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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第八章 ジャングル迷宮編
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第131話 音信不通な神々

 愛衣もジャンヌもフローラも、そして竜郎も、神格持ち全員でまだ話しかけていない神々にも連絡をとろうとするも、何の返事もない。



「等級神だけが特別忙しくて気が付いていない──というわけではなさそうだな」

「ってことはさ、たつろー。やっぱり、ここが原因ってことなのかな?」

「でもぉ、フローラちゃんてきには、それっておかしい気がするな♪

 だってここも、神様たちが作り上げて管理している世界の中でしょー?

 それが通じないってことは、もうそこは別世界ってことにならない?」

「そーですねー。たとえ私のダンジョンの中であってもー、神々と話せなくなるなんてないですからねー」



 警戒はしつつも皆で話し合うために一度ジャンヌの手のひらから下りてきてもらっていた玉藻も、フローラと同意見のようだ。

 ダンジョンは限りなく別世界に近い空間ではあるが、大元は迷宮神の管理下において創られた仮想世界のようなもの。

 神々ならば、ダンジョンの奥深くに潜っていようとも個人に話しかけることなど造作もない。

 ダンジョン自身──玉藻もそう言っているのだから、それは間違いないだろう。



「まあ、普通に考えればそうだよね。この世界の神さまたちが干渉できないところに行こうとするなら、それこそ私や、たつろーが生まれた世界にでも行く必要があるくらいなんだから」

「じゃあ、ごこは、ますたーたちのぜかいみたいな、いぜかい?」

「いや、それも違うと思う。ここは別世界なんかじゃないはずだ」

「それまたどうして?」

「「うー?」」



 話の内容はよく分かっていないが、楓と菖蒲も愛衣のまねをして首を傾げた。

 こんな状況ながら思わず口元をほころばせ、竜郎は自分なりの考えを口にしていく。



「絶対に違う──とまでは言わないが、ここでも問題なくスキルが使えるからだ。

 別世界に行ってしまったら、こちらの世界のエネルギーを供給できなくなる。

 そうなると地球のほうで使っているような供給するための魔道具なんかが必要になってくるはずだろ?」

「そっか。とりゃっ──。うん、普通に使えるや」



 愛衣が軽く拳を突き出すと、気力の塊が飛び出し眼前のジャングルの一部が吹き飛んだ。

 システムやスキルの恩恵がなければ、竜郎と愛衣はただの高校生に過ぎない存在。この力こそが、別世界に飛んだわけではないと証明してくれている。



「じゃあ、なんで神さまたちは返事ができないのかなぁ?

 タマモちゃんは、迷宮神さまとお話できないの?」

「できますよー、フローラさーん。なんならー、やってみましょうかー?」

「うん♪ いいよね? ご主人さま」

「ああ。もちろん、かまわない。しかしそうか。神格持ちじゃなくても、玉藻ならもっと直接的な繋がりがあるんだから、むしろ俺たちなんかよりも可能性があるかもしれないな」



 これが同じダンジョンの個であっても、シュワちゃんやドロップなら「自分から話しかけるなど恐れ多い」とやってくれそうにないが、玉藻はあっさりと連絡を取りはじめたのでダンジョンと一言に言っても個性豊かだよなぁと改めて竜郎は感じた。



「ムリですねー。なんの返事もありませーん」

「ヒヒーン……」



 ジャンヌが、「そっかぁ」と少し残念そうに鳴く。

 だがここで玉藻ですら連絡が付かないという状況から、竜郎は別の考えが思い浮かんだ。



「神々ならどこにいようと、こちらの世界の中なら干渉できる。《強化改造牧場》内にいても、連絡は取りにくくなるが絶対に無理だというわけでもなさそうだったしな。

 そしてここはおそらく特殊な環境ではあるが、決して別の世界というわけではなく、同じ世界である可能性が高い。

 であるのにもかかわらず、連絡が取れないということは……」

「どいうごとは?」



 キー太を筆頭に、竜郎の先の言葉に一同耳を傾ける。



「わざと無視されているんじゃないだろうか?」

「「「「え?」」」」「ヒヒン?」「「あう?」」



 思いもよらない答えに、玉藻ですらポカンと口を開けてしまった。



「いやいや、武神ちゃんと私は仲いいし、無視されるようなこともしてないよ?

 それに全員が無視されるって、さすがにそれは……」

「分かってるよ、愛衣。俺も等級神や魔神が、いたずらに無視を決め込むような陰湿な性格でないこともな」

「じゃー、どうしてなんですかー?」



 竜郎も何の根拠もなく、こんなことを口にしたわけではない。

 それほど長い仲ではないが、ここまでよくしてくれていたあの等級神や魔神がいきなりヘソを曲げて無視してきたなど思ってなんかいない。



「つまり、今回のこの一件に関しては、何も口出しできないような事情があるんじゃないだろうか?

