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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第九章 竜の王国・前編
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第171話 ソルエラ王国へ

 ソルエラ王国に向かう日になった。

 今日も今日とて毎回のように砂浜に立って、エーゲリアたちが来るのを待つ。


 今回のメンバーは竜郎、愛衣、竜郎の中に入っているカルディナ他ジャンヌたち魔力体生物組全員。

 そして楓、菖蒲とイルバ、アルバの幼竜と、メインのソフィアとアリソン姉妹だ。


 どこに連れて行ってもらえるんだろうとはしゃぐソフィアとアリソンをなだめながら、まったりと待っていると、エーゲリアが転移で海からやってきた。

 そして今回ついてきてくれるのは──。



「ジギーのおっちゃん、おひさっすー」

「おー、アテナの嬢ちゃん。久しぶりだな」



 竜郎たちとすでに顔見知りの、エーゲリアの側近眷属竜──ジギルゾフ。

 彼は全長15メートル級の茶色いトカゲのような地竜で、額から二本の角を生やしている。


 彼とアテナは殴りあって友情を芽生えさせた──とでもいうべき仲なので、互いに顔を合わせるなり軽快に挨拶を交わしあう。


 ジギルゾフはソルエラ王国の前王──ゼムフスは旧知の仲で、もしお見合い話に火がついて暴走しても、彼なら簡単に御することができるだろうからという人選らしい。


 知り合いということもあって特に自己紹介をすることもなく、話は進んでいく。



「それじゃあ、ついてきてくれい」

「うちのジャンヌの空駕篭に乗っていきますか? ジギーさん」



 ジギルゾフは地竜であり、その背に翼はない。なので通常の手段では飛べないだろうなと竜郎が声をかける。

 が、彼は不敵に笑ってその誘いを断った。



「それに及ばねぇよ。飛べねぇなら走りゃいいんだからな」



 そう言うや否や、彼の足元から空に向かって岩のように頑丈な道ができていく。

 そして彼が足を乗せると表面が進行方向に向かって、エスカレーターのように流れだし、ジギルゾフは軽快なステップで空へと駆けていく。



「付いてこねぇと置いてくぜー」



 彼が通った後の道は光の粒子となって消えていき、そのままどんどん先へ先へとソルエラ目指して進んでいってしまう。



「あたしも使える竜力路っぽいっすね。土属性バージョンは初めて見たっす」

「みたいだね。でもあれなら大丈夫そう──ってか、急がないとほんとにどんどんおいてかれちゃうよ、たつろー」



 付き添い人としてきたはずなのに、ジギルゾフは竜郎たちなどお構いなしに駆け抜けていく。



「まったく、ジギーったら……。、ごめんなさいね、タツロウくん。性格上絶対にそのまま行ってしまうから、早く追いかけてあげて」

「分かりました。ジャンヌ、急いで出発だ」

「ヒヒーーン!」



 爆速で駆け抜けすでに見えなくなっているジギルゾフの位置を解魔法で捕捉しながら、竜郎はまず最初の空の旅を楽しむ予定のソフィアを抱き上げ、エーゲリアや見送りに来てくれたニーナに軽く別れの挨拶をしてから飛んでいく。


