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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十章 エデペン山編
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第194話 ルティとウゴーの選択

 セテプエンルティステルことルティの元へと飛んでいく竜郎たち。

 今回は竜郎たちが近いうちにたずねてくることが分かっていたためか、ウゴーの認識阻害は甘めになっていたのですぐに居場所が発見できた。


 むこうもこちらが来ることにすぐ気が付いたのか、ウゴーの上にある箱庭の縁に座り足をプラプラとさせながら待っていた。



「おかえり。とりあえず中にあがってくれるかい? お茶でもだそう」

「はい。こちらも話したいことがいくつかできたので是非」



 こちらが到着するや否やお尻をはたきながら立ち上がったルティは、微笑みながら自分の家の方へと誘ってくれた。

 なので竜郎たちもそのまま、以前来た彼女の家へと足を向けた。


 相変わらず家具の少ない屋内で、ルティがお茶を入れてくれている間に、竜郎はまた自分たちの分の椅子を並べていき、ティーカップも机に人数分用意していった。

 しばらくするとお茶のいいかおりと共に、ガラスのポットをもったルティが戻ってきて、用意したカップにお茶を注いでいった。


 皆の分が行きわたり、一口ごくりと飲んで気持ちを落ち着かせたところで、竜郎たちは本題を切り出すことにする。



「まず調査結果から申しますと、あの遺跡の中に原因がありはしましたが、あそこをどうしたところでもう意味がないということが分かりました」

「ん? どういうことだい? タツロウくん」

「それがですね──」



 ギヨームという男がいたこと。その男がなにを思い、どういうやってあそこを作り、どういう経緯でラペリベレという魔物が生まれたのか。

 ルティには包み隠さずほぼ全てを語って聞かせた。



「……ギヨーム。遠い昔にやたらと人助けをしたがるお人好しのエルフの神父がいるという話を、聞いたことがあるような気がするな。おそらくその彼のことだったんだろう」

「ルティさんですら知ってるくらい、有名人だったんだね。ギヨームさん」

「有名人だったかどうかは人付き合いなどとんとしてこなかった私には分からないが、そんな風の噂を聞く程度にはね。

 しかしそうか……ラペリベレという魔物は、そうやって生まれたのか。

 であるのなら、もはやここ以外に繁殖させる術はなしと思っていいということでいいのかな? タツロウくん」

「ですね。基本的には、無理だと思ってくれて構わないかと」

「おや? 随分と含みのある言い方だったが、何か他の方法を見つけたのかい?」

「はい。それもつい先ほど。そしてそれができるようになった理由は、ルティさんにも関係があります」

「私に? う~~~~ん、……………………降参だ。思い当たることはないよ。教えてくれ」

「ええ、もちろん。これはルティさんとウゴーくんの問題でもありますので」

「んん?」



 可愛らしく小首をかしげるルティに、竜郎は自分が《魔物変質》というスキルをとり、それでどういうことができるのかを説明し、まずは少し時間はかかるがラペリベレの繁殖条件を失くすこともできることを伝える。



「おおっ、そんな便利なスキルをもらったのかい? それも1~2年なんて、瞬きしている間に終わるような時間でできるなんて凄いじゃないか」

「瞬き……若輩の我らにとっては、とてもそうは思えぬのだが、さすが最年長クラスのクリアエルフなのだ」

「そういえばランスロットくんたちは、まだ生まれたばかりだったか。それなら、長いと感じてしまうのかもしれないね。

 しかしそれはとても便利なスキルのようだが、先ほどの話だと私とウゴーくん………………なるほど、風神に頼まれたのかい?」

「ええ、ルティさんがそれを望むのなら、その与えたスキルで手を貸してほしいとのことです」


 ルティは竜郎たちが嘘をついていないか確認するため──ではなく、自分を気遣ってくれた風神に対して『相変わらずあなたは、おせっかいだなぁ。でも、気を遣ってくれて嬉しいよ』と直接お礼の言葉を告げると、『おせっかいとは失礼だぞ』と小言を言われながらも、どこかお礼を言われて嬉しそうな風神に、彼女は優しい笑みを浮かべると、ルティは自分の足元へと視線を向けた。



