第12話 それぞれのクラス選択
「それじゃあ今からレベリング場の入り口を開くんで、父さん達はそこを通っていってください。
それと千子、エンター、亜子は一緒に来てくれ。
父さん達のクラスを選ぶときに、千子たちのも一緒に選ぼう」
「「はい」」「心得た!」
千子と呼ばれた吸血鬼の少女の他に、白銀の軽装鎧に赤い豪華なマントを羽織り、頭には黄金の王冠をかぶっている190センチ程の六翼天使の男──エンター。
そして身長は170センチ程で、黒銀色の足元まで伸びた長い髪と紫色の瞳。
頭から生えた羊のような丸まった長い2本の角を生やし、豊満な胸元とすらりと伸びた足を大胆に出した露出の激しい漆黒のドレスを纏った八翼の妖艶な美女悪魔──亜子。
この二人も千子と同じく最近システムがインストールされ、天衣無縫の称号を覚えていた。
だがクラスを選ぶ前に竜郎たちが地球に帰ってしまったので、こちらも保留にしていたのだ。
なので今回、両親たちと一緒に選んでしまおうというわけである。
だがここで一つ小さな問題が起きる。
「お父さん……目がちょっとやらしーよ」
「えっ、いやっ、そんなことは……」
「仁さんを見習ったら? お父さんも」
「ん? 俺がどうしたんですか?」
仁は美波命、竜郎は愛衣命──と極端な親子なので何の反応も示していなかったが、一般的な価値観を持つ正和には、亜子の妖艶な雰囲気が少々刺激的だったらしい。
近付いてくる彼女の露出の激しい胸元や太ももに、思わず目がいってしまっていた所を、娘の愛衣や妻の美鈴に咎められたというわけだ。
だが勘違いしてほしくないのは、正和は美鈴のことをちゃんと愛しているし、亜子と不貞を働きたいと思っているわけでは微塵もない!
ただ男性の本能として思わず見てしまっただけなのだ!!
……まあ、女性にはそんなこと関係ないのだが。
仁はどういうことだ? と何も分かっていないようだったが、正和は家族の目にばつが悪そうに下を向いて亜子から視線を外した。
そんな微妙な空気を察した竜郎は、さっさと話を進めてしまうことにした。
「そ、それじゃあ、みなさーん! 入り口はこちらでーす!
ささっ、どんどん入っていきましょー。ほら父さん、母さん、ちゃっちゃと入ってくれ」
「あ、ああ」「ええ」
竜郎が虚空に手を翳すと、そこにかまぼこ型の入り口が何もない所に現れた。
そこへ両親の背中を押して中へと促し、嫁と娘のジト目にさらされていた正和も無理やり引っ張って中へと入れた。
その後に愛衣や美鈴にも続いてもらい、次にカルディナ達──魔力体生物組とリア。そして千子、エンター、亜子がかまぼこ型の入り口を通っていった。
入り口を通った先にあったのは、寝転がったらさぞ気持ちよさそうな、そよ風が吹く広大な短く刈られた草原地帯。
少し離れたところには小粋なログハウスがポツンと建っており、近くには大きな川も流れている自然豊かな場所だった。
「うわぁー、何ここ! 良い所じゃない。転移ってやつでここまで来たの? 竜郎」
「ちがうよ、母さん。ここは俺の《強化改造牧場》っていうスキルで作られた仮想世界の中だ。
この中で魔物の養殖なんかをしたり、テイムした魔物を住まわせたりもしている。
まあ畜産養殖の場合は、この中だけで育てたりすると味が変わったりもするから、自分たちの領地内でも育てたりしてるんだが」
「スキルの中……? とてもじゃないが信じられない……が、嘘ついてもしょうがないしなぁ」
仁はそう言いながら地面に生えている草をむしってみると、むしった端から直ぐに伸びて元に戻った。
それを見て仁をはじめ美波や正和、美鈴も普通の空間ではないと理解した。
「ご覧の通り、ここでは俺のエネルギーが尽きない限り、いくらでも修復が可能なので存分に暴れられます。
さらに俺のエネルギーを消費して魔物の影を生み出して、それを倒す事でオリジナルの約八割の──ゲームでいう経験値的なのがシステムに取り込まれます。
なので今回は、ここで俺の作った魔物の影を使ったレベリングしていきます。
ただ仮想世界と先ほど言いましたし、魔物の影とも言いましたが、ここで魔物の影に殺されたりしたら本当に死んでしまうのでご注意を」
「いきなり実戦ってわけか……。ちょっと恐いわね……」
「いいえ。とりあえず、父さん達は何もしないで、そこで見ていてくれるだけでいいです。
それから、ちゃっちゃと50まで上げてクラスチェンジしたら、軽く実戦訓練を挟んで一気にという予定です」
「質問なんだけど、見ているだけでレベルっていうのは上がるものなのかい? 竜郎君」
「普通は上がりませんし、それまでの戦闘はほぼ関係なく、最後の止めに関与した人が総取りになるような法則になっています。
ですが最近、これまた便利なスキルを取得したので、そちらを使って何もしなくても皆で止めを刺した状態にすることが出来ます」
