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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第七章 おつかい編
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第119話 妖魔のもとへ

 小妖精──チムールが妖魔のもとに自分も行きたいとこだわる理由に加え、なぜヤメイトの父親が死んだのか知った竜郎たち。

 すっきりしたのと同時に、思っていた以上にケイネスと関わりが深かったことに驚いた。



『どうする? たつろー』

『うーん……そこまで強い意志があるのなら、連れて行ってもいいかもしれないな。

 ずっとそのことを気にして生きてきたようだし』

『ピュイィー』



 カルディナも竜郎と同様に賛成の意を示す。

 2人はチムールがまだ幼かった頃、小さいながらも感謝の気持ちを伝えようと頭をなでてくれた、あの可愛らしい顔を思い出し情がわいているようだ。



『連れて行こうが行こまいが結果は変わらないでしょうし、2人が賛成なら私も構わないわよ』

『私もー』

『パパもママも行くなら、ニーナもー』

『私も構いません』



 念話会議による投票で、チムールを連れていくことが可決された。

 未だこの雷山を掌握できずにいる妖魔に、楓や菖蒲が後れを取ることもないだろうし、小妖精1人おまけについたくらいでどうにかなる戦力差でもない。少しばかり手間が増える程度だろう。



「話を聞かせてくれてありがとうござます、チムールさん。

 聞いた限り相当に根が深いようですし、今回の討伐きてもいいですよ」

「本当ですか!」

「はい。ただし、こちらの指示に従ってくださるのなら──ですが」

「もちろんです。できる限り迷惑のないよう随伴させていただきます」

「なら決まりですね。それでは討伐と奪還のためにも聞いておきたいのですが、その妖魔とやらと結晶化されたものたちは、いつも決まった場所にいるのでしょうか?」

「常に防衛網の外から監視はしていましたが、大物狩りに行くときだけは外に出るようですね」



 小妖精たち曰く、この雷山には彼らにとって特に危険とされる魔物が6種いた。

 その内1種は件の妖魔。もう1種は竜郎たちが昔捕まえたパルミネの上位亜種の軍勢。

 残りの4種は、たった1体で小妖精数十人相当の戦闘力を持つ魔物たち。


 妖魔はそれらを結晶化して自分の糧にすべく動いており、その危険種との戦いがあるときだけは自ら外に出て、それ以外は基本的に防衛網の中で他勢力の警戒に当たっている。



「今現在の状況はどんな感じなの? チムールさん」



 6種いる──のではなく、いた──と表現したあたり、既に何種かは手中に落ちているのだろうと愛衣は察する。



「2種が既に狩られていますね。ケイネスと出会うきっかけとなった魔物もやられています。

 現在の強力な防衛網も、その魔物の結晶体を核に使っているようですので」



 ならば外に出たときに襲撃し漁夫の利を狙えばよかったのではとも思ったが、大物狩りの際には変換効率のいい小妖精たちの結晶体を持っていくので、下手に消耗させて使いつぶされてしまっては意味がなく、手が出せないらしい。


 多少消耗しても放置しておけば結晶体のエネルギーは、使うほどに上限値は緩やかに減少していくが、回復はしてくれるので一気に使うような状況でもない限り塵になることはない。

