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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第八章 ジャングル迷宮編
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第137話 ボス戦2

 キー太は竜巻の中心に悠然とたたずむ、苔むした岩が浮遊し寄り集まって人型をなしている、全長8メートルほどの大型ゴーレムから一瞬たりとも目を離さずに、ゆっくりと光る線の上を通過していく。



「コア、だげは、もちがえらないと」



 戦闘意欲は十分ながら、ちゃんと竜郎の願いも覚えている。

 じっと目を凝らして観察すると、それらしき赤い色の何かが中心の岩と岩の隙間に見えた。



「あれか──ん、ぐる」

「………………」



 まるで重力を感じられないスムーズな動きで、人でいう腕に当たる部分を前にならえでもするかのようにキー太に向けてくる。

 何が来るのだろうかと身構えていると腕の先端部分──人差し指の第一関節に当たる場所が切り離され、竜巻に巻かれ遠心力と撃ちだしの際の突風を合わせて弾丸のように飛ばしてきた。


 弾道は真っすぐではなく、横向きの曲線を描きながら2発の岩の弾丸がキー太のいる場所に飛んでくる。



「キィ──!」



 ワンツーと風をまとった拳でジャブをかまし、飛んできた岩の弾丸を容易く破砕する。

 木っ端みじんとなった岩の粉が、ジャングルに散っていく。



「………………」



 無駄に終わったというのに、あくまでも機械的に、新たに生成された指の一部の岩をドン──ドン──とまた2発撃ちだしてくる。


 なんの意味が? とキー太が再び迎撃しようと拳に力を籠めている間に、3発目4発目もすぐに射出されていく。

 次第にその感覚は速くなっていき、10本ある指全てから放たれるようになり、数秒後にはマシンガンのようにドドドドド──と射出音が鳴り止むことなく、むやみやたらに飛んできた。



「キィ? なにやっでる?」

「…………」



 自分に飛んでくるものはまだ分かる。けれどキー太のいる場所以外にも、まき散らすように岩の弾丸が飛んでいる。

 もちろん自分に飛んでくる量も増えてはいるが、弾丸の軌道は数に比例して雑になっていた。

 数撃ちゃ当たると言わんばかりの行動だ。


 その戦法は決して間違っているとは言わないが、無駄な消費も多い。

 キー太はそんなに無駄に魔力を消費して戦えるのかと、最小限の魔力の風をまとった拳で対処を続ける。

 ただし、いつでも全力が出せるようにしつつ。


 そうしていると、不意にキー太は目の端に動くものをとらえた。


 それは当たらず地面にめり込んだままだった、岩の弾丸。

 それが周囲の土や小石を吸い集めて手足をはやし、小さなゴーレムとしてキー太にまとわりつこうと勝手に動き出したのだ。



「キィー!」



 けれど何かされる前に、風をまとった蹴りで一蹴。

 キー太は一切の油断もしていないからこそ、地面に落ちたままの大量にある岩1つ1つにも警戒を怠ってはいなかった。

 なぜなら相手は明らかに格下であるにもかかわらず、神経質なまでに警戒していたから。


 キー太は今でこそ上位の嵐妖精にまで至ったが、元は一般的なただの風妖精の魔物でしかなかった。

 普通の場所でも生まれる可能性がある程度に、ありふれた存在だった。


 であるにもかかわらず、彼が生まれたのは強い魔物がひしめく人間は誰も近寄らないような特殊な場所。

 生まれてすぐに死にそうになった。周りの相手は、ほぼ全て自分よりも上位の存在だった。

 弱いからこそ狙われて、何度も何度も死線をかいくぐった。

 無様に逃げたことだって、数え切れないほどある。


 それでも体中傷つけられようとも、腕がもげようと、片眼が潰されようとも、最後には不屈の精神で生き抜き最終的には必ず勝利を収め、一帯の主と周囲の魔物たちに恐れられるほどになれた。


 その一番の理由は相手の油断だと、キー太は今になって余計に思う。

 どうせ勝てないだろうと高をくくった強者に対し、その一点をついて打ち破ったことも数え切れないほどあったのだ。


 だからキー太は決して油断はしない。それは人に至り知能が上がったことで、より顕著になったともいえる。



「つぎは、なにがぐる? これでおわり?」



 相変わらずマシンガンのように無駄撃ちしながらも、キー太を狙って岩を射出するだけ。

 ミニゴーレムのタネも割れ、無駄だと分かったはずだというのに。


 これはまだ何かあると大きな目でギョロギョロと視線を巡らせていると、壊されずに地面にめり込んだ岩から形成されたミニゴーレムたちが、また性懲りもなく音もなく近寄ってくる……までは同じであった。


