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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第七章 おつかい編
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第116話 再び雷山へ

 気やすく接することのできるヤメイトならば、こちらもいろいろと頼みごとをしやすい。

 そのうえ才能まであるというのなら、文句の言いようもない。

 貴重な人材と繋がりが持てたことをルドルフに感謝しながら、今後についてヤメイトと話をすることに。



「はぁっ!? 今から雷山に行ってくるだぁ!? ピクニックに行けるようなとこじゃねぇんだぞ!?」

「大丈夫、大丈夫。私たちなら、あの環境でもへっちゃらだから」

「へっちゃらってなぁ……。まるで今さっき決めたかのような雰囲気だし、雷山対策してきてんのか?」

「対策というか、まあ、なんだ。俺たちは、あの程度の環境なら本当に問題ないんだよ」

「魔物だって、特殊なのがいるらしいぞ? しかも向こうのホームグラウンドだ。やべぇって。

 親父だって鍛冶師だてらに、けっこう強かったはずなんだ。そんなやつが入念に準備していっても、あのざまだぞ。

 俺もようやく新しい道に進もうってときに、お前たちに死なれても嫌だぜ?」

「ヤメイト。この子たちに心配なんて必要ないから。もちろん、私にもね。

 タツロウくん、アイちゃん、リアちゃん。身分証を見せてあげたら?」

「え? ああ、そういうことか。おっさん、ちょっとこれ見てくれ」

「見てくれって、ただの身分証だろ。それがどうしたって──」



 レーラに言われた3人が、それぞれ自分の身分証をヤメイトへと見せていく。

 ヤメイトはそれが何だっていうんだと、適当にその項目に視線を向け、冒険者のランクの項目でぴたりと止まった。



「──はぁ!?」



 それから竜郎たちのランクに驚き、また妹弟子にあたるリアも同様であることにも衝撃を受け、しばらく呆けたままとなってしまう。



「ってなわけで、俺たちの心配は無用だ。正直ケガするほうが難しいし、ちょっと気になることもあるから気も抜かない。

 だからとりあえず、おっさんはここで待っててくれ」

「お、おう……。というか、俺はこれからどうすりゃいいんだ? オブスルに戻ればいいのか?」

「ん~私たちはどこでもいいよ。ここがいいっていうなら、ここでもいいし他のところに住みたくて、住むところが必要だってんなら家くらい買ってあげるし」



 転移があるので竜郎たちにとって、ヤメイトがどこに住んでいようと構わない。

 今の時代の彼も認識できたので、完全探索マップでどこにいても探すことだってできるのだから。


 なので彼が存分に才能を発揮できる場所があるというのなら、そこを確保するのも先行投資のうちに入るだろう。



「マジで!? さすが世界最高ランクの冒険者ともなると違うぜ」

「師匠のいるホルムズでもいいですよ? どうせ一度は会いに行くんですよね?」

「ま、まあ……そうなんだが、もうちょっと心の準備をだな……」

「年をとっても、しまらないおっちゃんだねぇ」

「「うー」」



 愛衣が同意を求めるように楓と菖蒲の頭をなでると、よく分かっていないのだろうが、うんうんと頷いた。



「ほっとけ! あー……でも、そうだな。師匠にはいずれ会いに行くのはいいが、俺にはああいうキラキラしたとこは向いてねぇ。

 どこでもいいってんなら、俺が住んでたあの家にもう一度住めるようにしてもらえねぇか? 田舎暮らしが俺にはあってるだろうよ。

 それに、あそこは親父が残してくれた場所だからな」

「まだ誰の物ってわけでもないみたいだし、それくらいなら大丈夫でしょうね」

「なら、そういうことで決まりだな。向こうに行ったら町から買い取ろう」



 ヤメイトは一時ここに残り、竜郎たちが雷山で用を済ませてから回収しオブスルへ向かうことに決まった。



「そういえば最後に聞いておきたいんだが、このあたりの遊牧民の人たちは、小さな妖精を見たとかそういう情報を持っていたりするか?」

「ここの連中は雷山にはめったに近づかねぇから、見たっていうのは極めて少ないが……あんまりいい話は聞かないな。

 なんでも素材を採りに来た人間を奥に招き寄せて殺して食ってるとか、そういう噂レベルの話は結構ある」

「えぇ……。そんなことになってるんだ」



 火のない所に煙は立たぬ──などという言葉があるように、まったく根拠もなく小妖精を恐れることはないはず。

 小妖精も肉や野菜を食べることはできるので、絶対に人間の肉が食べられないというわけではないのだ。

 そんなことを積極的にするとは、とてもではないが信じられないが可能性はゼロではない。

 なにか裏があるはずだと、ますます竜郎たちの中で疑念が深まった。


 それからヤメイトは長年世話になった遊牧民たちに挨拶してくると言い残して去っていったので、竜郎たちは謎深き雷山へと向けて出発した。






 まずやってきたのは雷山化している部分の端。この雷山にたまに訪れる、素材目当ての冒険者たちなどがよく使うルート。

 ヤメイトの父親も、ここを通ったのだろうと推測される。



