表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
19/451

第18話 蒼太部下候補

「酒造りの土台としてはこれでいいとして、次は一気に蒼太の新しい部下候補を生みだそう」



 蒼太には領地内の見回りから、海の方からやってくる魔物たちの討伐まで引き受けてもらっていたので、今回はその要員を増やして彼の負担を減らそうと考えている。



「アリガトウ。アルジ」

「いつも頑張ってくれてたし、今の状況だとほとんど休みがないような状態だったからな。

 幼竜達の世話もしてくれたみたいだし」



 竜郎の視線に幼竜達は「なんのこと?」とでも言いたげに首を傾げているあたり、蒼太に世話をかけているのは無自覚なようだ。

 それに小さくため息を吐きながら、竜郎はこっそり蒼太にだけ聞こえるように音魔法で言葉を伝えた。



「空いた時間で、ニーナをデートにでも誘ってみるといい」

「──ッ!?」



 自分にだけ伝えたと分かったのか、蒼太は感謝の気持ちを目に込めて、高速で何度も竜郎へ頷き返してくれた。



「どーしたの? ソータ」

「ナ、ナンデモナイゾ、ニーナ」

「ふーん」



 ニーナの場合はお兄ちゃん的ポジションの蒼太を、まったく恋愛対象にみていないので、誘われても遊びに行くだけといった感覚だろう。

 だが、こういうのは積み重ねが大事なのだ。



「それじゃあ、素材はもう既に準備してあるし、いっきにいこう」



 《竜殺し》の称号を覚えてもらうために、取得していない仲間達にいろいろなダンジョンに狩りにいってもらったときの素材。

 なんだか一部なかったり、破損したりしていたが、それらは地球にいる間に修復済みだ。


 まず一体目。サメのような背びれの付いた、地中や水中を泳ぎ回れる蛇竜の魔卵を作る。

 等級は7.3だったので、9まで底上げしてから次の魔卵作りへと移る。


 二体目は、氷雪地帯を異様なスピードで走り回れる狩猟豹竜。

 等級は7.3だったので、9まで底上げ。


 三体目は、幻術を得意とし離れた場所から戦える亀竜。

 等級は7.5だったので、9まで底上げ。


 四体目は、聖竜であり、重い雨を降らせたり地割れを操ったりできる象竜。

 等級は8.3だったので、9.6まで底上げ。それ以上は上がらなかったからだ。


 五体目は、地面や空間を自在に揺らす事のできる牛竜。

 等級は8だったので、9.6まで底上げ。こちらもこれが限界だった。


 以上で、竜郎が所持していた素材からの竜の魔卵づくりは終わる。



「一番レベルが高かった牛竜よりも、ガウェインやアーサーたちが討伐してきた象竜のほうが等級は高かったのか」

「アーサーが頭ぶん殴って気絶させちまったから、よくわかんねーけどな」

「ああ、それで頭が盛大に凹んでたのか……。復元魔法で修復できたけど」



 それはさておき、さっそく等級をあげた姿を《強化改造牧場》のシミュレーターで確認してみると、それぞれ微妙に体つきに変化はでてきてはいたものの、それほど劇的な外見の変化はみられなかった。

 もちろん、等級を上げる前よりも強くなっていることは明らかだったが。



「こっちは神力をいれてみるかな。形が変わろうが、強いほうがいいし」

「どんなのになるか楽しみだね、たつろー」



 愛衣の言葉に頷き返しながら、竜郎は五つの魔卵を《強化改造牧場》に取り込んで、できる限りの強化をほどこしスキルを与えていく。


 それが終わると、今度は一気に全部の魔卵に向かって《強化改造牧場》ごしに神力、魔力、竜力を完全に混ぜ合わせた神竜魔力を注ぎこんでいった。

 成長した今の竜郎なら、等級の高い竜種の魔卵でも、五個くらい楽に同時孵化できるのだ、


 そうして、あっという間に神力が混じった五体の竜が《強化改造牧場》内で孵化したのを感じ取った竜郎は、一体ずつどんな変化を遂げたのか確かめるべく、まずは蛇竜を目の前に呼び出した。



