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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第六章 活動域拡大編
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第104話 ボードゲームの可能性

 ミカエルの病気が癒え、ピーターたちが涙の抱擁を交わしたのを見届けた竜郎たちは、それぞれの家に転移で帰宅した。

 カリフォルニアではまだ昼前だったのに、帰ってきたら深夜。まだなれない一瞬の昼夜逆転に違和感を感じながらも、そのまま眠りについた。




 昨晩は夜更かし気味ではあったが、今の竜郎も愛衣も眠らなくても活動できる体なので、平気で起床し学校へと向かった。


 来週の月曜日、火曜日が中間テストだと再三教師陣が口を酸っぱくして言う授業も終わり、愛衣も一緒に波佐見家に帰ってみれば、段ボール箱が玄関の近くにいくつか詰まれていた。


 なんだろうと近寄って確認してみれば、仁名義で大手通販サイトAmadonからの届け物だった。

 奈々もリアもまだ友達と遊びに行っていて今帰宅中らしいので、自宅警備員として定評のあるアテナが受け取ってくれたのだろう。



「届いたんだな」

「仁さん、なに頼んだの?」

「あれだよ、あれ」



 愛衣の問いかけにそう答えながら、竜郎は遠慮なく段ボールを開けていく。

 いくら家族だからといって勝手に人の荷物を開けてもいいのだろうかと愛衣は疑問に思ったが、箱から出てきた物を見て納得した。



「ああ、私が奈々から聞いてたオススメのボードゲームね」



 リアと一緒に学校に行っている奈々ではなく、愛衣の友人ほうの奈々子に以前たずねていたボードゲーム。

 ドイツで探すのもいいが、有名どころは日本でも通販で気軽に買えるとあって、サンプルとして何種か仁のアカウントとキャッシュカードで注文しておいたのだ。

 もちろん承諾済みなうえに、お金はちゃんと前払いで払ってのことである。


 段ボールや箱を包んでいた薄紙を《無限アイテムフィールド》にいれて処理し、ゲームの箱を持ってリビングで広げてみた。


 予想よりも多い数に、ウリエルが目を丸くする。



「しかし聞いてはいましたが、ボードゲームと一言で言っても、かなり種類があるのですね。ルールを覚えることも考えると、難易度が高いように感じます」

「案外やってみながらルールを説明すれば、すぐ覚えられちゃうんだけどね。なんなら明日にでも皆でやってみる? ちょうど土曜だし」

「俺も向こうに持っていくならルールくらいは一通り知っておきたいし、それがいいかな?」

「んじゃあ、決まりだね。レーラさんでもいいかな?」

「ええ、いいわよ。私もやってみたいしね」



 今日も学校で授業を聞いていたので一緒にいるレーラも、乗り気なようだ。



「でも愛衣はこれ全部のルールを知ってるか?」

「だいたい奈々んでやったことあるから大丈夫……って、これは知らないなぁ」



 ボードゲームの箱を色々みていた愛衣が、その中のいくつかをさして首を傾げた。



「…………これは助っ人を呼んだほうがいいかな?」

「助っ人ってだあれ? ママ」

「私の友達の奈々子だよ。柿原奈々子」

「あのメガネをかけた子ね」

「そうその子。これをお勧めしてくれたのも奈々子だし、詳しいからね。でもまあ、来週テストだから来てくれるか微妙なんだけど」

「そのときはネットとかで調べながらやればいいだろう。マイナーなのは、ないっぽいし」



 ということで翌日。レーラの家に時間があいているメンバーたちが集まった。

 レーラの家は何気に大きいので、大所帯でも十分なスペースが取れる。


 現在、集まっているのは竜郎、ニーナ、楓、菖蒲。

 カルディナ、ジャンヌ、アテナ、奈々、天照、月読。

 リア、レーラ、彩人&彩花、ウリエル、アーサー。そして愛衣の母──美鈴。

 プラス、おまけで豆太。


 ──と大所帯の中、さらに今日は外からゲストを呼んでいる。

 今はその子を愛衣が迎えに行っている真っ最中なので、彼女もまだいない。


 昨晩、愛衣が交渉したところ奈々子が来てくれることになった。

 テスト勉強はもう十分にやっているので、息抜きのつもりで来てくれるのだそう。

