表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の革命児  作者: 亜掛千夜
第七章 おつかい編
114/451

第113話 おつかいの真実

 属性物質の分割。小妖精の救出。そのどちらも、無事……と言っていいかは分からないが達成はした。

 だが現在、小妖精たちの戦力はあの骨鎧フクロウのせいで激減している。


 あと10年程度ここで暮らしていてもらえれば、完全にこの場も安定を取り戻すとのことらしいが、それまでにまた強い魔物が現れ別の場所に逃げられてしまうと微妙に等級神たちの計画が狂ってしまう。

 いてもらうためにも、戦力を増強しておきたいところ。



「なら私の暇つぶしで作った装備品でも渡していきましょうか」



 ここで竜郎たちが10年間守ってあげるのも難しいので、リアのその提案を採用することにした。



「僕らはこれでここを離れなくてはなりませんが、少し心配なのでこれを受け取ってもらえませんか?」

「──命を救ってもらっていただいたうえに、これほどのものは受け取れませんよっ!」



 竜郎が現在の代表らしい男性小妖精に差し出したのは、短杖が10本、ナイフ5本、短槍が5本、小盾が5つ。

 素材もとは竜郎たちからすれば、そこまでではないが、一般的に高水準な装備品と言ってもいい代物。

 さらに小妖精たちでも軽々持てるほど軽いものばかりを厳選したので、15センチサイズの小妖精たちでも振り回すことはできるだろう。




 それから多少の押し問答はあったものの、ここの小妖精たちから竜郎を含めた全員に雷の妖精煌結晶を作ってもらうということで話が付いた。


 妖精煌結晶はそもそも小妖精と他者の魔力が必要なので、今持っている妖精煌結晶は竜郎と結びつきが強いものだけ。

 そのせいで竜郎しか、これを持っていても小妖精たちの信頼の証として使うことはできなかった。


 けれど愛衣やカルディナたちも作っておけば、彼女たちも証として使うこともできるし、竜郎以外の力が混じった妖精煌結晶を素材として使ったとき、はたして違いがでるのかとリアが興味を示していたので、こちらとしても十分ありがたい報酬だ。