「今の話、聞いていただろう? ウゴーくん。君はどう思う? 私は君がしたいようにしてほしいと思っているよ。

 私のことは抜きにして、君がどうしたいのか。どうなりたいのか。気にせずに選択してほしい」

「UGOーーー」



 竜郎たちのいる場所の底から響き渡るウゴーの声は、どうすることが正解なのか少し迷うような印象を受けるものだった。


 彼からすればそれは大好きなルティを、もっと自由にしてくれるものだった。

 普段から自分のせいで彼女の人生を縛ってしまっていることを心苦しく思っていたので喜んで受け入れたい──という気持ちは確かに本物だった。

 だが、それでも体を他者にゆだね、改造されるということに恐怖を覚えたのだ。


 竜郎はなんとなくその感情に気が付いて、改めてウゴーに向けて安心させるように声をかけることにした。



「ウゴーくん。別にこれは今すぐ決めてほしいというものじゃないから、ゆっくり決めてほしい。

 ルティさんがいうように自由に、そしてどれだけ時間がかかってもいいから自分の好きなように選んでくれていいんだ。

 俺たちはこの下にある遺跡を貰って、ラペリベレの繁殖場を作る予定だし、ちょくちょくここに立ち寄る予定でもある。それに連絡手段もルティさんに渡しておくからさ」

「UGOーーー…………(臆病でごめんなさい……)」



 竜郎たちには何と言っているのかまでは分からなかったが、ルティにはウゴーが何と言っているのか正確に理解できた。

 彼女は「何を言っているんだか」と苦笑を浮かべながら、一度竜郎へと視線を向けて小さく頭を下げた。



「ありがとう、タツロウくん」

「いえ、お礼を言われることでは……。こちらにも利益はあるんですから」

「それでもだよ。そしてウゴーくん、君は相変わらず気にし過ぎる傾向にあるね。誰も君を臆病だなんて思っていないよ」

「ニーナも体がすっごく変わったことがあるから、ちょっとだけ気持ちが分かるよ!