「これはまた……」

「ヤマタノオロチさんって感じ?」

「股は十二あるっすから、それを言うならジュウニマタノオロチじゃないっすか?」



 全長は80メートル近くあり、太い蛇の体から円を描くように並び枝分かれした十二の蛇の頭。

 真ん中ほどについていたサメのような背びれがなくなり、そのかわりに真っ直ぐ顔の正面に突き出すように飛び出たプラチナ色の毒角が十二の頭全てに生えていた。

 また尻尾の先にあった毒針は健在で、刺された毒など関係なく死ぬのではないかと言いたくなるほど大きくプラチナ色に輝いていた。



「お、大きいわね……。これって……大丈夫なの? 竜郎」

「大丈夫だよ、母さん。《強化改造牧場》の中で孵化させれば、自動的にテイムされた状態になるから──おいで」

「シーーーー♪」



 竜郎が手招きすると、十二の頭が一斉にうごめき、甘えるように彼の体に巻きついてきた。



「ほら大丈夫だろ? ……にしても、ヘビみたいな外見の竜は人懐っこいのか?

 ニョロ子なみに愛想がいいが──って、こら、くすぐったいっての」

「シーー♪ シーーー♪」



 ニョロ子とは、10メートル級の大蛇で、竜郎の従魔から眷属になった地竜。

 その子は野生のものをテイムし、今現在は竜郎たちの領地内の一部を支配し管理してくれている。


 そんなニョロ子を彷彿させるくらい甘えてくる蛇竜の舌先でペロペロ舐められている竜郎の姿に、イシュタルは笑ってしまいながら質問に答えてくれた。



「別段ヘビ型の竜だからといって懐きやすいということはないな。

 単純にタツロウの側にいるヘビ型の竜が、たまたま愛情深いだけなのだろう」

「あーあー、たつろーが、よだれでべとべとに……」

「もういいよ、分かったから。ちょっと、離れてくれ、な?」

「シーーー……」



 竜郎が涎まみれになったところでそう言われてしまい、十二股の蛇竜はちょっとションボリしながら彼から離れた。

 竜郎は「ごめんな」と謝りながら魔法で自分の全身を水で包み込み、それをグルグルと回転させて丸洗いし水分をとっていった。


 これで綺麗になったぞと思っていると、ベトベトが取れて安心したのか、今度は愛衣がピタリと竜郎にくっついてきた。

 竜郎はそれを自然のことのように受け入れて、腰を抱き寄せながら頬にキスをすると、そのまま蛇竜のスキルをのぞいていった。



「《十二命》と《頭部分裂》……卵のときに付与した覚えのないスキルがあるな」

「《十二命》は十二回死ななない限り復活するスキルで、《頭部分裂》は頭の数だけ分裂できるみたいですね。もっている力は十二分の一になっちゃいますけど。

 ちなみに分裂した場合は、《十二命》の効果はそれぞれに分割されて付与される感じみたいですね。

 なので十二体に分裂しているときに、いっぺんに殺されてしまうと一回で死んでしまうようです」

「なるほど、それは気をつけておいた方がいいかもしれないな」



 十二体に分裂した方が数が多くなるので有利になるかと思いきや、逆に一体一体が弱体化してしまうので、強力な広域殲滅攻撃ができる相手の前でやったら命取りになりそうだ。

 まあ十二分の一の力になったとしても、等級9もある竜を一方的に殲滅できる存在など、そこいらにいるわけはないだろうが。


 その後、従魔から眷属化もさせてくれたので、一度《強化改造牧場》内に戻して、今度は狩猟豹竜──孵化させる前のシミュレートでは、チーターを思わせるような風貌をしていた竜を呼び出した。