 そうして竜郎、愛衣、リア、レーラと作っていき、ニーナの番になる。

 しかし本来は小妖精と対象者の魔力で作るものなので、魔力を持たず竜力を持つニーナでもできるかどうかは本人たちにも分からなかった。


 けれどニーナは子供っぽい言動が目立つが、才能や感覚はピカ一だ。

 うまく相手に合わせて、見事一発で竜力での妖精煌結晶を生成して見せた。



「竜力で作ったからといって、これといって物質に違いが出るわけではなさそうですね」



 ニーナの因子が入った妖精煌結晶ではあるが、違いはそれだけ。

 結局は小妖精依存の生成術なので、できあがった代物に関しては竜郎たちの魔力製のものと大差はないようだ。

 けれどこの違いが魔物の創造では生きてくるかもしれないので、竜郎はちょっと嬉しそうにしていた。


 それからニーナができたのならと、ダメもとで楓や菖蒲の分も作れないかやってみてもらうことになる。



「「うー?」」

「も、もう少し竜力を抑えてもらえるとありがたいです──」

「──こ、こちらも同じくっ」

「カエデ、アヤメ。もうちょっと軽く、軽ーくだよ」

「あう!」「うー!」



 成功させたニーナが真横で見守りながら、力の調整を身振り手振りも交えて必死に楓と菖蒲に教えてあげているが、なかなか上手くいかない。

 まだ小さい子には無理かと竜郎たちも心配そうに見つめる中、最初に菖蒲が成功させた。


 これは菖蒲のほうが優秀だったというよりも、相手の小妖精の調整が楓のほうの小妖精よりも上手かったからである。

 けれどいつも一緒にいる妹に先を越されて少し不満だったのか、ここで楓は今までにないほどの集中力を見せつけ、一気に成功までもっていってしまった。

 楓の相手をしていた小妖精の女性も、これには驚き目を丸くしていたほどに。



「うっうー!」

「あう~♪」

「「うー♪」」



 姉妹で「やったぁ!」「よかったね♪」とでも言い合っているのだろうか、楓と菖蒲が赤ちゃん言葉で仲良くはしゃぎはじめた。



『竜王種の名はダテじゃあ、ないみたいだね』

『真竜とかその側近眷属を除けば、最高位の竜種だからなぁ。にしても、そんなに嬉しかったのか』

『そもそも元が優秀すぎて、苦労というものをあまりしたことがない子たちだったし、達成感みたいなものも一入ひとしおなのではないかしら』

『ふふっ、カエデさんとアヤメさんが、自分の専門の武術スキルを決められるくらい大きくなったら、あれで装備品を作ってあげれば喜んでくれるかもしれませんね』



 竜郎たちは楓たちの分も無事手に入れることもできたので、そろそろお暇することになった。



「ほんとうに、これらを貰ってもよろしいのでしょうか?」

「ええ、あなたたちの身を守るために役立ててください」

「にーたん、いったうの?」

「ああ、俺たちも他にやることがあるからな」



 竜郎にどこに住んでいるのかと聞いた小妖精の子が、もっといてほしそうに顔の近くを飛び回るが、ここは本来いるべき時間軸ではない。無用に長居するものでもない。

 竜郎は「ごめんな」と言って、人差し指で小妖精の子供の頭をなでた。



「みんなを、たちゅけてくれて、あーあと。いちゅか、おれーしゅるね」

「気にしなくてもいいって。でもそうだな、それならその分、大きくなったら君より小さい子たちを守ってあげてくれ」

「しょんなのあたいまえ。でも、しょれが、おれーになうの? おにーたん、うれしくなう?」

「ああ、なるさ。元気いっぱいのまま、大人になるんだぞ」

「うん!」



 子供だましのような問答だったが、この子が竜郎にお礼を言いに来ることはないだろう。

 だからこそ、ここで皆を守れるくらい元気に育ってほしいという思いを込めてそう言った。


 どうしてそれがお礼になるのか──という顔をしていたが、それが竜郎も嬉しいというのなら否はないと、最後は笑顔で離れてくれた。


 そうして竜郎たちは小妖精たち総出で見送りをされ、彼らの視線がなくなったところで転移で元の時間軸へと帰還したのだった。




 元の時間軸のカルディナ城地下に戻ってくると、さっそく等級神から竜郎へ連絡が入った。



『手間をかけさせて悪かったのう。しっかりと借りを受けたこと、儂が記憶しておこう』

(どういたしまして。それで、おっさ──ヤメイト・ゴレースムの居場所を教えてもくれるんだよな?)

『うむ。そちらも心得ておる。というより、すでにどこにおるのかは調べ済みじゃ。マップを開いてみてくれ』



 等級神に言われた通り、システムを開き《完全探索マップ》でマップを展開する。

 すると「ヤメイト・ゴレースム」と書かれた赤いビーコンが、一か所をさして止まっていた。



『そこが探し人の場所じゃ。途中で移動しても発見するまでは追尾するようにしておいたから、見失うこともないじゃろうて』

(これなら分かりやすい……んだが、ここってもしかして)



 ビーコンが指しているのは、セルパイク大陸の雷山近くの山の中。

 まさに竜郎たちが、さっきまでいた場所のすぐ近くである。これでなんの関係もないなんてことが、ありえるのだろうか。

 そんな疑問の感情が伝わったのか、竜郎が何か言う前に等級神から説明をしはじめてくれた。



『意識されて違った行動をおこし、今に繋がる世界が不安定になるのは困るから黙っておったのじゃが、そもそもあの地のあの時代には、お主たちが行っておく必要があったのじゃ。

 でなければ、そのヤメイトというお主たちと会った男は、この世にいなかったじゃろう』

(それはどういう……? 俺たちがあの時代に行っていなければ、おっさんは生まれることもなかったということか? それとも出会う前に死んでいたとか?)

『存在はしていたじゃろうし、死んでもおらん。

 じゃが、お主たちと出会ったヤメイト・ゴレースムという男は存在せんというだけじゃ』



 ますます意味が分からないと、竜郎は首を傾げた。



「実はのう。あそこで助けた小妖精によって、ヤメイトの父親が一度命を救われておるのじゃ。

 もしあそこで救っていなければ、ヤメイトは父を失い、その後、赤子のまま母を失い、孤児として生活することになっておった。

 そうなっておったら、お主たちと出会うこともないじゃろうし、ヤメイトという男は名前も人格も違う別人であった可能性すらある』

(…………今回行動していなかったら、俺たちの知っているおっさんが、いなかったということか)

『うむ。そもそもこれは、お主たちの世界に帰るための調整作業に組み込まれていたかもしれない事象じゃったしのう』



 どうやら帰界のために過去、未来へ行動していた結果、行かなくても大丈夫なレベルまで他で調整されてしまったので、神たちも竜郎たちが帰ることを優先し一時保留にしてくれていた事案だったのだそう。


 さていつ切り出そうかと考えていたとき、ちょうど件の人物の話になったので、ここぞとばかりに等級神が話を振ってきた──というわけである。



(そんな裏があったとは……。他にそういうのは、もうないのか?)

『あるかもしれんし、ないかもしれん。先ほども言うたが、もし今回のようなケースが他にあったとしても、儂らはタツロウたちに変に意識せず自由なままに、そのときの状況で動いてもらう必要がある。

 じゃからなにも言えん。これからも、もし手伝ってくれる機会があったのなら、気にせず動いてほしい』

(それもそうか。いちいち気にしながら行動するのもうっとうしいし、俺もそれでいいや。

 それにそれを知っても、今後も依頼を受けるか受けないかは俺たちが決めてもいいんだろ?)

