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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十一章 竜の王国・後編
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第196話 教育

 用を済ませた竜郎たちがまずしたのは、遺跡をリアとも相談しながら改造。

 ベルケルプが関わった遺跡ということでリアは大層興奮しながら手伝ってくれた。


 それと同時に元からあった扉と鍵は使い勝手も悪く、老朽化していたのもあって、リアが丁寧にできるだけ現物が研究資料として残せるように取り外し、自分で作ったお手製の扉を設えた。

 竜郎の魔法による鍵も付けたので、正規の手段以外でここに入れるものはほとんどいなくなった。


 また中も竜郎と月読によって竜水晶でさらに内側を補強し、区画も都合のいいように魔法で作り替えていった結果、自由に飛び回れるほどに広く、それで頑丈な、なかなかいいラペリベレの養殖場ができた。


 場が整ったところでさっそく竜郎たちは、正式にラペリベレをセテプエンルティステルことルティから受け取り、そちらに移動させる。

 そのときにウゴーに《魔物変質》による第一回目の施術もしていた。



「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて私たちは、タツロウくんたちの居住区の上空に住まわせてもらうことにするよ」

「うん。これから、ご近所さんとしてよろしくね! ルティさん」

「ああ。よろしく頼むよ、アイちゃん」



 愛衣の人好きのする満面の笑みにつられるようにルティも柔らかな笑みを浮かべ、ウゴーと共にカサピスティ国領内にあるカルディナ城へと向け飛び去って行った。


 ……しかしその後、少しだけ問題が起きる。


 カルディナ城周辺の上空には竜郎の眷属中での問題児ならぬ問題竜でもある象竜──ファンタが領空警戒の任に当たっている。

 そんなファンタは竜郎にお客が来るからその人たちは通しておいてくれと言われていたので一応通したのだが、自分のほうがウゴーより強いと分かるや否や、『俺がここでは先輩だ。これからお前、俺の舎弟な』的な感情をこめて侮った鳴き声を上げて威圧してしまう。

 しかしそのせいで上にいたルティがすぐにやってきて、「うちの子に何を言っているのかな?」と逆に威圧し返され、空でファンタが土下座するという奇妙な光景が見られることになる。


 それを後に聞いた竜郎も大事な客人に何してんだと怒りたくもなったが、あまりにアンポンタンなファンタに本格的な教育が必要なのかもしれないと改めて思い至った。


 さっそく竜郎は楓と菖蒲をあやしながら、彼の筆頭教育係でもあるアーサーと食堂で話し合うことにする。

 ちなみに愛衣は今、母──美鈴と共に父──正和の畑の方にいっているので、珍しくここにいない。



「ってことなんだが、アーサー。どうすればいいと思う?」

「私の方で指導はしているのですが、どうしても弱者に対して上に出ようとする態度がなくならないのですよね……。力が及ばす、申し訳ありませんマスター」

「いや、アーサーは悪くない。こっちこそ気にさせて、悪いな」

「いえ、そんなことは」

「「はぁ……」」



 アーサーの指導で竜郎たちの身内を侮ることはほぼなくなったのだが、それでも自分よりも弱そうに見える新参者には大きく出ようと絡んでいく。

 これはもはや本能と思って放置する、もしくは気が進まないが竜郎が強く眷属への強制力を働かせるべきなのかもしれないと、アーサーと2人竜郎がため息をこぼしていると、いつものように昼食を食べるためにやってきていたイシュタルが声をかけてきた。



「なんだタツロウ。ワルガキ竜の躾で困っているのか?」



 話が聞こえていたのだろう。イシュタルが話の流れのままに、するっと会話に加わってきた。

 だがそれならそれでちょうどいい。同じ竜として何かいい案が思い浮かばないか、竜郎は彼女に相談してみることにした。



「イシュタルには何かいい考えがあったりしないか?」

「ふむ、ないこともない」

「そうなのかっ!?」



 ファンタに関しては半ばあきらめていただけに、竜郎は驚きの声をあげてしまう。アーサーも声には出さなかったが、目を丸くしていた。

 いったいどうな方法なのかと身を乗り出すと、イシュタルもちょうどいいとばかりに話を切り出してきた。



「その前に話を少し変えるんだが、正式に竜王たちへの訪問の順番が決まった。

 暇ができたのなら、訪ねに行ってほしいんだがどうだろうか?」

「え? ああ、そうなのか。スペルツ探しも別に急ぎじゃないと言えば急ぎじゃないし、今は火急の用事もない。近いうちに日程を知らせてくれ。ちなみに、どんな順番になったんだ?」

「ドルシオン王国。フォルス王国。そして最後にフォンフラー王国の順番だ。帰ったら、すぐに各王たちと調整をしよう」

「了解。えーと、それでいくと聖雷の竜王種、森厳の竜王種、邪炎の竜王種の順番であってるよな?」

「ああ、それで間違いない」



 竜郎としてはここで、「で?」だ。この話がイシュタルにとって重要なのは百も承知だが、突然話の流れを切ってまでこの話を割り込ませたのにも意味があるのだろう。

 竜郎は視線でその話がどうファンタの教育に繋がっていくのかという疑問を、イシュタルに投げかけた。

 彼女もその視線の意味をすぐに察して、口を開いた。



「でだ。実は次に行ってもらう予定のドルシオン王国には人に至れるほどの知能はなくとも、それなりに高い知性を持った殺してしまうには惜しい魔竜を帝国のために育てる機関がある。