「ざっと周辺を調べた感じでは、特に雷山自体に異変が起こっているようには感じられないな。カルディナはどうだ?」

「ピュィー」



 カルディナも竜郎と同じ意見のようだ。大きく一度だけ頷き返す。



「私の目でた限りでも異変はないですね。それでは奥に進みながら、異変と小妖精さんたちの探索に向かいましょうか」



 雷山自体に異常があるならできる限り解決し、小妖精たちがいるのなら接触し対話を試みる。

 その方針で竜郎たちは雷山の奥深く目指して、歩を進めた。




 まだそれほど進んではいない場所で、何かが向こうから近寄ってくる反応をカルディナがいち早く捕捉。

 目的をもって近づいているように感じたので、念のため刺激しないよう深く相手を探ることなく居場所だけを感知できる程度に留めて立ち止まる。


 姿形を魔道具で全員違って見えるように偽装しておき、しばらく向こうが来るのを待っていると、視認できそうな位置にまで来た途端、妙な挙動を竜郎とカルディナの探査魔法が察知した。



『ピィイ?』

『さっきまで元気に飛んでいたのに、近づくなりフラフラしだすってのは、おかしいよな。なにかの罠か?』



 具体的な中身まではまだ調べていないが、居場所は常に把握していた。

 見えそうな位置に近寄ってきたとたんに相手がいきなり減速し、いかにも力尽きそうですと言わんばかりに不安定な飛行に切り替えたのだ。

 竜郎はすでに要警戒対象として、皆にも周知していく。


 そうして遠目に現れたのは──。



「あれは……」

「ビビッ──ビィー……」



 15センチほどの大きさをした雷山の小妖精が、翅もボロボロ、体中に怪我を負い、フラフラとこちらに近寄ってくる────ように"外見上は"見せている。


 だが今や愛衣でもレベルの補正で魔法抵抗力が高い。楓や菖蒲も対魔法使い特化の竜王種なので言わずもがな。

 そのまやかしに誰もかかることなく、その真実の姿が見えていた。


 それは15センチサイズというところまでは子供の小妖精と一致するが、傷など1つも負っていない。

 翅は新品のように綺麗で、容姿はまるでゴブリンのように醜い紫の小人。

 どう見ても竜郎たちが見た可愛らしい小妖精たちとは、似ても似つかない。


 さらにリアが遠くを見通せる眼鏡をかけ、《万象解識眼》で相手に悟られることなく真実を見極めていく。



『やっぱりそうですね。アレは小妖精ではなく、小妖魔と呼ばれる魔物です。

 雷耐性持ちですが、雷属性というよりは毒属性に寄った種族みたいですね』

『レーラちゃん。妖魔って、妖精と何が違うの?』

『そうねぇ。基本的には同じように精神体に近い存在ではあるのだけれど、まず妖精よりも知性が低く狂暴、人間に至れるほどの知能を得る可能性が低い存在。

 その代わりに妖精よりも幻術や、対象者の状態に異常をもたらすスキルの習得が得意だったはずよ。

 現にあの姿も、何らかの幻術を使っているのでしょうね』



 内心警戒はしているが、これで相手の狙いも探れるかもしれないと、心配そうなまなざしを向けて受け入れてみることにしてみた。


 演技に自信はそれほどないが、竜郎は努めて慌てた様子を装って声をかけた。



「だ、大丈夫かー?」

「ビギィー……」

『小妖精ちゃんたちと比べると、ちょっと声が汚いね』

『でも知らない人なら、これがそうなんだって思っちゃいそうだよ、ママ』



 竜郎がいつでも小妖魔を消し飛ばせる魔法を撃てるよう準備済みだとも知らずに、向こうも弱った演技を続けながら若干の距離を保ったまま空中で停止した。


 そしてこちらが一歩近づこうとすると、フラフラっと遠ざかり距離を詰めさせない。

 かまわず一歩一歩近づいてみても、やはりフラフラと距離を保ったまま奥へと逃げていく。



『どこかに誘導したいのかしらね』

『お仲間がいるってことかもしれませんね。このままその目的地まで連れて行ってもらいましょうか?

 行動が間抜けですし、指示している上位個体がどこかにいるかもしれません』



 なにかありますと言っているかのような、あからさま誘導。

 魔物ならこれで引っかかるだろうが、人間相手では警戒心を呼び起こすだけだろう。

 レーラが先に言っていた頭がよくないというのも頷ける。


 ただ竜郎たちにはまったく効いていないが、無意識に付いていきたくなるような催眠に近い幻術スキルも併用しているようなので、そのあたりに弱い人間なら盲目的に信じてしまうかもしれない。


 ここで付いていくのは厄介ごとのはじまりでしかなさそうだが、この妖精を装っている醜い妖魔が今回の噂の真相に繋がっているに違いない。

 小妖精たちの名誉のためにも、さっさと根元から駆逐しておいたほうがいいだろうと、そのまま誘導に乗ることにした。


 しばらく一定の距離を保って逃げる怪我と小妖精を装う妖魔についていくと、群れとも呼べる大量の妖魔たちが、幻術で隠れたまま潜伏している場所を発見。

 どうみてもそこに誘導しているよう。心なしか誘導役をしている妖魔も、早くいきたいとばかりに速度が上がっているように感じる。



『ピユィーィュー……』

『う~ん、司令塔がこなせそうな個体はいないな』

『ただの罠の内の1つでしかないのかもしれないわね』

『ならどうしよっか。とりあえず、やられた振りでもして倒れてみる?

