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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第八章 ジャングル迷宮編
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第132話 探索開始

「よし。この周辺にはいなそうだな。ヒポ子、やってくれ」

「ズモモーーン」



 レティコルがいないことを竜郎が確認し指示を出すと、ヒポ子が周辺のジャングルを掃除機のように吸い取って更地に変えてしまった。

 あっというまに見通しのよくなった地面を踏みしめながら、竜郎は完全探索マップを見ながら皆と一緒にハジムラドと別れた方角へとジャングルの中を進んでいく。



「きた」



 その途中、竜郎が急に立ち止まる。



「どうしたんですかー?」

「またジャングルの中心に戻されたみたいだ。ほら──」



 まっさきに頭上──ジャンヌの手のひらの上から声をかけてきた玉藻にも見えるように、大きく今見ていたマップの画像を表示した。

 ちゃんとジャングルを出る方角に進んでいたはずなのに、急にマップが切り替わり中心に移動してしまったことを示したのだ。



「ウォーキングマシーンの上でも歩いてるような気分になってきちゃったよ」



 歩いても歩いても同じ場所という意味では、その通りかもしれない。だが竜郎は、それとも違った意見のようだ。

 考え込むようにマップ画面を隅から隅まで見はじめ、「あった」と小さく声を漏らし視線を再び皆に戻す。



「…………これはウォーキングマシーンというよりも、ブロックごとに分かれているといったほうがいいと思う。

 ハジムラドさんがパズルのピースが入れ替わるように~と言っていたのは、なかなか的を射ていたのかもしれない」



 他の皆が疑問符を浮かべる中、竜郎は確証を得るために、もう一度広範囲にわたって探査魔法を飛ばしはじめた。



「やっぱり、空間に干渉しているな」

「たつろー。いったい何が分かったの?」

「まず俺が転移をしようとしたとき無理やり止められてしまったんだが、そのことからこのラガビエンタという場所の意思(仮)は──」

「かっこ仮て」

「まだそうと決まったわけじゃないからな。ともかくそいつは、時空魔法に介入できるということになる。

 だから今回は普通の解魔法にプラスして時空魔法の魔力を混合して探査を飛ばしてみたんだ。

 そしてその結果、ウル太の嗅覚が届かない辺りで、空間をさえぎる膜のようなものがあった」

「それは、ふつうの、たんざまほーじゃ、分がらないこど?」

「今回は特殊な属性だからな。土や水ともまた違うから、普通の解魔法使いじゃあこれには気が付けなかったはずだ」



 普通の解魔法による探査魔法は、例えば地中だったり、水中だったりと、別の属性によってさえぎられていたりすると精度が下がってしまう。

 だからこそ、地中を探査するには解魔法+土魔法。水中を探査するには+水魔法と、同属性を混ぜそれを回避している。


 そして今回の場合は時空属性。

 極めて特異な属性であり、時空魔法としてちゃんと取得しているのは現状、竜郎とエーゲリアくらいだろう。

 そんな属性だからこそ、時空魔法を持たない解魔法使いが周囲を探っても自分には全くない属性ということもあり認識すらできず、このジャングルの空間が区画ごとにさえぎられていることに気が付くこともできなかった。


 けれど空間はさえぎられているので、その先の臭いはたどれない。



「立体パズルを想像してほしい。ここの主は、そのパズルのピースを好きに移動させ、入れ替えることができる。

 俺たちが次のピースに入ったら、そのピースを後ろにずらし、別のピースを持ってきて周囲につなげていた。

 そう考えると、この不自然な境目も納得がいく。それにだ」

「まだ何かあるんですかー?」

「ああ。皆、ここを見てほしい」



 玉藻の言葉にうなずき返しながら、竜郎は皆に見えるようにマップ画面を大きく広げ、ジャングルの端のほうにフォーカスを当てて表示させる。



「ここなんだが、見覚えはないか?」

「見覚えって言われても、ただのジャングルの地図にしか見えないけど……」

「あー♪ そこってもしかして、さっきまでいたところじゃないかな♪」

「よく覚えていたな……。正解だ。俺は解魔法を使って精密に地形を解析していたからこそ、それと一致するところはないかと調べてることで判明したんだが、ここの場所と最初に真ん中に来ていた──さっきヒポ子が更地に変えた区画が、元に戻って端のほうに移動していたんだ」

「ヒヒーーン!」



 「ああ、だからパズルみたいなんだー!」とジャンヌが、すっきりした顔でいなないた。



「だから今回の場合、転移ではなく空間を丸ごとスライドさせているようなイメージなんだと思う。

 どうやっているのかは分からないが、その場合は俺たちに干渉するということじゃなくなり、抵抗する隙すら与えず強制的に真ん中に移動させられるって寸法だ」

「とんでもないところですねー。でも面白い仕掛けですー。

 そのまま案を採用するのではつまらないですしー、なにかひと手間加えてー、どうにか私のダンジョンでも使えませんかねー?」

「いや、俺に聞かれても……」



 相変わらずダンジョンづくりのことで頭がいっぱいの玉藻は放っておき、再びレティコル探しを再開する。


 歩きながら襲ってくる魔物を、先頭に立っているウル太が速殺していく。

 ジャンヌの手のひらの上、高い場所から楓と菖蒲も短弓で狙い打ちながらウル太と勝手に競いはじめる。


 そんな中で竜郎は、現状を見つめ返していた。



「考えようによっては、レティコル探しにおいては便利かもしれない」

「べんりっで、どういうごと?」

「今の状況は適当に歩き回っても、絶対に同じ場所は通らないようにしてくれるってことだろ?