 ちなみに竜郎と愛衣は今週の日曜には異世界に行ってしまう予定なので、時間的余裕があり大丈夫。


 また今回、異世界事情を知らない奈々子がくるということで、ニーナは5~6歳の子供に。

 ジャンヌは超小型のファラベラ種のウマに。天照と月読は認識阻害状態に。それぞれ見えるように魔道具で調整している。


 ──ピンポーン。とチャイムの音が聞こえる。

 「わたくしが出ますの!」と、奈々がたたたっと玄関へと走っていく。


 勝手知ったる家とばかりに奈々が玄関を開ければ、そこには愛衣と眼鏡をかけた少したれ目の少女──奈々子が立っていた。



「こんにちはですの」

「「こんにちはー」」

「あなたが奈々子さんですの?」

「え? うん、そうだけど……私に何か御用かな?」

「用と言うほどではないですが、わたくし『奈々』という名前なんですの。親近感がわきますの」

「ああ、名前が近いんだね」



 近いというよりも、もともと奈々の名前はこの奈々子から愛衣がもじってつけたものなので、似ているのも当たり前だ。



「えっと、じゃあ奈々ちゃんって呼んでもいい?」

「もちろんですの。おかっ──おねーさまも、わたくしのことをそう呼んでくれますの」

「おねーさま?」



 明らかに愛衣ををさして言っているので、どういうことと視線で訴えかける。



「この子はたつろーの妹ちゃんだからね。将来私の妹になるんだから、おねーさまであってるっしょ?」

「気が早いなぁ。ってか、波佐見くん妹いたんだ」

「いるよー。もう1人リアちゃんって子もいるんだよ」

「へー」



 特徴的な喋り口調や家族構成などに関しては、疑問を持たないように魔道具で普段から調整しているので、そちらには特に思う所もなく素直に受け入れられた。


 奈々子は奈々の名付け元となった人物なせいか、奈々も最初から懐いているようだ。

 こっちですのと、この家がはじめての奈々子の手を引き案内を買ってでた。

 奈々子も子供や動物が好きなので、可愛らしい女の子に懐かれてまんざらでもなさそうな顔で皆がいるリビングへとやってきた。


 そしてそこに集まっている面々を見て、絶句した。



「な、なにこれ……。顔面偏差値高すぎ……」



 奈々は、そして奈々子もだが、こちらは超絶美形というわけではないが、十分に竜郎や愛衣と同じくカッコいい、可愛い、美形と表される域に入っていると言ってもいい。


 けれど異世界生まれの特殊な種族であるレーラや彩人、彩花、ウリエル、アーサーは突き抜けて美形だった。


 またリアだって将来大きくなれば、確実に美人が約束されている容姿と言ってもいいレベル。とはいえ、リアの場合は大きくなっても身長150センチくらいが限界のドワーフ種なので美少女止まりなのだが。


 部屋に入るなり飛び込んできたのが想像を絶する美形たちだったために、奈々子は圧倒されてしまったよう。


 だがなんとか現実に戻ってくると、すぐさま愛衣を近くに呼び寄せ内緒話をはじめる。



「ね、ねえ。波佐見くんの親戚って話じゃなかったっけ? 思いっきり外国人さんみたいな見た目なんだけど」

「あー……仁さん、たつろーのお父さんの方の親戚が外国人さんと結婚したんだよ。

 だから日本育ちのハーフさんって感じ?」

「な、なるほど。しっかしあの金髪の男の人、まじで美形ね。ハリウッドスターかよってレベルじゃん。

 それにあそこの金髪の男の子も、逆光源氏作戦を考えちゃいそうなくらい可愛い顔してるし。どーなってんのよ、この家は」



 アーサーと彩人のことをさして、奈々子はそう言った。

 しかしどうなってんのと聞かれても、答えようがないんだけどなぁと愛衣が言葉に窮していると、レーラがにこやかに近づいてきた。



「いらっしゃい。今日は私たちのために来てくれてありがとう、ナナコさん。私が家主のレーラです。よろしくね」

「な、奈々子です。こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」



 そのおかげで先ほどまでの会話は流れ、レーラを筆頭にウリエルやアーサーたちも順番に挨拶を交わしていった。

 魔道具のおかげで普通の鷲にしかみえないカルディナ、小型馬にしかみえないジャンヌなど、一般家庭ではなかなかお目にかかれない動物に目を白黒させながらも、一通り挨拶も済んだところで、さっそく簡単なゲームから触ってみることになった。


