第13話 訓練開始
恙なくクラスチェンジしていくと、それと同時に仁達や千子たちもスキルを覚えた。
仁は『共鳴テイマー』となり、《友魔大強波》というスキルを取得。
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スキル名:友魔大強波
レアリティ:17
タイプ:アクティブスキル
効果:自分のステータスを大幅に下げる代わりに、自分に信頼を寄せてくれている従魔全てに対し、大幅に強化する振動波を周囲に放出する。
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美波は『無法念動師』となり、《強制置換転移》というスキルを取得。
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スキル名:強制置換転移
レアリティ:18
タイプ:アクティブスキル
効果:視界内の対象と対象に、強制力の強い転移魔法を発動し双方の位置を入れ替える。
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正和は『狂改樹魔法師』となり、《属魔採取交配》というスキルを取得。
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スキル名:属魔採取交配
レアリティ:18
タイプ:アクティブスキル
効果:他者の魔法から属性を採取し、それを植物に交配させ受魔させることで、その属性を持った種子を生み出せるようになる。
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美鈴は『奔放射属師』となり、《軌思描自由》というスキルを取得。
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スキル名:軌思描自由
レアリティ:18
タイプ:アクティブスキル
効果:虚空に自由に軌道を思い描くと、自分だけ視認できる軌道が描かれる。
そこへ対象を触れさせ発動を念じると、その通りの軌道に沿って動き出す。
触れた時の対象の速度によって、移動速度は変化する。
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千子は『殺戮真祖吸血鬼・災禍』となり、《羅刹血紋》というスキルを取得。
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スキル名:羅刹血紋
レアリティ:20+2
タイプ:アクティブスキル
効果:自身を起点にした最大半径1キロメートル圏内に、血を消費して円形の紋を張り巡らせる。
その紋の内部では血で形成された魔物や物質を形成し、意のままに操ることが出来る。
さらに形成された魔物や物質に命じれば、自動で動かす事も可能。
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エンターは『武闘系半神大天族』となり、《大天使拳極砲》というスキルを取得。
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スキル名:大天使拳極砲
レアリティ:20
タイプ:アクティブスキル
効果:エネルギーを込めた分だけ破壊力が大幅に増していく、聖なる拳を放つことが出来る。
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亜子は『異常系半神大魔族』となり、《感情玩弄》というスキルを取得。
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スキル名:感情玩弄
レアリティ:20+1
タイプ:アクティブスキル
効果:自分が視認できる範囲内にいる全ての生物の感情を、意のままに操ることが出来る。
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それぞれの効果としては、以上のようになっていた。
「父さんのは戦闘で使うなら、自分の近くに自分を守ってくれる存在がいること前提のスキルかな」
「なんだかどんどん他力本願な構成になっていくなぁ」
「多種多様な魔物を従魔にできるスキルがありますから、ある意味一番汎用性は高そうな気はしますけどね」
魔卵の確保に至っては魔卵錬成のスキルを持つ竜郎がいるので、困る事もない。
