第183話 遺跡の調査
消えた男の行方も気になるものの、痕跡の途切れ方からしてもこの扉を開けることが一番の近道となる可能性が高い。
ひとまずそちらは後回しにして、周囲の解析を優先することにした。
最初はやはり、扉だと思われる場所。
「確かにダンジョンだとか、そういった超自然的建造物の類でないのは間違いないな。人工的に作られたものだろう」
「人工的って言うと、魔法でパパってやった感じ?」
「うーん……。こればかりは俺の主観も入ってくるんだが、今俺たちが普通に使っている魔法とは違う、けどそれに近い方法で作ったって感じがするな。
なんというのか、構築までの過程が魔法と比べて大味すぎる」
「魔法みたいだけど魔法じゃない?」
「よく分かんないねー、マメタ」
「キャン」
いまいち要領を得ない竜郎の言葉に、彩人と彩花は豆太をモフモフして話半分のままに遊びはじめる。
楓と菖蒲もそちらが気になるようで、4人で豆太を可愛がっていた。
「かなり昔の遺跡のように見えるのだから、もしかしたら今の我々のようにシステムのスキルとして魔法を使えたわけではなかったから、というのもあり得そうなのだ」
「それもありそう──だとは俺も思う」
そもそもシステムなどという便利機能が完全に確立されたのは、ルティのような長く生きた存在からすればわりと最近といえる。
竜郎たちが体験したことのある時代──約4万年前では、普通の人種で魔法が使えるのは本当に一握りの存在しかいなかったくらいだ。
ましてこの遺跡はかなり古い時代に建造されたもの。魔法というものをまだうまく使えなかった人間が、無理やり使って建造したとすれば、竜郎のいう繊細ではなく大味な建築の痕跡だとしてもおかしくはない。
「けどそれにしては、何か腑に落ちない部分もある。曇っているというのか、何か一つ噛ませているような、フィルターがかかっているような違和感があるんだ」
「何か一つ噛ませているよーなフィルターかぁ。
ってことは何か、それこそリアちゃんが作っているような魔道具的なものの先駆けみたいな技術でも使われてるとかはないの? パパ」
「…………どちらかというと、そっちのほうがしっくりくるな。
けれどそうなると、かなり昔のそれこそ万単位の俺たちにとっては古代といってもいい時代に、ここまでしっかりとした遺跡をつくることができる魔道技術を持っていた人物が関与しているということになる」
「そんなにしっかりと作られているか? マスター。我には造り自体は普通の遺跡に見えるが……」
「遺跡自体も今は経年劣化で大分崩れてしまっているが、その芯の部分はいまだびくともしていない──」
まず遺跡周辺の地盤。ここは本当にしっかりと固められており、さらに他者の魔法を通しにくくするよう加工までしてある。
そのため並みの攻撃ではびくともしないし、土魔法使いでも地盤に干渉できないようになっていた。
今の技術でも、そこまでやれる道具を用意できるかは難しいかもしれない。
「ただこれは技術もあったんだろうが、使用者の出力でゴリ押ししで完成している節もある。
かなりピーキーで使用者に負担を強いるだけに、技術としてはまだまだ未熟な部分も多かったと言ってもいいだろうな」
けれど古代の技術でここまで再現できる、しかも扉の開け閉めには特殊な仕掛けを施すこともできている。
この仕掛けは十分に現代でも、通用しそうだと竜郎は感じた。
「……あのさ、たつろー。ここまで聞いてて思ったんだけど、そんな昔から高い魔道具の技術を持っている人って言ったら……1人それっぽい人は心当たりあるんだけど………………」
「これだけ昔の魔道技術がどこまで発展しているのかまでは、俺には分からないが、つい最近名前を聞いたせいでその人しか思い浮かばなくなってるな」
「もしかしてそれって、ベルケルプって人のこと?」
「そうだ」「うん」
ニーナは出会ったことがないからベルケルプという元クリアエルフについては知らないが、話くらいは知っている。
竜郎と愛衣の反応からすぐに察しがついたようだ。それは他の、豆太と遊んでいるだけに見えた彩人と彩花も同じように。
「じゃあさ、たつにぃ」
「そのベルケルプさんは、ここにいたりするのかなぁ?」
「分からない……。さすがに俺たちと出会った年代が違いすぎるからな。
あの人なら、あの国からここまでそうかからず来られるはずだ。けれどいない可能性のほうが高いとも思っているが」
「え? そうなの? たつろー」
分からないと言っておきながら、妙に自信ありげに話す竜郎に、愛衣は少し驚きながら疑問の声を上げた。
「ああ、だってもしもそうならば等級神か魔神あたりが止めているだろう。
ベルケルプさんは、まだ俺たちと出会ってはいけない人物なんだからな」
「そういうことか。確かにせっかくマスターたちが調整し終わったこの世界を、神々がまた乱そうとは微塵も思うはずがないのだ」
「そういうことだな。だからここはもしかしたら、彼となにか関係のある場所なのかも──ん?」
「「うー?」」
竜郎が急に言葉を切ったことで、楓と菖蒲も豆太をモフモフする手を止めてこちらに振り返った。
「誰かこっちに団体で向かってきている。こっちの探査は念のためばれないように展開していたから、向こうには気が付かれていないようだが、どうする?」
「ここを明確に目指してるの?」
「おそらく、そうだと思う。明確に目的地をもって歩いているように思えるからな。それに見知った反応がある」
「見知った反応?」
「ここで消えた男の仲間?たちと、その男たちを背後から静かに尾行している、止めようとしてくれた冒険者たちの団体だ。
それにプラスして、消えた男の仲間を引き連れている見覚えのない人間の反応もあるが。
しかもその反応からして、一般人からするとかなり強い部類に入る実力の持ち主ときてる」
「なんか怪しいね、パパ。ニーナすっごく気になるかも」
「「ボクも気になるー」」
「だよな。少し泳がせて反応を見てみるか」
「それが手っ取り早そうだね」
男が失踪しているタイミングでやってくるその仲間たち。なにか関係があってもおかしくない。
竜郎たちは動向を探るべく、強力な認識阻害を展開しながら隆起した岩の上に飛んでいき、観察することに決める。
しばらく待っていると、まずはゴロツキABCDたちのご到着だ。
その数十メートル後方に、例の冒険者たちが尾行してきているが、そのゴロツキはそれに気が付いた様子はない。
だがそこまではよかった。けれどゴロツキたちを引き連れてきた人間を見て、竜郎たちは目を丸くした。
「あれってさ、ここで消えたはずの男の人だよね? 普通にいるじゃん。どゆこと?」
「しかし見た目だけはそれっぽいが、ここから軽くみただけでも中身はまったく別人にしか思えないのだ。マスター、何かわかるか?」
「ランスロットの言う通り、別人とみて間違いない。
ガッツリ解析してもいいが、得体が知れないからもう少し観察しよう。
さて、いったいアイツは何なんだろうな」
姿形はまったく同じ。けれど少し離れた場所からでも分かる別人。
そんな奇妙な光景に、竜郎たちはじっと視線を落とすのであった。
次話は日曜更新……できたらいいな、くらいの感じです。
色々と私生活での環境変化が激しく、今は手探り状態なので……すいません。
これからの生活パターンを完全につかめれば、もう少ししっかりと予定が立てられると思いますので、しばらくは少し不規則な更新になる可能性が高いです。