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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第七章 おつかい編
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第108話 なつかしい再会

 ホルムズから一時帰還した翌日。

 竜郎たちはヘルダムド国のホルムズ領の隣領リャダスに属する、この世界に落ちて最初に訪れた町『オブスル』へと飛び立った。

 今回のメンバーは竜郎、愛衣、カルディナ、リア、レーラ、ニーナ、楓、菖蒲。


 カルディナはオブスルにいた頃に生まれた子なので、久しぶりに行きたいと希望したから。

 レーラは数十年間、冒険者ギルドの職員として暮らしていた町であるのと、ヤメイト探しに協力するために。

 リアは町とは関係ないが兄弟子のことであり、自分が竜郎たちに最初に頼むような視線を送ったからと。

 ニーナ、菖蒲、楓はいつもどおり、竜郎にべったりだ。


 両親たちも竜郎たちが世話になった人ならと、また一緒に来たそうにしていたが、今回はお世話になった人が、もし亡くなっていたときに悲しむであろう自分たちの顔をあまり見せたくないからと連れてこなかった。


 そんなこんなで、ニーナの背に掴まってオブスルの外壁が見える場所までやってきた。

 空から見ると小さなこじんまりした町にしか見えないが、ここは近くの塩湖で採れる高級な塩が有名で、広大なリャダス領でも貴重な資金源となっているほど重要とされる町である。


 外壁はその塩を象徴するかのように汚れ一つなく、真っ白で美しい。

 その壁を大地に降り立ち見たことで愛衣はあることを思い出し、得意顔で口を開いた。



「リアちゃん、ニーナちゃん、知ってた? あの壁はね、全部塩でできてるんだよ?」

「え? 違いますよね?」「そうなの!?」

「「──え?」」



 真逆の反応にリアと既に小さくなっているニーナが、きょとんと目と目を合わせて首を傾げた。



「あちゃー、さすがにリアちゃんは騙せないかぁ」

「そりゃあ、これでも鍛冶師ですよ? スキルを使わなくたって、塩かそうじゃないかくらい分かりますって、姉さん」

「ってことは嘘だったの!? ひどいよ、ママ!」

「あはは、ごめんごめん、ニーナちゃん。でもここに、はじめての人と一緒にきたら、いつか言ってみたいって思ってたんだ」



 愛衣がニーナを抱っこして、謝罪の意味もかねてよしよしと頭をなでる。

 それだけで頬を膨らませていたニーナは、ご機嫌に戻った。



「あの白い壁が塩でできてるっていうのは、あの町で住む人が外から来た人に言う冗談だって聞かされたからな」

「そうなんですか? 兄さん」「そうなの? パパ」

「ああ、ほんとだ。しっかし遠い昔のような気がするけど、俺たちにとっては、ほんの1年半くらい前の話なんだよな。懐かしいよ」

「おじいちゃん、まだ元気だといいな……」



 竜郎や愛衣、カルディナにとってここは1年と半年ほど前に訪れた町。

 けれどとある事情によって、あの町に住まう人たちにとっては37年ほど前のことになっている。

 それだけの時間があれば、当時老人だった男性が死んでいてもおかしくない年月である。


 愛衣はぎゅっと抱っこしていたニーナを強く抱きしめ、少し不安そうな表情をする。

 竜郎はきっと大丈夫だという思いを込めて、その肩を抱き寄せた。



「2人とも、そんなに心配しなくたって大丈夫よ。あの町にとって塩職人は、かけがえのない財産よ。

 毎年、町からの補助金で健康診断も行っているし、もし何かあれば生魔法使いだって呼べるだけのお金がある人たちなんだから」

「だよね!」



 この世界のことをよく知るレーラに励まされ、愛衣はもちろん竜郎も表情が明るくなったところで、仲良くオブスルの町へと歩を進めた。




 田舎町とあってか、町門に並ぶ人もそれほど多くはない。

 少ない列の後ろについて待っていると、すぐに自分たちの番がやってくる。


 まだ新人そうな茶髪の若い門兵が楓や菖蒲、小さなニーナを見て微笑ましそうに笑みを浮かべながら身分証の提示を求めてきた。

 田舎町の住人だから──というのは偏見かもしれないが、竜という存在の凄さもあまり頓着せず、羽の生えたかわいいトカゲさんくらいの認識のようだ。


 最初に来たときはろくに身分を証明することすらできずに、どうしたものかと一時途方に暮れたことを思い出しながら、まずは竜郎と愛衣が自分たちの身分証をシステムから提示して見せた。