 空間もさえぎってくれているから、調べる範囲も限定されるしな。

 もともと見つからないなら隅から隅まで調べるつもりだったし、ちょうどいいのかもしれない」

「なるぼど」



 キー太の疑問に答えつつ、ラガビエンタ側のエネルギー消費があるかどうかも確かめるべく、嫌がらせのようにヒポ子に更地に変えてもらってから次のブロックへと移動──というのを繰り返していく。


 さらに周辺の魔物は思っていた以上に竜郎たちの前では無力だったこともあり、探すついでに正規ルートでの脱出方法を探ろうと色々実験も続けていた。


 例えば周辺の魔物程度には負けないパチローを何体か作り、別方向に散開させる。

 そうして複数人が多方向に散っていった場合、区画の動きがどうなるのか確かめようとしたのだ。


 そうして分かったのは、どの方角から出ようと、時間をずらそうと、散っていったはずのパチローたちと再会してしまうということ。

 みんな一緒にまとまって帰ることしか、許してくれないようだ。


 そんな余裕まで見せながら、ありえないスピードでガンガン進んでいき、清掃作業のようにヒポ子に次々と更地に変えてもらっていたのだが──。



「ズモモ~? モモッ、モ~~」

「なにかあったか? ヒポ子?」

「モベッ」



 今までその全てを問答無用で吸引していたというのに、突如口から何かを吐き出した。



「うひゃあっ。もーヒポコちゃーん、汚いよー」



 その近くにいたフローラに、少しだけ唾液の飛沫が飛んでしまう。少しむくれながらヒポ子に抗議するも、当の本人はまったく聞いていない。

 竜郎たちも今までなかった行動と、その吐き出されたものが気になり、そのことにフローラ以外触れることはなかった。



「なんだろね? これ。ヒポ子ちゃんに吸い込まれても、エネルギーに分解されないなんて普通じゃないよ」

「調べてみよう」



 竜郎が水魔法で唾液を洗いながら解魔法を飛ばしてみれば、それは一見ツルツルとした光沢をもつ黄緑色の丸い石。大さは直径15センチほど。

 ヒポ子は食べ残しが出たのがはじめてだったため、お腹に入れるのを拒み吐き出したようだ。



「この石を覆うように時空魔法で念入りにコーティングして、別の空間にある物質にしているんだと思う」

「んん?」



 触って大丈夫だと判断し、竜郎は試しに手のひらにのせてみる。


 今、竜郎の手にのせているように見えるが、それはその周辺の空間を触っているだけで、実際にその石には触ってはいない。

 別の空間に存在しているものを、視覚的に見えるようにした幻術に近いかもしれない。

 こちらは触っているように感じられるので、幻術よりも高度なのだが。



「わざわざこんな石ころにそんなことするなんて、なにかあると思っていいかも♪」



 切り替えが早いのか、もうどうでもよくなったのか、フローラがいつもの調子で興味深げな視線を石ころに向ける。



「もう少し詳しく調べても分からないなら、いっそのこと石を閉じ込めている空間に介入して無理やり引き出すのも──」



 ──ありか? と竜郎が言おうとした瞬間、その石ころはパンッと弾けて消えてしまった。



「たつろーが無理にやろうなんて言うからー」

「「うーうー」」



 楓と菖蒲も、私も見たかったと口をとがらせる。



「俺のせいなのか……? 会話まで聞いてるなんて、それこそ聞いてないんだが。今のは原因ではないだろ──って、ん?」



 何か変化はないかとなんとなくマップを確認してみれば、そこには少し調べただけで分かるような変化が起こっていた。



「新規マップに更新……だと?」

「新規マップというとー、その言葉のままの意味だと思ってーいいんでしょーかー?」

「あ、ああ……。それでいいんだが……。これは不味いかもしれない」



 今まで通ってきた区画は、かってに端のほうに飛んでいくだけだった。

 けれど先ほどの石が砕けた瞬間、今いる区画だけを残し、その全てが見覚えのないマップに更新されてしまった。



「全部踏破すれば出られるかもって思ってたんだけどなぁ。

 もしかしてあの石って、見つけちゃうとリセットされちゃう的なやつだったとか?」

「つぎからは、ちゅうい、したほうがいいがもしれない」

「逆お宝発見! 的なやつかも♪」

「なんだかー、いい嫌がらせの案がー浮かんできそうですー!」

「ヒヒーン……」



 自分の手のひらの上で1人テンションが上がっていく玉藻に、ジャンヌは深いため息をつく。

 そしてもう1人。別の理由で途方に暮れる人物が──。



「まだ全部、周ってなかったんだが……」

「たつろーは全部、周ってみたかったの?」

「周れなかった場所にしかレティコルがいなかったら、完全に無駄足になるんだが……?」

「あー……」



 このジャングルの仕組みが完全には解けていない今、もう二度と巡ってこない場所があるかもしれないのだ。

 もしそこにしかレティコルがいなかったとなると、再チャレンジということもありえてしまう。



「ただ地形が変わっただけで、中で暮らす魔物たちに影響はないと信じて進むしかないか……」



 今度からは謎の石にも気を付けようと心に決め、竜郎たちはまた最初の一歩からやり直すことになるのであった。

次話は水曜更新です。

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[一言] スライドパズルはともかく、リセットとは意地が悪いですなw
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