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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十章 エデペン山編
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第175話 まずは町へ

 本日のカルディナ城近辺の天候は、あいにくの雨模様。

 絶好の出発日よりとはいかないが、竜郎たちの心は新たな食材に向いて高揚しているので陰りはない。



「よし、全員集まったな」

「ぎゃう♪ パパたちとお出かけするの久しぶりな気がするー」

「竜王さんたちのときはお留守番だったしね」

「「あーうー!」」

「楓と菖蒲も、お姉ちゃんと一緒で嬉しいってさ」

「ぎゃう! ほんとー!?」



 今回集まったのは竜郎、愛衣、楓、菖蒲に久しぶりのニーナ。

 そして昨晩言っていた──。



「今回の果物の魔物とやらは、どれだけ美味しいのだろうか。

 楽しみなのだ。彩人兄上、彩花姉上もそう思わぬか?」

「思うー」

「いったいどんな味なんだろーねー」

「キャンキャン!」



 ランスロット、彩が分化した彩人と彩花。そして彩人たちが抱っこしている小さく縮んだ状態の子狼の豆太たち。


 今回のメンバーたちが全員集まったのをしっかりと確認したところで、竜郎たちはニーナの背中に乗せてもらい出発した。



「こっちであってるよね? パパ」

「ああ、そのまま、まっすぐだよ、ニーナ」



 方向音痴疑惑のあるニーナは、竜郎に何度も方角を確認したおかげで迷うことなくグラニミスク大陸の港をちゃんと経由しリマーイ国へ入国。その頃には天気も変わり晴れになった。

