第174話 ラペリベレ探し会議
竜王国巡りが一時中断となったので、竜郎たちは次の美味しい果物の魔物──ラペリベレの捜索に本腰を入れていくことにした。
そのための会議もかねて、夜食時に皆に集まってもらったわけなのだが、実はラペリベレ探しには1つ問題があった。
「問題ってなにがあるんだ? 竜郎」
そんな魔物がいるくらいしか聞かされていなかった今、口を開いた竜郎の父──仁に対し、竜郎は単純明快な答えを提示した。
「今まで集めてきた美味しい魔物たちとは違って、具体的な生息域が決まってないんだよ」
「そうそう。しかも果物っていってるのに、ずっと高速で空飛んでるらしーよ」
「こっちの世界にも多少は慣れてきたと思ってたけど、果物が空飛ぶとか想像できないわ……」
そう言って呆れたような表情をする愛衣の母──美鈴に、竜郎たちの他の親たちも同じような反応を示した。
彼女たちの頭の中では、スーパーで売られているような果物がぴゅんぴゅんと空飛ぶ姿が流れているのだろう。
「でもそうなると、今回は世界中の空を飛び回ることになりそうですね」
「リアが言う通りなら、けっこう面倒くさそうですの」
かなりの高高度をかなりの高速度で飛び回っている上に、竜郎のスキル《魔物大事典》いわく大きい魔物でもないので、竜郎たちでもそれなりに捜索に苦労しそうな魔物といえよう。
ここはもういっそのこと全員投入して、空を探し回ってしまおうかとも竜郎は考えているくらいだった。
しかし、思わぬところから有用な情報が飛び出してきた。
「あの……それなのですが、実はラペリベレなのではないか──という情報がありまして」
「えっ、そうなの!? ウリエルちゃん」
「ええ、実はつい先日、いつものようにララネストの取引をしていたら──」
今竜郎たちがいる土地がある場所はカサピスティ王国とのララネストのやり取りの際には、ウリエル目当てで近衛のレス・オロークがよくついてきていた。
そして先日の取引の際にもレスが当たり前のように付いてきたのだが、そのときに美味しい魔物らしき情報を聞いたのだという。
「こちらでも詳しく調べて、もう少し確証が持てたらお話ししようと思っていたのですが、グラニミスク大陸の南部に位置するエデペン山という山で、数年ほど前に信じられないほど美味しい果物らしきものが落ちていたそうなのです」
その果物を食べたのは現地の町に住む男性で、腐ってもなさそうなうえに香しい甘い匂いもあって、思わず口に入れていたらしい。
そして食べてみたら、飛びあがるほど美味しく、他にも落ちていた数個の果物らしきものをもって家族と一緒に食べたとか。
「そしてそのまま家族の中の話から近所の噂へ、町の噂へと伝播していったそうです」
「その一家しか食べてないのに、すげー広まりようだな。ウリエル」
「ええ、そうなのよ、ガウェイン。私もさすがに広がりすぎじゃない? と思ったのだけれど、その町には数十年前にも似たような事例があったそうなの。
そしてさらに歴史を紐解いてい行けば、今ある町ができる前から似たようなことがあったということが裏付けされる文献も出てきたらしいわ。
しかもその中のいくつかには、空から落ちてきた──という記述もあったそうよ」
そんな一家の情報を裏付けるような話がちらほら出てきたことで、エデペン山付近に住まう人々はそれを信じ、一時期は近隣の町を挙げて探し出しているほどだったらしい。
けれど探せど探せど見つからなかったので、その話は次第に薄れていったのだが……。
「けれど最近になって、またその熱が再び燃え上がっているそうなのです」
「再燃したのか。ということはまた新たな発見者が出てきたとかなのか? ウリエル」
「いいえ、主さま。再燃した理由はどうやら我々の行動が原因のようです」
「んん? どゆこと??」
エデペンなる山に竜郎たちは近づいた覚えもないのに、再燃した理由がこちらにある。そんな意味が分からない関連性に、愛衣を含めてほとんどのものたちが首を傾げた。
「最近はもう、じわじわと我々が少しずつ流している、美味しい魔物の存在に世間が気が付き始めているのです。そしてその取引されている、おおよその額も」
「……つまり、その噂に聞く果物が町で安定して採集できるようになれば、いろんな意味で美味しい思いができるようになるんじゃないかと考えて──ってことか?」
「レスさんいわく、そのようだとうかがいました」
現在でもララネストの値段は一般庶民には届かない最高級品だ。
一匹売るだけで、かなりの収入を竜郎たちは得ることができている。
その噂を耳にした誰かが、自分たちも同じようなことができないかと考えるのはある意味、当然の成り行きだろう。
それも町の住民からすれば昔からどこかにあるだろうと言われており、他と違って何の確証もなく探し回るのとはわけが違う。
お金のなる木を探しだし、なんの変哲もない田舎町に特需を生み出せと盛り上がり、海を越えてハウルたちの情報網にまで引っかかったというわけである。
「けどそうなりますとですよ、マスター。外の人間なんかにくれてやるもんかと、こちらが行っても正規の手段では門前払いされたりしないのでしょうか」
「俺たちの場合は、それをするのに適したスキルがあるから勝手に独占状態になってるが、そうじゃなくても美味しい魔物は自分たちで独占したいと思うのは不思議じゃないしなぁ」
竜郎たちも別に他者が自力で捕まえて養殖し販売しようというのなら、止める気はない。
けれどむこうは、そうではない可能性の方が高いだろう。と思ってのアーサーと竜郎のやり取りだったのだが……。
