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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第八章 ジャングル迷宮編
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第125話 ジャングルへの随伴者

 未完成の謎の美少年、美少女の像を見学した翌日。

 ひとまず芸術家の確保に関しては進展があったので、そちらは成り行きを見守るとして当初の目的に軸を戻すことにする。



「次の目的は葉物野菜の魔物の……えーと、れこんぶ?だったっけ?」

「なんか海藻みたいな名前になってるな……。次の魔物は『レティコル』って名前のやつだよ」



 竜郎と愛衣は楓、菖蒲を隣に連れ、ニーナは愛衣の頭の上に。さらに今日は竜郎の頭の上には、子サイ状態のジャンヌが張り付き、6人でカルディナ城周辺を散歩しながら今回の旅路について話していた。

 ジャンヌがいるのは、ただ単に竜郎に甘えたくなったらしい。



「ここ何日かで調べた情報によると、ここイルファン大陸の南西にある妖精大陸にいるらしい。──お、キー太がいるな。おーい」

「キィ?」



 歩いて回ってきた先には妖精樹があり、その枝にちょこんと座って緑色の風の魔力がこもった実をモリモリ食べていたのは、風妖精にして竜郎の眷属でもあるキー太。

 竜郎が呼ぶと木の実を手にしたまま、下にふわっと飛び降りてきてくれた。


 そこで今回の行き先が妖精大陸ということで、ちょうどいいかとキー太に一緒に来ないか聞いてみた。



「キィ? よーせい だいりく?」



 少し前に人間に至った元魔物だったからか、少し言葉のイントネーションはおかしいが、はじめのころより随分とスムーズに言葉を発するようになってきている。



「ああ、そうだ。興味あるか? キー太」

「ちょっど、ある。キータのながま、が、ふづうにニンゲンとぐらしてるとごって、ぎいてる」

「そうだね。だから妖精大陸っていう名前が付いたくらいだし」



 妖精郷の入り口がどこかにあるとされる妖精大陸は、外の世界をみたいと望んだ妖精たちが多く住み着いている、

 基本的に他種族をそれほど受け入れているところでもないが、妖精郷ほど締め付けは厳しくないので妖精種以外でも住むことができる場所でもある。

 妖精の割合が一番多く、他種族と共存している稀有な大陸ともいえる。



「キータ。いってみだい」



 魔物として生きてきた彼にとって、竜郎と出会うまで自分以外全て敵だった。

 しかしそんな彼も竜郎といることを選んだ末に人間に至り、よく妖精郷に行くようになった。

 そこで彼は同族の子供たちと今では仲良くなっている。


 そんなこともあってかキー太は、同族に対して興味が湧いているらしく、妖精たちがどのように人間たちと一緒に暮らしているのか見てみたいと思ったのだ。



「じゃあ、今回は一緒に行ってみるか」

「うん! ありがど、まずたー」



 より広い世界を見てみたいというのを止めるつもりはない。竜郎はいい機会だと、キー太も連れていくことに決めた。

 ──と、そこで意外なところから意外な提案が飛んできた。



「あのね、パパ。今回はニーナ、あの画家さんのとこに行ってみようと思うの」

「え? 今回は付いてこなくてもいいの? ニーナちゃん」



 愛衣が自分の頭の上にのせていた小さなニーナに、少し驚いたように視線を向ける。するとニーナは「うん」と答えた。


 ここでいう画家さんとは、竜に魅入られ魔物の絵が描けなくなった『ラロ・ジャマス』という男性のこと。

 以前ニーナをモデルに絵を描かせてもらえないかと、娘のヨランダに頼まれたことがずっと気になっていたようだ。


 けれど竜郎たちは何かと忙しく、あっちこっちに飛び回っているので一緒にいるといつまでたっても会いに行くことはできそうにない。

 そこで今回は竜郎たちがレティコルを探しに行っている間に、行ってみようと思い立ったようだ。



「ちょっと寂しいけど、その画家さんはとっても今苦しんでるんでしょ?

