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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二章 イシュタル帰還
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第14話 魔王種という存在

「はあっ!」



 美鈴が放った気力が乗った矢が、波打つような異常な軌道で、イカの頭にゾウのような太い四本足が生えた魔物へと飛んで行く。

 だが見た目以上に機敏な動きで横に跳び、美鈴が描いた軌道から出てしまう。



「──そっちに行ったわ! 美波ちゃん!」

「了解っ! ──ふっ!」



 だがそれは予測済み。《念動》で美波が小石を大量に空に投げ、ちょうど魔物の頭の位置にある小石と、大量の《種子編集》で作った超重量級の植物の実を《置換転移》していく。

 すると重い植物の実が魔物に雨霰と降り注ぎ、足が止まる。



「捕えたよ──」



 そこへすかさず正和の《樹魔法》による植物の蔓が地面から飛び出し、魔物の太い足をがんじがらめに絡め取っていく。

 事前に限界まで切れにくくなるように《種子編集》しておいたので、魔物が暴れてもしばらくは動けない。

 さらに美波が念動で動きを邪魔しているので、なおさらだろう。


 そこへとにかく威力を重視して作られた巨大な弓を、横向きに持って太い弦を限界まで引いた美鈴が叫ぶ。



「──とどめ!」

「ジリュウウゥゥ…………」



 巨大な弓から放たれた巨大な矢がイカのような頭に風穴を開け、魔物──の影は粒子となって消え去った。


 弱いとはいえ竜郎が今まで倒した事のある多種多様な魔物。

 その見た目も人型から明らかな化物まであり、回数をこなしたことで魔物に抱く恐怖心や、生き物へ攻撃する事への忌避感も薄れていった両親たち。


 そしてそのおかげで連携も取れてきて、戦う技術も向上してきたようだ。

 今も慌てることなく、上手く魔物を処理できていた。


 ただ仁だけは少し違う宿題も出ていた。



「それで父さん。これまでの母さんたちの戦いを見て、どんな魔物がいたらいいか、なんとなくイメージは出来たか?」

「やっぱり前衛は絶対に欲しいな。美波たちが後衛系ばっかりってのもあるが、やっぱり前に一人敵を引きつけてくれる奴がいるだけで、安定感が違うような気がする」

「だろうな。となると頑丈な高耐久タイプとかになるんだろうが……そっちだと機動力が問題になってきそうだ。

 今まではそこまで速い魔物を出してこなかったが、この世界にはスピード特化型の魔物もいる。

 タンク役をすり抜けて後衛に攻撃されたんじゃ意味がない」

「それじゃあ、速さに対応できる奴もいた方がいいか」



 仁は普通に盾と剣を持って実戦訓練をしながら、その中でどんな魔物がいたらいいのか考えていた。

 それを元に竜郎が今、手持ちの素材から錬成できそうな魔卵を考えている最中だ。



「あっ、あと俺や美波を乗せて空を飛べる奴もいてほしいな。

 魔物に乗って空を飛ぶとかファンタジーっぽいだろ。ちょっと憧れてるんだ」

「飛行型の魔物対策としても、それ系の魔物はいた方がいいからな。

 あとお勧めなのは探索系だな。魔物はいちいち口上なんてあげてくれないし、奇襲してくるのも多い。

 事前に場所や何処に潜んでいるのか分かれば、対策もしやすい」

「おお、さすが経験者だな。えーと、まず俺の近くで常に護衛してくれる魔物だろ。

 んで相手の攻撃を受けられる耐久型に、速い速度にも対応できるスピード型。

 あとは空で戦える飛行型と、奇襲を防ぐ探索型。これで五体のイメージは何となく固まったな」



 訓練もしながらスキルの検証などもしていたのだが、仁の《卵収最懐玉》の拡張に必要なスキルポイント──SPは、一段階目は1。二段階目は2。三段階目は3──と、拡張ごとに消費が1加算される形式になっていた。