「いえ……。それがどうやら、むしろ余所者を呼び寄せているらしいのです」
「え? そうなのか?」
「はい。実は──」
独占するどころか外部の人間を呼び寄せるというのは意味が分からず、思わず竜郎が問いかけてみれば、町の運営者はその謎の果物に懸賞金までかけたらしい。
ここからはレスたち側の憶測も混じっての話なのだが、町の運営者サイドは九割ほどは見つかることはないと考えているのではないかということ。
「自分たちの町の人たちが、一生懸命探し出そうとしてるのに? それも賞金まで出してるのに」
「はい。というのもその町では、今回は我々の動きもあってか、いつにもなく盛り上がっているようですが、小規模ながら捜索活動は数年おきにブームのように起きていたらしいのです。
けれど山をよく知る近隣住民たちでも、影も形も見つけられない。なら余所者が探してもどうせ見つかることはない。
だったらいっそのこと懸賞金でもかけて外の人間を呼び寄せて、町にお金を落としてもらったほうが利益になるのではないか。と考えたのではないでしょうか」
その証拠に外からの人間向けの宿泊施設や飲食店などが、充実してきてもいるようだ。
「それで見つかったとしても、懸賞金と引き換えに場所を聞き出せばもともとれるでしょうし、一石二鳥の町おこしといったところなのでしょうね」
懸賞金額も見つけた状態によって変わるので、たまたま落ちている果物を数個見つけて持ってきた程度では町の利益のほうが勝るようにも設定されている。
そのあたりのことを考えてみても、竜郎たちが流しはじめた最上級の美味しいものに匹敵する果物と銘打って宣伝し、客を招き寄せて観光地化するというのが目的なのだろう。
「現に耳の速い冒険者たちが、その町に集まり出しているようですので」
「このままだと、パパたち以外の人たちに取られちゃうかなぁ?」
「他の地域で似たようなできごとや噂がないっていうのなら、その山にはなんでかは不明だが、ラペリベレという魔物が定期的にうろついている可能性は高そうだしな。
探し物が得意なスキルを持った冒険者と、空の獲物を捕らえるのが得意な冒険者がいれば、あるいは俺たちより先に見つけて捕獲してしまうかもな」
「うぬぅ……、それは嫌なのだ。我もその果物が食べてみたい……」
「ん。私もランスロットと同じ」
ヘスティアもランスロットと同様に今の話を聞いて、別の誰かに乱獲されてしまうのではないかと焦りはじめた。
だが竜郎はそこまで焦ってはいなかった。
「まあ、落ち着いてくれ。最悪俺たちが現存する個体を手に入れられなくなっても、少し面倒だが魔物の創造系スキルで創ることだってできるんだから」
竜郎のスキル《魔物大事典》なら、魔物を一から創造するための情報も調べることができる。
それを使って現存する魔物たちの素材を収集して創造すれば、たとえ今いるラペリベレが絶滅しても永遠に竜郎たちが食べられなくなることはないのだ。
しかしその場合は素材集めからスタートになるので、ただ今いる魔物を繁殖させるよりも面倒な手順を踏む必要が出てくるというのが難点なのだが。
「とにかく、そのなんちゃらって山のあたりを調べに行ってみよ。
その後のことは、行って今どんな感じなのか確かめてから考えればいいんだしさ」
「それが一番手っ取り早いっすよね」
「見つからなくても、そこに何らかの情報はありそうだからな。
そうなってくると……、今回はランスロットとヘスティアも一緒に来るか? ラペリベレがかなり気になってみたいだし」
「うむ! 私も行きたいのだ!」
「ん~~~……、気になるけど……、私は遠慮しとく」
「え? どうして? ヘスティアちゃん」
ヘスティアの大好きな、それも話によれば甘い果物の魔物だというのに、誰よりも先に食べる権利を放棄するとは──と、愛衣はもちろん他の面々も目を丸くする。
けれどその中でフローラだけは、その理由が分かったようだ。残念そうにしているヘスティアにそっと甘いパフェを差し出した。
「たぶんヘっちゃんは、甘いものが好きすぎて見つけたときに全部食べちゃうかもって心配してるんだよ♪ きっと♪」
「食べちゃうって……。本当なのか? ヘスティア」
「ん。甘い美味しい魔物なんて見つけたら、たぶん我慢できずに食べちゃうと思う……。
だったら主がいっぱいにしてから、たくさん食べられるほうがいいから、今回は遠慮する」
最初に聞いたときにはまさかそんな──とも思った竜郎であったが、話し終わるや否やすぐにパフェを食べはじめた彼女を見ていると、捕まえたはしから食べてしまいそうなのが分かってしまう。
今までは魚介や肉、水や野菜などだったが、今回は彼女が最も好物とする甘いもの。
普通の甘いものにも目がないのだから、今回連れていけば食の暴徒と化してもおかしくはないのだろう。
ならば他に来たい人はいるかと竜郎が改めて聞いてみれば、手を挙げる人物が2人……というか、厳密には1人が立候補してきた。
「「なら僕が行くー」」
立候補してきたのは彩人と彩花。今まで話には興味なさそうに豆太をモフモフしていたので、竜郎は少しだけ意外に思った。
「マメタと違うとこ」
「お散歩してみたいの」
「ああ、そっちか」
「果物にも」
「興味あるけどね」
最近はいつも同じところばかり豆太と回っているので、少し違ったところを走り回りたいらしい。
彩人、彩花の2人も戦力的にも申し分ないので、なにか不測の事態が出先で起きてもちゃんと対処してくれるだろう。
そんなこんなで竜郎たちはさっそく翌日に、エデペンと呼ばれる山へと言ってみることになったのであった。
次話は日曜更新です。