「えーと、冒険者ですね。おっ! ランク持ちですか。凄いですねぇ、えーと…………ん?」



 見間違えではないかと目をぐしぐしとこすり、改めて竜郎や愛衣の身分証を交互に見比べ──。



「……じゅ、12? ぎょえ~~~っ!?」

「「ぎょえ~って」」



 男は両手を上げ背をのけぞらせ、なんじゃこりゃとばかりにリアクションをとった。

 今まであった中で一番面白い反応に、竜郎や愛衣はもちろん、リアやレーラですら後ろで見ていて笑っている。

 楓や菖蒲は、その反応をまねして、竜郎や愛衣の横で「ぎょえ~」のポーズをマネしてきキャッキャッとはしゃいでいる。


 けれど門を守る人間が叫べば、何かあったのだと思われるのは必定。

 その若い青年に似た同じ茶髪の30代後半~40代前半ほどの、鎧を着た男が慌てて走ってやってきた。



「なにがあった!? ショ-ン!」

「と、父さ──隊長! ……えっと、その……こちらの方々が、あまりにも……」

「あまりにも?」



 隊長と呼ばれた男性が竜郎たちへと警戒した視線を向けてくるも、すぐにその顔をも見て「ん?」と目を細め首を前に突き出すような動作をする。

 まるで、どこかで見たことがある顔だと言わんばかりの反応だ。


 その反応でレーラは、隊長とやらが誰なのか気付いたようだ。



「あなた、もしかしてディビーさん?」

「え? なんで……──って、レーラさんですか!? 帰ってきたんですね!」

「いえ、用があって寄っただけだから、帰ってきたというのは違うのだけれど」

「レーラちゃん。この人、知り合いなの?」

「知り合いではあるわね、ニーナちゃん。それにタツロウくんもアイちゃんも、顔見知りなはずよ。

 だって、あなたたちに仮の身分証を発行して町の中に入れたのは、そこの彼なんだから?」

「「「……え?」」」



 竜郎、愛衣、ディビーが、思わず双方顔をよく観察しはじめる。

 竜郎も愛衣も、レーラの言葉でなんとなく誰なのか察することはできたが、37年前若者だった男の顔と、今のおじさんとの顔が一致しない。


 なのでその息子らしき若者のほうをちらりと見てみれば、なるほど確かにあのとき竜郎たちが町へ入る、入れないと一悶着があった青年に似ているような気がしてきた。


 ディビーのほうも当時のあれは相当記憶に残るできごとだっただけに、次第に記憶がよみがえってきた。


「き、君たち! あのときの駆け落ちカップルか!」

「「……駆け落ちカップル?」」



 当時は竜郎と愛衣のことを駆け落ちカップルだと認識していたディビーだが、そう思われていたことを知らない竜郎と愛衣は不思議そうな顔をする。



「い、いや、ありえないでしょう、レーラさん。だって姿が、まるで変わってないじゃないですか。

 あれから何年、経っていると思っているんですか」

「うーん……。私みたいなものだと思ってくれれば、いいと思いますよ?」

「レーラさんみたいな? ……なるほど、よく分かりませんが、長命な種族だったというわけですか」

「ええ、まあ」「うん、そーかな」



 竜郎も愛衣も説明が面倒くさいので、そういうことにした。


 ──と、ここまで黙っていた青年門兵のショーンが、おずおずと父の手を引っ張って近くに寄せると、今までディビーが見たこともないほど尊敬のまなざしを向けてきた。



「すげーよ父さん! あの人たちと知り合いなのかよ!」

「え? ああ、まあ、そうだが、それがどうかしたのか? 昔ちょっとした縁で知り合った程度だぞ?」

「それでもスゲーよ! まさか超高ランクの冒険者さまに顔を覚えられてるなんて、マジでスゲーよ!!」

「超高ランクの冒険者さま……?」



 地球での認識で例えるのなら、普通のサラリーマンだと思っていた自分の父親が、世界的にも有名なハリウッドスターに認知されていた──くらいの感覚だろうか。


 仕事中にも関わらず、すっかりいつものおバカな息子に戻っていることに眉をひそめながらも、表示されっぱなしの竜郎と愛衣の身分証へと視線を向けてランクをなんの気なしに目にとめ──。



「ぎょえ~~~っ!?」

「「親子だなぁ」」



 ──息子と同じリアクションをとって、竜郎たちを笑わせた。


 しばらくして落ち着いたところで、ここの門兵の隊長であるディビーが直々に許可を出してオブスルに入れるようになった。



「失礼しました。しかしあのときの少年と少女が、こんなにすごい冒険者になるとは驚きです。知り合いというだけで鼻が高いですよ。

 これはゼンドーさんにも感謝しませんとな」

「……ということは、まだゼンドーさんはご存命なんですか?」

「え? あははっ、まだまだ死にゃあしませんよ、あの人は。

 110歳近いってのに、若い塩職人たちに毎日のように指導してるくらいですからね」



 思わぬところで朗報が聞けて、竜郎や愛衣の表情がパッといつも以上に明るくなった。

 ゼンドー・バウリンと呼ばれる人物こそ、竜郎たちがこの世界にきてはじめて親切にしてくれた、異世界人のおじいさんである。



「元気そうで本当によかった。ぜひ挨拶に行きたいんですが、ゼンドーさんのお宅は以前と同じ場所でいいんですかね?」

「そこであってますよ。奥さんもまだご存命ですし、夫婦で仲良く今もずっと同じ家で暮らしてます。

 いちおう私のほうで案内することもできますが、必要ですか?」

「いいえ、大丈夫です。場所ならちゃんと覚えてますから。

 ああ、でも、もう一つ伺いたいことがあるんですがよろしいですか?」

「はい、いいですよ。ごらんとおり、あそこにいるバカ息子1人で十分みたいですからね」



 竜郎たち以外にもちらほらと町に入っていく者たちはいるが、大した数ではない。ショ-ン1人でも、暇を持て余すほど。



「ヤメイト・ゴレースムという人物が以前この町に暮らしていたかと思うんですが、その人は現在この町にいますか?