 この前の小妖精たちのことを思い出してほしい。俺たちは等級神からチムールたちを助けることで、おっさんの父親が救われるという事実をわざと教えられなかっただろ?」

「あー、なんか知った状態で行動したら、また違う結果になっちゃうかもしれないからってやつだね」

「そう。だから今回は俺たちの疑問に答えること自体が、そのときでいう『答えを知ってしまった状態』であり、そうなるはずだった先へ行きつけなくなることを恐れているんじゃないだろうか?」

「わりと根本から聞いちゃダメってことなら、たしかに神さまたちも答えられなくて、黙り込むしかないってなっちゃうかもしれないね♪」

「あるいは、特定の問いかけに対して答えられないと言ったら、察しがついてしまうような何かがあるとかな」



 それならば竜郎たちと話すことを拒んでも、おかしくはない。

 そうなると、神々は竜郎たちに何かをここでして貰いたいと思っているということにもなる。


 けれどこれはあくまで、現時点では憶測にすぎないので他にもいろいろと調べてみることにした。

 頼まれていないのだから、積極に考えてやる必要もまたないのだ。



「スキルが使えるってことは、転移はできるんだよね? たつろー」

「………………んー、ちょっと、いや、かなり重いな」

「重い?」

「ヒヒン!?」



 この中で重いといえば、当然体が大きいジャンヌ、もしくはヒポ子。

 ヒポ子はたとえ人間並みの知性があっても何キロあろうが気にしなさそうだが、ジャンヌの心は女の子。

 最近は味覚も覚えよく食べていたせいで太ってしまったのかと、驚きの声を上げる。



「いや重量の問題じゃないし、ジャンヌはいくら食べても体の成り立ちからして太りようがないだろうに。

 ここでの重いはPCとかである、処理落ちみたいなもんだ。なんらかの影響で、この場から離れるような転移が使いづらくなっている」

「ヒ、ヒヒーン」

「よかったね、ジャンヌちゃん」

「ヒヒン!」



 ほっと一息つく《真体化》状態のジャンヌの足元を愛衣がよしよしと撫でると、ジャンヌは「うん!」と大きくいなないた。



「そのあたりは天照がいてくれたら、もう少し違ったのかもしれないんだがな」

「ご主人さま1人だと、難しい感じですー?」

「うーん。やろうと思えばできるだろうが、ちょっとした距離でもいつも以上に力を消費しそうではある。

 ただそれでも、できないってわけではないと思う。ちょっとやってみるか」



 竜郎がライフル杖を取り出し、軽く数メートル先へと転移しようと試みた。

 しかし発動しそうになった瞬間、より強い力で抑え込むようにして転移のために溜めていた力を散らされてしまった。



「まじか……。これは面倒くさいな」

「いやいや、それめんどくさいどころの話じゃな…………なに?」



 愛衣が割と重要なことなのに軽く答える竜郎に突っ込みを入れていると、不意に周囲が暗くなっていくのに気が付く。

 空を見上げれば鬱蒼とした木々の枝葉の間から、星が瞬く夜闇が視界に入ってきた。



「あれれ? フローラちゃんてきには、まだ日没じゃなかったはずだけど?」

「フローラ、まじがっでない。キータもまだはやいど、おもう」

「だよねー♪ ほんと変なとこーって……今度は日が昇ってきたのかな?」

「みたいだな」



 夜闇はあっという間に過ぎていき、朝日が昇りあっという間に朝が来た。



「こんな話はー、ありませんでしたよねー」

「うん。でもこれって……」



 いきなり夜になって朝になる──などという話は確かに聞いてはいなかった。

 けれど聞いていた通りの事象は、しっかりと起きていた。



「明らかに夜が来る前よりも湿度と温度が上がってるよね?」



 それは、1日が過ぎるたびに環境が悪化していくというもの。



「ハジムラドさんたちが経験していないってことは、俺が転移をしようとしたから、1日分ペナルティでも食らったか?」

「ジャングル自体に意思があるってこと?」

「少なくとも、さっきの転移の阻害は何らかの意思を感じたからな」

「ますます、わがらないばしょ」



 竜郎が感じた意思は明確な拒否。絶対に出さないとでも言われているように、彼は感じたのだという。



「じゃあ、ご主人さまでも転移はできないっぽい?」

「いや、あのくらいなら何とかなる……だろうといったところか」

「じゃあ、たつろーでも、できないかもってこと?」

「俺単体ならな。だが俺には分霊神器があるから、そっちを使えばごり押しで確実にいけるはずだ」

「それじゃあ、一回帰ってみる?」

「それは止めておいたほうがいいのではー?」

「どうしてかな♪ タマモちゃん」

「だって意思があると思うんですよねー? ならズルして出て行った人をー、出れる人をー、もう一度入れてあげようと思うでしょうかー?

 私だったらー、もー入ってこないでくださーいってなりますよー」

「ここじゃあ、明確なイメージを浮かべにくそうだし、転移で無理やり入るのは難しそうだしな……。

 せめてレティコルだけは入手してから、脱出を試みたほうがいいか」

「それがいいかもね」



 どのようにして成り立っている場所なのかも未知数なので、下手な方法で脱出して入れなくなるのは痛い。

 お試しで転移を試すのも、ペナルティかどうかはまだ決まっていないが、また環境を悪化されても探索が面倒になるだけ。

 それらの理由から、転移系は一時封印することに決めた。


 それから全員でスキルのチェックをしていくと、ちゃんと《強化改造牧場・改》のほうは発動することが分かった。

 中に入って戻ることも簡単にできたので、こちらはペナルティの対象ではないのだろう。



「これなら、いざとなったらそっちに逃げ込んじゃえば大丈夫そうだね。

 それじゃあ、とりあえずはレティコル探しに集中しよっか」



 ひとまずジャングルの謎は置いておき、愛衣の号令とともに、もともとの目的であったレティコル探しを優先することにしたのであった。

次話は日曜更新です。

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[気になる点] 第八章 ジャングル迷宮編 第131話 音信普通な神々 これは、音信不通なのか。それとも、音信そのものは普通だけれど、単に事情を言えないから出てないだけなのか。
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