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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十章 エデペン山編
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第193話 突然のお願い

 完全に聖なる白炎が消え去ると、竜郎はしんみりした空気を打ち消すように、両手をパンと打ち鳴らす。

 愛衣たちもその気持ちを汲んで、暗くなりそうな気分を打ち払った。



「それじゃあ、これからどうしよっか?」

「「ルティおねーさんのとこに報告に行かなきゃだよね?」」

「ああ、それは確定事項だしな」



 そもそもここに来るに至った経緯は、ルティこと風のクリアエルフ──セテプエンルティステルに、ラペリベレの繁殖の謎について調べてくれと頼まれたからである。

 彩人と彩花がいうように、今日か明日にでも訪ねる必要はあるだろう。



「キャンキャン!」

「「あーうー!」」

「マメタやカエデ、アヤメも会いたそうにしているのだ」

「……というよりも、ラペリベレが目的なようが気がするがな」



 あのおねーさんのとこにいけば、美味しい果物が食べられるとインプットされてしまっているのか、さきほどまで空気を読んでおとなしくしていた豆太や楓、菖蒲ははしゃぎはじめる。

 現金なやつらめと竜郎は苦笑しながら、今後のことについて順序だててやることを考えていく。



「まずこの施設についてなんだが、町長に話せる範囲で説明してまるごと俺たちのラペリベレの生産拠点に改造してしまうのもありなんじゃないかと思ってる」

「ここなら逃げられることもなさそーだし、ちょうどいいかもしれないね。パパ」



 ただニーナのようにまったく気にならないのならいいのだが、言ってしまえばここは主がアンデッド化し、何人もの人間が殺された殺人現場。そこいらの事故物件とは一線も二線も隔する場所だ。

 まだ一般的な認識が抜けきっていない竜郎や愛衣からすれば、気持ちのいい場所ではないだろう。

 竜郎などはここを埋め立ててしまってもいいのでは……とも思ったくらいだ。しかし──。



「おっ、来たな。ありがとう、パチロー」

「────」



 竜郎は認識阻害したまま放っていた数人のパチローが持ってきたものを受け取りながら、一体一体消していく。



「それはなに? たつろー」

「これはギヨームが所持していた資料だな。

 ギヨームのいた頃はまだ《アイテムボックス》もまともになかった時代だろうし、残ってると思って探してもらっていたんだ。

 ほかにも魔物の因子とやらを抽出して、他者に植え付ける道具も見つけた」



 もし《アイテムボックス》がスキルとして存在し取得していたら、ギヨームの大切な研究資料はそちらにしまわれていたはずだ。

 そうなるとアンデッド化のために一度死んだとき、その中身は消えてなくなっていた。

 だがそうではないので、ギヨームの遺物はまるまるこの遺跡に残ったまま。


 埋め立てる以外にも、町のために古代の遺跡として観光地化するなどという案も竜郎の中に一瞬浮かびもしたが、もし竜郎たちも思いつかないようなベルケルプのギミックによって隠された遺物が見つかり、また厄介ごとが起きる可能性も低いがゼロではない。

 埋め立てても、いつか掘り起こす者が現れ何かを見つけてしまうかもしれない。


 ならばいっそのこと自分たちで確保し、誰も近寄らないようにしてしまったほうが手っ取り早いだろうと思ったのだ。



「これなんかがどっかに流れたら危なっかしいしな」



 竜郎は手に持った大きなハンコ注射のようなものを、《無限アイテムフィールド》にしまった。

 調べた限りでは、素人でもこれをポンと体に突き刺せば、よほど変なところに挿したりしない限り、ここで死んだ男たちと同じ末路をたどることになる。



「それはまたやっかいなのだ……」



 そう呟いたランスロットをはじめ、この技術は片鱗ですら外に出さないほうがいいと皆が頷いた。

 そんなことを話しながら竜郎はこの施設の鍵にもなっている日記を手に持ち、少し悪いかなと思いながらも中身に軽く目を通していく。

 最初はしっかりとした字体で書かれているが、ページが後ろに進むにつれて時折手が震えでもしたかのようにぐちゃぐちゃになっていたり、ぐりぐりと意味もない筆のあとが落書きのように刻まれていたりということが増えていき、次第に狂っていくさまがそこからでもありありと観察できた。


 だが最後のページは、やや字は汚くなっていたが、読める程度に整った文字の羅列が並んでいた。

 箇条書きに近いものだったが、それをもとに何が書きたかったのかを推察するに──。



「どうやら死ぬ前に……というか、アンデッド化を決意する前に、ギヨームはここに残っていた外でも生きられそうな魔物は外に逃がしたらしいな」

「あー、だからラペリベレも野生として普通にこの外に生息してたんだね」



 ここにしかなかったはずの人造の品種のいくつかは、そうやって野生へと還っていったようだ。

 この施設で生まれた種が何故外で栄えていたのか少し疑問だったのが、それもこの日記によって理解できた。


 その後も念のためにと危険なことはないか。実は別の真実が隠されていないかと、いろいろ調査した後、血まみれになった床や肉片も適切に処理し、竜郎たちは外へと出た。

 鍵は念のため持ち出し、《浸食の理》で閉じた後に、さらに魔法錠も追加でかけて厳重に封鎖しておく。


 それからさて、ルティのところに話をしに行こうか──となったところで、竜郎の頭に間延びした聞いたことのある声が響いてきた。



『たっつーん。やっほ~』

『やっほーて……その呼び方に声は怪神か?』

『そ~そ~、今ちょっといいかな~』



 竜郎は目配せをして神様通信が来たことを愛衣たちに知らせた後、怪神へ大丈夫だと返事した。



『それで、なにかあったのか?』

『あったというか、ちょっとたっつんに頼みごとができたんだ~。もちろんたっつんにも悪くない話だよ~』

『ほうほう、それは興味あるな。さっそく聞かせてくれ』



 この流れからしてまた何か頼みごとをされるのだろうが、それをこなすことで竜郎は新しい、珍しいスキルを手に入れてきた。

 今回もそんな感じになるだろうと、少し気持ちを弾ませながら怪神に話の続きを催促する。



『えっとね~。厳密にはアタシからというより、風神からの依頼っていうのが近いんだけど、その依頼達成のための方法にはアタシの管轄のスキルが必要になるから、先にそのスキルを上げる代わりにそれで依頼をこなして頂戴って感じかな~』