そういう意味でも他力本願ともいえるが、これから従魔が充実してくると一番厄介なタイプになるかもしれない。
「そんでもって美波さんは強制置換転移ってゆーのだけど、これは普通の転移と何が違うの? リアちゃん」
「これはある程度までは、向こうの魔法抵抗を退けて強制的に転移させられるようです。
なので例えば兄さんが同じくらいのステータス値の人間に対して、意にそぐわない転移を行使しようと思っても、相手の魔法抵抗によって成功する可能性はかなり低くなります。
けれどお母さんの《強制置換転移》は、同程度の相手ならほぼ確実に置換転移を成功させられるはずです」
「それじゃあ、これでも拒否されたら竜郎なんかを転移させることはできないってわけね」
「杖などで補正して、さらに相手の油断を誘った、不意を突いたりすればある程度格上でも決められそうですが、兄さんクラスだと寝ていても無理でしょうね」
「まあ、そうそう俺みたいなのは転がってないから安心してくれよ、母さん。
それにとりあえずレベルを一気にあげちゃえば、技術度外視でごり押しで成功させられるようになるだろうし」
この世界でも最強格に足を踏み入れている竜郎よりも強いものなど、そうそういるはずもない。
さらに今回は一気に1000くらいまでレベルを上げてしまうつもりなので、そこまで行けば大抵は確定で置換転移が決まることだろう。
「正和さんの属魔採取交配は手間がかかりそうなスキルですの」
「確かにそうだね、奈々ちゃん。けど僕はこういうコツコツした作業は嫌いじゃないからね。むしろ望むところさ」
正和の属魔採取交配は、他者の魔法にスキルで作ったスポイトを突き刺す事で、その属性魔力を採取することが出来る。
採取した魔力はスキルで作られた小さな蓋の付いた試験管のようなものに収納されて、それを植物の受粉器官に振りかけることで、特殊な属性持ちの植物の種が手に入るというわけだ。
なので種を手に入れるまでの工程が面倒とも思えるスキルなのだが、正和は嬉しそうにしていた。
「《軌思描自由》ってのは、あたしが使う《竜力路》みたいなもんすかね」
「イメージ的にはそうかも知れませんね、アテナさん。
けれどミスズさんのスキルの場合は、生物を乗せることはできない様です」
アテナは竜力でレールを引き、その上を列車のように移動することが出来るスキルを持っている。
美鈴の《軌思描自由》は、その物質版といってもいいのかもしれない。
ぐるぐると好きな軌道を虚空に描き、そこにポンと小石を乗せれば人が走るより少し早い程度のスピードで勝手に移動し始める。
起点と終点を繋げば、美鈴のエネルギーが持つ限り永遠にループさせる事も可能。
なので自分の周囲に竜巻のような形のループする軌道を描き、そこへ矢を射出すれば延々と自分の周囲を旋回させられる。
さらにアテナの竜力は自分だけだが、こちらは重量によって消費は変わるが何個でも乗せられる。
その特性を生かせば、矢の竜巻による防御壁なんていうのも作れるだろう。
「へぇ~。自由に軌道が描けるっていうのは、思っていた以上に便利そうね」
「いいなぁ。私も派生スキルとか気獣技なんかで、ある程度軌道を変えるくらいなら出来るけど、これはもっと滅茶苦茶に出来そう」
「だろうな。でも愛衣の場合はそれがなくても力でねじ伏せられるから、いらない様な気もするが」
お次は千子のスキル。羅刹血紋へと話題は移っていく。
「ムサシはんが個に強いスキルが多かったさかい、うちは広範囲にしてみたんどす。なかなか良さそうなスキルどすなぁ」
「武蔵さんって、確か……あの大きな上半身だけの鬼武者幽霊の人だよな?」
「そうだよ、父さん。武蔵も千子と同じ魔王種に属する人間だから、千子としても同じ系統よりは違う方がいいだろうと思ったんだと思う」
「にしても千子ちゃんには《超増血》なんていうスキルもあるし、割と簡単に使えそうだね」
「それもそうなんですけど、これ……最悪他者の血液でもいいみたいですよ。
なのでそこいらの敵の血をぶちまけて、それで──なんてこともできるかと。
さらに紋の中で血が流れるほどに吸い取って、形成される血の魔物や物質も強化されるみたいです」
「まさに大勢を一気に相手取るには、うってつけかもしれないな……」
「ふふふ。主様、その時はうちに任せとくれやっしゃ」
そう言って千子は紅い目を光らせ、にやりと長いと牙を綺麗な形をした口の端から出して笑った。
その時の表情に竜郎を含め多くの者が背筋をゾクリとさせ、亜子だけは「同士かしら?」と嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