 なので単純計算で十個テイムする玉を増やすのに、消費は55。二十個で210。


 レベル1上がるごとにSPは3ずつ増えるので、レベル1000まで上げた時に手に入るSP総量は3000。

 そうなると、もし拡張だけにSPを使うのだとしたら、最大で77体(消費SPは2926)の魔物を従えられる計算になってくる。


 ただ一度使ってしまうと取り直しは出来ないし、今後また別のスキルを何かの拍子に覚えた場合、そこでSPが必要になってくる可能性も十分ある。

 軽々にSPを一気に使ってしまうのは愚策だろう。


 なのでとりあえず初期値の三個にプラスして、《卵収最懐玉+7》まで拡張(消費SP28)し、仁は現状十体までならテイムできる状態になっていた。



「まあ、何にしても父さんの護衛最優先で孵化させてほしいかな。

 となると……どんな魔物にしようか」

「兄さん、お話している所すいません。

 お昼ごはんまでにレベリングを終わらせる気なら、そろそろ本格的に上げに入った方がいいんじゃないですか?」

「おっと、それもそうだな。ひとまず普通の魔物との戦闘じゃあ動けなくなるって事は無くなったみたいだし──あれ、いくか」

「あれってなあに? 竜郎」



 竜郎が思わせぶりな言葉をリアに返したので、あれがなんなのか美波が聞いてきた。



「このまま弱い魔物を倒していても大してレベルは上がらないからな。

 今から魔王種との戦闘でレベルを一気にあげていく。父さんがどういう魔物を味方につけようとしているのか理解する上でも、うってつけだと思う。

 自分が手にするであろう力について、客観的に知っておくのもいい機会だと思うから」

「でも魔王種なら千子ちゃんとか武蔵さんとか、他にも竜郎君の仲間にいたよね?