 けれどキー太の蹴りが届かない辺りでピタリと止まると、一斉に自爆しはじめた。



「キィ──」



 威力は正直大したことはない。ハジムラドであっても、直撃しても即死しないだろう爆発だ。キー太に傷をつけるには、あまりにも非力なもの。

 それでも警戒しながら体にまとった風で防御をし、一切のダメージをカットしたのだが……この自爆は相手を道連れにすることを目的にしたわけではないようだ。



「じゃま……」



 自爆した後に残ったのは、岩が粉々になってできた粉片。それらがキー太の周辺を覆い隠し、視界を悪くする。

 風を起こして散らそうとしても、特殊な粉なのかそれでは霧散してくれない。

 それどころか、周辺の魔力を乱し魔法の構築を鈍らせているようにも感じる。


 相も変らずまき散らされる岩の弾丸をほとんどノールックで、音と風の流れだけで殴り飛ばしつつ、目の前で今もなお漂う岩粉を忌々しく見つめる。


 さすがに全力で風を起こせば散るだろうと、キー太が一気に魔力を体内でねろうとした矢先──。



「キィッ」



 今まで無軌道だったはずの無駄打ち分の弾まで、正確無比にキー太に向けて飛来する。

 それも前後左右上下、ほぼ全ての範囲から唐突に。


 けれど常に警戒しアンテナを張っていたおかげで、いきなりの出来事にもすぐに対処ができた。


 身を低くし、素早い動きで殴り蹴って全てを散らしてみせた。

 そしてどうやってこんなにも、全方位から弾丸が飛んでくるのだろうかと思考を巡らせる。


 するとそれは直ぐに分かった。よくよく耳を澄ませてみれば、小さいながらもカンカンという音が、あちこちで聞こえる。

 あのミニゴーレムたちが動き回り、無軌道に飛んできた弾丸をその身に当てて、キー太のほうに反射させているのだ。


 そんなこともできるのかと感心しながらも、次の一手も来るかもしれないとそのまま警戒は続ける。

 なぜなら反射しても当たらずキー太に潰されなかった弾丸は、ミニゴーレムになることなく周辺で自爆をはじめたからだ。

 今までとは違う。明らかに、まだ何か狙っているとしか思えない。



「ぐる──」



 離れた場所からでも分かるほど、ゴーレム側から強い魔力の波動を感じる。

 妖精という種族だからこそ、より鋭敏に伝わってきた。

 伝わってくるエネルギー量からみても、最大最高の攻撃であることは間違いないはず。


 だがキー太は飛んで逃げることもせず、どっしりと地面の上で構えてそれを待つ。


 さんざん警戒しているといっておいて、舐めているように思えるかもしれないが、竜郎たちの思惑通りに進めば、あのゴーレムの戦いはこれが最後となる。

 ならばせめて、最大の攻撃を真正面から食い破ることで、悔いなく葬り去ってやろうと考えたのだ。


 けれど気は抜かない。格下だろうと、全力で迎え撃つ準備は怠らない。


 ドンッ──!! 今までで一番の轟音を響かせながら、大きな何かが放たれる音が聞こえる。

 それは竜巻に巻きこんで放つ曲射ではなく、まっすぐにキー太めがけて飛んできた。



「キィ!!」



 とてもとても重く大きな弾丸の一撃が、キー太のいる場所に突き刺さる。

 大きさは3メートル近く。流線型を描く丸みを帯びた形に、ネジのような捩じりの付いた溝が付いていた。

 それが高速で回転し、キー太を潰そうと斜め上から押し付けてくる。


 それをキー太は両手に風をまといながら、背中を少しそらし真正面から受け止めた。その場から一歩も動くことすらなく。

 一切押し負けていないところ見るに、これ以上やってももう無駄のように思える光景だ。


 しかしゴーレムは諦めない。これも最後の一撃の伏線でしかない。



「…………!」



 声にならない叫びをゴーレムが上げると、突如大きな弾丸が爆発。周囲に散ったままだった岩の粉にも引火し、粉塵爆発を起こす。


 周囲は一瞬で炎に包まれ、煙が舞う。さすがにこれなら、無傷ではいられまいとゴーレムが気を抜いた瞬間、どこからともなく風が吹き煙が散っていく。



「いま、ゆだんしだ? ちゃんど、みでからのほうがいい」

「……!?」



 周囲は黒焦げになっているというのに、未だキー太は無傷。体どころか服に焦げ目すらついていない。


 慌てふためいたゴーレムは、両手の指の腹に当たる部分同士を合わせてひし形を作り、先ほどの最後の一撃として放った特大の砲弾を撃ち出すスキルを再度発動させる。

 追加火力である岩粉を全て使い切った今、使い切ったうえで傷一つ負わせられなかった今、それに意味をなさないことくらい理解していながら。


