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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十章 エデペン山編
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第184話 ドデドバ?と冒険者たち

 竜郎たちに絡んできたゴロツキたちの首魁であった男──ドデドバ?と、そのお付きたち。

 彼らは竜郎たちが調べていた遺跡の扉の方へ、迷うことなくまっすぐ向かってやってきた。



『あれを開けられるってことなのかな?』

『分からないが、そうなら開け方を調べるチャンスだ。大人しく見守っておこう』



 やるならはやくやれと竜郎たちが上から見下ろしていると、扉の真上にドデドバ?が立ち、お付きのゴロツキたちに指示を出しはじめる。



「お前らは俺を中心に取り囲むようにして立っていろ。もう少し離れろ。そう、そのくらいだ。お前はもう少し後ろに──」



 ちょうど扉だと思われる部分の外側ギリギリに位置するように、ゴロツキを立たせていく。

 そんな中、ゴロツキの1人が遺跡を物珍し気に見つめながらドデドバ?に声をかけた。



「な、なあ、ドデドバさんよぉ。ほんとに俺たちも、あんたみたいにスゲー力を手に入れられんのか?」

「しつこいやつらだな。そうだと言っているだろう。いいからお前も、もう少し後ろに下がれ」

「へ、へい」



 今までにないほどの強者の圧迫感をドデドバ?から感じ、ゴロツキの1人は冷や汗をかきつつも、どこか野心めいた汚い笑みを浮かべていた。

 それはその男に限らず、他の男たちも同様に。



『スゲー力と聞こえたのだ。もしやあの男は、ここで何らかの力を手に入れて、別人のようになったということなのだろうか? マスター』

『本人かどうかも怪しいが、その線も念頭に入れておいたほうがいいかもしれないな』



 念話を話している間に綺麗に円形に男たちを並べ終わると、ドデドバ?はふいに鼻を鳴らしはじめた。

 突然のその奇妙な行動に、ゴロツキたちは顔を見合わせ誰かどうしたか聞けよと互いに視線を交わしあう。

 その結果、ナンバー2らしきゴロツキの1人が、勇気を出して声をかけようとしたところで、それより先にドデドバ?がニヤァと不気味な笑みを浮かべるものだから、思わず口を開けたまま固まってしまった。



「くせーなぁ。くせーよぉ」

「えっと……ドデドバさん? どうしやした? 俺たちのことですか?」

「くははっ、違うなぁ。ちょっとどけ」

「うわっ」



 きれいに並べた男の1人を無造作に押しやり、扉から少し離れた場所にまでやってくると、ドデドバ?は大きな声で叫んだ。



「おいっ、そこにいるのは分かってんだぁっ! とっとと出て来いよ!」

「……まさかあのただのゴロツキが、俺たちの尾行に気が付けるようになるとは驚きだな」



 もちろん"そこにいるのが分かっている"のは竜郎たちではなく、ドデドバ?たちの後ろを付けてきていた冒険者たちのことである。

 だがその冒険者たちも見つかるとは思っていなかったのか、かなり驚きながらその姿を現した。



「す、すげぇよ、ドデドバさん! まったく気づかなかったぜ」

「くははっ、驚くのまだはえーよ。ちょうどいい、俺が手にした力。そしてお前たちが手にできるかもしれない力を、あいつらを使ってみせてやるよ」

「まじかよっ」「おおっ!」「さすがっす!」



 今までなら絶対に手を出そうとしなかった、熟練の冒険者たちを前にしても余裕の笑みを浮かべていられるドデドバ?に、ゴロツキたちは大はしゃぎだ。


 一方、試金石の道具扱いを受けている竜郎たちと少しだけ会話を交わした冒険者一行は、それでも腹を立てることなく冷静にドデドバ?を観察し続ける。



『おー、さすがー。ちょっと力を手に入れたぐらいで粋がってるやつらとは大違い』

『マメタもあのくらい、冷静でいられる子になるよう育てよっと』



 彩人と彩花がゴロツキたちの汚いヤジや、完全に下にみるような行動にたいしても、なんとも思うことなく確実に勝つ──のではなく、負けない道筋を探してそれぞれの定位置に展開していく。


 まず竜郎と直接話した人種の男性と、その男性よりも少し若めのトラ獣人女性が前に立つ。

 その2人をサポートできる位置に、人種の男性2人が並ぶ。


 中間あたりにはドワーフの男性がどっしりと構え、後ろにいるウサギ獣人女性、エルフ男性2人、女性1人。魚人女性1人を守るように位置どった。



「そちらが手を出すというのなら、こちらもそれなりの対処をさせてもらうが、本当にいいのか?