「──グワァフッ」



 でてきたのは、やはりチーターに似た狩猟豹竜ではあったが、大きさが4メートルほどと、シミュレートでは6メートルあった体が縮んでいた。

 また全体的に毛足の長いフワフワしたブチ模様の毛皮は変わらずだが、まず大きな変化として両頬の横に一つずつ顔のラインにそってプラチナ色の刃が横についていた。

 その刃は90度に起こすこともできるようで、立てれば飛行機の翼のように顔の横に出すことが出来るらしい。

 今も自分の体を確かめるように、その部分を動かしている。


 それと尻尾。こちらの先端には鋭利で細い刃がついており、すれちがいざまに尻尾でなでるだけで敵を分割できそうだ。


 次に一番大きな変化としては、背中の肩甲骨のあたりに、横から見ると四分円型に盛りあがった器官が右と左に一つずつあり、そこには穴が開いていた。

 また四本ある足首のあたりにも、穴が開いている。



「あの穴は、いったいなんのための器官なんだ?」

「えーと、どうやらあそこから周囲を凍らせる冷気を噴出したり、竜力を噴射して移動速度を底上げできるようになっているみたいですね」



 リアが《万象解識眼》で調べた結果を、すぐに竜郎たちに教えてくれた。

 つまり、あの肩甲骨と足首にある六つの穴からエネルギーを噴射し、ジェット機のように推進力を得て更なる加速をすることができるのだ。


 ただ──。



「──ギャンッ!?」

「おいおい、大丈夫か?」

「クゥ~ン……」



 試しに足首にある噴出口から竜力を放ち走ろうとしたら、見事に失敗してすっ転んで砂浜を削りながら海にダイブし、ずぶ濡れになって戻ってきた。


 肩甲骨の上についている噴出口は真っすぐ進むだけなら強弱をつけるだけだが、四本の足首にある噴出口は足の動きに合わせてやらなければ、まともに走れない。

 使いこなすには、一定以上の練習が必要になってくるようだ。


 竜郎が水魔法で軽く塩水と砂を洗い流してから乾かす間、ちょっと情けなさそうな表情をしていたので、「お前なら、すぐできるようになるよ」と励ましておいた。

 すると「ガウガウッ!」とすぐに元気になっているあたり、プライドが高そうな外見とは裏腹に、性格は単純なのかもしれない。


 完全に乾かし終ると、眷属化の了承を得て眷属にし、それからいったん狩猟豹竜には《強化改造牧場》に戻ってもらい、今度は亀竜を呼び出した。



「…………ん?」



 一瞬だけ黒緑色の10メートルはあろう円盤型の何かが現れたかと思えば、すぐに色と質感を模倣し、カメレオンのように砂浜に擬態してしまった。

 さらに幻術を駆使して、より見る者に認識されにくくしはじめる。



「おーい。隠れられても困るんだが」

「あ。頭とかが出てきたよ」



 なあに? とでもいうように、擬態したまま円盤状の物体から長い首と竜の頭がにゅ~っと飛び出し、短い四本足と長く先端にプラチナ色の棘つき鈍器が繋がっている八本の尻尾が、やや遅れて出てくる。