 ひし形の穴の部分からまっすぐに、砲身のような風の渦がキー太に向けて形成されていく。

 そして大きな弾丸が手に近い位置で作り上げられ、砲身の根元にセットされる。



「そうやっていだのか。いまなら、よぐみえる」

「……!!」



 キー太がいきなり声を発するものだから、ゴーレムは思わずまだできかけの弾丸を風の渦の砲身を通し、加速させながら放ってしまう。


 当然そんなものに効果があるわけもなく、キー太がビンタをするように右手を振っただけで木っ端みじんに砕け散った。

 その際に起きた爆発も、風で散らしたので意味をなさない。



「………………」



 全てを出し切ってなお、残ったのは無残な結果だけ。ゴーレムは次の行動が思いつかず、キー太の方を向いたまま棒立ちとなる。



「それをみで、いいごとおもいついた。さいごに それで、おわらぜよう」



 キー太は同じ風を扱う存在ならば、自分にとってもプラスがあるはずだと学習できることを探していた。

 そしてあの砲弾を飛ばす風の砲身を見て、なにやら思いついたことがあるようだ。



「キィ──」



 《八嵐龍操》を発動。8体の嵐が龍の形に具現化したかのような存在が、キー太から飛び出してくる。

 その圧倒的な力を前に、ゴーレムは諦めつつも腕を顔の前でクロスさせ、そこに大きく分厚い岩の盾を生成して最大の防御姿勢を取りはじめた。


 その意気や良しと、キー太は8体の龍を操りながら重ねていき、より大きな特大の1体の龍にする。当然、その龍が持つ力は8倍と化す。


 その龍の大きな口がまっすぐに、大盾を腕に着けて防御姿勢を取るゴーレムに向けられる。

 そして──。



「キィ……──────ギィ"──ッ」



 何を思ったのか、キー太は自らその嵐渦巻く龍の内部へと飛び込んでいく。


 いくら嵐の妖精であるキー太とはいえ、完全にその内部に渦巻く暴風を御すことができず体に傷を負っていく。

 これがもしただの風の妖精のままであったのなら、今頃体はねじ切られ一瞬でミンチになっていたことだろう。


 それでもその種族的恩恵と、《百折不撓》と《死中求活》という2つのスキルによって見事に耐えきり、不完全ながらも制御ができはじめる。



「ほんどうは、うりえる みだいに、かんぜんにとりこみだいけど、まだできない。けど、これなら──」



 嵐龍の内部、キー太の周辺にある暴風が一点に向けて回りはじめる。

 ややガタガタしているが、それでもなんとか思った形にはなってくれた。


 彼が理想として掲げるウリエルの技には、まだ遠く及ばない。

 けれどそこまで行きつくためのビジョンが、少しだけ見えたような気がした。



「いぐぞ──!」

「……!!」



 気合の掛け声とともに、キー太自身が弾丸となって龍の口から勢いよく飛び出していく。

 それと同時に龍が形を失い、構成していた力の6割がキー太に巻き付きより加速と爆発力を増していく。

 残りの4割は御しきれずに無駄に散ってしまったが、光のような速さでキー太がゴーレムに突撃していった。



「……。………………────」



 岩の大盾など余波だけで砕け散り、キー太自身がゴーレムを貫く頃には全てが粉みじんと化し、その姿が完全に消えてなくなった。



「でも、ごれは ちゃんと もっでこれだ」



 しかしゴーレムのコアだけは、あれだけの制御をしながらえぐり取っていた。

 キー太は上手くやってやったぞとばかりに、鼻の穴を膨らませて満足げな顔をしていた……のだが。



「あ"」



 パキン──という音を立てて、キー太の腕の中に抱かれるように持たれていた大きなコアが7片ほどに割れてしまった。



「やっちゃっだ……」



 はじめての大技を、素材が必要な相手にやるなよ。と突っ込まれそうだが、思いついたらやりたくなってしまったのだから仕方がない。

 キー太は人間になって、まだ0歳。ちょっとしたやんちゃ心が、芽生えてきてもいるようだ。



「キュッキュー!!」

「う"……」



 だがそんな言い訳がきかないくらいに、今のキー太は体中がボロボロ。

 相手にやられたわけでもなく、自分の技によってなので自業自得ともいえるが、「何してんの! こんなに無茶して!」と傷を癒しに来たウサ子もご立腹な様子。



「ごめん……」

「キュー!」



 次は気を付けてね! とプリプリ怒りながらも、ウサ子は項垂れるキー太に癒しの魔法をかけてあげるのであった。

次話は日曜更新です。

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