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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第八章 ジャングル迷宮編
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第130話 ラガビエンタの中

「ここがそうみたいだな」

「こっから調べた感じは変わりない? たつろー?」

「とくに……異常は感じられないな。探査魔法もマップも、妙な反応も表示もない」



 ハジムラドと別れた竜郎たちはそのまま、まっすぐ藪のように草が伸び放題になっていた場所を突っ切って少し進んだあたりで、明らかに植生が変わる境目があった。

 その境目の先はザ・ジャングルと言わんばかりに、草木が生い茂っている。

 ここが『ラガビエンタ』と呼ばれ恐れられる、ジャングルの入り口で間違いない。


 入る前に皆で立ち止まり、外から調査を試みる。

 竜郎は探査魔法、完全探索マップ、精霊眼などなど調査に向いていそうな能力を駆使してみたのだが、外からではおかしな気配は何も感じられない、ただのジャングルだった。



「でもながにはいるど、へんになるっでいってだ」

「ってことはー、中に入らないと何も分かりそうにないですねー」

「そうなんだが少し不気味だな。少し用心していくか。

 まずジャンヌは、《真体化》状態で、楓と菖蒲の護衛を最優先で頼む。余裕があったら玉藻も守ってやってくれ」

「ヒヒーーン」

「「うー」」



 ジャンヌは12メートル級の竜へと変化して楓と菖蒲、玉藻を右手で救い上げ胸の前に抱えるようにして持った。

 高いところから見える景色に、楓と菖蒲は素直に感嘆の声を上げる。



「いやー、すみませんねー。ありがとうございますー。

 私もーダンジョン内と同じ力が使えればー、もっとお役に立てるんですけどねー」



 その一方で玉藻はとくに高所に思うことはなく、ひょうひょうとお礼を言ってきた。



「それだと俺たちの出番がなくなるから、勘弁してくれ」

「タマモちゃんは私たちよりも高次元的存在だから、比べるのもおかしいんだけどね♪」



 フローラが言うように、ダンジョンといえば竜郎たちの今いる次元よりもより高い次元にいる。

 そもそも次元が違うので本来なら出くわすことはないが、自分の世界を持つ人より神のほうが近い存在だ。

 そんな玉藻が全力を出せるような状況になってしまえば、竜郎たちよりもなんでもありな状態になってしまう。


 玉藻の冗談はさておいて、竜郎はさらに保険をかけていくことにする。



「清子さん、ヒポ子、ウル太、ウサ子、出てきてくれ」

「キィイイイーー」「ズモモ~~ン」「オーォン」「キュ~」



 《強化改造牧場》から、竜郎が名前を呼んだ眷属の魔物たちが召喚されていく。



「他の子たちは今いないんだっけ?」

「白太とか他の子たちはカルディナ城だったり、仕事の手伝いだったりで《強化改造牧場》内にはいないな」



 基本的に眷属たちには《強化改造牧場》と外のどちらがいいか選択してもらっており、今呼び出したメンバーは、用がないときはだいたいそちらにいる。

 《強化改造牧場》はその種に適した場所を用意してくれるので、居心地としては最高の場所なのだ。



「ウサ子は皆の真ん中で、いざというときの回復役を頼む。それ以外は自分の防御に徹してほしい」

「キュ~ッ」



 ウサ子は戦闘は苦手だが、素早さの高い回復特化型。

 竜郎とフローラも生魔法を使うことはできるが、もしその2人が動けない場合がでたときでも、全体をカバーできる位置にいてもらえれば安心である。



「ヒポ子は前衛で道を切り開いてくれ」

「ズモモ、ズモモーーン」



 カバにも似た魔物──ヒポ子は食べたものを即エネルギーに変換して取り込むスキルを持っているので、邪魔な木々を根こそぎ食べて皆が歩きやすいようにしてもらう。



「ウル太は臭いを意識しつつヒポ子の近くで警戒していてくれ。

 臭いが途切れるようになるらしいから、そうなったら確実に異変が起きているという指標になる」

「ヲォォオーン」



 人狼の姿をした魔物──ウル太は、戦闘能力も非常に高いうえに鼻も利く。