 なので同胞の延命の意味でも、妖魔に消費させないように立ちまわっていたのだ。


 けれど実際にその戦闘で塵と化してしまった同胞もいたようなので、次の大物狩りの前には何とかしたいところ。



「直近で動きそうな気配はありますか?」

「今は雷ネズミと小競り合いをしながら結晶体と餌の確保をしつつ、戦力を整えている最中だと推測しています。

 なのでもうしばらくは大物狩りには出かけないかと」



 なら今も以前、小妖精たちがいた場所にいると思っていいだろう。

 あちこち動き回らず、居場所も特定できているなど竜郎たちにとってはカモでしかない。さっそく現地に向かうこととなった。




 容姿の擬態の上から、竜郎の魔法で完全な認識阻害をチムールも含めかけていく。

 これによってあらゆる魔物たちから認識されなくなり、普段チムールが警戒しながら進んでいるような地帯も優雅に横切っていく。



「す、凄い……。こんな魔法があるなんて……。なんでもありじゃないか」

「なんでもありってわけじゃないが、このくらいならな。だから安心してついてきてくれ」

「あ、ああ。ありがとう」



 道中ある程度チムールとも打ち解け、口調も普段通りのものになってきたころ。遠目に妖魔の本拠地が見えてきた。



「わおっ、なかなか近づきづらい感じになってんねー」

「毒と雷属性による結界ですか。生半可な雷耐性なら感電死。そうでなくても触れたものを侵す毒。

 確かにあの中に引っ込まれては、この雷山に住まうものたちでも、そうそう手が出せないでしょうね。

 それと少しでも干渉したら、中の妖魔に気がつかれるようにもなっているようです」

「ここから少し見ただけで、そこまで分かるものなのか……?」

「これくらい、私たちなら造作もないことですよ。チムールさん」



 普段は自分から力を誇示したりしないが、妖魔に近づくにつれて緊張感を増すチムールを安心させる意味も込めて、リアが自信を込めて優しく笑いかける。



「そ、そうなのか……。では、どうやって中に?」

「そうねぇ。──あ、あそこに、おあつらえ向きなのがいるじゃない」



 レーラが指示した先には、大きな魔物を生け捕りにした小妖魔たちが、えっちらおっちら一生懸命、結界を目指して進んでいるのが見えた。


 当然、あれらが入るときは結界に穴をあける必要があるはずだ。結界の威力からして、小妖魔たちでは消し炭になってしまう。



「あいつらと一緒に入っちゃおうってことだね」

「向こうにもいるよー。ちょうどみんな、狩りから帰ってくる頃合いなのかなぁ」



 ニーナがいうように、他にも数グループほど外に出かけていた小妖魔たちがこちらに向かってきていた。

 これから捕まえた魔物を妖魔へ献上しにいくのだろう。


 竜郎たちは一番大きな魔物を連れているグループの後ろに、素知らぬ顔でついていく。

 認識阻害の影響で、雑談していてもまったく気が付かれている様子もない。



「な、なんて緊張感のない侵入だろう……」

「あんまりガチガチになりすぎると、逆に動けなくなるぞ」

「それにしても──いや、そのくらいの余裕を持てるくらいの存在故にか。もっと精進しなくては」



 いざ決戦の地へと意気込んできたのに、竜郎たちについてきてみれば陽気なピクニックに来たかのような長閑な雰囲気すら漂っている。

 けれど完全にお遊び気分なのかと言われればそうではなく、しっかりと周囲への警戒は怠っていない。


 適度に手を抜きつつ、確実にこなしていく。これこそがチムールが憧れる領域なのだと、納得すらしてしまった。


 やがて竜郎たちが後ろについているグループが結界の前に来ると、ビィービィーと耳障りな鳴き声を上げはじめる。

 しばらく小妖魔たちがそれを続けていると、結界にハンマーで無理やり穴を作ったかのような歪で大きな穴が開く。


 小妖魔たちは鳴くのをぴたりと止め、連れてきた魔物を中へと入れていく。

 竜郎たちも我が物顔で後ろに続き入っていく。



「なんか臭くない?」

「腐敗した食べ残しがあちこちに落ちてますね。それに排泄物なんかも落ちてます」

「うげー、きちゃないなぁもー」

「「うー……」」



 ここに住まう妖魔たちは病原菌への耐性も高いため、排泄もそこら中でしている。一般人が入ったら、すぐに病気にかかってしまいそうだ。

 これも外敵への防衛策として、狙ってやっているとしたら大したものである。



「まあ、そんなことはないんでしょうけれどね」



 知性のかけらも見当たらない小妖魔たちが、汚い地面の上に平気で寝そべっているさまをみれば、そんなわけはないだろうといきつく。



「これは妖魔を倒しても、しばらく住みたくないな……」

「俺もチムールの立場なら移住を考えるよ」



 不快感はそのままに魔物を運んでいる小妖魔たちから離れ、結界の内部を探索していく。

 さくっと妖魔を倒す前に、先に結晶体を確保しておきたい。妙なところで結晶化された小妖精たちを使われてはかなわない。

 確実にことを進めるためにも、そちらを優先する。




 探索の結果、ドーム型──地中も含めれば円形型の結界の中央付近にそれはあった。

 


「保管室ってところか」

「室っていうより、ただのでっかい穴だけどね」



 愛衣の言った通り、それはただの大きな穴。そこに黄土色をした結晶体が、雑に積み重ねられていた。

 その結晶体は不透明な物質で、元となった存在を象った彫像にも見えることから、どれがなにを結晶化させたものなのかは非常に分かりやすい。



「それで、あそこにいるのが例の妖魔ね」

「ああ、その通りだ……」



 その大穴から10メートルほど離れた場所には祭壇……と呼べるほど立派ではないが、結晶化した魔物や小妖精を積み上げて作った壇上に、太ったゴブリンのような妖魔がゴロゴロと転がっていた。