 そしてそのリマーイ国内にあるエデペン山のほうへと舵を切っていき、お目当てのマイスア町付近へと到着した。



「うわっ、なんか凄いことになってんね」

「う、うぬ。これは今日中に町に入れるのだろうか……?」



 空の上から町のほうを眺めてみれば、そこには様々な人間たちによる長蛇の列ができていた。

 また町壁の外側にはキャンプの準備がされている場所がいくつも点在しており、今日中に入ることをすでに諦めている人たちがいるのは一目瞭然。

 さらに町壁の向こう側も、町の広さに比べて群がる人の数が明らかに多く、入るのも入ってからも大変そうなのがうかがえる。

 町の門に立っている町兵も頑張ってはくれているが、そもそも元は辺境の田舎町の1つだっただけに人手も足りてなさそうだ。


 ならば町からでた山のほうはどうなっているのかと目を凝らしてみれば、そちらも未知の果物を目当てに四方八方、人々がうろついていた。



「噂の果物目当てに人を呼び寄せているとは聞いていたが、想像以上だったな……」

「あれじゃあ、マメタとお散歩できそうにないね」

「ざんねーん」

「クーン……」



 野山を駆け周ろうとしていた彩人と彩花、そして豆太は、残念そうにその光景にため息をついた。

 この状況では本来の姿でのびのび駆けっこなどすれば確実に誰かを轢き殺すだろうし、小さい姿でお散歩レベルでも迷惑がられそうである。



「今からでも帰るか?」

「ううん。せっかく来たんだし」

「果物探し手伝うよー」

「キャン!」



 これならカルディナ城付近を自由に駆け回っていたほうがいいのではと、竜郎が念のため彩人たちに声をかけてみるが、それはそれとして手伝ってくれるようだ。

 元気よく返事をしてくれた豆太もふくめ、竜郎は彼らの頭を撫でた。

 私たちはと頭を突き出してきた愛衣や楓、菖蒲も一緒に。


 げんなりした気分も大分持ち直したところで、改めて現状について考えてみる。



「混んだら嫌だからって思って、けっこう早めに来たつもりだったのにねぇ」

「まだ朝方って言ってもいい時間なのに人が多過ぎだよねー、ママ」



 人を呼んでいるということ自体は聞いていたので、竜郎たちも早めにきたのにこれだ。

 ウリエルが聞いた話では、まだここまでではなさそうだったのにである。


 けれどよくよく考えてみればインターネットが普及しているわけでもないこの世界で、他の大陸の情報を得て持ち帰るまでのラグも考慮しておくべきだったのかもしれない。

 それを考慮しても、ここまで大人気スポットになっているとは思わなかっただろうが……。



「場所取りだけなら、最悪パチローを置いておけばいいんだろうが……」

「ここまで気合を入れてきたのに、今から帰るのも……とは思うのだ」

「だよなぁ」



 ランスロットはかなりラペリベレ捕獲を楽しみにしていただけに、ここで帰りたくはなさそうだ。

 このまま町に入らずに上空を探すという方法もないわけではないが、やみくもに探すよりは先に情報を得ておきたい気持ちもある。



「なら並んでる人には申し訳ないけど、あれを使っちゃう?」

「それが一番手っ取り早いしなぁ」



 あれとはもちろん高ランクの冒険者の威光をちらつかせ、順番など無視して優先的に町に入れてもらうという優遇措置を求めるもの。

 時間的に余裕がないわけでもないので、あまり乱用はしたくはないが、あの長蛇の列を見てしまうと使わないという選択肢を選ぶのもはばかられる。


 それにだ。ちょっとしたランク持ちならまだしも、世界最高ランクになってしまうと、向こう側が数日間も待たせたことに対して謝罪してくる可能性がかなり高い。

 たった数十分待っただけでも、竜郎たちは何度も向こう側に謝罪させてしまうことすらあったくらいなのだから。


 またランクを下げて表示させる機能も付けてもらってはいるが、後々威光が必要になったときに面倒になることもある。



「ぎゃうー。それなら、パパっと入っちゃうほうがよさそう?」

「こちらとしても助かるし、そうさせてもらおうか」



 謝られた時の対処も面倒くさいので、結局竜郎たちは冒険者ランクをちらつかせるほうを選択することにした。

 長蛇の列の横を魔法で存在感を薄めながら通り抜け、門の前まで歩いていく。

 勘のいい人は気が付けるレベルだったので、列を待たずに抜けていく竜郎たちへ好奇や苛立ちの視線を向けられた。


 だがそれはもう仕方がないことだと無視をしたまま、一生懸命人の波をさばいている兵たちに寄っていくと、ようやく一番レベルが高いであろう男性がこちらに気が付いた。



「なにかこちらに御用でしょうか?」



 なぜここまで近づかれる前に気が付かなかったのだろうかと頭に疑問符を浮かべながらも、小走りでやってくる。

 けれど竜郎たちの身ぎれいな恰好や、頭に乗れるサイズとはいえニーナを連れていることから、見た目は子供だらけの団体であっても爽やかな笑顔を浮かべながら応対してくれた。



「町の中に入りたいのですが、入れてもらうことはできないでしょうか?」

「えーと…………、身分証をお見せいただいてもよろしいでしょうか」



 いくら何でもここまで堂々と列を無視してきた団体が、なんの身分も後ろ盾もない人間だとは思えない。

 少しだけ緊張感をにじませながら、戸惑うような視線を向けてくる部下たちを本来の仕事に戻させ、その男性は身分証の確認を竜郎たちに求めてきた。


 素直に竜郎が最初に自分の身分証を提示した。すると目がこぼれんばかりに見開き、男性は息を呑んだまま固まってしまう。

 そこで男性の部下たちと、ようやく竜郎たちのやり取りに気が付いた並ぶ一般の人たちも一体何事かという視線を向けてきた。



「あの、大丈夫ですか?」

「………………あ、え……ええ、はい。失礼しました……。

 私もまさかこのような身分の方々と、お話しする機会があるとは思いませんでしたので動揺しておりました。

 それでここにいる方々は皆、お連れ様でしょうか?」

「はい、そうです。愛衣──」

「はいよー」



 そのまま全員の身分証の確認も終わり、他の人たちとは違う別の通用口から町の中へと案内される。

 そこでそれまでの対応で竜郎たちへの態度も緩和された男性は、別れ際に声をかけてきた。


「これは個人的な好奇心からの質問なので、答える必要は全くないのですが、やはりタツロウ様がたは例の果物を目当てに来られたのでしょうか?」

「はい。そうですね。面白そうな噂だったので、その真偽や本当にそのような果物があるのなら、せっかくなので手に入れたいなと」



 嘘をつく必要もないので正直にそれを口にすると、やっぱりそうだったかと男性も納得しながら大きく頷いた。

 そうでなければこのような田舎町には一生来るわけなかっただろうと。



「お答えいただきありがとうございます。しかしここだけの話ですが、その果物は、あると言われてはいますが、ここで生まれ育った私も私の父もその父も、一度も見たことはないのです。

