第112話 小妖精救出
カルディナの方には強い魔物探しをメインで任せ、竜郎は小妖精探しをメインに再び集中していく。
「ん?」「ピュイ?」
竜郎とカルディナ双方が、探し物の反応に気が付いた。
「小妖精とそれを追う何かの反応があった。すぐに行こう」
竜郎たちが速度を上げてそちらのほうへと赴いてみれば、青い火花を散らす金髪と雷でできたような服を身に着けた、幼い顔の10センチ程度の翅が生えた小人たち数十人が、50センチほどの大きさをした、白い骨の鎧をまとったフクロウの魔物3体に追いかけられていた。
あの大きさからすると小妖精の中でも、まだ言葉を解さない幼体の子供だろう。
1人、また1人と鉤爪にわしづかみされて、大きな嘴にバクンと飲み込まれていく。
「──はっ!」
これはまずいと愛衣が天装の弓──軍荼利明王を《アイテムボックス》から出すと、気力の弓矢をつがえて骨鎧フクロウを1体射殺した。
それと同時に捕まえられる寸前だった小妖精の前に転移でやってきた竜郎が、骨鎧フクロウの脳天に細いレーザーを撃ち込んで始末する。
最後の3体目も、小さいままのニーナが拳で破砕したところで骨鎧フクロウたちは全滅した。
「ピピッ……」
「ピィ……」
「ピピィ……ピピッ」
「今度は私たちが恐がられてるみたいですね」
あの骨鎧フクロウでさえ逃げるしかなかったというのに、それを一瞬で蹴散らした存在に勝てるわけはないと、ポロポロと小さな目から静かに涙を流し、残った30人ほどの小妖精たちは身を寄せ合っていた。
「ニーナたちは恐くないよー?」
「ピィッ──」
ニーナに限らず、竜郎たち全員が恐怖の対象に映ってしまっているようで、話しかけると一斉により勢いよく泣いてしまう。
小さな子たちをいじめているような気がして、竜郎たちも心が痛くなる。
「参ったな……。こっちは助けに来ただけなんだが」
「なら、安全な存在だと証明すればいいんじゃないかしら。
タツロウくんは小妖精を信用させられる、アレを持っていたでしょ?」
「アレ? ……って、あれのことか」
アレ──とは以前、炎山にいったときに出会った小妖精たちに貰った炎の妖精煌結晶という属性物質。
これは小妖精に害意をもたず、小妖精に信頼されていなければ手に入れられない代物だ。
さらに小妖精なら、それを貰った本人なのかどうかも感じ取れるので、誰かから盗んできたと勘違いされる心配もない。
まさに小妖精や妖精にたいしての、安全証明にはうってつけと言えるだろう。
竜郎はさっそく妖精煌結晶を取り出し、泣いている小妖精たちの前にゆっくりと手を伸ばし見せてみる。
「……ピィ?」
「ピッ!」
「ピピピィ!!」
「おわっ!?」
効果は抜群だった。その妖精煌結晶にこもった同胞の力と竜郎の力を感じ取り、この人間はいい人だと認識するや否や群がってきた。
はたから見れば、竜郎が体中に小さな人形を張り付けているように見えるほどに。
「もってもてだね、たつろー」
「いーなぁ、パパだけ」
「「うー!」」
「あたしのー!」とばかりに、楓と菖蒲も竜郎の足にくっついてきた。
竜郎は苦笑しながら、まとわりついている小妖精たちの頭を人差し指で撫でていく。
「なんにしても泣かれるよりはいいさ。それで、これで今回のお使いは終わりってことでいいんだろうか」
「……にしては、敵方が弱すぎるような気がしますね。この程度の魔物なら、そこらへんにいそうですけど」
「たしかに、その子たちには無理でも大人の小妖精がいれば対処はできそうだし。
……というか、大人の小妖精はここにはいないのかしら?」
「まだ皆、ここで生まれたばっかりとか?」
「その可能性もある──ん? なんだ? なにか言いたいことがあるのか?」
竜郎たちが話していると、ようやく落ち着きを取り戻した小妖精たちが竜郎のほっぺやら、頭やらをポムポムと叩いて何かを伝えようとしてきた。
何だろうかと小さな目を見つめ返すと、竜郎と目が合った小妖精たちが一斉に自分たちが逃げて来た方角を指さした。
「ピュィー!!」
「あっちにもいるのか!」
解魔法に敏感な魔物を無駄に呼び寄せないようにと、範囲を絞っていたせいで発見が遅れた。