 自分でこういうのを言うのはあまり好きではないが、これでも我々はランク持ちの冒険者。それ相応の力を持っているぞ」

「うるせぇ! 相手が誰だろうと知ったこっちゃねーんだよ! お前らもビビってんじゃねー!」



 ランク持ちという言葉に、さすがにゴロツキたちはうろたえるが、ドデドバ?が一喝して黙らせた。

 そしてそのままドデドバ?は、無遠慮に前へ前へと冒険者たちに歩み寄っていく。



「これは聞く耳持ちそうにないな。やるぞ、皆」

「人間相手はあんまり好きじゃないんだけどねぇ」

「誰であろうと、敵なら倒すだけだ。我々の証言ならば、たとえ殺してしまっても冒険者ギルドも主張を信じてくれるはずだろう」

「それだけの信用を、私たちは築いてきたからね。

 でもあんたたちは違うよ? ここで襲えば、今までのちゃちな犯罪行為とはわけが違う報いを受けることになるよ? それでもいいの?」

「全員、ここで殺しちまえば、何もなかったことになるだろ?」

「ああ、そう、忠告はしたからね」



 冒険者たちはたとえ殺してしまっても無罪がほぼ確定。

 だがその逆は一度襲ってしまえば、逃げられたとしても犯罪者として追われる立場になる。

 最後の忠告としてウサギ獣人の女性が親切心で説明したのにもかかわらず、ドデドバ?は手にゲートボールのスティックのような長い柄のハンマーを手に身構えた。


 ウサギ獣人の女性は赤い目を鋭く細め、殺す気で手に弓を構えた。

 それを合図にしたかのように、それぞれもそれぞれの武器をさっと構えていく。


 後ろのエルフと魚人の人間たちは杖を。

 真ん中のドワーフの男性は大きな盾を。

 最前列2人のサポート役であろう男2人は、鞭と棍棒を。

 最前列に立つリーダーと並ぶトラ獣人の女性は短槍を。

 そしてリーダーであろう男性は、両手にナイフを身構えた。



『あれ? なんかあの男の人が右手に持ってるナイフ、どっかで見たことあるような……?』



 竜郎も愛衣と同様に、男性が右手に持つナイフに既視感を覚えたが、よくよく思い返してもソレと"まったく同じもの"は見た記憶がない。

 だが似たようなものなら確かにあったなと過去の記憶を呼び起こしている間に、眼下の戦闘がはじまりだした。

 最初に手を出したのは、ドデドバ?。最前に立っていたナイフ使いの男性に、遠心力を付けながらハンマーを振り回し大きな一撃を打ち放つ。



「ふんっ──! 昨日の今日で、どうやってそこまでの力を手に入れたのか興味はあるが……ろくな手ではないのだろうな」

「ぐぐぅっ!」



 しかし男性の左手に持ったナイフから、赤色の気力で構築された俗にいう気獣技による獅子のタテガミがモサッと生えると、ハンマーを包み込むようにして衝撃を受け流し、さらに絡みついていく。

 ドデドバ?は昨日の朝では考えられないほど強い力で、無理やりハンマーを引き抜こうとするが、気力の獅子のタテガミを引きちぎることはできず、足を止めてしまう。



「それに1人で戦ってるのに、こんな隙だらけの攻撃するとか今の力に慣れてない証拠──ねっ!」

「ぐあっ!? ぐぇっ!」



 足を止めている間に、トラ獣人の女性の槍が真横から両の太ももを串刺しにした。

 さらに首には鞭が絡みつき、倒れこまないように背中に棍棒が斜めに突き付けられる。

 万が一にも攻撃を通さぬよう構えられた大盾の後ろから、ドデドバ?の右肩をめがけ弓矢が貫通し穴を穿ち、各種魔法が体を痛めつけていく。


 ドデドバ?はあっという間に体中がボロボロになり、満身創痍。ゴロツキたちも慌てふためき、逃げようかどうか、逃げられるのかどうかキョロキョロと周囲に視線をめぐらせはじめる。