 ジャンヌもそれに負けじと翼で風を切って空へと舞った。



「おー、やっぱはえーな。もう追いついたか」



 ジギルゾフもそこいらの飛竜では追いつけないほど空を駆ける速度は速いが、それでも竜郎たちには及ばない。

 すぐに追いつくとお前たちならそうだと思ったぜと、嬉しそうに口角を上げる。

 悪びれのない彼の様子に、思わず苦笑を浮かべながら竜郎たちは速度を緩めようとしたのだが──。



「んじゃあ、もっと飛ばしてくぜぇ!」



 ──彼は暴走機関車のように、さらに速度を上げて爆走していき、また背中が遠くなっていく。



「あっ、ちょっとジギーさん! たく、レースじゃないってのに」

「ギャゥ! ギャウー!」

「まあ、ソフィアも楽しそうだしいいか」



 竜郎に抱っこされた状態で、あのおっちゃんに負けるな、パパー! といった感情を竜郎に送りつけながら手足をバタバタさせてソフィアが暴れる。

 もっとゆったりと空の旅を楽しませてあげようと思っていたのだが、本人がそういうのなら仕方がない。

 ジャンヌへ速度を上げるぞという意味を込めて視線を送ると、彼女も楽しそうに頷き返し、一気に彼を追いかけた。




 交代交代で竜郎に抱っこされる幼竜たちがはしゃぐものだから、ジギルゾフも喜ばそうとし、竜大陸領空内をさながら空中レースのように縦横無尽に暴れまわった。


 こんなことを普通の竜が勝手にやろうものなら大問題になっていただろうが、そこは皇族関係者のジギルゾフ。

 注意すらされることすらなく、関所をするするとぬけてあっという間にソルエラ王国領内へとやってきた。


 こちらも、いわゆるソルエラ鉱石という薄茶色の鉱石で建築されているので入ってすぐに分かった。

 また上から見るとより分かりやすかったのだが、非常に緑が豊かだということ。

 農業も盛んで、竜たちによって管理された植物たちはのびのびと育っている。


 イフィゲニア帝国や他の王国にも緑や農地がなかったわけでもないのだが、比べるまでもないほどにその面積は広い。

 思わずまじまじと竜郎たちはそれぞれ眼下に広がる光景に目を奪われていると、ジギルゾフはその時ばかりは速度を緩め、自慢げな微笑みを浮かべた。



「どうだ。竜大陸の食糧庫とも呼ばれている理由が分かっただろ」

「ですね。まさに一目瞭然でした」

「クォー」



 竜郎に抱っこされていたイルバも、見慣れぬ広大な農地を珍しそうに見つめながら一声鳴いた。



「がははっ。そうか、おめぇもそう思うか」



 ここはソルエラ種が長く住み着いたことで生まれるソルエラ鉱石の影響もあって、地属性の力が他よりも強い。

 それゆえに地属性に大きく傾いているジギルゾフは、この国に来ると気分がいつも以上によくなるので大好きらしい。



「かと言って、あんまし他の国と差別するのは良くねーから、特別扱いはしねーがな」



 それでも個人の好き嫌いくらいは、エーゲリアも大目に見てくれるようだ。

 そんな話をしながら王都の関所についたとき、近くの農園で取れた野菜を食べさせてもらう機会があった。


 ジギルゾフも勧めてくれたので、遠慮なく竜郎たちも綺麗に水で洗っただけの生の野菜を齧ってみる。

 形状はニンジンのような根菜。大きさもちょっと小さいニンジンといったところ。色味はサツマイモのように紫で、レンコンのような歯ごたえが感じられた。


 カリッカリッと竜郎たちがそれぞれ口にしてみれば、苦味もエグ味も一切なく素朴な甘さが口の中に広がっていく。

 生でも十分食べられるうえに、主張が強すぎないその野菜はスティック状にしておいておけば、いつまでも食べていられるほどに癖になる味だった。



「けどこれ、私たち別の大陸で食べたことあったよね?」

「ありましたの。普通に商会ギルドの百貨店のお野菜売り場に置いてありましたの」

「けどぜんっぜん味が違うっすね。こっちのほうが断然うまいっす」

「これは土以外にも特別な栽培がされたりとかは?」



 思わず野菜を提供してくれた関所の衛兵に竜郎が問いかけてみると、誰かは分からないが異常な強さを秘めていることだけは感じ取れているのか、緊張に汗を流しながらも明朗に「一切、特別なことはされておりません」と答えてくれた。



「土だけの恩恵でこれですか……。本当に素晴らしい国ですね」

「お褒め頂き、ありがとうございます!」



 外の賓客。それもジギルゾフを『ジギーさん』呼ばわりできる存在からの称賛を受け取り、衛兵の名も知らぬ竜は初めてにこやかな笑みを浮かべ胸を張り、竜郎に向かってそう言った。