カルディナがそちらの方角のみを集中して遠方まで一気に探査を飛ばしてみれば、別の小妖精のグループらしき存在と、先ほどよりも巨大な骨鎧フクロウの魔物が戦っているのが分かった。
この小妖精たちは、そっちへ行って仲間を助けてくれと伝えたかったようだ。
かなり危ない様子だったので、小妖精の子供たちをくっつけたまま竜郎は連続短距離転移で、カルディナは先導してほかのみんなを誘導してもらう。
そうしてたどり着いたときに見えた光景は、すでに勝敗が付いていて、一方的に遊ばれているようにも見えた。
もちろん、巨大フクロウにである。
残った数名の30センチほどの大きさをした大人の小妖精たちのうちの1人を、足でいじめるように小突いていたかと思えば、周囲に見せつけるように煽ってから丸のみにしているのだ。関係ない竜郎たちが見ても、胸糞が悪くなる。
残っているのは大人の小妖精7人、子供と大人の中間──15センチほどの小妖精たち13人のみ。
巨大骨鎧フクロウは残った大人の小妖精のどれを食べようかと、骨の鎧ごしに見える大きな丸い目をキョロキョロと動かした。
レベルはおおよそ60前後。種族的にも強力な魔物だったらしく、確かに一般人では手に負えない魔物。
さらに雷も骨の鎧がアースのような役割をして大気中に逃がしてしまううえに、物理的な攻撃にも強い。
また飛行スピードも、小妖精たちよりもずっと速い。
全てに劣る雷属性に偏った小妖精たちでは、大人とて倒すのは不可能だろう。
しかし──その全てをもってしても、カルディナの前では意味をなさない。
「ピュィッ!」
「ボッ──」
地上から睨まれ空中で動けなくなっていた小妖精たちの前で、巨大骨鎧フクロウの頭が首からボトリと落ちて血がピュー、ピューと心臓のリズムに合わせて何度か吹き出し、そのまま骸がバタンと音を立てて地面に転がった。
カルディナが遠距離から翼の斬撃を放ったのだ。フクロウの近くにあった雷木も、数本巻き添えをくらって切り飛ばされていた。
「「「「「……………………」」」」」
バチバチと周囲の草木や石が放電する音以外、静寂がおとずれる中、小妖精たちはひと塊になって地面に立ち、首と胴が離れた死骸を恐怖が混じった顔で遠目に見つめていた。
そんな状況下で、音もなくカルディナが小妖精たちから少し距離を置いて前方に舞い降りた。
「「「「「「────ッ」」」」」」
「まった、まった、俺たちは敵じゃない」
カルディナを見て悲鳴をあげそうになった小妖精たちに対し、竜郎がカルディナのすぐ横に転移で現れ妖精煌結晶を見せつける。小妖精の子供たちをくっつけたまま。
この大陸の言語はレーラに事前に教わっていたが、この山奥では独自の言語で会話していてもおかしくないとも思っていたけれど、とりあえずは通じてはいる様子。
子供たちは竜郎から離れ、無事だったものたちと抱擁を交わし喜ぶものの、大人たちの数が減っていることに気が付き悲しそうな顔をした。
ここで懸命に戦っていた大人たちは、はじめ警戒の視線を投げかけてきたが、子供たちをくっつけていたこと、妖精煌結晶を見える位置に持っていたことで、すぐに安全な者たちと判断して胸をなでおろした。
そしてその中の1人の大人の小妖精の男性が前に出てきて、ぺこりと頭を下げてきた。
「我々どころか、この子たちも助けてくれたようで、本当にありがとうございます。
この感謝の気持ち、生涯忘れることはないでしょう」
「いえ、こちらも"こいつ"を始末することを目的としてきていたので、気にしないでください。素材は持っていってもいいですよね?」
竜郎が"こいつ"と言って指さしたのは、巨大骨鎧フクロウの死骸。
この小妖精たちを助けに来たというのが主目的だが、恩に着せる気はなかったので竜郎はそう答えた。
「もちろんです。我々は今後、これに同胞を食われることがなくなったというだけで満足しています」
疲弊しきった顔でそう言う男は、もう見たくもないと死骸から目を離した。
ほかの小妖精たちも同じなのか、誰もがその素材に対して未練を感じている様子はない。