 またスキルによって10回まで死ぬたびに強化されて復活するスキルも持っているので、最前線での探索にも向いている。



「そして清子さんは、フローラと組んで味方全体の防衛強化にあたってほしい」

「キヨコさん、よっろしくね♪」

「キィィー♪」



 ヘビのような下半身を持った、4つ首の巨大鳥にして偽竜──清子さん。

 清子さんは、とにかく物理攻撃に耐性があるので、真逆の魔法攻撃に耐性があるフローラと組んでもらい、物理魔法双方の外部からの攻撃をはじいてもらう予定だ。

 フローラとも仲がいいので、コンビネーションにも期待できる。



「俺はウサ子と同じ中央付近から、全体の調査。戦闘補助。

 愛衣も基本俺と同じところで待機しつつ、弓や投擲で後方支援、または遊撃で必要なら前に出てくれ」

「はいよー」

「ますたー。キータば?」

「キー太は空中戦が得意だからな。空からの敵を殲滅してくれ」

「わがった。がんばる!」



 風の上位妖精なので、飛行スピードはかなり速い。

 さらに単体から広範囲まで器用に使い分けられる幅広い攻撃範囲も備えている。

 殲滅力も高いので空から大群や強敵が襲ってきても、その活躍が期待できる。



「がっちがちに防衛を固めてるって感じだね」

「このジャングルの謎が分かるまでは、防衛8割。攻撃2割くらいでもいいと思う。それに──」



 竜郎は追加戦力として、《偽身偽魂》のスキルを使いパチローを6体召喚。

 それぞれスキル数を最小限に絞り、見た目のクオリティも極限まで削った上で強さはレベルでいえば60程度。

 内2体は攻防両立型。3体は探索型。1体は回復型となっている。


 これなら長時間持つ上に、使い捨ての囮としても使えるので地味に役立ってくれることだろう。

 これで布陣も決まったということで、そろそろジャングルに踏み出そうかとなったのだが──。



「それじゃあ、さっそく──」

「ヒヒーーン」

「どうした? ジャンヌ」



 困ったような顔をしたジャンヌが、待ったをかけてきた。

 なんだろうと皆が不思議がっていると、胸の前に大事そうに抱えていた3人を手のひらに乗せたまま竜郎の目の前に差し出してきた。



「「あーうー!」」

「ヒヒーン」

「ああ、そういうことか」



 ちびっ子2人が戦闘の気配を察してか、私たちも戦闘要員に加えろと手をバタバタさせていた。



「けどよく分からない場所だし、厄介な敵がいた場合にちょっかいを出して注目を集められると危ない気がするんだよなぁ」

「あー。それは確かにあるかも」



 これだけの布陣を用意しておきながら、ちびっ子2人も守れないのかと言われれば問題ないと言いたいところだが、なにぶん未知が多すぎる。

 大人しくしていてくれたほうが、竜郎たちとしても安心だ。

 そんなことを身振り手振りで竜郎や愛衣が説得をしてみるが、楓と菖蒲は下唇をむっとだして拗ねた顔をしてしまう。



「ヒヒーーン、ヒヒン、ヒヒッ、ヒヒヒーン」

「私がいるから大丈夫って言いたいのか?」

「ヒヒン!」



 ジャンヌを生み出したころは竜郎は『ジャンヌ語』が理解できずにいたが、今はだいたい理解できるようになっていた。

 奈々やアテナがいなくても自分の言葉を理解してくれたことにジャンヌは喜びを覚えつつ、胸を張って任せてと伝えてくる。



「あんまり甘やかしてばっかなのもどうかと思うんだが……、今回はジャンヌに免じて2人にはこれを渡そう」

「「うー!」」



 リアの暇つぶしシリーズより、小妖精でも使える短弓と矢を渡していく。

 ジャンヌの手の中から、ちまちまと弓を撃つくらいなら危険も少ないだろうという判断だ。

 楓と菖蒲は嬉しそうに短弓と矢を受け取ると、満面の笑顔を取り戻してくれた。




 今度こそ準備を終え、最後にもう一度意見はないか竜郎が聞くが何もない。

 張り切った楓と菖蒲、キー太の声を耳にしながら、全員でゆっくりとジャングルへと足を踏み入れていった。




 最初に感じたのは、むっとするベタベタと湿度の高い体にまとわりつくような暖かい空気。

 臭いも自然の香りというよりも、泥や青臭い植物の香りに変化していく。



「潤いたっぷりで暖かいし、とってもいい場所ー♪」