「思っていた以上にあっけない。このまま危険人物として冒険者ギルドに連れていくか? エルウィン」

『エルウィン? 確か息子さんの名前もそんな名前だったよな?』

『うん。そうだったはず、ってことはやっぱりあの人って──』



 後方で樹魔法を使っていたエルフの男性が、植物で簀巻きにしようかとナイフ使いのリーダー──エルウィンに問いかけている間に、竜郎と愛衣が呑気に念話を交わしていると、不意に笑い声が響き渡り意識がそちらへと持っていかれた。



「くはっ、くははっ、くはっくははははははははっ」

「何を笑っている? 狂ったか?」

「もう勝った気でいるのか? まだハジマッテモ イナイ ノニ ナァ!」

「離れろっ!」

「「「────っ!」」」



 エルウィンのとっさの言葉に、他の前衛3人はすぐに反応してドデドバ?から距離を取る。

 それとほぼ同時にドデドバ?を中心にして黒い球体が現れ、直系3メートルの空間を飲み込んでいった。



「ぐっ」



 引き際が一番遅れた棒使いの男の棍棒の先端と右手も飲み込まれ消失する。



「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。治療を頼む」

「こっちに」



 腕のいい生魔法使いのエルフの男性がいてくれたおかげで、棒使いの男性はすぐに後ろに下がり、右手の再生治療にはいることができた。


 けれど竜郎のように一瞬で生やすことはできないので、しばらく時間をかける必要はあるのだが。


 しかしドデドバ?の方はと言えば、黒い球体が消えた瞬間、一切の傷がなくなっていた……までは無理やりにでも納得はできたのかもしれないが、ボロボロになった服から除く肌から、魔物の頭部のようなものが複数ボコボコと隆起しているのが確認できた。

 けれどそれも数秒で収まって、元のドデドバ?の姿に戻っていく。



「ふぅ、けっこう痛かったぜ」

「なるほど、お前は化け物になったというわけか。ならば遠慮する必要はもうないな」



 人間相手ではなく魔物を相手にするときのように殺気づくエルウィンたちに、ドデドバ?はヘラヘラ笑いながら語りかける。



「まあ待てよ。俺もまだ神父様の話では不完全なんだ。今回お前たちの相手をしてよく分かった」

『しんぷさま? ねえ、パパ。あの人、なんのことを言ってるのかな?』

『あの言い方からするに、あいつをああした張本人ってことになるんだろうが……』



 竜郎たちが念話で話している間にも、話はどんどん先へと進んでいく。



「投降するとでもいうのか?」

「バァーカ! んなわけねーだろ。次にあったときに殺してやるよっ、じゃあな!」

「──っ」



 ドデドバ?から黒い突風がエルウィンたちに放たれる。

 その風はただでさえ勢いが強いうえに、触れた人間の力を奪い取っていく呪いの風。

 思いもよらない強力な攻撃に、エルウィンたちの気勢がそがれたすきを見て、ドデドバ?は後ろへ、遺跡の扉のある方へと走っていく。


 すると何もしていないのに遺跡の扉が勝手に開いていく。



「お前たちもこいっ! そこにいたらやられるぞ」



 彼はゴロツキたちにそう叫びながら、扉の中へと飛び込んだ。

 ゴロツキたちも、ランク持ちの冒険者に傷を負わせあしらうことができたドデドバ?が言うなら間違いないと、慌てて彼の後を追って扉の中へと入っていく。


 そしてエルウィンたちが扉の方へと駆けよる前に、遺跡はまたその口を完全に閉じてしまうのであった。

次話の投稿日は未定です。遅くても一週間以内には投稿できるとは思います。

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