『えっと……具体的には?』

『依頼を受けてくれることを了承することを条件に、たっつんには魔物の性質を1つだけ変質させることのできるスキルを上げたいと思うんだ~』

『性質を変質させる? まだよくわからないが、具体的に何ができるようになるんだ?』

『具体的には、今たっつんたちが手に入れようとしているラペリベレの、繁殖場がそこだけっていうのを変質させて、どこでも繁殖できるように変えたりできるスキルだね~』

『まじかっ、それはぜひ欲しい』



 まさに自分たちの悩みを解決するスキルじゃないかと、竜郎は俄然やる気になっていく。



『とはいっても味はそのままに、個体はそのままに繁殖条件だけを変質させるっていうのは、そのスキルでもちょっとばかり時間はかかるけどねー。

 たっつんの理想とすることは可能だけど、少しずつ変質させていく感じにしないといけないよ~』



 なんでも一気に繁殖条件を変えてしまうように変質させることも、そのスキルならばできないこともないらしいが、急激な変化をさせてしまうと、その変化に適応するために他の部分も何かしらの変化が出てしまうものでもあるらしい。


 なので竜郎の望むようにピンポイントで変えたいというのなら、木の棒をへし折るようにいきなり性質を曲げてしまうのではなく、ゆっくりと折れないよう徐々にしならせるように、時間をかけて変質を促していく必要があるようだ。


 具体的に怪神がその時間を算出したところ、大体この世界においての1~2年程度の歳月を見ておいてほしいとのこと。



『なるほどな。けど百年や二百年ならともかく、それくらいなら全然いいな。その数年の間だったら、多少他より効率は落ちても、ここで繁殖させることはできるわけだし。

 ん? けどそんなことができるのなら、もしかしてそのスキルで色んな魔物を変質させて、美味しい魔物にすることもできたりとかするんじゃないか?』

『うーん、それは難しい……とまではいわないけど、味を変えるようなスキルじゃないからね~。

 ただ美味しくなれ~ってやって、美味しくなるようなスキルじゃないよ~』

『そうなのか……』

『けど、例えば肉質を柔らかくしたり、脂肪分を多くしたり、減らしたり、なんてことはできるから、創意工夫次第では、もっと美味しい魔物に改良したりすることはできるんじゃないかな~』

『おぉー! そういうことはできるのか。面白そうだな。

 それで? 少し話が脱線したが、俺はそのスキルで風神のためになにを……まてよ?

 もしかして、風神ってことはルティさん関連、もっというのならウゴーくんに関係していたりするのか?』

『おー、さすがたっつん、冴えてるね~』

『そのスキルが風神の願いに必要で、俺たちに頼むことっていったら、それ以外に思いつかないからな。

 ってことは俺はそれで──』

『うん、ウゴーくんをセテプエンルティステルがいなくても生きられるように、変質させてあげてほしいってさ~。

 このままずっとウゴーっていう相棒はいても、空の上で生涯生活するしかないなんて、親としては不憫に思えちゃうんだって~』

『なるほどなぁ。不憫かどうかは本人が決めることだから俺は何も言えないが、確かに地上に降りられないのと、降りないのとではまるで自由度が違うからな』



 空の生活は続けるにしても、地上に気軽に降りることができるようになるだけでもルティの生活は変わるだろう。



『どういった形での変質にするかは、本人と話して決めてほしいって~』

『それはいいんだが、もし断られたら?』

『そのときはそのときだよ~。断られたからって「スキルは消すね~」なんてこと言わないから、安心してよ~。

 そのことも風神とこっちで相談済みだからさ~』

『そうか、ならいいんだ』



 相棒の体を改造するような行為を、もしかしたら嫌がるかもしれない。そうなったときのことを聞いてみたのだが、そのくらいはすでに織り込み積みのようだ。

 ならばこちらにとってもメリットしかない。竜郎は一度待ってもらい、皆にも軽く相談してみれば、前向きな返事きたので、さっそく了承の意を怪神に伝えた。



『よかった、よかったよ~。それじゃあ、スキルを取れるようにしとくから、パパっととっといて~』

『はいよ』



 竜郎はシステムから採れるようになったというスキルを探していくと、《魔物変質》という実にそのまんまんな名称のスキルを有り余るSPを払って取得した。



『それじゃあ、無事取得できたみたいだし、お願いね~』

『ああ、任された。さっそくルティさんのところへ行って話をしてみるよ』



 怪神との通信が切れたところで、竜郎は改めてここにいるメンバーたちに視線を向ける。

 それをきっかけに、愛衣が空を見上げて声を上げるのであった。



「んじゃあ、ルティさんのところへ行って、いろいろ終わらせてこよー」

「ああ」「「おー」」「うむ!」「「うっうー」」「キャンキャン」

次話の投稿日は未定です。

遅くても一週間以内には投稿できると思いますが、おそらくまた木曜更新になる可能性が高いです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  今回取得可能にして貰ったものを含む怪神管轄のスキルのうち幾つかはギヨームの研究を基に作られたんじゃないかと、ふと感じました  彼が遺した功績は思ったよりも大きいのかもしれません
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