 普通の魔物とそれほど違うように見えなかったけど……。

 もちろん今、私たちが戦ったのとは比べものにならないくらい強そうではあったけど」

「そりゃそーだよ、お母さん。あの子達もお母さんたちが恐がらない様に、威圧感的なやつを抑えててくれたんだもん。

 戦う時の魔王種の迫力はあんなもんじゃないよ。だから気をしっかり持って見ててね。

 戦うのは、たつろーがやってくれるから」



 両親すらあまり見たことのない愛衣の真剣な表情に、仁たちも気を引き締め直した。

 それを見た竜郎は、これなら大丈夫だろうと、いよいよ本格的にレベル上げに入っていくことにした。


 竜郎は《分霊神器:ツナグモノ》を再発動して両親たちに繋ぎ、どの魔王種にするか考え始めた。



「さてと、どいつにしようか。いきなり高レベルのを出すのも心臓に悪いだろうし──あいつかな。

 カルディナ達は、万が一が無いように父さん達を守っていてくれ」

「ピュィー!」



 長女カルディナは元気な返事を返すとともに、《成体化》の姿から《真体化》の姿に一気に切り換え両親たちを守るようその頭上で飛び始めた。


 カルディナの《真体化》の姿は、体長3メートル程。全身を覆う竜鱗の色は薄青。一枚一枚が刃のように硬く尖った羽で構成される灰銀の翼。そんな竜鱗まとうグリフォンだ。

 それを見た事のない両親たちが驚いている様子に思わず笑ってしまいながら、竜郎は魔王種が一体──八腕黒鬼を召喚した。



「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」



 それは身の丈八メートルはあろう、頭に四本の角と八本の腕を持つ漆黒の鬼人。

 日本式の鎧をまとい、八本の手全てに体格に見合った巨大な日本刀が握られていた。



「な……な……なん…………?」

「こ、きゅ──が……」

「ぐぅ……」

「う…………」



 仁達がその八腕黒鬼を認識した途端、強烈な息苦しさが襲い掛かって来た。

 竜郎と繋がっている事でそれでもマシになっているのだが、四人とも胸に手を当て体が震える。

 本能が逃げろと脳に信号を送っているのに、足が動かない。


 だが自分たちの息子や娘は平然と、その化物を前にして立っていた。



「あの時は煮え湯を飲まされたが、今となっては可愛いもんだな」

「やっちゃえ、たつろー!」



 竜郎は左手を上げて愛衣の声援に応えながら、目の前に向かって右手を突きだし火と光と雷と射と突の混合魔法による熱光線レーザーを数十本射出する。

 鬼人はすぐさま反応して、八本の刀を振り回しレーザーを切っていく。


 するとレーザーは刀に触れた瞬間、強制的に霧散してしまった。これは《魔法斬殺》という、あの鬼のスキルによるものだ。



「それじゃあ追加だ。次も頑張れ」



 だが竜郎は慌てる様子も無く、今度は数百本のレーザーを放つ。



「ウガァッ!?」

「腕が八本だけじゃ足りないみたいだな。もっと増やしたらどうだ?」



 一つ一つにとんでもないエネルギーが籠っており、刀で消すにしても鬼側の気力消費が著しい。

 その上で数百のレーザー。消しきれるわけがない。

 一気にエネルギーを使い果たし、さらに体中を穴だらけにされて膝をついてしまう。



「あの場の力があったからってのもあったんだろうが、今改めて真面目に戦うとこんなものなのか……」



 竜郎はゆっくりと手の平を鬼の頭に向けた。そしてそこへ、先ほどまでのレーザーが、子供だましに思えるほどのエネルギーを込めていき──。



「──じゃあな」

「ゥ──」



 極大のレーザーが手の平から放たれ、鬼の頭──どころか上半身ごと消し去った。残った体も粒子となって散っていく。


 それと同時に両親たちに襲い掛かっていた威圧感が消え、息苦しさから完全に解放される。大幅なレベルアップのアナウンスと共に。

 けれど震えはまだ収まらなかった。



「竜郎たちは、あんな、あんな化物と戦ったの?」

「う~ん。まあ、そうする必要があったからね」

「必要があったって──」



 美波の質問に愛衣が答え、それにまた美波が何かを言おうとすると、リアがその会話を遮った。



「次が始まりますよ、お母さん。今のでレベルは上がりましたが、敵のレベルも上がってるので気をしっかり持ってないと気絶してしまいますよ」

「「「「──っ」」」」

「クケェエエエーーー!」



 次に現れたのは鮮やかな透ける黄緑色の羽をもつ、三十メートルほどの巨大な怪鳥。

 それに向かって竜郎はまた魔法で応戦していき、あっさり倒す。両親たちのレベルがまた上がる。

 次は盾のような魔物が出てくる。それも竜郎は魔法で押し切って木っ端みじんに砕いて倒す。レベルがまた上がる。


 そんな風に何体かの魔王種を流れ作業で倒していき、両親たちのレベルはあっという間に1008まで上がってしまった。



「こんなもんかな。レベル上げはこれ位にして、そろそろお昼ご飯にしましょう。俺もお腹がすきました」

「おっ昼、おっ昼!」



 今の段階だとただ個体レベル高いだけで、戦闘に出して安心できる段階ではない。

 けれど先ほどの魔王種討伐レベリング祭りで、両親たちの精神が疲労していた。

 これ以上続けても効率的ではないし、この世界に忌避感を覚えられても困るので、今度は飴を与える番。


 生魔法で両親たちを癒していき、食事くらいは普通にできるコンディションに戻してから、竜郎たちは《強化改造牧場》の中を後にした。


 外に出ると、そこはカルディナ城の正門前方にある砂浜。

 そこから良い匂いのしてくる方向へと両親たちが自然と顔を向けると、そこには巨大な、先ほど見たばかりの《真体化》状態のカルディナをモデルにした巨大建造物があった。



「な、なるほど……それでカルディナ城か……」

「ピユィーーー!」



 正和の漏らした声に、《成体化》状態に戻っていたカルディナは「どお? かわいいでしょ!」とでも言うように鳴いて胸を張る。

 そんな姿が可愛らしくて、若干どんよりしていた両親たちの顔に笑みが戻った。



「今回はうちで料理の腕が一番のフローラが、腕によりをかけて作ってくれているので、味に期待してくれていいですよ」

「それは楽しみね!」



 美鈴も漂ってくる匂いに思わずお腹が鳴りそうになったので、大声をはって誤魔化した。

 そして皆でカルディナ城に向けて歩いていく、その道中。



「ああ、それと、昼食を食べながら、今後の食材集め会議第一弾を開きたいと思います。

 皆さんも思う所があったら遠慮なく意見をくださいね」

「いよいよララネスト以外の美味しい魔物に会えるんだね!」



 親達に向かって言っていたのだが、愛衣が真っ先に食いついて、まだ見ぬ魔物に思いをはせた。

 そんな愛衣に竜郎は微笑みながら、彼女の頭に手を伸ばし優しく撫でた。


 愛衣は気持ちよさそうに少し目を細める。その姿がよけいに可愛く見えたのか、竜郎は肩を抱き寄せ彼女の額にキスをした。



「まずは何を、どんな食材をゲットするかを仲間たち皆で決めていこうな」

「うん!!」



 そうして竜郎たちは、腹の虫が悲鳴を上げる前にと、急いで食事が用意されている広いリビングへと入っていくのであった。

次回、第15話は1月20日(日)更新です。

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