 商会ギルドには属してないフリーランスの鍛冶師で、今だと年のころはおよそ70歳くらいだと思うんですけど」

「ヤメイト・ゴレースムという、フリーの鍛冶師ですか……? はて………………ああっ、あの鍛冶師ですか。若いころに何度か見たことはありますよ。

 あーでも、今はもうこの町にはいませんね。それこそあなた方が町を出て行ってからずっと、見てま────いや、待てよ。一度だけ帰ってきたような……」

「ほんとですか!? それは、いつ?」

「う~~ん……いつといわれましても、けっこう前のことですし……すぐにまた町を出て行ったと記憶してます。前の家に忘れ物をしたからとかなんとか」

「忘れ物……? 今現在、その家は?」

「たしか空き家として残ってるはずですよ」

「僕らが中を確かめることは可能ですかね?」

「私では何とも……、そういうのは町長に聞いてもらえればいいとおもいますよ。きっと力になってくれるでしょう」

「町長さんのところですね。わかりました。お仕事中、いろいろ質問して申し訳ありませんでした。とても助かりました、ありがとうございます。

 では僕らは、まずはゼンドーさんのところへ行ってみたいと思います」



 ディビーと別れて町の門をくぐる。

 37年経っても変らない景色に、懐かしさがこみ上げつつも竜郎たちはまっすぐゼンドーの家がある方向へと歩みを進めていく。


 すると、しばらく進んだところですれ違った70代前半の女性が、ぎょっとした顔で竜郎と愛衣の顔を見て立ち止まった。



「あ、あなたたちは……」

「「え?」」



 思わずこちらも立ち止まり、その女性に視線を向けるとますます彼女の顔は驚きに染まっていく。

 レーラは一瞬だけなんだろうといった表情をするが、すぐに事情を察して1人「ああ、この人は」と納得した。



「何か僕たちに御用ですか?」

「やっぱり……そうよね? あの、あなたたち、エルレン・ディカードという名前に心当たりはないかしら?」

「エルレン・ディカードさん……? 確かになんか聞いたことが──って、もしかして、たつろー」



 愛衣の脳裏に、この世界で最初にみた異世界人……の死体が思い浮かんだ。

 内臓を食い荒らされた無残な人間の死体など、あのときはじめて見たのだから鮮明に記憶に残っている。

 それは竜郎も同じようで、愛衣に小さく頷き返した。



「ああ、間違いない。その名前を聞いてくるということは、もしかしてあなたはエルレン・ディカードさんの奥さんですか?」

「ええ、そう。すぐに分からないのは無理はないわよね。けどあなたたちは、なぜか年を取っていないみたいだからすぐに分かったわ。

 私はマリオン・ディカードです。その節は、ちゃんとお礼を言うこともできずにごめんなさい」



 エルレンが遺した手紙に書かれた依頼をかなえるために、竜郎たちは彼女に37年前に出会ったことがある。

 そのときに旦那さんの死を伝えたのも、竜郎と愛衣だった。


 けれど夫の死にショックを受けた余り、彼女は竜郎たちに対してあまりいい対応ができなかった。

 そのことを今でも悔いていたようだ。

 その謝罪の言葉に、竜郎も愛衣も笑顔で「気にしてませんから」と伝えると、マリオンはどこか救われたような顔をしていた。



「確か息子さんがいたよね? 私たちが届けたエルレンさんのナイフは、役に立ってるかな?」

「ええ、とても。今はもう、この町から出て行ってしまったけれど、手紙でいろいろと現状を伝えてくれてるわ。

 そんなに高くはないけれど、冒険者ギルドからランクも貰ってるらしいわ。これも、あなたたちのおかげよ。本当にありがとう」

「そっか。それなら私たちも、エルレンさんの願いを叶えた甲斐があるってもんだよ」

「あなたたちは、まだ冒険者を続けているの?」

「ええ、そのほうがいろいろと自由ですからね」

「なら、いつか息子とも会うことがあるかもしれないわね」

「息子さんの名前はなんていうの? もし会うことがあったら、お母さん元気そうだったよって教えてあげられるけど」

「あらほんと? 息子の名前はエルウィン・ディカードというの。もし会うことがあったら、よろしく言っておいてもらえるかしら」

「全然いいよ、そんくらい」



 愛衣がぐっと親指を立てて満面の笑みを浮かべると、「変わってないようで嬉しいわ」とマリオンは微笑んだ。

 そしてもう一度竜郎と愛衣にお礼を言って、自分の家のほうへと歩き去っていくのであった。

次話は金曜更新です。

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