 本当にそんなものがあるのかと疑っている町人すらいます。なので差し出がましい意見かもしれませんが、見つかったらいいなくらいの気持ちで探されるのがいいのかもしれません」

「町の人もですか。なるほど、ご助言感謝します。しかし見た人もいるという話でしたが、その人の話を聞いたり、過去に見たという人たちの話などをまとめたものなどはできませんかね?」

「……そういうものは、あるにはあります。入って少し進めば、すぐに見つかる場所にです。

 けれど情報料を町に収めるよう要求されますし、正直見つけるのに役に立つ情報とも思えませんので、おすすめはできません」



 最後の部分はかなりの小声で竜郎たち以外には聞こえないように注意を払いながら、教えてくれた。

 この男性の立場からしたら、普通はそれを推奨する側だからだろう。



「ご忠告ありがとうございます。けれどどこでどんな情報が役に立つかもわかりませんし、期待はせずとも念のために行ってみようと思います」

「そうでしたか。これは本当に差し出がましい事をしてしまいましたね。

 あっ、それともう一つよろしいでしょうか」

「はい。なんでしょうか」

「最近、果物の賞金目当てに人が増えたせいで、素行のよくない連中も混じって町の中へ入ってきています。

 町長も多少の揉め事ならと目をつむる方針のようで、余所者同士の喧嘩などは基本的に無視するよう我々にも通達が来ています」



 その会話を愛衣の念話での通訳を聞きながら、それがどうしたのだろうとランスロットなどは不思議に思う。

 自分を含め、話すことのできない楓たちですらその実力は、彼我の実力差もまともに読めず気軽に絡んでくる輩がどうにかできるような存在ではない。

 いちいち忠告する必要などないだろうにと。


 けれど竜郎は大体この男性が何を言いたいのか理解し、素直にその言葉の続きに耳を傾ける。



「なのでその……、どうか妙な輩に絡まれても、そのときはできるだけ"お手柔らかな対応"を、お願いできればと……。

 皆さま若々しい外見をされていますし、侮って絡んでくるものは確実にいるでしょうから……。

 町の巡回をしている兵たちに突き出していただければ、迅速な対応をするよう私から通達を出しておきますので」



 ようはあまり派手に対応しないでね。と言いたかったらしい。

 竜郎たちがそれなりに本気で対応しただけでも、下手をすれば町への被害は甚大になってしまうからだ。


 まさかここまで腰の低い竜郎たちが暴れまわるとは思えないが、町に外から入ってきた輩の質の低さは目に余る。

 もしかしたら誰かの逆鱗に触れてしまうような、馬鹿なことをする可能性だってゼロではないのだ。



「お気遣い、ありがとうございます。しかしそのくらいは周囲に何の被害もなく、"丸く"収める手段はいくらでもありますのでご心配なさらずに。

 ただ町の兵の皆様方への話が簡単に通るのはこちらとしてもありがたいので、お願いします」

「はっ。承りました! では、ご自由に町をご散策ください」



 見事な敬礼に見送られながら、竜郎たちはさっそく町の中へと踏み出していった。

 そして情報があるとされる場所を目指そうと、少しばかり奥へと進んだところで──。



「おい、そこの坊主ども。ちょっとツラかせよ」



 いかにもなチンピラな風体をした7人のほどの男たちに、竜郎たちはあっさりと囲まれてしまうのであった。



「えっと……、さすがに早くない?」

「見た目の威圧感がなさすぎるのも問題だったかもしれないなぁ」

「うむぅ……。これはガウェインのやつを連れてくるべきだったかもしれないのだ」

次話は水曜更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  お子ちゃま冒険者もどきにも舐められる威圧感の無さは相変わらず健在ですなw  もしチンピラどもが旧リューシテン領主ほど鈍かったら、竜郎らが威圧を少々解放するだけでは事が収まらないでしょうね
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