 愛衣でも知っているゲームもあるので、愛衣と奈々子に分かれて2グループで説明を受けながらやっていく。


 愛衣のほうには竜郎、リア、ニーナ、楓、菖蒲、カルディナ、ジャンヌ、アテナ、天照、月読、美鈴。

 まずは愛衣、竜郎、リア、ニーナで、4人対戦ができるものを選んだ。

 それは9×9マスの盤上内を十字に一歩ずつ進めるコマを移動させ、他のプレイヤーより先にゴールに到達することを目指すゲーム。


 手元にはそれぞれ5枚の壁があるので、それを設置して相手の道筋を邪魔するか自コマを進めるかを選択し、いかに有利に立ち回るのかを考えるのが意外と難しいが、やり方はいたってシンプル。

 すぐにゲームをスタートし、それぞれコマを進めたり、壁を置いて相手の妨害をしたりと進行していく。



「これは相手がゴールできる道筋を、最低1個は用意しとかないと駄目なんだよ。

 だからニーナちゃんがやったように、ここに壁を置いちゃうのダメー」

「えー、そうなの? 完璧な手だと思ったのになぁ」

「それが成立しちゃうと、ゲームにならないからな」

「ちなみに相手のコマと対面した場合は、どうすればいいんですか? 姉さん」

「その場合は、斜めに行ったり飛び越えて2コマ進むことができるから狙ってやるとお得だよー」

「なるほど。相手側に、それを利用されないようにも考えたほうがいいんすね。

 ちょっと面白そうっす。それが終わったら、あたしにもやらせてほしいっす」

「いーよー」



 少しの疑問は出てくるが、すぐに理解して局面は進んでいく。

 完全に異世界の住民であったリアやニーナも、十分楽しめている。


 一方、奈々子の方には奈々、レーラ、彩人、彩花、ウリエル、アーサー、豆太たちが。


 こちらは赤と青の印が付いたお化けのコマを動かして、相手の青のコマを全て取るか、自分の赤のコマを全て相手に取らせるか、はたまた相手側の盤面の両端にある出口まで自分の青コマを移動させられれば勝ちという3通りの勝利条件がある。