『うむ。もちろんじゃ。そもそも、お主たちはこの世界の住人ではない。タツロウが無理なら、他のこの世界の住人に頼むだけじゃ。

 受ける受けないも変に気にせず、そのときの状況や思いのままに選択してほしい』

(分かった。言われた通り気にしないし、嫌だと思ったらきっぱり断るよ)



 『うむ』と静かに頷く気配とともに、等級神との会話が途切れた。

 さっそく今の話を皆にも聞かせていくと、そうだったのかと楓や菖蒲以外のメンバーは驚いた。



「まさか今回の雷山の一件が、おっちゃんと繋がるとはねぇ。けどそれと、おっちゃんが今、雷山の近くにいるのはどういう関係があるのかな?」

「さあ? 行ってみれば分かるんじゃないか?」

「なら直ぐに出発しましょうか。皆さん、それほど疲れてもいませんよね?」

「「あう!」」

「カエデとアヤメも大丈夫みたいだね」



 一番年少組もまだ元気いっぱいだ。帰ってきた時間も、まだまだ昼過ぎ程度。

 隣の大陸などすぐに行けるので、行って帰ってきても夜になる前には帰還できるはずである。



「なら、すぐに出発しよう」



 ヤメイトが何故、あの雷山の近くにいるのか。それは竜郎も早く知りたいところでもあったので、カルディナ城の地下を出てそのまま再びセルパイク大陸へと急いだ。




 竜郎が細かくマップに表示されたビーコンの位置を確認しながら、まっすぐヤメイトのいる付近までやってきた。

 今回は念のために正規の手続きを踏んできたので多少時間はかかったが、それでも誤差の範囲だろう。


 しばらく山の中をえっちらおっちら歩いて進んでいくと、簡易的な土魔法で作られた柵や小さな家々が並ぶ場所が遠目に見えてきた。



「地図によると、あの辺なんだが……」

「なんだか集落らしきところがあるけれど、あそこってことかしら?」

「わっかんないけど、とりあえず行ってみよっか」

「さんせー」「ピュィー」「「あぅ」」



 ニーナもちゃんと小さくなっているので、現在竜郎たちは威圧的な要素ゼロだ。

 これなら知らない集落を訪れても、恐れられることもないはず。


 竜郎たちはゆっくりと、その集落らしき場所へと近寄っていく。

 するとその集落の少年少女がまっさきに気が付き、なにやら大人に向かって話しかけている様子がうかがえた。


 のそのそと大人たちが誰だろうと、入り口あたりに集まりはじめる。

 警戒心は多少持たれていそうだが、近寄ってくるなという雰囲気は一切感じられない。

 なのでできるだけ顔には笑顔を浮かべ、努めて友好的にふるまいながら接触を試みることにした。



「はじめまして。僕の名前は竜郎、波佐見です。少々お尋ねしたいことがありやってきたのですが、少しよろしいでしょうか?」



 竜郎がそう声をかけると、老齢の日に焼けた浅黒い男性が杖をつき前に出てきた。

 そちらも礼儀には礼儀をと軽い挨拶とともに、ここのまとめ役──長をしていることを教えてくれた。



「それで儂らのキャンプ地になんのようですかな? ハサミさん」

「実は人探しをしていまして、こちらにヤメイト・ゴレースムという男性はいらっしゃいませんでしょうか?」

「やめいと・ごれーすむ? ああ、ああ、おりますとも。あの客人の知り合いでしたか。

 こんな所までわざわざ来たということは、なにか重要な話でもあるのでしょう。どうぞお入りくださいな」

「ありがとうございます」



 やはりレーラ以外外見が子供だからか、ほとんど警戒されずに中へと通された。

 ここで待っているようにと言われた、小さな土の家の中で待機していると、やがて探し人を連れた長が帰ってきた。



「呼んできましたぞ? この方で間違いないですかな?」



 現れたのはボサボサの白い髪、白い髭。顔のシワも増え、頭部も多少薄くなっているが、やる気のなさそうなボケっとしたその顔は、間違いなく竜郎たちが探していた人物と瓜二つ。


 むこうも、こちらを見て何かに気が付いたようだ。カッとその目を見開いた。

 竜郎も愛衣も、懐かしく思いながら呼びかけ──。



「おっさ──」「おっちゃ──」

「おめぇ、レーラじゃねーか! 懐かしいなぁ」



 ──ようとしたのだが、竜郎たちの顔ではなく、レーラの顔を見て目を見開いただけだったのであった。



「「──俺(私)らじゃないんかい!」」

「ああん?」

次話は水曜更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