 そこには当然、誰に縛られることもなく野生で生きてきた暴れ竜もいるんだが、しっかりと教育を受けた後は、どんなワルガキであっても分別のある行動がとれるようになるんだ」

「そんな所があるのか、ドルシオン王国には。それは別にテイムした後の竜というわけではないんだろ?」

「ああ、その道の専門家たちによってテイムに頼らず、半野生状態である程度の言うことを聞かせ国防に役立てているようだ。

 私も何度かその魔竜たちを見たことがあるが、こちらから手を出さない限りは非常に大人しい竜ばかりだったぞ。

 中にはその教育によって生き方が変わり、最終的に知性を得て人間に至った例も何件かあるほどだ」



 イフィゲニア帝国にとっても強い竜の家臣は望むところ。もと野生であっても、優秀なら受け入れらるだけの度量はあった。

 そのため理性のない獣のような魔竜でなく、ある程度こちらの意思が伝わる魔竜ならば、とりあえずその機関に預けてみようということになることもあるのだそう。


 なるほどそれならば、ファンタも少しは大人になってくれるかもしれないと竜郎もアーサーも思ったが、一つ問題が浮かび上がってきた。



「けどうちのファンタもなんだかんだ言って、強制レベリングはしてるからなぁ。

 種族的にも優秀だし、そこいらの魔竜とじゃ比べ物にならないくらい強いぞ? 大丈夫か?」



 いくら専門的知識があろうとも、あのファンタは竜郎の眷属としてレベリングを行っていた。

 性格に問題があるため他の眷属竜たちよりも低めになっているとはいえ、躾ける立場の者が下だと分かれば言うことなど絶対に聞かないだろう。


 そんな意味を込めての言葉だったのだが、イシュタルはふっと笑った。



「問題ない。代々そこは引退した竜王や、その系譜の者が上に立って運営している。

 現に今はドルシオン王国で今回お見合いしてもらう王子の祖父に当たる、竜王種とその伴侶もいる。

 いくら前線から退いた老竜たちとはいえ、神格竜のあやつらをファンタごときがどうにかできるものではないさ」

「引退したといえ竜王種まで投入しているとか、けっこう凄い機関なんだな」



 それならばファンタでは手も足も出ない。なんだこの老竜はと侮れば、すぐにまた土下座する羽目になることは明白だろう。



「えーと、それじゃあ、そこにファンタを預けてみればいいんじゃないかってことなるんだろうけど、国防とはまるで関係ない第三者のファンタを預かってもらっても本当にいいのか?」

「竜王と直接交渉すれば、大丈夫だろう。それで婚約が条件だ──などと言うような狭量な者たちでもないしな」

「そうか。なら直接、話をしてみることにするよ。

 妖精郷の住民だったりルティさんみたいに、これからここにも客人が増えるかもしれないから、ファンタの性格をもう少しマイルドにしておいた方がいいだろうしな」

「そうするといい。私からも、それとなく話が通りやすいように軽く言づけておこう」



 イシュタルからの言づけはもはや命令にならないか? とも思ったが、彼女が気にしていないのならいいのだろうと、竜郎はそこを気にするのはやめておいた。



「そういえばイシュタル。教育で思い出したことがあるんだが、もう少し質問してもいいか?」

「ああ、いいぞ。日々忙しいと言えば忙しいが、急いでいるわけでもないからな。それでなんだ? タツロウ」

「もし将来的にこの子たちを学ばせたいと思ったとき、俺たちはどういう選択肢を取ればいいと思う?」

「「ぁう?」」



 竜郎が自分を挟み込むように横の椅子でうとうとしながら座っていた、楓と菖蒲の頭を優しくなでた。

 するとまどろんだ瞳で2人は竜郎に向かって「なあに?」と見上げてきたので「寝ててもいいぞ」とさらに頭を撫で続ける。

 すると2人は「ぅー」と返事をすると、目を閉じてお昼寝をはじめた。


 イシュタルはそこで竜郎が何を言いたいのかを察して、少し声を潜めながら口を開く。



「その子らを含めた竜王種とその亜種たちのことか」

「ああ。だってそこいらで、それこそこの国で勉学をってのも難しい気がするしな」



 普通の人間たちが暮らす国。いくら竜郎たちの領地内にある町にできるであろう教育機関に通わせようと思っても、この子たちは特殊過ぎて難しい気がした。

 竜と普通の国で育った他種族では認識も力も何もかも違いすぎる。一般竜ですらこの子らと乖離しているというのに、ただの人種や獣人、エルフなどが通うところで普通に過ごせるとは思えないのだ。