「話に聞いてたのより随分と、おデブだね。おデブりんって呼ぶことにするよ」

「いや、ゴブリンじゃないですからね、姉さん。まあ、そう呼びたくなる気持ちも分かりますが」



 チムールの報告によると最近はもっぱら結界を維持しながら、ここで食っちゃ寝するだけ。

 戦闘になっても、遠方から固定砲台のように魔法を放つだけ。食べ物は配下の小妖魔任せ。太っても無理はない。


 けれどそれでも十分に、この山の住人からすれば厄介な存在なだけに質が悪い。



「とりあえず結晶体は回収していこう」

「流石に気がつかれないか?」

「代わりに、こいつを置いていくから問題ない」

「ただの土の塊じゃないか──っ!? 本当に何でもありだ……」



 竜郎が取り出したのは、適当に土魔法で作った土塊。しかしそこに呪魔法で呪と闇の混合魔法を付与すれば、あら不思議。ただの土塊が、チムールの目には結晶体に見えるようになった。


 妖魔側も催眠系統のスキルを持っているし、普通の魔物からしたら耐性も高いのだが、竜郎にこれをやられて見破れるわけがない。

 大穴に無造作に放り込まれていた結晶体を《無限アイテムフィールド》に収納していき、代わりに土塊を大量に投入していく。


 お次は、おデブりんが寝転がるための台と化している結晶体たちの回収。

 こちらも回収と偽の土塊を一瞬で、それこそテーブルクロス引きのように交換したおかげで、おデブりんはまったく気が付いていない。



「あれは……小妖精さんたちから奪ったという杖ですね」



 その際、おデブりんが汚らしいお尻の下に、リアが作った杖を敷いていることに気がついた。

 いくら暇つぶしに作ったものとはいえ、自分の制作物があのように扱われているのを見るのは業腹だ。リアが珍しく殺気を飛ばした。


 相手は強力な認識阻害で気が付いていないが、間近で感じたチムールは自分に向けられていたわけでもないのに背筋が凍り付く。



「これで結晶体は全部か?」

「い、いや……、まだ小妖精の数が足りないはずだ。

 我々の結晶体は、あいつにとっても切り札になる。特別なところに置いてある可能性が高い」



 ということでコソコソと捜索を再開してみれば、すぐにそれは見つかった。

 そこは祭壇からまっすぐ行ったところにある、結界の中心地。

 その中心には大きな馬型の魔物の結晶体が置かれており、結界の維持のために使われていた。

 またこの魔物が、ケイネスとその護衛たちを襲った魔物でもあるとチムールが語る。


 そしてその裏側に、大きな石で蓋をした穴を発見。

 認識阻害の範囲を広めながら石を持ち上げ、穴の中に入っていく。

 するとそこは洞窟のように地中が掘り進められており、数メートル先まで細長い道を行ってみれば、さしずめ原始的な宝物庫とでもいったところか。

 雑に広く掘られた空間に出て、そこには人間たちから巻き上げたのであろう金銭や使えない装備品、大きな猫のような魔物の結晶体などと共に、小妖精たちの結晶体も多く収納されていた。



「これは…………。兄さん、見てください」

「なんだ?」



 使えずに放置されている装備品の中から、リアが小妖精たちが使うには大きな鍛冶師の槌を拾って見せてきた。

 何の素材かは竜郎には解析してみなければ分からないが、素人目にみた限りでもかなり立派なものである。



「ヤメイトさんに、お土産ができましたね」

「ってことは、もしかしなくても?」

「ええ、ケイネスさんが使っていたものに間違いないでしょう」

「そうか……」



 あの小妖精に渡すはずだった装備品を妖魔に差し出したとき、彼は他にも《アイテムボックス》にいれていたもの全て出してしまっていた。

 当然、彼の命と同等とも呼べる大切な仕事道具ごと。


 そのため回収することもできずに、《アイテムボックス》に入ったまま死体と共に消え去ることもなく、誰にも使われぬままここに残ってしまった──というわけである。


 その後リアがケイネス関連の仕事道具一式を見分け、自分の《アイテムボックス》に収納。

 竜郎はその他全てを、一つ残らず回収した。


 チムールに聞いてみても、おそらくこれで全てだろうと確認できた。足りない分は使い潰されたとみて間違いない。



「なら後は──」

「おデブりんの始末だね」



 小さな魔法の明かりだけで照らされる薄暗い穴の中、全員で頷きあうと今回の騒動の決着をつけるべく、妖魔のもとへと向かうのであった。

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