 そして、そのまますくりと立ちあがると竜郎の目の前までノシノシとやってきた。



「キュルルル」

「甲の色や質感が変わるというところと尻尾の数が二本増えた以外は特に、おとーさまのシミューレーターでみた映像と変わりないですの」

「うーん。ですが甲羅は自由自在に色や形を変更できて、さらに首や足、尻尾が出るところに穴がないのはお分りでしょうが、あれ、どこからでも出せるみたいですね。

 なので今、頭を出しているところから尻尾を出したりすることもできます」

「亀さんとか、ひっくり返ると起き上るの大変そーだったけど、あの子なら生やす向きを変えるだけで直ぐに起き上がれそうだね」



 他にも自身の虚像を数百体生み出すことができる。

 そして穴のない周囲の景色に擬態する甲羅の中に本体は閉じこもったまま、自分の虚像と視覚をリンクすることで安全な場所から外を見ることができる。


 さらに虚像を保てる範囲も非常に広く、いくつも映像が切り換えられるドローンを広範囲に散りばめているようなもの。

 そして攻撃したければ部分的に一瞬だけ虚像とリンクし、実体をもった攻撃を遠く離れた好きな虚像から撃ち出したりすることもできる。



「それでいて虚像をやり過ごして本体に接近できても高耐久、高魔法抵抗の甲羅が本体を守る……か。敵として出てくると厄介かもしれないな」



 なかなかトリッキーな竜が生まれたようだ。

 それからこの子も眷属にしてもいいと了承を得たので眷属化し《強化改造牧場》へ戻ってもらい、今度は象竜を──と思った矢先に、アーサーがやってきた。



「どうしたんだ? アーサー」

「いえ、しばらく自由時間を過ごした後に、ランスロットと稽古をしようと思って探しているのですが……知りませんか? マスター」

「いや、ここにはいな──」



 いないぞ。と言おうとすると、今度はその探し人──ランスロットが反対側からやってきた。

 ランスロットもアーサーと稽古をすべく、探していたのだそう。


 ちょうど出会えてよかったよかったと思っていると、ガウェインが二人に向かって話しかけた。



「なあ、アーサー。ランスロット。今から俺たちが倒した竜の強化版?の、お披露目なんだが見ていかねーか?」

「む、そうなのか? 我もそれは見てみたいのだ」

「なら、あの竜がどういう風に生まれ変わったのか見てから稽古に行こうか。ランスロット」

「うむ!」

「マスター。我々も見学してかまいませんか?」

「ああ、別にいいぞ。隠す必要もないからな──ってことで、出てきてくれ」



 竜郎が《強化改造牧場》内から呼び出し現れたのは、全長15メートルほどで、全身金色に輝く鱗に覆われたリザードマンのような竜人型象竜。


 ただ、頭部は竜の顔から長い鼻を伸ばし、大きなゾウの耳のように広がった頭についた翼と、まさにアーサーたちが討伐した象竜ほぼそのままだったのだが、ゾウの体から人型になった影響か、かなりの肥満体型をしていた。

 また足は二本だが、腕は四本もある。


 そんな竜人型象竜は緩慢な動きでこちらを見下ろし、自分の主であり生みの親は誰かと視線を動かし竜郎のところでピタリと止まり──。



「パオ~ン? バオバオバオッ」

「なんか俺、馬鹿にされてる?」



 こいつがぁ? といった目で見てきたかと思えば、馬鹿みたいに笑い出した。明らかに竜郎を馬鹿にしたような雰囲気だ。


 これが愛衣に対してだったら怒っていただろうが、自分に対してだったので特に怒りもわかず、竜郎は「癖のありそうな奴が生まれちゃったなあ」くらいに受け止め、どうやってこいつの性根を叩き直そうかと考えはじめた。

 いくら抑えているとはいえ、その前に生みだしてきた竜たちは敏感に竜郎の強さを察していたというのに、鈍いやつもいたものだ。


 それに愛衣たちも苦笑して見守ろうとしていたのだが──突如、竜郎の近くでもの凄い殺気を放つ存在が現れ、その場の空気が凍りつき、象竜も絶句し硬直する。



「…………おい、キサマ。それは私のマスターを侮辱しているのか?」

「──パッパオッ」



 真っ赤な瞳を怒りで染め上げながら、アーサーが階段を上るように一歩一歩空を踏みつけ、象竜の顔の前までたどりつくと、そこで目と目を合わせて睨み付ける。



「なあ、どうなんだ?」

「──ッ──ッ」



 ここまで怒ったアーサーなど今まで一度も見たことのない竜郎たちは驚き固まるなか、彼の放つ威圧感が秒ごとに増していく。

 それでいて、その口から発せられる声は恐ろしく冷たい。


 象竜はそれに耐えきれず、蛇に睨まれたカエルのように微動だにできないので、首を振って否定することも不可能。

 そこでアーサーはクルリと竜郎の方へと向き直った。それはもう、今の今まで怒っていたとは思えないほど、爽やかな満面の笑みでだ。



「マスター。少し、この新人くんと、向こうで、二人っきりで、話してきてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ、どうぞ」

「ありがとうございます! マスター」「バオ"オ"オ"オ"ン"ッ"!?」



 象竜は「こいつとだけは二人きりにしないでぇぇ!?」と言った感情を、従魔の契約を通して伝えてくるが、今のアーサーは簡単に止められそうにないので竜郎は「ムリ。あきらめて♪」といった感情を返しておいた。


 そうして仲良く(・・・)アーサーとお話をして帰ってきた象竜は、非常によく竜郎に懐くようになったのであった。



「あいつ、生まれ変わってもアーサーと相性よくないのかもなぁ」

「ここにウリエル姉上もいたらと思うと──ううっ、考えたくもないのだ……」

次回、第19話は1月30日(水)更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