「そうだろうな。実は私や母上もそのことについて、少し話していたことはある。その上で現時点ですぐに言える選択肢はいくつかある」

「いくつもあるのか。とりあえず全部聞かせ貰っても?」

「ああ。まず一つ目の選択肢は帝都にある、竜大陸全土から集められた選りすぐりの優等生たちだけが通える学院で学ぶ道。

 教育機関としては、我が国どころか世界中でもトップクラスの学問を修めることができる場所と言っていいだろう。

 さらに優秀な学生しかいないから、上級竜以上の竜の子も多く在籍している。それでも竜王種ともなれば多少は浮くかもしれないが、他のどの学院よりも馴染みやすいとは思う」

「おぉ……。なんだか凄そうなところだな。ちなみにイシュタルもそこに行ったのか?」

「幼少期に母上とセリュウスたちによる教育を一通り施されてから、何年か通っていたな。そこで在学中に側近眷属以外の側近を何人か召し上げ、私の城で働いてもらっていたりする。

 この子たちもそこに行くとするのなら、将来生まれる私の子や母上の子と一緒に、ある程度の教育を受けてから行くのがいいと思う」

「なるほど。学問を究めたいという子が出てきたら、その道を勧めるのが一番かもしれないな」

「それがいいだろうな。そして二つ目の選択肢だが、これは帝都ではなく王都にある王立の学院に通うという道。

 竜王たちからすれば、これが一番喜ばれる道だろうな。

 多少帝都の学院には劣るだろうが、決して程度は低くない。そこでも十分に高度な学びを得ることは可能だろう。

 さらにそれぞれ自分の種と同じ竜王たちが治める土地なら、居心地もいいと思う。その子たちにはそういった国はないがな」



 新種である楓や菖蒲には、自分と同じ竜王は存在しないので仕方がないことだろうと竜郎も納得する。

 その間、可愛らしく寝ている2人をイシュタルは優しいまなざしで見つめていた。



「そして三つ目の選択肢。これは学院へは行かず、こちらでそちらの希望に沿った教師を見繕い、ここに呼び寄せ学ぶと言う道。

 タツロウたちと離れることなく、最低限の常識や学問を修めることはこれでも可能だろうが、同年代の子らとの接触はないため、社交性は身に付きにくくなるかもしれない」

「家庭教師みたいなもんか。そっちで希望した教師を選んでくれるなら確かな人選をしてくれるだろうし、それもいいかもしれない。

 あまり他とかかわりたいと思わない子も出てくるかもしれないな」

「そうだな。そして四つ目の選択肢。これは母上のところで、母上とその眷属たちに教育してもらうというもの。

 私の子や母上の子はある程度育ったら学院に行くだろうが、そのまま継続して鍛えてもらったり学びを得たり、はたまた最低限の教養だけでいいならそこで終わりということもできる」

「これまた至れり尽くせりだな。エーゲリアさんたち自らとは」

「それだけ竜王種というのは、我が帝国にとっても大切にしておきたい存在ということだな。

 さて、今私から言えるのはこれくらいか」



 竜大陸にある普通の学院に通うという道もないわけではないらしいが、そちらの場合、竜王種やその亜種であるこの子たちが行っても馴染めないし、学べることも少ないだろうとのこと。



「ただなんにしても、その子たちの希望にはできるだけ沿うつもりでいる。

 だから最低限の教育を受けるように、この子たちがもう少し大きくなったら話をしてみてほしい。

 王の婿や嫁になりたいと思ったとき、ある程度の教養があったほうがいいだろうし、どの道に進むにしても学んでおいて損はないはずだからな」

「それは俺も思う。元の世界では俺も学生だしな。長い人生のうちで、一度は学生生活を送ってみるのもいいと思う。

 そういう意味ではアーサーも、どこかの学院に行ってみたいとかあるか?」

「えっ? 私ですか?」



 静かに聞いていたところで突然話題を振られたアーサーは、目を丸くしながら考えはじめる。



「今は強くなりたいという欲のほうが強いので、そちらを優先したいですが、マスターのためにもより高度な知識も身に付けておくにこしたことはないでしょうね。

 私も少し将来について考えてみたい思います」

「ああ、他の子たちにもそれとなく聞いてみてくれ。なんなら地球の学校に行くことだって、今の俺にならさせてあげることもできるしな」

「はい。そうしてみます」

「アーサーなら、我が帝都の学院でも私から推薦を出せる。興味があったら、いつでも声をかけてくれ」

「お気づかい感謝いたします」



 イシュタルもアーサーたちが学びたいのなら、応援してくれるらしい。アーサーはイシュタルに対して、小さく頭を下げた。



「さて、そろそろ私は帰って仕事をするとしよう。ではな」

「ああ。俺も養殖をしつつ、愛衣と試験勉強に励むことにするよ」



 学業のことを話していたせいで、竜郎は帰ったらすぐに試験があることを思い出す。

 人の心配もいいが、まずは自分も頑張らなくてはと、竜郎はまず何からはじめようかと考えはじめるのであった。

次話の投稿日は未定です。遅くても一週間ほどで投稿できると思います。


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