 でもニーナが絵を描かせてあげられたら、元気になれるんでしょ?

 だったら早く行ってあげたいなって、ニーナ思ったの」

「……そうか。ニーナは本当にいい子だな」

「ぎゃう! ニーナは、お姉ちゃんだもん」



 竜郎が愛衣の頭の上からひょいとニーナを抱き上げると、抱っこして頭をなでてあげる。

 すると「ぎゃう~♪」と目を細めて嬉しそうに、竜郎の胸に身を摺り寄せた。


 楓と菖蒲が生まれたときは、ぽっとでの子たちに竜郎パパを取られたような気がしていた。そのせいで幼児退行してしまった。

 けれど今はもうニーナにとって楓と菖蒲は、大切な妹になっている。

 だからちょっとくらい寂しくても、今はまだ幼い2人が存分に甘えられる時間をあげてもいいと思えるほどに彼女の心も成長したのだ。


 竜郎はその成長が嬉しくもあったが、少し寂しくも感じる。だが喜ぶべきことだと、今は精一杯ニーナを甘えさせてあげることにした。

 そして竜郎の横に立っている楓と菖蒲。この2人も最近では随分と、竜郎から離れて行動できるようになってきた。


 まだまだ甘えたなところは沢山あるが、それでも近い将来お留守番ができるようになってくるのかもしれないと、また少し子の成長の喜びと寂寥感を噛み締めた。



「ヒヒーン」

「ん?」



 竜郎がしみじみとしていると、頭の上にへばりついてたジャンヌがテシテシと前足でおでこを軽く叩いてきた。


 なんだろうと竜郎がニーナを抱っこしたまま様子をうかがってみると、どうやら「ニーナがいないのなら、私がいってあげよっか?」と言いたかったらしい。

 最近はあまりかまってあげられていなかったし、少し前まではカルディナを連れていた。

 それもいいかと、今回はジャンヌにもついてきてもらうことにする。



「そんで妖精大陸に行くってのは分かったけど、どんなとこなの?」

「一言でいうなら熱帯雨林──ジャングルだな。かなり危険な場所としても有名らしい」



 その場所の情報は妖精郷では広く知れ渡っているらしく、そこの住民たちからランスロットが聞いてきてくれたもの。



「へー、それじゃあニーナたちが住んでるここみたいな所ってこと?」

「ここは基本的に暑くもならないし雨もそこまで多くない。だから気候が結構違うな」

「なんかこう……ジメジメっとしてるとこだね」

「じめじめ? キータ、じらないかも。たのじみ」



 危険なところと言っているのに、誰も臆した様子はない。油断しているわけではないが、キー太でもレベルは1200近くある。

 それでも危険な場所というのなら、もはやその大陸は放棄されていてもいいレベルだろう。



「うーん、でも念のため、もう1人くらいついてきてもらう?」

「そうだなぁ。あ、そういえばフローラは前にジメジメしたところが好きとか言ってた気がするな」



 竜郎の言い方には語弊がありそうだが、フローラは樹と水の属性を多く持つ妖精種。

 樹木が生い茂り水気が多い場所は、彼女のホームグラウンドといっても過言ではない。

 加えてフローラはずっと野菜の入手を希望していた。今回の旅路に、おあつらえ向きではないだろうか。

 そう考えた竜郎たちは、カルディナ城にいるであろうフローラを探しに踵を返した。




 カルディナ城につくと、フローラはすぐに見つかった。彼女は今、鼻歌を歌いながら昼食の仕込みを行っていた。

 そしてその横には、いつもは見ない人物も──。



「どうしたの? 玉藻ちゃん。こんなとこで」



 愛衣がフローラに会いに来たことも忘れて、レベル10ダンジョンの個でもあるキツネ獣人の女性の姿をした玉藻に先に声をかけてしまう。



「えー? わたしですかー? 今はー、料理の研究中なんですよー」

「そうなの? 意外だね」



 ニーナがはっきりとものを申すが玉藻は一切気にした様子もなく、ニコニコしながらフローラの料理の風景を眺めている。



「今タマモちゃんは、外の世界にある沢山の情報を集めている最中らしいよ♪」