聞くところによれば巨大骨鎧フクロウは突如この雷山にやってきて、小妖精たちを餌とみなし数日おきに少しずつ少しずつ食べ散らかしては去っていくような魔物だったらしい。
このままでは全滅してしまうとあって、この場を去ろうともしていたのだが、あれは眷属を生み出して、逃げ足の遅い子供を執拗に襲わせ、自分の獲物である大人たちが逃げられないように見張られてしまっていたので、それもかなわなかった。
そんな絶望の中で過ごす日々は、まさに地獄であったことだろう。
会話からは、存在すら忘れたいという思いすら感じられた。
ならば遠慮なくと、竜郎は2つに分かれている巨大骨鎧フクロウを収納した。
諸悪の根源が完全に消失したことで、子供たちが竜郎たちに興味を示しはじめた。
ニーナが試しに「おいでおいで」と手招きすると、純粋で好奇心旺盛だからか、その内に秘める力を少し感じ取れても簡単に寄ってきてしまう。
「プリヘーリヤさんたちが、妖精の子供たちを外に出さないようにしている気持ちが、ちょっと分かった気がするね」
妖精郷の女王──プリヘーリヤを筆頭に、大人たちは子供が外界に出ることを禁じている。
それはこの子供たちのように、幼い妖精というのは非常に純粋で簡単に人に騙されてしまうからだ。
もちろん竜郎たちに悪意などひとかけらもないが、内在した力を感じやすい妖精という種族であるにもかかわらず、ニーナほどの相手に躊躇なく近寄れるというのは、少々危機意識に乏しいというほかない。
けれど小さい妖精たちになつかれて、最近さまざまな魔物に避けられてきたニーナの心は癒されているようだ。
ニコニコ笑いながら、小妖精の子供たちと仲良く戯れていた。
そんな光景を大人の小妖精たちと一緒に、微笑まし気に竜郎たちが見ていると、ニーナ以外にも竜郎や愛衣たちにも子供たちが近寄ってきた。
その中の1体が、あの恐ろしい巨大骨鎧フクロウを屠ったとされるカルディナの頭をよしよしと可愛らしく撫ではじめた。
「あーあとー。とりしゃん」
「ピュィー」
幼体ともいえる10センチ程度の子たちと違い、15センチの子供たちは多少だが話すことができるようだ。
舌っ足らずながらも、「ありがとう、鳥さん」とお礼を言ってくれた。
カルディナも「どういたしまして」と、大人しくその撫でつけを受け入れていた。
すると今度は、その子が竜郎のほうに近寄ってきた。
「このとりしゃん、おにーたんの?」
「俺の物じゃなくて、俺の娘──かな?」
「ピュイィー♪」
娘と言われてカルディナは鼻が高そうに胸を張った。
その姿に、この子供は本当のことだと察してくれたようだ。
「おにーたん たちあ、どこにょ、とりさんなにょ? ぼくも、そこにいってみちゃい」
「俺は鳥さんじゃないよ。けど、どこ……か。すっごく、遠いところだから、君は来れないと思うよ。
ここでみんなと仲良く、暮らしたほうがいいんじゃないかな?」
「おしぇーて、おしぇーて!」
この子は悲惨な現状を前に、もっと強くなりたいと日々思っていた。
そしてその到達点ともいえる竜郎たちの強さを知り、同じところで同じ生活をして暮らせば、同じくらい強くなれると子供ながらに思った。
だからこそ、駄々っ子のように竜郎の襟元を掴んでどこに住んでいるのかとせがんだ。
しかし竜郎としては身内以外に、時間軸を転移できることをあまり広めたくはない。
なので竜郎たちにつながる情報は、この時代にあまり残していきたくはない。ただでさえ、妖精はドワーフ以上に長命なのだから。
しかしこの純粋な子を前に、嘘を言うのも忍びない。
そこで竜郎は本当だけれど、この世界ではこちらに行きつかない国の名前を出すことにした。
「ヤマト。って国だよ」
「やみゃと?」
ニホン──では、この世界にはなさそうな語感の名前なので、成長してから嘘をつかれたと思われては悲しい。
そこで、その古称であるヤマトならニホンよりもありそうな名前だろうと、そちらを口にしたのだった。
「そう、ヤマトだ」
「やみゃと、やーみゃーとー、やみぇ、やみゃと! うん、おーえた! あーあと!」
「どういたしまして──って、今度は楓たちのほうに行っちゃったよ。せわしない子だったな」
次話は日曜更新です。