 そのまま食べようとするなら蹴散らせばいいし、親玉のところに持っていこうとするなら、やられた振りをしてればいいし』

『なんなら兄さんがテイムしてしまうのも手かもしれませんよ?

 あんなのはいらないでしょうが、情報源としては役に立つでしょうし』

『それが一番手っ取り早いか──』

『ピュィイ』

『どったの? カルディナちゃん』

『また何か来るみたいだ。今度は何だ──って、こっちは本物の小妖精たちっぽいな……』



 複数人の小妖精たちが、猛スピードでこちらに向かって飛んできているようである。



『えっと……それじゃあ小妖精さんたちと、この妖魔ってのは、お仲間さんだったってことなの? パパ』



 まだ断定はできない。が、ニーナのその言葉を否定もできない。

 いずれにせよ、このまま無視して小妖精たちの反応を見れば何か分かるだろう。

 竜郎たちは足を止めずに、罠を張っているポイントまでノコノコとついていく。


 そうしている間に、飛行速度を上げた小妖精たちが近寄ってきて──。



「何をしている人間っ! そいつらは妖精などではない! ただの魔物だっ! 早く山を降りろ!!」

「「「「「ビギィィッィィイイイイッ」」」」」



 ──山を降りるように怒鳴り込んできたかと思えば、そのまま竜郎たちの見覚えのある武器を手に小妖魔たちの群れへと小妖精たちが突撃していく。


 狩りの邪魔をされ怒り狂った知性なき小妖魔たちが、毒の霧を口から吐きつけながら応戦していく。



「なめるな!」

「ビギィ──」

「消え去れ!」

「ギィィイイ──」

「はぁああっ!!」

「ギャビッ──」



 大人の小妖精。それもリアが作った武器を手にした小妖精たちに、ただの妖魔が勝てるわけもなく一方的に散っていく。

 けれど向こうのほうが、数は圧倒的に上。蠅の群れのように四方八方に散開して飛び回る妖魔たちに、小妖精たちがうっとうしそうに眉根を寄せる。



「よかった。お仲間じゃなくて、助けようとしてくれてたみたいだね」

「ああ、ここの本物の小妖精たちは、今も優しいままだったな」

「なにを呑気に話している! 今のうちに──」



 竜郎たちを守るかのように盾を持った小妖精が、じれたように声をかけてくる。

 ──が、それはレーラの静かな、それでいて強者の力がこもった声にかき消された。



「その必要はないわ。小妖精さん」

「──え?」



 視界に見える範囲が凍結する。しかし小妖精たちにはまるで影響を及ぼさず、妖魔たちだけが氷漬けになって地面に落ち砕け散っていく。


 まさに一瞬。やたらと数だけ多かった妖魔たちが全滅した。

 数体くらい情報収集のためのテイム要員として残そうかとも思ったのだが、ここは小妖精たちの信頼を得るために駆逐したほうがいいだろうという判断である。


 その光景に戦闘で荒ぶっていた小妖精たちの心が、まるでその氷で冷やされたかのように寒気を感じた。



「お、お前たちは一体………………」



 得体のしれないものだと、竜郎たちから距離を取りはじめる小妖精たち。

 少なくとも危害を加えようとすればいくらでもできたのに、それをしていない時点で敵ではないだろうとは思ってくれているようではあるが。



「こんにちは。どうやら助けに来てくれたようで、ありがとうございます。

 僕たちは小妖精たちの悪い噂を聞きつけ、その真相を探るために調査していたものたちです。

 先ほどの妖魔や、あなた方の行動で、なんとなく状況が読めてはきましたが、詳しい話をしてもらうことはできませんか?」

「は、はあ……。って。それは!」



 そう言いながら竜郎が出したのは、炎山の小妖精に作ってもらったほうの妖精輝結晶。

 姿は念のため未だに偽ったままなので、直接的に関係ないほうの安心の証明を示したのだ。



「──我々の同胞に縁がある人たちでしたか。分かりました。現在の我々のリーダーの元へと案内します。

 ここではあの魔物どもが、またやってくるかもしれません。そちらで詳しい話を、お聞かせいたしましょう。付いてきてもらえますか?」

「ええ、もちろんです」



 周囲を警戒している小妖精たちの様子に、やはりあそこにいた妖魔たちが全てではなかったと確信を持ちつつ、案内を買って出てくれた小妖精たちの後に続いていくのであった。

次話は水曜更新予定です。

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