「フローラさんの言う通りですねー。料理を研究していけばー、きっとウリエルさんの最恐料理も再現できる気がしますー。

 以前から興味があってー、ちょくちょく見に来てるんですよー。お邪魔して、ごめんなさーい」

「つまみ食いも多いけど、手伝ってくれるからフローラちゃん的には全然オッケー♪」



 玉藻は他のダンジョンの個たちと違って、外の世界を楽しんでもいるようだが、情報収集をメインに行っていた。

 そうすることで自分のダンジョンをより面白くできる方法が見つかるかもと、わくわくしながら。

 それが彼女のダンジョンの攻略者たちに、どのような影響を与えるのだろうかと竜郎はふと考えてしまったが、頭が痛くなりそうなので思考を止めた。



「へー。まあ、仲良くやっているようならよかったよ。それでな──」



 少し脱線してしまったが、フローラに改めて妖精大陸行きの話をしてみた。

 彼女の料理を毎日心待ちにしているどこぞの皇帝陛下には申し訳ないが、たまには外に出て羽を伸ばすのも悪くはないはずだ。



「ジャングルかー♪ フローラちゃんも行ってみたいかも♪」

「ジャングルですかー。私のダンジョンにもあるんですよー」



 フローラと同じ、もしくはそれ以上に玉藻が反応を示してきた。



「ああ、そういえばあったな。あのときは環境に適応できる称号もなかったし、しんどかったの覚えてるよ」



 あのときの辛さから竜郎は思わず嫌味がこもった言い方になってしまったにもかかわらず、玉藻の顔は太陽のようにパァーッと輝いた。



「見てましたよー! さいっこうに苦しんでいただけたようでー、作った身として鼻が高いですー!!」

「お、おう……。そうか……それはよかった……」



 しかしそれは玉藻にとっては誉め言葉。

 彼女は自分のダンジョンに人間が挑み、そこで苦しみもがく姿に愛しさを感じる。そんなある意味、変人ならぬ変ダンジョンなのだ。


 竜郎が頭をガクッとしてしまったことで、斜めになってしまった頭の上のジャンヌの位置を戻していると、キラキラした目をした玉藻がずっとこちらを見つめていることに気が付いた。



「えっと……なんだ?」

「わたしも行きたいですー」

「ど、どこに……?」

「こっちのジャングルにですー! まさか外の世界のー、本物に触れられる機会が来るとは感激ですー。

 それだけでもー、外の世界に触れられるようになったかいがあるというものですよー」



 最初の方はお願いだったはずなのに、最後のほうは既に行くことが決定していることに思わず苦笑してしまう竜郎たちだが、別についてこられて困ることもない。



「もし途中で死んだら、状況によっては連れに戻ってこれないこともあるが、それでもいいか?」



 彼女の今の体は、仮初の体。竜郎たちと比べると非常にもろく死にやすい。けれどその反面、何度死のうとも蘇られる。


 しかし蘇られる場所は、彼女たちのダンジョンと繋がった竜郎たちのダンジョンがあるここだけ。

 ダンジョンの入り口を他所に拡張すればそちらに移動することもできるが、これから行く場所の近くにそれはない。

 なのでジャングルで玉藻が死んでしまった場合、転移でまた連れてくる必要が出てきてしまうのだ。



「ええ、それでもかまいませんよー。では、お願いしますねー、皆さーん」

「よっろしくねー♪」



 こうして次の目的への随行者は──竜郎、愛衣、ジャンヌ、フローラ、楓、菖蒲、キー太、玉藻──の8人に決まったのであった。

次話は日曜更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  墓守キー太と料理番フローラ、そしてダンジョン玉藻。なかなか出番が回ってこない3人を伴う道中がどうなるか楽しみですw  そして画家さん、ニーナが威圧の手加減を間違うと心臓が止まってしまうんじ…
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