 恐くて当たり前だからね、ウゴーくん」

「UGOーー(ニーナちゃん、ありがとう)」



 さすがにニーナが白天の座を完全に継いだ時ほどの危険性も変化もないのだが、竜郎やルティも2人の気持ちに水を差さないようそのまま受け流した。



「というわけで、やるかどうかはさておくとして、もしやるとしたら──という話も少ししておきましょうか」

「ああ、それもそうだね。ウゴーくん、君はもし変わるのだとしたらどう変わりたい?」

「俺もできる限り手を貸すから、どうしても無理なことじゃなければ相談に乗れるがどうだろう?」

「UGOーー……(えーと……)」



 竜郎たちのいる場所がプルプルと震えだす。ウゴーは突然降ってわいた自分の変質を、より具体的に思い浮かべようと考えているようだ。

 微かに揺れているだけなので、念のためソーサーやカップなどが落ちないように魔法で抑えながら、竜郎たちはのんびりと彼の答えを待つことになった。


 軽くみんなで談笑をしながら、お茶を2杯ほど頂いたころ。もはや慣れてしまった振動がピタッと止まる。

 そこで全員の意識がウゴーの方へと向いたところで、彼はルティに向けてポツポツとなりたい自分について語り出した。



「なるほど。それがウゴーくんの理想か」



竜郎たちでは具体的に何を言っているのかまではさっぱり分からないので、ルティがそのままウゴーのなりたい形を教えてくれた。


 まず大前提としては、ルティがいなくても自力で魔力を保持生成し存在を保てるようになること。

 これをなさねば意味がないので、絶対条件として組み込む必要がある。


 なのでそれにプラスして望んだのは、なんとか存在を2分できないかということ。



「「つまりボクたちみたいな感じかなぁ」」

「UGOー」

「そうみたいだね。まさにアヤトくんとアヤカちゃんをみて、ウゴーくんも思いついたみたいだよ」

「「でもなんでー?」」

「その理由としてはだね──」



 ウゴーは自力で生きられるようになることの他に、昔のまだ脆弱な存在だった頃のように、地上に降りてルティと一緒に世界を見たいという願望があった。

 けれど今はルティの居住区画でもある箱庭が頭の上に乗っかっている状態なので、それは難しい。

 そこでウゴーは彩人と彩花という、もとは彩という1人であるという存在に目をとめた。


 つまり居住区を空で支える大きな自分と、ルティについていく小さな自分の2人に分けられないかと思ったようだ。

 それならルティの家や生活を保ったまま、彼も彼女と一緒に地上を謳歌できる。


 他の要望は、今のままの自分でいたいというものであった。



「うーん、2人になるか……。そこまでいくとスキルの範囲外のような気もするがどうなんだろう」

『できないことはないと思うよー。ただアヤたちのスキルほどに強力な効果は望めないけどね~』

「うわっ、怪神か。聞いてたのか」

『ちょうどそんな話題になりそうだから、アタシの意見も必要かなってね~』

「それは助かる。それで──」『実際のところどんな感じでやればいいんだ?』



 竜郎に怪神から連絡が入ったことを視線で告げると、愛衣たちもルティも神の気配を感じて一時口を閉じて邪魔をしないようにする。

 そんな中、竜郎は怪神の言葉に耳を傾けていく。



『普通の魔物じゃスキルとかでもない限り無理なんだけどね~。ウゴーはゴーレムだから、核を2つに分けちゃえば可能かな~』

『たしかに普通の魔物と違って、ゴーレムなら心臓や脳みたいな核は無機物だし、できないこともないのか……な?

 しかしこのスキルはそこまでできたのか──って、そういえばウゴーくんは知能が人間の域に達しているとルティさんが言ってたし、高度なコミュニケーションも取れてるんだが、そもそも魔物の範疇に入るのか?』



 スキルの名前は《魔物変質》。知能ある人間に分類されるようになったゴーレムに、魔物でなければ使えないスキルが使えるのかと疑問を持ったようだ。

 しかし、そもそもウゴーというゴーレムはかなり特殊な存在のようだ。



『なんというかね。実はその個という存在はもうルティの一部みたいに、この世界に認識されてるせいで、システムがインストールされてないんだよね~。

 だからまだ彼はこの世界的には、魔物に分類されると判断されてるから大丈夫だよ~』



 まじか──と竜郎は驚きの表情を浮かべる。しかしそれは事実で、ルティの魔力なしでは生きられないウゴーは、一つの生命として認められていないのだそう。

 そんな世界のエラーを利用すれば、今回はそのスキルを使えるらしい。


 ただし自力で生きられるようになれば、そのときはシステムがインストールされてしまうだろうから、順番的には核を分割、それから自力での魔力の保持生成能力の確立をしなければならなくなるようだ。


 さらに核を2つに分けられるようになったとしても、彩人や彩花のようにはいかない。

 スキルではなくあくまで体の機能としてできるようにするので、主核と補助核のような別れ方をし、あくまで一方はその場で存在できるだけの物になるといった感じが限度らしい。


 またここまでできて、なおかつ今のウゴーという意志も能力も変えないようにするには、それ相応に時間をかけてじっくりと変質を促していく必要もあるようだ。

 ざっと怪神が計算したところ、ウゴーの体に無理なく月に1~2回ほどの変質を竜郎が促していった場合、30~50年ほどの歳月を要するとのこと。


 そこで竜郎はさっそく今の話をルティとウゴーへと話して聞かせた。



「なるほど…………、ウゴーくん。それを聞いてどう思う?」

「UGOUーGOー……(可能ならそのようにしてほしいけど……)」

「まあ、そうだな。私たちにとっては大した年月でもないが、それだけの間タツロウくんを私たちの事情に付き合わせるのは忍びないか」

「いや、こちらのことは気にしないでいいですよ。場所さえ分かっていれば転移で簡単に来れますし、一気に施術できるわけでもないので時間もそれほどかかりませんし。なんならしばらくうちの城の上を飛んでてくれてもいいですし」

「おおっ、本当にいいのかい? タツロウくんたちがいいというのなら、ありがたいよ。

 それなら私たちはその礼として、今持っているラペリベレの全てを君たちに受け渡そう」

「全部って、それこそ本当にいいんですか? 僕はもう新スキルという報酬は貰っていますから、気にしなくてもいいんですよ?

 そりゃあ、いきなり大量に確保できるのはありがたい申し出ではありますが……」

「かまわないよ。欲を言うのなら……定期的に私におろしてくれると嬉しいのだけれどね」

「それはもちろん。ルティさん1人分なら大したことはないですし」

「なら決まりだ。ウゴーくんもそれでいいかい?」

「UGOーー!(うん、ありがとう!)」



 こうして竜郎たちはルティが持っていたラペリベレを全てもらえることが確定し、地下遺跡の整備が終わり、そちらに移し終えたら、ルティはウゴーとともにカルディナ城の上空へと住まいを移すことが決まったのであった。

次話の投稿日は未定です。

遅くても一週間以内には投稿できると思いますが、おそらくまた木曜更新になる可能性が高いです。


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― 新着の感想 ―
[一言]  せっかく機会があったのに、ルティさんはウゴーくんを作った理由を怪神に訊ねなかったんですね  もっともウゴーくんのルーツは、ギヨームの研究資料を精査したら出てきそうな気もしますけど  そし…
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