それから今度はエンターのスキルを見ていく。
「私の《大天使拳砲》! 中々に強そうでよいではないか!
マスターもそう思ってくれるだろう?」
「まあ、ぽいっちゃあ、ぽいかな。特殊な能力はないけど、その代わりに純粋な一撃はかなりのものみたいだし、分かりやすくていいと思う」
「うむうむ。マスターは分かっているな!」
手加減はしているようだが、ばっしばっしと爽やかに笑いながら背中を叩かれ竜郎は首をガクガクさせた。
そんな爽やかバイオレンスに耐えた所で、さっさとエンターのスキルの話を終わらせ亜子のスキルに話題を移した。
「私のは、なんだか群れを相手にやったら面白い事になりそうねぇ……ふふふ」
妖しく微笑む亜子に周囲が苦笑する中、リアは真面目に今の事を考察し始めた。
「感情は周囲に伝播しますからね。例えばある程度、亜子さんの《感情玩弄》に抵抗できる魔法抵抗力を持つ人でも、周囲の影響で簡単に呑まれてしまうという事は十分考えられるかと」
「ねえ、リア。感情っていうのはどこまでをさすんですの? それこそ何でも有りなんですの?」
「私の《万象解識眼》で観た限りだと、喜怒哀楽や恐怖心は比較的簡単に操れるようですね。
ですが難易度は上がりますが、やろうと思えば好きでもない相手に恋心を抱かせたり──なんて事も出来るかと」
「何それこっわ。絶対やだよ、そんなの~。ねぇ、たつろー」
「ああ、絶対嫌だな。愛衣以外の相手に──なんて考えられない」
「ふふっ、私もたつろー以外むりだもん」
そう言いながら愛衣が竜郎の胸にこつん頭をもたれ掛けさせた。
竜郎はそれを優しく受け止め、頭を撫で──たのだが……。
「え~と、そういうのは後にして貰っていいですか?」
「すまん……リア」「ごめ~ん!」
唐突に甘い雰囲気が漂い出したので、リアがバッサリ話を元に戻してしまう。
この二人の対応にもすっかり慣れたものである。
「姉さんがさっき言った様に、これは非常に怖いですよ。
もしこれを群れに使った場合、隣にいる同胞の性別関係なく好きにさせて発情させたり、その逆で殺したいほど憎いと思わせる事も出来ます。
これ……亜子さん一人がいるだけで、敵は総崩れになりそうですね」
例え完全に術中に嵌らなくても、集中力は確実に乱れる。
一対一でも脅威となるが、集団が一斉に少しずつでも狂えば、その少しが最終的に大きなズレとなって襲い掛かるだろう。
さらに完全に嵌ってしまえば文字通り滅茶苦茶に──考えるだけで恐ろしい。
「これもあのスキルと並行して、人間相手に使う時は十分気を付けてくれ」
「分かってますよ、主様。私だって良い悪いの判断くらい、つくようになりましたからね」
「ああ、そこは信頼してるよ。ってことで、スキル考察はこのへんにして、そろそろ父さん達の訓練に移ろ──って、どうかしたんですか? 皆さん」
仁を始め美波、正和、美鈴も口を開けてぽか~んとしていた。
「いや、何だか僕らと比べてスキルの凶悪度が段違いだなと驚いてね」
「最上級クラスの魔物の、さらに上位希少種のクラス特典スキルですからね。これくらいにもなりますって。
ですが正和さん達のスキルも、これから絶対に役立つと思いますし、普通では覚える事の出来ないスキルのはずですよ」
「それにこの子達は元々魔物で戦うことが本能だったんだし、潜在的により効率的に倒すためのスキルも覚えやすいんじゃない?」
「まあ、それもそうね。──それで、さっき竜郎君が言ってたけど、いよいよ戦闘訓練に入るのね」
「はい。まずは魔物相手に攻撃する事を躊躇しない様になって貰いたいです。
今みたいに余裕のある状況だと、なかなか踏ん切りがつかないでしょうし」
そういう意味でも影の魔物という非生物から始められるのは、かなり初心者コースと言ってもいい。
車の運転で例えるのなら、竜郎たちはいきなり車に詰め込まれて危険な道路に放り込まれ、実地で運転を覚える。
両親たちは丁寧に教習所に入る所から手取り足取り教えて貰うくらい状況が違うだろう。
それを何となく察したのか、せめて目の前に出された課題くらいはこなして見せようと、親達もさらにやる気を出してくれた。
「気合は十分の様ですね。それじゃあ、実地訓練といきましょう。
今から、それぞれに簡単な装備品を渡すので、各自受け取って身につけてください」
竜郎の《無限アイテムフィールド》から、仁には普通の盾と普通の剣を。美波には杖を。正和には杖と種を数個。美鈴には弓と矢と手投げナイフを、それぞれ持ってもらった。
「それでは初心者が相手をすると言ったらまずはこいつ!