「竜郎君はそんな事まで出来るのね……。ほんとに何でも有りって感じ」
「何でもは出来ませんよ。器用貧乏なだけですから──ってことで、さっそくそのスキルを使わせてもらいます。
父さん達は驚かず、そのまま立っていてくださいね。父さん達ならちゃんと機能するはずなので」
竜郎はそう言うや否や、《分霊神器:ツナグモノ》を発動した。
すると胸の辺りから細い糸を束ねて作った虹色のロープが──にゅうっと飛び出してきた。
そしてそのロープに念じて、少し解いて四本の糸を引っ張り出す。
引っ張り出した糸を両親に一本ずつ伸ばして、その胸元に挿し入れ自分と繋いでいく。
繋がった瞬間、両親たちは驚きの声を漏らす。今までに感じた事のない、強大な力がその身に溢れている事に気が付いたのだ。
特に竜郎の両親──仁と美波は、その力が強かった。
というのも、このスキルは自分と対象者の魂とシステムを繋ぎ、繋ぎ合った一つの集合体を一個の自分にするというものである。
そういう性質上、元の関係性が深いほどに深く繋がりあえるので、愛衣の両親よりも、自分の両親と深く繋がり合ったというわけだ。
さらに、このスキルを使った状態で竜郎が魔物を倒すと、繋がった相手と一緒に止めを刺したことになる。
なので今の状態で竜郎が魔物の影を生み出し自分一人で倒せば、その経験値が自分と両親たちにもきっちり五等分されて分配される。
「まずはレベル50まで上がる程度の魔物でいいし、あんまりしょっぱなに恐がらせて、この世界に嫌なイメージを持たれても困るし……うーん──あいつにするか」
「あれはっ、腹黒バブリンじゃん!」
竜郎が選んだ、愛衣が『腹黒バブリン』と呼ぶ魔物は、かつて高レベルのダンジョンを潜った時に遭遇したレベル80代の魔物。
外見は大量の泡を身に纏いその中に隠れ、本体は30センチほどのテントウムシの様な丸い虫型魔物。
本来は単体ではなく水辺の大型魔物の口元に張り付いて、あたかもその魔物が吐き出した泡のように擬態する。
そうして他の魔物と戦っている間に、漁夫の利を得ようとする狡猾な魔物でもある。
ただ擬態元の魔物が倒され自分だけの状況になると、周囲の魔物や物体などあらゆるものを盾にして逃げに徹するようになり、足も速く空も飛ぶ。
そのくせ放っておくといつまでも付かず離れずをキープしてついて回る、うっとうしさも持ち合わせている。
相手が疲弊したり眠ったりしたら、自分だけでもやれると思うようだ。
それ故に愛衣は奴を『腹黒バブリン』と名付けた。
そんな腹黒バブリンなのだが、現在は仮想の敵──影として生み出された影響で、体から出ている泡も白ではなく灰色の泡になっていた。
さらに擬態元はいないので、既に自分だけの状況。
本能に従って泡を吐きだしながらその中に紛れ、逃げていこうとする。
「逃がさん」
「「うわっ」」「「ひゃっ」」
竜郎はすぐさま目の前──腹黒バブリンに向かって手の平を突き出すと、そこから広範囲に火炎放射を放った。
その炎はあっさりと泡ごと本体を飲み込み、一瞬にして草原を火の海に変えながら殺していった。
その光景に驚きの声を上げる両親たちの脳内に──
《『レベル:33』になりました。》
──というレベルアップのアナウンスがさっそく響き渡った。
「父さーん、レベル49になったかー?」
「いやー、まだ33だー」
「五等分される上に八割の経験値だからそんなもんなのか。
もう一回いっとこう──ほいっ」
再びバブリンを出してからの速攻火炎放射で泡ごと殲滅。これにより両親たちのレベルは49に到達したので、そこで一旦中断して愛衣たちのいる所へと戻る。
「あれ? もう終わりなのか?」
「このシステムって奴は、一旦レベル49で上がらなくなるんだ。
そしてその先にいけるようにするには、自分の中で一つ何か成長というか、何か自分にとっての壁を乗り越える必要が出てくる。
そんな制限があるからこそ、初期スキルのみでのレベル50到達っていうのが難しいともいえるんだ」
「それじゃあ、竜郎。いよいよ私たちも実戦開始って事?」
「いいや。下手に手を出されると父さん以外はスキルを覚えてしまう可能性が高い。
だから俺のスキルでちょちょいとシステムをハッキングして、レベルキャップを取り去る」
「ハッキングって……。竜郎くんは本当に何でも有りとしか思えないわ」
「そうだね、お母さん。けどなんというか、ありがたい話だけど、僕らに凄く甘い状況だなぁ。
これじゃあ、この先自分だけで自衛できるようになるか不安だよ」
「まあ、そのへんは50になったら少しずつ訓練も始めるので大丈夫ですって」
竜郎自身、かなり過保護になっていると自覚はあった。
けれど自分たちが苦労した分、親達には安心して楽に強くなってほしいと思ってしまうのだ。