「ちなみにお隣のフォルス王国も同じなんですか? ジギーさん」

「大地の肥沃さはこちらが勝り、植物の力強さは向こうが勝るってところか。

 だが互いに調整しあってるから、結果的にはほぼ同じと思ってくれていいぜ」

「なるほど、ありがとうございます」



 竜郎は表面では真面目そうな顔でうなずきながらも、心の中では踊っていた。



『これは、ますますソルエラ、フォルスの農地が欲しくなってきたな!』

『そうですの! あとはリアに土壌を研究してもらえれば、もっといろいろできるようになるかもしれませんの』

『いいね、それ! ただ普通にお野菜を育てただけでこれなんだから、もっと研究すれば、もっと凄いのできそう!』

『ヒヒーーン!(それは楽しみー)』

『『────(是非やりましょう)』』



 美味しいものシリーズ魔物も、全ての食材の種類を網羅しているわけではない。

 通常の野菜や果物をもっと美味しく育てる鍵が、この地に眠っている可能性があるとなれば、是非研究解明して自分たちの食卓をより豊かにしたい。


 そんな思いが強くなり、竜郎たちはいつも以上に心弾ませ、砂色のより純度の高いソルエラ鉱石で作られた王城へと着陸した。


 そこで待っていたのは、ソルエラ種の現竜王──レノフムスの親戚にあたるソルエラの亜種にあたる人物。

 薄い山吹色の鱗に覆われ、腕が足よりも発達した四足歩行するティラノサウルスといった形態をした竜──というのは、鱗の色を除けばソフィアたちと瓜二つ。

 けれど両のこめかみ辺りから『く』の字に伸びる2本の角の色はただの黄色がかった乳白色で、その2人ほど美しいものではなかった。



『でもラマーレさんとこの亜種さんよりは、親戚だってのに近いよね』

『純粋な竜王種以外の亜種には、もろに相性が出てくるみたいだな』



 その女性竜に連れられて、竜郎たちは綺麗な廊下を歩いて王の待つ間へとたどり着く。

 そこで待っていたのは、前述した亜種の女性竜より濃い山吹色の鱗に、プラチナ色に輝く2本の角。

 まさにソフィアやアリソンをそのまま大きくしたかのような、13メートル級の男性の神格竜が2人。


 けれど玉座に座っているのは、その後ろに座っている竜よりも数段劣る。

 後ろにいる人物は、これまであってきた竜王たちにも引けを取らない力強さを感じるが、玉座のほうは正直竜郎1人でも勝てるレベルの神格竜。


 そしてもう1人、翼を持つ黒色の、かと言って邪竜ではない地の要素と闇の要素を持つ女性の神格竜も。


 まずはジギルゾフに向かって恭しく挨拶を交わすと、竜郎たちとの挨拶の番になる。

 それを機に竜郎はソフィアとアリソンの認識阻害を外すも、誰も驚いた顔はせずじっとそちらに視線を送っていた。

 さすがに全員神格持ち。このレベルになってくると、誰も認識阻害に惑わされてはくれないようだ。



「はじめまして、私がこの国の王──レノフムスです。今日はご足労、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそお会いできて嬉しいです」



 事前に聞いていた通り、レノフムスからは嫁に欲しいというぎらついた視線は一切ない。

 けれどその後ろの、王の父にして前王──ゼムフスと紹介された神格竜からは感じられた。

 ただの挨拶だけで、親子の気持ちの温度差がはっきりと感じ取ることができる。


 またもう1人いる女性竜は、ゼムフスよりかなり若く、レノフムスとほとんど変わらないとすら竜郎たちには見えるが、れっきとした前王の妻らしい。



『さて、どうなるか』

『とりあえず農地だけは貰わないとね』



 こうして竜郎たちと、ソルエラの竜王たちとの話し合いがはじまるのであった。

次話は水曜更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  我々の世界での野菜の苦味やエグ味は(害虫や日光などの)外的要因からの自己防衛で生じる天然毒素が原因な事も多いと言われています  なので土壌よりも寧ろ「特別なことはしてない」と称してる農法の…
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