イモムーさんの登場でーす!」
「「「「いもむー?」」」」
「おー懐かしいなぁ。私たちにとっては、ゲーム序盤に出てくるスライム的な感覚だよ」
「「「「ギィーギィー!!」」」」
「「「「うげっ」」」」
通称イモムー。それは全長五十センチを超え、色は緑に白と黒の点々、頭にはウネウネ動くT字型の真っ赤な触覚を生やした芋虫さん。それが四匹現れた。
竜郎たちがこの世界に来て初めて戦った魔物であり、この世界にとっては一般人でも簡単に殺せる最弱クラスの魔物とも言える存在だ。
「まず母さん、あのイモムーに対して何か念動を使うようなイメージを杖に伝えてみてくれ」
「分かった。えーと、天照ちゃんが、こう……ひょいって物を持ち上げるみたいに──」
《スキル 念動 Lv.1 を取得しました。》
《スキル 念動 Lv.2 を取得しました。》
《スキル 念動 Lv.3 を取得しました。》
《スキル 念動 Lv.4 を取得しました。》
《スキル 念動 Lv.5 を取得しました。》
「何かきたっ!」
「ギィー!?」
流石適性持ちと言った所か。ただこうなれとイメージしただけで、直ぐに《念動》を5レベルまで取得。
それと同時に美波の魔力が杖に流れ込み、その先から念動が飛んで行く。
念動の範囲はスキルレベルに比例する為、1レベルでは届かなかった距離を5レベルになったおかげで容易く飛び越え、イモムーの一体を宙に浮かべた。
「浮かべただけじゃ倒せないぞ、母さん。そっからどうするんだ?」
「分かってる。え、え~と、ごめんね!」
「──ギィェッ」
そのまま数メートル上に持ち上げたかと思えば、勢いよく念動で地面に叩きつけた。
イモムー一号はそれであっけなく潰れ死に絶え、黒い粒子となって消え去った。
「いい感じだ。それじゃあ、次は正和さん、美鈴さん。
正和さんは杖で樹魔法を使うように念じて、植物を操ってください。
美鈴さんは持たせた弓かナイフを使って、遠距離から攻撃を」
「分かった」「了解よ」
正和は《種子編集》の効果で、既に1レベル相当の《樹魔法》が使える。なので簡単に《樹魔法》が発動。
そのまま《樹魔法 Lv.3》まで取得し上昇。それにより4レベル相当の樹魔法で、手に握った種を発芽させ一気に成長。
それは全て棘が生えた蔓を持っていて、イモムーの一体に絡みつくと突き刺してホールドしながら締め殺した。
美鈴は地球にいた頃は、まともに的に当てられなかった弓を構える。
矢を番え真っすぐ構えると、試しに一射。
すると《弓術 Lv.1》を覚えたと同時に、イモムー二号の胴体の右隅に矢が突き刺さる。
「やった! 初めて当たった!」
「ギィーーー!」
「わわっ、怒ってる。次は確実に──」
今度は弓をしまってナイフを構えると、《軌思描自由》を使う。すると美鈴の目だけに黄色い点が映る。
その点を脳内で動かし線を書いていくと、その通りに虚空に軌道線が引かれていく。
そしてその線に向かって、ナイフを思い切り投擲。《投擲 Lv.1》を取得しつつ、軌道線に触れたナイフは投げた時の勢いをプラスして、イモムー三号の頭上を通過。
けれど軌道線はイモムーの頭上を通過した後に、弧を描くように反転して後頭部に向かうように描かれている。
なのでその線通りにナイフは軌道を修正し、ザクッとイモムー三号の後頭部を貫き斜め下の地面に突き刺さった。
それと同時にイモムー三号は事切れ横に倒れると、粒子となって消えていった。
「それじゃあ、ラスト! 父さん!」
「おうっ、俺はどうすりゃいいんだ」
「何でもいいから適当に倒してくれ!」
「雑ぅうう! 雑すぎるぞ、息子よ! もっと父さんに何か言ってくれよぅ!」
「そんなこと言ってもなぁ。今の父さんじゃ、まだ強力な魔物を孵化させるには時間がかかってしょうがないし、無駄使いできるようなスキルでもないだろ?
ん~……よし、それじゃあ可愛い息子からエールを送ろう。ガンバレー、トウチャーン」
「何でカタコトなんだよっ!」
「もういいから早くやろう。ほら、イモムー四号も向かって来てるぞ」
「うわっ、ほんとだ。ええい、ままよっ」
結局先ほど渡された普通の剣で切りかかり、あっさりとイモムーは縦に割かれて倒された。
「ふぅ。どうだ、息子よ」
「いや、どうだもなにもレベル50もあれば、レベル5程度のイモムーなら魔法使いでも素手で殴って倒せるぞ」
「まじか」
竜郎は「まじまじ」と頷きながら、システムから時計を見る。
「まだお昼ごはんまでたっぷり時間があるな──よし。
それじゃあ、これからジャンジャン父さん達でも楽に倒せる魔物を出していくので、まずは倒す事に慣れてください。最終的には人型もいきますからね。
それが終わったら段々と魔物を強くしていきます。
けど俺や愛衣達がしっかりと見守っているので、多少危ない事をしても大丈夫です。安心して頑張ってくださいねー!」
「じゃんじゃんって──ぎゃー! なんか出てきたっ」
叫ぶ美鈴の目線の先に、今度は別の魔物が現れた。
こういうものは慣れるまで一気にやった方が効率的だろうという、竜郎の判断である。
そうして強制的に両親たちは、様々な弱い魔物を倒して倒して倒しまくる訓練を乗り越え、まずは第一歩。
魔物を殺す事への躊躇や恐怖心を克服していったのであった。
次回、第14話は1月17日(木)更新予定です。