だしロルグルムにファン太関連の話は関係ないと言えばない。

 しかしこれまでの見届け人たちは、最後まで見ていたので竜郎は念のため彼に確認をしてみたのだ。



「ああ、そんなことも言ってたな! 忘れてたぜ! 一応帰るまで見届けることになってた、なってた! がははっ」



 リゲンハイトといい、ロルグルムといい、なんだか今回は別の意味で疲れるなとため息をつきたいのをこらえながら、竜郎は再びマルティントたちへと視線を戻し、魔竜の教育施設の話を聞くことにするのであった。

前後する可能性はありますが、木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実力の伴ったナルシストですか 目の前にいたら思わず殴りたくなる相手かもしれませんw
[良い点] ナルシストはナルシストでも、実力があり、人気もあり、謙遜はしないが他者を扱き下ろすこともなく、小ネタも満載。 あれこいつ普通にもてるんじゃ……。 まあ王族として育てられてるんだし、あま…
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