なので竜郎は《侵食の理》を発動し、両親たちのシステムを侵食していく。
そうして仁、美波、正和、美鈴の順番でレベルキャップを強制的に取り除けば、彼らはその場から一歩も動くことなくレベル50になり、それと同時に《天衣無縫》という称号まで入手した。
「それじゃあ、今からは千子たちも交えてクラスの選択をしていきましょう。
おそらく今の父さん達のシステムのクラスの欄はハイフンではなく、無冠の人種とか、そんな感じのに変化しているはずです。どうですか?」
「本当だ。俺のクラスが無冠の人種になって……その横に変なマークがついてるな」
仁たちのステータスのクラスの欄が、『-』から『無冠の人種─>▽☆』と表示されていた。
この─>が指し示す▽と☆の二つが、今回仁たちが選べるクラスとなっている。
また千子は『無冠の真祖吸血鬼─>▼☆★★』。
エンターは『無冠の半神級天族─>▼☆☆★★★』。
亜子は『無冠の半神級魔族─>▼☆☆★★★』と、それぞれ表示されていた。
一般的に右に行くほどレアリティが高く、それぞれ──▽(通常種)、▼(上位通常種)、☆(希少種)、★(上位希少種)のクラスをさしている。
とすると両親たちは通常種クラスと希少種のクラスだけで、千子たちは上位通常種以上のレアティの中から選択できるようになるという事になる。
「やっぱ普通の人種のお母さんたちと、最上級の魔物だった千子ちゃん達だと選べるクラスの幅が段違いだね」
「上位希少のクラスは解放されなかったか。ただ普通に上げていったら、強制的に通常種か上位通常種になっていただろうし、やった意味はあったはずだ」
「まあ、選べるだけありがたいと思えってことよね」
そう美鈴がザックリと締めくくった所で、それぞれのクラスを見ていった。
仁は通常種の『上位テイマー』と希少種の『共鳴テイマー』。
美波は通常種の『上位念動師』と希少種の『無法念動師』。
正和は通常種の『上位樹魔法師』と希少種の『狂改樹魔法師』。
美鈴は通常種の『上位射属師』と希少種の『奔放射属師』。
また千子たちは上位希少種の中から選ぶことになるので、希少種以下は適当に見てスルーしていき──。
千子は広い範囲で大勢を殺す事を得意とする『殺戮真祖吸血鬼・災禍』。
個を確実に殺す事を得意とする『深殺真祖吸血鬼・災禍』。
エンターは前衛の武術能力が飛躍的に向上する『武闘系半神大天族』。
速力が大幅に向上する『速技系半神大天族』。
自分や味方の防衛能力はもちろん、回復能力も向上する『守護系半神大天族』。
亜子は魔法能力が若干下がるが、前衛での戦闘能力が向上する『魔戦系半神大魔族』。
今得意な魔法能力をさらに向上させる『魔法系半神大魔族』。
状態異常系の能力が大幅に上がる『異常系半神大魔族』。
──となっていた。
「父さん達の場合は、希少種一択だろうな」
「だね。どう見ても通常種のクラスはそこらにありそうなクラスだし、クラスチェンジ特典のスキルもしょぼいよきっと」
「ねえ、愛衣。クラスチェンジするとスキルも貰えるの?」
「そだよ。クラスによって貰えるスキルも違ってくるはずだから、よりいいスキルを取るには、よりいいクラスを取らなくちゃ」
ということで仁たちのクラスは、あっさりと決まってしまう。
後は千子たちのクラスなのだが、千子は双方どちらにするか、エンターは武闘系か守護系どちらにするか、亜子は魔法系か異常系か悩んでいた。
「どっちも興味深いどすなぁ」
「仲間たちの盾となり守るのもいいが……、自分の力で敵を倒し守るという手も捨てがたい…………う~む…………」
「前衛能力は捨ててもいいけれどぉ、魔法能力が上がれば一度にたぁ~くさん敵を殺せるし、異常を取ればたぁ~くさん敵が苦しんでいる姿が見れるのよねぇ」
「えぇ……」
亜子だけは小さくポツリと呟いただけだったのだが、近くに座っていたリアの耳にはちゃんと届き少し引いてしまっていた。
だが亜子は気にせず、あら聞いてしまったの? とでも言うように妖艶にほほ笑むと、リアの頭を優しく撫でて再び考え始める。
実は超が付くほどのサディストな亜子だが、仲間達に対してだけは非常に優しいのだ。
なかなか決まりそうにないので竜郎や愛衣、カルディナ達やリアなどの意見も踏まえつつ、最終的に千子たちも自分の今の気持ちに合ったものを選択する事にした。
「それじゃあ、こんな所かな。
では皆さん、それぞれ自分のなりたいクラスのマークを指でタップして、表示に従って決定していってください」
そうしてそれぞれ新しいクラスに至るべく、システムを操作していくのであった。
思っていた以上に進まなかったので、恐らく明日も投稿します。
無理そうなら水曜16日になるかもしれませんが、とりあえず頑張ってみます。