「ほんと、なんかフローラちゃんのほっぺがツヤツヤしてきてる気がする」

「やっぱりー♪ キヨコさんはどーお?」

「キィー」



 大自然に囲まれたジャングルの雰囲気にフローラは、いつもよりテンションが高くなっていく。

 清子さんも樹の属性を持っているので、悪くないわねと居心地よさそうにしていた。


 その一方で、まじめに調査を開始しはじめた竜郎とウル太はといえば──。



「ヲォフッ」

「…………こっちも今のところ変なところはないな」



 本当に数メートルだけ進み、全員が完全にジャングルに入ったことを確認してから周囲を軽く探索してみるが特におかしなところはない。

 ウル太も広範囲にわたって臭いが感知できるし、竜郎の精霊眼、探査魔法、完全探索マップも正常な反応だけ。


 ならばと一度引き返してみると、あっさりとジャングルの外に出ることができた。



「このくらい入った程度じゃあ、何の反応もなしか」

「どのあたりから反応が出はじめるのか、調べてみるのもいいかもしんないね」

「そこから何か分かることもあるかもしれないからな。やってみよう」



 ヒポ子がムシャムシャと眼前の植物や泥を問答無用で食べて切り開いた道を、少し進んでは入り口に戻りと繰り返していく。

 そんな作業を数度こなし、10メートル、20メートルと小刻みにジャングルへの進行を進めていると、およそ300メートルを超えたあたりで変化が現れる。



「ォオオーーン」

「臭いが途切れたか。聞いていた通りだな。全員、警戒を強めてくれ」



 ウル太の嗅ぎ取れる範囲が、極端に狭まったことを伝えてきた。

 警戒レベルを引き上げつつ、竜郎が精霊眼で周囲をうかがってみれば、かすかにエネルギーの粒子がホコリのように小さく舞っているのが見えた。

 ただ見えたといっても、精霊眼でもなければ見逃してしまうほどかすかにではあるのだが。



「完全探索マップには影響なしか。気になるが探査魔法でも掴めないな。はじめてみるエネルギーな気がする」

「とりあえず帰れるかどうか、確かめてみる?」

「さんせー♪」

「そうだな」



 これまでと同じように入ってきた方向にまっすぐ戻るように引き返し、ジャングルから出られるかどうか検証してみることに。



「ズモモ~?」

「俺たちも、このジャングルに捕らわれたみたいだな」



 ここまでの道のりでは、ヒポ子が食べてえぐった跡が帰り道に刻まれていた。

 けれどそれが突然、もとのなんの手も加えられていない自然なままのジャングルに切り替わっていた。



「マップ機能は?」

「ちゃんと機能はしているが、妙なことになってるな」

「みょうなごどって、なんだ? ますたー」

「皆、これを見てくれ」



 竜郎が皆にも見えるように地図を視覚化して見せていく。

 するとちゃんと鮮明なマップが表示されているにいるのだが、竜郎たちのいる場所がおかしかった。



「これってー、ジャングルのど真ん中にいませんかー? わたしたちー」

「こんなに進んだ覚えはないのに、おっかしーね♪」

「……これって、もしかしてなくても転移魔法とかが働いたってこと? たつろー」

「ただの転移魔法なら俺が真っ先に気づいていたはずだし、俺たち全員を強制的に転移させるのは俺でも無理だぞ」



 1キロメートルも進んでいないはずなのに、転移魔法の兆候も見られなかったのに、完全探索マップを信じるのなら竜郎たちが現在いるのは何キロもずっと先に進んだ場所にあるはジャングル──ラガビエンタのど真ん中。

 さすがにこれはおかしいと、世界に何かここだけ異変が起きているのではないかと不安になり、竜郎は等級神に連絡してみることにした。


 けれど──。



「繋がらない……?」



 いつもなら呼びかければすぐに反応を示してくれていた等級神は、何度呼び掛けても返事の1つも返してはくれなかったのであった。

次話は金曜更新です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラガビエンタの魔境としての面目躍如ですな …何時まで持つか見物ですけどw
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