 当然ながら、どのコマが赤か青かは、自分の物しか分からないようになっている。


 2人プレイのゲームなので、奈々子は参加せずに奈々と彩人&彩花with豆太の対戦。



「これは1歩ずつしか進めないんですの? 奈々子さん」

「そうだよ。奈々ちゃん。将棋やチェスはコマによって動きが違うけど、これは全部同じ動きしかできないから、分かりやすいでしょ?」

「「たしかにー」」



 彩人と彩花が頷きながら、自分の赤いコマを一歩進める。

 豆太も興味深げにテーブルの端に手をかけ、彩花の膝の上から見ている。

 そして、それを奈々子が触りたそうにチラチラ見ていた。


 それに気がついた彩花が、奈々子に向けて掲げるように豆太を抱き上げた。



「ナナコさん、マメタ触る?」

「クゥ~ン?」

「いいの? 彩花ちゃん」

「うん。ゲーム教えてくれるお礼」

「で、では……少しだけ──」



 既にルールを理解した奈々と彩人がゲームを進める中、彩花は豆太をそっと奈々子に渡す。

 豆太は触ってもいいよ! とばかりに、大人しく奈々子に抱っこされる。



「はぁ……かわいい。いいなぁ、わんこがいるって」

「ナナコさんには、マメタみたいな子いないの?」

「うちはお父さんが動物ダメな人だから、実家にいる間はイヌもネコも飼えないんだよ」

「それは残念。モフモフなのに……」

「モフモフなのにねー。豆太ちゃん、可愛いねぇ」

「キャンキャン!」



 竜郎たちにさんざん甘やかされ、可愛がられてきた影響か、もはや魔物としての本能はどこへやら。

 豆太は奈々子に全力でよしよしされると、甘えた声で胸に顔を擦り付けて甘えていた。


 他にも何種類か10分やそこらで終わるような軽いゲームに触れていった後は、一度のプレイ時間が長い重めのボードゲームをやっていくことに。

 愛衣は自分が分かるゲームを、分からないゲームを奈々子がと分担してそれらのルールを説明していきながら、実際にプレイしていった。



「このゲームは自分が欲しい資材を集めるために、他のプレイヤーと自由なレートで交渉できるのが面白いですね。

 これなら冒険者たちもパーティメンバーの考え方や、普段接しないような相手とも打ち解けやすいかもしれません」

「熟練のパーティだと、考え方とか接しないメンバーってのはいないかもしれないっすけど、ダンジョンの町になるなら新規で組むことだってあるっすからね」

「こういう和気あいあいとしながら、お互いの親交を深められるツールとして、はやらせるのもいいかもしれないな」



 愛衣の方はプレイヤー間のやり取りが多いゲームだったのもあってか、余計に皆がそう感じたようだ。



「ボードゲームで遊ぶよりも、外で体を動かす方がいいと思っていましたが、これはこれでなかなか面白いですね。弟たちともやってみたい」

「ときに相手と協力したり、ときに反目しあったり、ゲームといってもなかなかに人間性が現れますね、アーサー」

「その人の知らない一面ってのも見られそうね」



 奈々子のほうは、奈々や彩人&彩花は簡単で1プレイの時間も短いゲームのほうが良かったようだが、アーサー、ウリエル、レーラたちはなかなかよく考えられていると、じっくりと腰を据えて遊べるゲームに嵌っていた。


 そんな光景を見た竜郎は、異世界でボードゲームとアーケードゲームは差別化が図れるのではないかと考えた。


 アーケードゲーム。こちらは高レベルにもなるとシステムの恩恵で反射神経なども上がってしまうので、ゲームによってはレベル差で如実に実力差が付いてしまうかもしれない。

 例えば太鼓を叩くリズムゲームをとってみても、反射神経と腕を振るスピードがあれば簡単にパーフェクトを取れてしまうかもしれないので、それではつまらないだろう。

 なのでこちらは冒険者というよりは、商人など町の中で戦いやダンジョン探索以外で生計を立てている人たちに合いそう。


 ボードゲーム。こちらはレベル差や物理魔法などでの差は関係ない上に、複数人でじっくりと遊べるので、コミュニケーションツールとして活用できる。

 単独での行動が難しいダンジョン探索は、仲間あってのもの。

 お酒でも飲みながらボードゲームで親交を深めたり、相手の新たな一面を知ったりと冒険者たちにも合いそう。



(アーケードのほうは異世界用の筐体を完成させて、ボードゲームは異世界用の説明書を用意できれば、娯楽として幅広く機能してくれるかもしれないな)



 他にもリアの動くおもちゃのロボット計画なんてものもあるので、上手くいけば『ダンジョン』と『食』と『娯楽』が完璧に揃った欲望の町が完成してくれるかもしれない。




 豆太をずっと抱っこしていた奈々子も帰宅し、その日はお開きに。

 残りの時間で竜郎たちは日本で異世界行きに備え、日曜の朝がやってきた。


 波佐見家の地下3階。リアの作業場に波佐見家、八敷家とレーラの家に住んでいた面々、全員が集結した。

 今回は両親たちも異世界の勝手を知り、自分たちの《アイテムボックス》もあるので準備も万端なようだ。



「竜郎たちはちゃんと、テストの勉強道具は持った?」



 美波が竜郎や愛衣に確認を取る。高校を卒業する気があるのなら、そこはしっかりするべきだと考えているのだ。



「ああ、ちゃんと持ってきたよ」

「私もー」



 だが竜郎も愛衣も、ちゃんと弁えている。しっかりとテスト勉強に必要なものは、《無限アイテムフィールド》などに放り込んである。

 奈々やリアも小学校での宿題があったらしいが、簡単すぎて一瞬で終わってしまったらしいので、そちら関連の物は持ってきていない。



「そういう美波さんたちも、忘れ物はない?」

「ええ、持っていきたい物は全部《アイテムボックス》に入れておいてあるわよ」

「私も大丈夫」

「俺もいろいろと用意したぜ」

「僕も必要そうなのはだいたいね」



 まだ異世界歴が短い両親たちも問題なさそうだ。レーラたちも準備は万端らしい。

 そうして全員で確認しあったところで、竜郎たちは再び異世界へと転移していくのであった。

これにて第六章 『活動域拡大編』は終了です。ここまでお読み頂きありがとうございます。


せっかくの地球編なので、異世界とは違った部分が見せられたらいいなと思い、あれこれと書いてみたのですが、客観的にはどうだったのでしょうね?

書いてる側としては楽しく書けてはいたのですが、宇宙人とか突飛すぎたかなぁなどなど少々不安な面もありました。

もう突き進むしかないのですけどね(笑


そして第七章、第105話は、少し休みを貰いまして9月18日(水)から再開予定です。

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― 新着の感想 ―
Become Monster Onlineに出てきた謎の女性が前作のキャラクターとあり、読み始めたのですがあっという間に2作目のここまで読んでしました! 亜掛千夜先生の作品はやっぱり面白いなと思いつつ…
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